Magolor In Under World   作:青ボタン

4 / 14
レベル1から2までの隙間。


幕間・銀世界

さくさくと雪を踏む音が、静かな銀世界に鳴り響く。踏み固められた地面を敢えて歩かないキャラに僅かな子供らしさを感じながら、木々の間から見える、はるか下にある景色を覗いた。この場所は、随分と高台にあるらしい。思っていたよりも地下世界というのは広いようだ。

 

静かで代わり映えのしない景色を楽しんでいると、ふと背後に気配を感じて振り返る。

トリエルが追いかけてきたのかと何の気なしに見た道は、自分が歩いてきた道となんの代わり映えもしない、誰もいない道だった。キャラは少し速度を落としたマホロアの様子には何も言わず、代わりに硬そうな枝を力いっぱい道の外へと蹴飛ばした。重々しい音を立てて、枝は林の中へと落ちていく。

 

無言になってしまったキャラに合わせるように、自然とマホロアも無言になる。もとより静かな雪原だ。聞こえてくる音といえばキャラの足音と、遠くから聞こえてくる犬の遠吠えくらいだった。

――が。ざくざくという異音が後ろから聞こえ、反射的に後ろを振り返る。

 

誰もいない。

 

そろそろ少し怖くなって、ふわりと高度を上げる。高所から見渡した雪の国は、いつか見たポップスターのホワイトウェハースとは違い、綺麗ながらもどこか殺風景な場所に見えた。

 

「おい」

 

下の方からそんな声が聞こえて、ふわりと下まで戻る。

 

「あまり離れないでよ。僕は君と違って空も飛べないし、非力なんだ」

「アァ、ゴメンネェ。じゃあ、ボクが前に行けば良いカナ?」

「いや、僕が前に行く。マホロアは後ろから来てくれる?」

「……いいケド?」

 

こういうのは、前に行かされるものなんじゃないかと首を傾げつつ、仕方なくキャラの後ろを歩く。少し進めば、先程上から見えた、門のようなオブジェのついた橋の前まで辿り着いた。

さっさと渡ってしまおうと、キャラに続いてそのまま進み続けるマホロアだったが、背後からの足音を聞いて足を止める。……今度は、途中で消えることは無かった。

自分の真後ろまでぴったりとつけた何者かは、低い声で話しかけてくる。

 

「おい、おまえ」

「……!」

 

何故か歩む足を止めないキャラの背中を見ながら、マホロアはこっそり息を飲む。

 

「初めて会うのにあいさつも無しか?こっちを向いて、握手しろ」

 

振り返りもせず、どんどん遠ざかるキャラにちょっとした殺意を覚えつつ、取り敢えず友好的に対処しようと、言われた通りに振り向き差し出された手を握った。

 

…………何とも形容できない下品な音が、静かな雪上にこれでもかと響き渡る。驚いて固まるマホロアに、声の主は軽やかに笑った。

 

「ハハ、ひっかかったな。手にブーブークッション仕掛けといたんだ。お約束のギャグだよ」

「ビ、ビックリしたヨォ!さっきから後ろにいたの、キミだったんだネェ」

「アンタが驚く顔が見たくてな。うまくいっただろ?」

 

そういっていたずらっぽく笑う男に、マホロアは張り詰めていた緊張の糸を解いた。

 

――トリエルには合格を貰ったとはいえ、マホロアの魔術は戦闘には不向きだ。

攻撃手段は魔力球くらいしかないし、いつかの自分や、ポップスターの知り合いのようにテレポートすることも出来ない。護身くらいは出来なければとバリアだけは必死に練習したが、それでも強度が保てなかったため複数枚展開して凌いでいるし、アナザーディメンションに一時的に潜り込んで姿を消す異空間バニシュだって、自分の魔力量では空間の歪みを隠しきれない。

 

……とにかく、自分は戦う力が乏しいのだ。ポップスターに作ったアトラクションのように予めあちこちに魔法陣を仕掛けておけるなら話は別だが、あれだってレースじゃなくバトルだったとしたら、目も当てられないくらいの惨敗を決め込むに違いない。

トリエルの話を聞く限り、地下世界のモンスターに、自分の攻撃が通用する確率はかなり低いだろう。話が通じるのではあれば、今のマホロアにとって、一番の武器は口なのだ。魔術師としては中の下でも、虚言を吐いて場をコントロールすることにかけては誰にも負けない自信があった。

 

「ウン、ト〜ッテモビックリしたヨォ。キミ、ここのヒト?」

「そうだぜ。オイラはサンズってんだ。見てのとおりスケルトンさ」

「ボクはマホロアダヨォ。色んな星を巡ってる旅人ナンダ」

「へぇ、ってことはアンタ、他の星から来たのに地下に落ちたのか?災難だな」

「そうなんダヨォ……。船も上においたままダシ、早く地上に戻りたいんダ」

「……そうか。応援してるぜ。ところで、アンタのツレはどこいったんだ?」

「エ?」

 

そうだ、と思い出して振り向くと、連れであるキャラはいつの間にか遠くまで行ったらしく、目の届く範囲から居なくなっていた。

 

「ウワッ、いなくなってる!どこいったんダヨォ!」

「大変だな。オイラも探すの手伝うぜ。オイラの弟はニンゲンハンターでさ、先に見つかると困るだろ?」

「こまるヨォ!っていうか、そんな怖いヒトがイルノ!?」

「ま、ホントはそんなにキケンなやつじゃない。でも、ニンゲンがどんな行動に出るかは分からないだろ?じゃあ、オイラはあっちを探すから、アンタはあっちを頼むぜ」

「アリガトウ……エ、ソッチ?」

 

