切っ掛けは、一番のベストフレンズ──カービィが、もはや日課とかしたマホロアとのレースゲームの後、ジュースを飲みながら休憩している、そんな和やかな時間のちょっとした会話だった。
「この星は良いヨネェ。何かアッテモ、キミ達が何とかしてクレル」
「ぼくにも出来ないことはあるよ。もしぼくにも手に負えないことがあったら、きみに手伝ってもらおっかな!」
「……ボクに?」
「うん。きみは、自分の強さに自信がないみたいだけれど、きっともっと強くなれるよ!」
彼はそう言うとすぐに、たった今思い出したらしい、どうでもいい別の話を始める。彼にとっては当たり前の、大したことの無い軽口だったから。しかし、マホロアにとっては違った。
彼が、自分の力を求めてくれている。
彼が、自分の強さを信じてくれている。
それは、その時のマホロアには、何よりも強い言葉だった。
それからは、あくまで自分の力で、自分を強くする方法を探し求めた。あらゆる図書、私蔵の魔導書、それに知り合いの魔法使い達。成果はほとんどなかった。魔力を鍛えてほんの少し強くなったところで、カービィの役にたつほどの力には到底及ばない。没と印の押された紙束ばかりが増えていった。
半年程たった頃、もはや半分ヤケを起こして、『今まで見た中で一番強かったやつ』を目に付いた人々に聞いて回り始めた時。皆が口々に『カービィ』だの『メタナイト』だの言う中、偶然飛んできたカプセルJ2が、驚くような言葉を放った。
「オレはマルクソウルだな。カービィも、ソウルには頑張らないと勝てないって、そう言ってたぜ」
ソウル。その言葉を聞いた時、全ての問題の答えが見つかった──そんな確信が、背筋を走った。それはつい先日、カービィに“当時”の自分の事を聞いたときにも、出てきた単語だったからだ。
マホロアソウル。マスタークラウンに取り込まれた、自身の、魂のなれはて。
しかし、それが自分の魂であることに変わりは無い。マスタークラウンと一体化していたというのなら、もしや、まだその力が、魂の中に眠っているかも。そんな仮説が、一瞬にして生まれたのだ。
が、ソウルについての資料や文献など、探せど探せど見つからない。それもそうだろう。ソウルが生まれてしまえば、それについて書き起こせる場所にいるような人物は皆、ソウルの餌食となってしまう。生還者がいなくては、記録は残らない。その上、ソウルとなったものに記憶は残らない。八方塞がりだった。
そんな中、ローアが全宇宙に繋いだインターネットから、とある記事を拾い上げてきた。遠い遠い辺境の宇宙の、小さな発展途上の星。普段なら目にも留まらない星に、『タマシイの研究所』がある。そんな記事だった。
タマシイ────つまりソウルを研究している、唯一と言える施設が、見つかったのだ。
長い旅路の末、今、ようやく目的の研究所に入ることが出来た。ここで力が手に入りさえすれば、さっさとこの地下から脱出し、速やかにポップスターに帰るだけ。ここに入られることを拒んでいた博士たちの足止めは、この為に連れてきてやった、“ニンゲン”がしてくれる。たとえその足止めが上手くいかず彼らがここに来ようとしても、既にローアにエレベーターを止めさせた後。あとは、ゆっくり研究結果を漁るだけなのだ。
丁寧にしまいこまれた書類を次々に引っ張りだして、研究所の床に積んでいく。片付けを考えると気が遠くなりそうな様相ではあったが、全てが済んだらすぐにここから脱出するつもりのマホロアには気にならない。
ソウル──この星でいうタマシイを分析し、その中から特定の成分を抽出して活用する。
マホロアにとって大当たりといえる、そんな内容の研究が書類の大多数を占めていた。
大急ぎで書かれている機械を探すと、どうやらそのままの形でその装置は残されていた。構造を解析してこの場を撤退することも考えたが、その設計図は見つかっていない。
この場でタマシイの解析をしてしまうしか無さそうだと判断し、装置を開きコンピューターを繋ぐ。
過去の研究資料を片手に手順を進め、遂にセットアップ完了の文字が出た。そっと手のひらに魔力を込め、自身のタマシイを引き出す。相変わらずあまり綺麗とは言えない、どろりと何かが渦巻くハート型のタマシイ。自ら引き出せるということは、研究にある“ニンゲン”に近い性質──つまり、強いタマシイというもののはずだ。
興奮と緊張で少し震える手で、タマシイを装置へとゆっくりと運び入れる。装置の中でハートが安定しているのをしばらく確認して、そっと手を離した。チラリと元来たエレベーターの方を確認し、解析開始のボタンを押し込む。
ガウンガウンと小さな音を立てる装置。中で丸裸にされているタマシイの影響か、どうにも心が落ち着かない。研究所全体を掌握したローアに施設全体を閉め切らせ、タマシイに記録されているらしいログが流れていく画面を、両手を握りしめ、じっと見つめる。
それから数分後。解析完了の文字を見て、マホロアはコンピューターに飛びついた。興奮が覚めやらぬままログを遡り、あの日、あの時間の記録を探した。
探し物は、すぐに見つかった。観測しきれなかったらしい、何かがこびりついて歪んだ数値。
その歪みはにっこりと笑って、おいでと両手を広げる──ように見えた。
マホロアは思わず手を伸ばし、そのログに触れる。
瞬間、物凄い轟音が辺りに響き渡る。
反射的に手を離そうとして、マホロアは手がどこかに行ってしまった事に気が付いた。
困って辺りを見回すと、地面が水面のように揺らぎ、ヒビが入り、バラバラと崩れ落ちていく。当然、落ちることは無かった。
眼球を動かして装置を見上げると、不思議と既にそんな物は無くて。そこにはただ、憎悪と執念があるだけだった。
マホロアは、ソレがとても大切なものな気がして、取り戻そうと金色の手を伸ばした。
指先に触れたソレを手繰り寄せて、二度と手放さないように掌で優しく包み込む。
よく見れば、ソレはマホロアそのものだった。
研究所に、耳障りなサイレンが鳴り響く。