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「な、ナニ!?」
「きっと、アンダインが戦ってるんだ!いくぞ!」
脇目も振らずに音のなった方向へ走り抜けた子供の後を、マホロアもすぐに追いかける。暗闇の中目印のように光る小さな青い花の上を駆け抜け、角を曲がるとその光景はすぐに目に入った。
吊り橋の中央で飛来する光の槍の嵐を弾いたりギリギリのところで回避し続ける、探し歩いていた人間と。これ以上ない位の殺意を心に抱き、槍を投げ続ける女騎士。こちらから中央に向かう側の橋は無惨にも崩れ落ちていて、壁にいくつも突き刺さっている槍の数がこの熾烈な戦いの長さを物語っていた。
「ウ、ウワァ…」
下手に間に入れば無事では済まないだろう現状を確認し、少しだけ意識が遠くなる。思っていたよりも事態は深刻なようだ。
「あ…アンダイン!」
どう二人の動きを止めようかと頭を捻っていたマホロアの横で、モンスターの子供が大きな声を上げた。震える声で必死に出したらしいその声は、アンダインの手元を狂わせるのに十分な声だったらしく、正確にキャラを狙っていたであろう槍は地面へと突き刺さった。
「帰れと、言っただろう!どうして戻ってきた!」
ばっと振り返ったその目が、はじめてマホロアの姿を捉える。驚いたように見開かれたその目は、すぐに鋭い眼光を取り戻した。
「貴様、誰だ!人間と共に居たという旅人か!?」
その声色と声量に一瞬気圧されそうになるも、明確に敵視されている訳では無い事を察して口を開く。ニンゲンの凶暴性を知らないただの無力な旅人は、同行人を攻撃するヒーローを見て悲痛な声を上げるのだ。
「そ、そうダヨォ!キミはヒーローだって聞いたノニ、どうしてキャラを攻撃してるノォ!?」
「知らないのか!?このニンゲンは、徒にモンスターの命を奪う大罪人だ…!ここで始末しなければ、どれだけの者が命を失うか分からない!」
「ソンナァ!ボク、その子がそんなことをしているトコロなんて、一度も見たこないヨォ!」
「ふん、騙されているだけだ!ニンゲンは狡猾な奴だからな。貴様も、その子と一緒にスノーフルの町に帰れ!」
叫ぶような問答を続けている間に、後ろでこっそりと細長いアイスクリームを頬張るキャラに視線を送る。自分の視線に気付き苦しそうに首を振ったその様子を見て、マホロアは少しだけ崖から身を浮かし前に出た。
「デモ、迷っていたボクを手伝って、親切にココまで連れてきてくれたんダヨォ。きっと何かの間違いダヨ!」
「そ……そうだよ、アンダイン!僕は――――」
「黙れ、貴様の言うことなど聞くか!この狂人め、私が必ず、ここで貴様を止めてみせる…!」
キャラが口を開くと、アンダインはすぐに槍を握りしめ向こうを向いてしまう。何かに囚われたような決意でぎらりと瞳を光らせると、再び敵意なき殺戮者を滅さんと槍を投げつけはじめた。
「あ、アンダイン!1回、はなし合ってみようよ……!もしかしたら勘違いかもしれないじゃんか!」
「……」
「アンダイン……!」
ちいさなファンの声はもはや彼女には聞こえていないようで、疲労感を感じさせながらもギリギリのところで攻撃を避け続けるキャラに、絶えず猛攻を仕掛け続ける。
「……話し合いは、ダメみたいダネェ」
「今日のアンダイン、なんかヘンだぞ……!」
ゆっくりしていられる状況でもないと判断し、会話での解決を早々に見限る。今の今までどちらの味方をすべきか迷っていたマホロアだったが、この状況であの鎧の狂戦士を味方する愚か者はいない。キャラに不信感を抱いているとはいえ、しかしながら戦況を見ればあまり考えている時間も無いようだった。
「キミ、あのヒトを止めるために協力してくれるヨネ!?」
「え……」
隣で立ちすくんでいる小さな子供に問いかけると、子供はその目にヒーローを映したまま狼狽えた。鬼気迫る表情で槍を振るい続ける自分の憧れと、汗を拭いながら避けに徹する友達。
────悩んだ時間は、そう長くはなかった。
「う、うん!オレ、手伝うよ……それで、アンダインとあのニンゲンから、ちゃんと話を聞くんだ!」
「ヨシ、助かるヨォ!ソレじゃ、ちょっと聞イテ」
手短に作戦を耳打ちし、分かったという言葉に小さく頷く。向こうの島の戦闘はいよいよ終わりが見えてきて、珍しく苦しげに歪められた顔がこちらを横目で見た。
「その程度か?ならば、もう一度死んでもらおう、ニンゲン!」
「行くヨォ!」
「お……おう!」
アンダインの意識が完全に向こうに向いた隙をついて、がばりと子供の体を両手でしっかりと掴む。少し浮いてぎりぎり持ち上がることを確認すると、くるりと回って魔法陣を起動させ、異空間バニシュを発動させた。
「終わりだ!」
「終わらせないヨォ!」
そして、槍を振り上げた手に飛び込ませるように、彼女の頭上で上空でバニシュを解除して、間髪入れずにぎゅっと目を瞑ったモンスターの子を勢いよく投げ飛ばした。
「何……ッ!?」
勇者は大きく目を見開くと、反射的にか槍を消し両手で抱きとめる。橋を落としてしまった手前、背後は崖だ。受け止め損ねれば子供はなすすべもなく落ちてしまう。
────ざり、と小石が奈落へと落ちる。
勢いに耐えようと後ろに引いた足は、あと半歩下がれば完全に地面を失ってしまう。ぐらり、と後ろに倒れかける身体を支えるすべは、最早なかった。
「くッ……!」
