今だけはデラックスの事は忘れて読んでくださいね。
けたたましいサイレンが、地底中に響き渡るんじゃないかという音量で鳴り響いた。何故かアルフィーに連れられたゴミ捨て場でまごまごしていた僕達は、大急ぎで音の発信源──研究所まで戻る。彼女を足止めした方がいいかもしれないと思ったが、それよりもサイレンの五月蝿さが勝った。ようやく辿り着いた研究所の扉は開け放しになっていて、中を見ると真っ赤なライトが点滅している。
「な、何が起こってるの……!?わ、わたし……とりあえずこのサイレン、止めてくる!」
アルフィーはそういうと、研究所に駆け込んでいく。僕も、見たこともない研究所の様子にケツイを抱くと、すぐにその後を追った。
「ど、どうして鳴り止まないの…!?そ、それに、こんな警報を鳴らす機能なんて、そもそもわたし……」
真っ青な顔で必死にキーボードを叩くアルフィーをよそに、何か変化が無いかと研究所を一周する。二階の隅々まで調べて何も無い事を確認してアルフィーの元まで戻ると、騒ぎを聞き付けたらしいメタトンとサンズが、アルフィーと一緒にモニターを見ていた。
「こういうのは、一旦叩いてみれば良いんじゃないかな?アルフィー」
「だ、駄目だよ……!もし壊れたら、私じゃゼッタイ修理なんて出来ないんだし……」
「止めるより先に、原因を調べた方が良いんじゃないか?オイラ的には……あー、人間、あんたが何か知ってるんじゃないかと思ってるんだがな」
サンズの一言で、探索から戻ってきた僕に三人の視線が集まる。知らない、と首を振ると、サンズはふんと鼻を鳴らした。
「じゃ、しょうがないな。アルフィー、心当たりは無いのか?」
「う、ううん……そもそも私、ニンゲンとゲートしてて研究所にいなかったし……」
「僕もその時間は生放送に出ていたからね。あまりにうるさすぎたから、中止になったけど。ああ、3人の視聴者に申し訳ないよ!」
「い、一旦扉を閉めて外に出ようか。サイレンは中から発されてるから、少しは静かになるはず……」
と、アルフィーが言った瞬間。開け放しだった扉が、行かせないとでも言うかのように閉まった。と同時に、あれほど鼓膜を破らんばかりに鳴り喚いていたサイレンの音が、ピタリと止む。
「あ、あれ……?何もしてないのに止まった……や、やったあ!」
「アルフィー、喜んでる場合じゃないよ!扉、あかないんだけど!?」
「え、ええっ!?待ってて、今開け……あ、あれ……なんで?こっちからの操作を受け付けなくなってる……」
青を通り越して真っ白になっているアルフィーを置いて、扉を調べてみる。近付こうが引っ張ろうが、扉はぴくりとも動かない。完全に閉じ込められている様だ。
三人にそのことを伝えた瞬間、今度は例の扉──トイレのマークの書かれた扉が、突然勝手に開いた。まるで、僕達を導こうとするかのように。
思わず、四人で顔を見合わせる。アルフィーの顔は一周したのか、黄色に戻っていた。
「……行ってみるしか無いみたいだな?」
「ま、待ってよ……!ダメ……!本当に……!!」
「行っておいでよ。そうじゃなきゃ僕達、ここから出られないんじゃないかな?」
二人に続いて僕も、行こう、とアルフィーに声をかける。当初の予定とは全く違っているが、入れるならばそうしない手は無い。
狼狽えるアルフィーと2人を置いて、早足で扉へ向かう。不安など感じる必要はない。いざとなれば、さっきのデータをロードすればいいのだから。
扉の奥は当然トイレなどではなく、意外にもエレベーターになっていた。呼ぶまでもなく、エレベーターはその扉を開けて、じっとこちらを待っている。まるで僕らに縋るように。助けを求めるように。
中に乗り込むと、少し遅れてサンズも乗り込んできた。メタトンは、もしもサイレンを聞いて集まってきた人を安心させるため、研究所で待機する……と言って外を指さした。言われてみれば、いつの間にか研究所の扉が開いている。
「じ、じゃあ、べつに行かなくても良いよね」とアルフィーは僕達が乗り込んだあとも渋り続けたけれど、『早く乗れ』と言わんばかりに一音サイレンを鳴らされて、悲鳴を上げながら飛び込んできた。
アルフィーが乗った途端に、エレベーターの扉が閉まる。そして操作もしていないのに、エレベーターは静かな音を立てて降下を始めた。…………長い、長い降下だ。
本当に動いているのだろうか。本当は既に止まっていて、扉が開かないだけなのでは──そんな心配すらし始めた頃、突然エレベーター内にノイズ音が響き渡る。天井に取り付けられているらしい、スピーカーからの音だ。
『ザ───ザザ─────』
「ひぃっ!な、なに!?」
隅で気配を消していたアルフィーが、思わず声を上げる。
『ザザ───h───p』
音を継ぎ接ぎしたような、不思議な音声。声はおそらく色々なモンスターの物だ。メタトンの声も聞こえる。うっすらBGMの入っている、テレビから無理やり切り取ったような音。
『H e l p』
「……助けて?」
思わず、天井に聞き返す。……が、返事は帰ってこなかった。
代わりに、エレベーターの振動が止まる。どうやら、到着したらしい。なにやら物々しい雰囲気が、閉じた扉の向こうから漏れ出してくる。
「へへ……凄い気配だな。この外に何がいるってんだ?」
サンズが冷や汗をかきながら、あくまで冷静に努めて言う。瞳の奥に、薄らと青い光が揺らいだ。……あのサンズが、僕以外を相手にこうも取り乱すとは。興奮で浮き足立っていたこの身にも、流石に不安感が頭をよぎる。急なことで、食べ物の準備もほとんど出来ていないのだ。
一度ロードをして、準備をしてから出直すべきか────と、目を瞑り。そして、猛烈な寒気が背中に走る。
ロードが出来ない。リセットすら、触れられなくなっている。というよりも、この世界から、時間軸からこの空間から──抜け出すことが、出来ない。
青ざめて目を見開く僕の目の前で、ゆっくりとエレベーターの扉が開く。エレベーターに乗った時の興奮とは相反して、今度は不安しか感じなかった。エレベーターの光が、ゆっくりと外の暗い地面に伸びる。
やがて扉は、全て開いた。
誤字報告と感想、誠にありがとうございます。皆さんの感想のおかげで、ウルトラスーパースローペースながら続きが出せています。完結間近の筈なので、良ければもうしばらく応援お願いします!