すたすたと何故か来た道を戻るサンズに声をかけるも、一瞬目を離した隙にいなくなってしまった。一直線の、見通しのいい道で。

 

「……空間魔法の一種カナァ」

 

サンズが消えたあたりをじっと見つめて、マホロアは呟く。空間に手をかざし座標の値を確認すると、若干ではあるが乱れが起こっていた。数秒もしないうちに乱れは収まり、うっすらと感じた空間への違和感も消える。

 

「ローア程の精度で座標が出せるわけじゃないケド、ココまで分かりやすく変化があると、マァそういうコトだろうネェ」

 

やっかいな魔法をつかうヤツもいるようだと、解けた緊張を張り直す。サンズと名乗ったあの男はフレンドリーなモンスターではあったが、どこか態度に違和感があった。明確にどこがという訳では無いが、虚言の魔術師たるマホロアの勘である。

 

「マァ、今はアノコを探す方が先ダヨネ」

 

キャラが逃げていった方向は分かっているが、今は一本道であるとはいえ、遠くまで行かれてしまえば見つけられない可能性もある。

 

「カッテに死なれても寝覚め悪いシ」

 

ふわりと体勢を立て直すと、橋を渡って先を目指す。びゅうと吹いた風に身体を震わせ、さっさと見つけて暖かい場所に行きたいと、風に対抗するように僅かにスピードを上げた。

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「……よお」

 

ボックスを覗く頭を戻して、そっと蓋を閉じる。後ろからかけられた声には何も返さず、ただ少しだけ肩を竦めた。

 

「アンタのツレは快く応じてくれたぜ。……お前もこっちを向いて、オレと握手したらどうだ?」

 

もちろん握手なんてするはずもなく――前に痛い目にあったことがある――キャラはただ振り向いた。

見飽きた顔だ。もう、なんどこいつの顔を拝まされたことか分からない……スケルトンのサンズ。

 

「はじめまして。君は?」

「おいおい。しらばっくれるなよ。よく知ってるだろ?……握手は、しないんだな?」

「……今回は、これ以上何もしないつもりだよ」

「信じられるか?そういうセリフは、自分のLOVEを見てから言うんだな」

「……」

 

無意識に、服に付いた塵を手で払う。サンズの視線が痛いほどに刺さった。

 

「なんだ?その顔は。……ログを見た限り、お前は諦めてくれたんだとばかり思っていたんだがな。……また同じことをするのなら、どうしてリセットした?」

「関係ないだろ、君には」

 

ただの息抜きのつもりだった――とは流石に言えない。煮詰まってしまった戦いに終止符を打つために、あえて一旦引いてみるのもいいかと思った。……あの戦いの先よりも見たいものが現れたことで、そっちを優先する気になっただけ。とはいえ、随分と中途半端なルートになってしまったが。

 

「あの旅人が理由か?あの愛想の良いモンスターを利用して、何を企んでる?」

「別に、何も企んでなんかないよ」

「……そうかよ。答える気がないみたいだから、これ以上は何も言わない事にする」

 

だかな、と続けて言う。

 

「前回と同じ道を歩むって言うのなら、分かってるな?また地獄を見てもらうぜ」

「分かってるよ」

 

ボックスを開き直し、今度こそ要らないものをしまうと、踵を返して元来た道へ戻る。まだあいつがいるか気になったけど、振り向くのはやめておいた。

 

ちょうどいい形をしたランプが見えてきたタイミングで、自分がサンズへの生贄として置いてきた相棒の姿が目に入る。

自分を目にした瞬間に声を上げたマホロアは、どういう原理なのか自分を見た途端に、回転しながら速度を上げてこちらに突っ込んできた。驚くほど勢いの付いたマホロアを受け止めきれずに、いくらかダメージをもらって雪の中へと突っ込む。

 

「ナニ、勝手にどっか行ってるんダヨォ!」

「ごめんごめん」

 

そこまで怒っているようにも見えなかったが、ひとまず謝って体を起こす。ついでに余っていたキャンディを口に放り込んだ。……ダメージを受けたのは、今回が初かもしれない。

 

「ほら、早く行くヨォ。コ〜ンナ寒いトコロにいつまでも立ってたら凍りついチャウ」

「暖かそうな格好してるけど」

「寒いのに慣れてないんダヨォ。長いことアツ〜イ星にいたし、その後はあったかいトコロにいたからネェ」

「ふぅん」

「モウ、少しクライ興味持ってくれてもいいんじゃナイノ?」

「僕に愛嬌を求めないでよ」

 

暖かい格好してるくせにと文句を言いたかっただけで、実際興味なんてないのだからそう言われても困る。知りたいのはマホロアの過去ではなく、現在と未来――つまり、このイレギュラーがこの先どんなことをしでかしてくれるのか、その一点に尽きるのだから。

 

「じゃあ、行こう。今度は君が先頭ね」

「ハイハイ、今度はドコにも行かないでヨネェ」

 

よほど寒いのかわざわざフードを深く被り直すと、マホロアは素直に先を歩き始める。……地下世界に降りてから多くのお人好しを見てきたが、どうやらこいつも例に漏れないようだ。反抗の意思を全く見せないマホロアに若干のつまらなさを感じながら、観察できるよう少し後ろを歩くことにする。

 

「まあ、折角だし完走してみよう」

「エ?何か言った?」

「何も」

 

久しぶりにのんびりするルートも、息抜きにはちょうど良いだろう。こびり付いた塵を落とすように、服の裾を軽くはたいた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。