最終手段。子供だけでも助けんと彼を抱えた手を振り下ろし、その小さな体を地面の方へと弾き落とすと、反動でアンダインの身体は奈落へと引き込まれる。
「な────舐めるな!」
その身が完全に落ちる────その前に、アンダインの両手が崖をしっかりと掴む。
がちゃり、と鎧の擦れる嫌な音がして、ブーツが甲高い金属音を響かせながら落ちていった。
「あ、アンダイン!」
度重なる衝撃に、もういいだろうと目を開けたモンスターの子供が、悲痛な声を上げてアンダインへと駆け寄る。自分を助けるためにこうなったとも知らず、どうして、なんとかしないとと叫んで、よろめきながらも勢い良く振り向いた。
「な、なあ!手をかして────」
「キャラ、早く助けてアゲテッ!」
「は……はぁ!?」
「早ク!」
モンスターの子供の声を遮るように叫ぶと、傷だらけの人間は信じられない物を見る目でこちらを見てくる。動こうとしないキャラの手を無理やりつかむと、アンダインからは見えないように気を付けて引っ張った。
「何をさせたいの、マホロア」
「いいカラ、言う通りにしてヨ!もしアンダインがまた襲ってきたら、ボクが助けてアゲルからサ」
「……」
今度は、お互いに聞こえるだけの小さな声で言う。とりあえず信じてくれたのか、少しの逡巡の末、キャラは掴まれた手を振り払って崖際へと駆け寄った。
「掴まって、アンダイン!」
「……何の……つもりだ……ッ!」
「いいから、早く!」
身体を乗り出して手を差し伸べる。当然ながら、困惑を隠そうともしないアンダインが、その手を掴むことは無い。しかし、それでも膨らんでいた殺気はゆっくりと、しかし霧のように解けていく。
「馬鹿な!お前は皆を殺した!これからもそうするつもりだ、違うか!」
「話なら後で聞くから、掴まって!」
「……」
弁解もせず、ひたすらに手を伸ばす人間の姿に、崖に捕まる手がふるりと震える。
「アンダイン!」
「あ、アンダイン!おねがい、手をつかんでよ!オレ、アンダインがいなくなったら……!」
ガチャン!と大きな音がして、肩当が底へと落ちていった。
次いで胸当て、そして膝当て。甲高い金属音を鳴きながら、何故か次々と鎧が剥がれ落ちていく。
「……アンダイン?」
「な、ナニやってるノォ?」
ひとりだけ少し離れた位置にいたマホロアも、ゆっくりと崖際に近付いていく。無様にぶら下がっているはずのアンダインを見ようと覗き込んだところで────軽々と跳ね上がった影に尻もちをついた。
「ウワッ!?」
タンクトップにハーフパンツ、装備を全て脱ぎ捨てたアンダインは、大粒の汗をかきながら人間を睨みつける。屈んで手を伸ばしていたキャラも立ち上がり、警戒するように一歩後ろに下がった。
「……」
「……」
互いの視線が交差する無言の時間が永遠のように続き。起き上がったマホロアが何かを喋ろうとした瞬間、少し低い声でアンダインが呟いた。
「貴様に、借りはつくらん。私は決して信用しない」
「……」
「が、私は今無防備だ。この場は引かせてもらう」
「……どうぞ。僕も、あなたと戦う気は無い」
「ほざけ」
心配そうに彼女を見上げるモンスターの子供をかっさらい、ひとっ飛びで対岸まで跳ぶアンダイン。最後にこちらをちらっとも見ることなく、スノーフェルの方へと角を曲がって姿を消した。
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休憩するならもっと先がいい、というキャラに合わせて、橋から離れた洞窟の入口そばの窪みに腰を下ろす。いつの間にやら、戦っていた本人は元気いっぱいになっていて、しかしそれに反してその表情には影がさしていた。
人間からすれば、先程の戦闘は本来発生するはずのないものだ。自分の常識が、知らずのうちに崩れきってしまっていた事を知って、ひと段落着いた今に事の重大さを再確認したのである。
何故なら、彼女がああだったのであれば────
『彼』も。前のルート同様に襲いかかってくる可能性が高いからだ。前回勝てなかった相手に、今回のルートで少しでも相手ができるとは到底思えなかった。
……そんな焦りも知らず、何食わぬ顔でぺったりと地面に腰を下ろして受け取ったアイスを頬張るマホロアは────しかし、全く違うことで悩んでいた。
「 ア、アノサァ……」
「……なに?」
「ボク、疲れチャッタ……」
「え?」
「しばらく休んでいってイイ……?こんなに動いたの久しぶりだカラ……」
「え、えぇ……」
良いけど、と人間が返すと、アリガトウと力なく言って近くの壁にもたれかかる。拍子にぽろりと落ちた携帯電話を拾い上げ、力を抜いた体勢のまま惰性のように弄り始める。
そんな連れの様子に気が抜けてか、人間も少し離れた場所に腰を下ろす。マホロアには見えない、きらきらと光るセーブポイントをぼんやりと見ながら、ゆっくりと目を閉じた。
幾度戦ったか、やり直し続けた精神はとうに疲労の限界に近かった。なにせ、勝てる要素がない戦闘だったのだ。なれた作業とはいえ、勝つための戦いよりも余程疲れる。
「……キミ、寝ルノ?」
「ちょっとだけ……少し経ったら、起こしてくれ」
「良いヨォ。ジューブン休んだら声かけルネ」
「うん」
目を閉じたまま、死んだように動かなくなったキャラをちらりと目で見て、マホロアはまた小さな画面に視線を落とす。かちりと、決定音が小さく鳴った。
レベル4 コンプリート!