容赦なく襲いかかってくる火球を何とか避け、隙間を探しながら攻撃を凌ぐ。数え切れないほどの火球が自分の横をすり抜けていくのを横目で確認しつつ、何とかこの場を収集する方法を必死で捻り出そうとした。
一旦攻撃が途切れたかと思いきや、トリエルが振った手からまたもや火球が生成される。マホロアの前に並ぶように配置された火球は、タイミングを合わせてこちらを追跡するように動き始めた。
「チョッ、追尾型カヨォ!」
予想のしない弾の軌道。ぶつかるギリギリの所でリフバリアを張り、全弾受け切ると同時にバリアが一枚割れる。……思わずバリアを使ってしまったが、はたして良かっただろうか。これで戦えると判断され、今はこちらに当てる気をあまり感じない弾を、本気で当てにこられたりすると困るのだが。
そんなマホロアの警戒を他所に、トリエルは砕け散ったバリアを見て目を丸くした。バリアを張ることの出来るモンスターは極めて少ない。というのも、魔法は放出するものであって、その場に留めるものではないからだ。
この時点で、トリエルはマホロアの実力を、本来の実力をやや超過して認識することとなった。実際にはマホロアが平然とバリアを張ったのは、彼が『魔法使い』ではく『魔術師』という、魔法陣などを用いて、魔術の理論に魔力を流し込み、形を作る事を得意とする者であったからに過ぎないのだが、魔法使いしか存在しない地下世界の住人であるトリエルに、そんなことが分かるはずもなく。
「やるのね、マホロアさん。でも、受けてばかりじゃその子は守れないわ。さあ、私に攻撃してみなさい!」
「わ…分かったヨォ!悪く思わないでヨネッ」
非力な旅人を装うのをやめ、半ばヤケになって魔法陣の構築を始める。おそらく、トリエルはこちらの力量が測りたいだけなのだ。ブラフも込みで、派手な魔力球を一発見せつけてやれば良い。
自分が制御できるギリギリのサイズを設定し、掲げた掌の上に魔法陣を構築、そのまま風船を膨らませるように、魔力を注ぎ込む。最大まで膨らみきったところで、目を見開いたトリエルの真上を通るように巨大な魔力球を射出した。今の自分にできる、最大の威力を誇る攻撃だ。トリエルの火球と違い連射などはできたものでは無いが、多少ビビってはくれるだろう。
弾数と速度を捨て、ゆっくりと宙を動く魔力球は、固まるトリエルの後ろの扉にぶつかり、派手な音をたてて半壊させた。バキリとヒビの入った扉は、スローモーションのように崩れ落ちる。トリエルは崩れゆく扉に振り返り、そのまま固まってしまった。……まずい、威力を上げすぎたか、とマホロアは冷や汗をかく。ろくに地理的破壊に対する対策もしていない場所で、最大威力を撃つのは早計すぎた。弁償しろなどと言われなければいいが。
「エ、エットォ……」
「ま、マホロアさん、あなた……」
理にかなった言い訳を必死に考えるマホロアの元に、トリエルは一歩ずつ近づいてくる。じりじりと距離を取ろうと後ろに下がるが、いつの間にか真後ろに来ていたキャラにぶつかって止まった。
「ね、いいでしょ?トリエル」
感情の読めない笑顔で、キャラは言う。それどころじゃないのでは、とマホロアは恐る恐るトリエルの顔色を伺ったが、予想に反して当の本人は笑顔だった。
「ええ。あなたはとても強いのね。どうか、その子をお願いします。生きて、地上に返してあげて。誰も傷つけちゃダメよ」
笑顔で、けれど少し悲しそうな顔をするトリエルに、マホロアは反射的に頷いた。予想外の結果ではあるが、良い方向に傾いた分には何も問題は無い。
どこか寂しそうに笑うトリエルに、扉の外の事やこの世界のことについて詳しく聞こうと口を開く――――が、勢いよく手を掴まれて飛び跳ねた。
「よし!じゃあ、またいつか、トリエル。行こう!」
「エッ!?」
キャラはそう言い放つと、マホロアの手を掴んだまま、恐ろしい速さで壊れた扉に空いた穴の隙間を駆け抜けた。もちろん、がっちりと掴まれていたマホロア共々である。
扉の向こうでトリエルが何かを言ったようだが、勢いよく通り抜けた衝撃で崩れる扉の音と、風を切る音にかき消され、全く聞き取ることができなかった。
「チョッ、なにやってるんダヨォ!」
今だ走り続けるキャラに抗議の声を上げると、長い通路の出口に差し掛かるところで、半ば放り投げるようにして手を離された。マホロアは弧を描くように宙を舞うと、べしゃりと地面に落ちる。
「あ、ごめん」
「ワザトダロォ!」
「うん」
外面を取り繕う余裕もなく叫んだマホロアに、キャラは悪びれる様子もなく、無表情のままぺろりと悪戯っぽく舌を出す。
アノサァ、と文句を言おうと口を開く。トリエルから引き出せる情報はたくさんあったはずだし、上手くやれば協力を取り付けることだって出来たかもしれない。そもそも、苦手な戦闘をさせられてまで、この子供が遺跡を脱出することを手伝ってやったのだ。こんな扱いを受けるいわれはなかった。
「なに?」
が、どこか無垢な表情で首を傾げるキャラを見て、思わず言おうとしていた言葉を飲み込んだ。先程までの様子を鑑みて、きっと自分の気のせいだとは思うが、彼女の目に――いつかの、勇者の色を見たからだ。似ている所なんてこれっぽっちも見当たらない、この子供に。
「……いや、なんでもないヨォ」
「そっか」
ぱちぱちと瞬きをしてから、自分が立ち上がったのを見てキャラは通路の出口へと歩き出す。少し歩いてから足を止めこちらを振り向くと、どこか不機嫌そうな声で言った。
「何やってるの。僕ひとりじゃ、この先進めないんだけど」
「アー、ゴメンゴメン。今行くヨォ」
後を追うように出口の扉の前へと進むと、自分が来るのを待ってから、キャラは扉を押し開ける。
暗闇だった通路の先から棘のように差し込んでくる眩い光に、思わず眼を閉じる。片目を薄く開くと、扉の先は白い世界だった。
レベル1 コンプリート!
補足設定:
魔法使い……カービィシリーズに準拠..この作品では、魔法陣などを使い理論を現実に持ってくる者が魔術師、得意な魔法を思うままに発動できるのが魔法使いという区分。基本的に魔法使いの方が、戦闘面では秀でている。