「よお、また会ったな」
「サンズ!ここにいたんダネェ」
「……」
ちらっと見張り小屋の屋根をみて、そっと視線を下げる。あれはきっと気にしてはいけない。わざわざ小屋ごとワープしたんだろうか。……自分だけ移動した方が魔力の消費は少ないだろうに、わざわざ。
「おしごとカイ?なにを見張ってるノ?」
「もちろんニンゲンだぜ。ま、オイラは捕まえる気がないから、ホントはただここにいるだけだ。ここにいるだけで仕事になるなんて、最高だろ?」
ぱちっとウインクを決めて笑うサンズ。捕まえられるこちらからすれば笑うに笑えないジョークだったが、一応「そうだネェ」と笑っておく。
「そうだ。マホロア、暇なら一緒にグリルビーに行かないか?その様子じゃ行ってないだろ。あそこのメシは美味いんだぜ」
「エッ、ゴハン?……悪いんダケド、見ての通り急いでるんダヨォ。お誘いはありがたいケド」
「そんなに時間はかからないぜ。オイラ、いい近道を知ってるんだ。あ、グリルビーが嫌ならレストランにでも連れてってやるよ。スノーフルからは遠い場所だ」
「エェ……」
しつこい誘いに心が揺さぶられる。そういえば今日口にしたものといえば、トリエルに貰ったパイだけだ。水とタブレットで生活していたかつての自分なら十分すぎる量だが、ポップスターに住み着いてしまった今の自分には到底足りない。
そもそも、これだけ歩き回る日なんて滅多にない。遺跡で消費した魔力のせいもあって、完全にエネルギー不足だった。
彼がワープに近い魔法を扱うことは分かっているので、スノーフルから遠いところというのは、本当に遠い場所なのだろう。そもそも、マホロアはここでの通貨を全く持ち合わせていないのだ。ここで彼の話に乗らなければ、次にいつ食事がとれるか分からない。
「ジャア、折角ダシ行こうカナ。……キミも来るんダヨ?」
「……いや、僕はいい。君だけ行ってきたら?」
「駄目にきまってるヨォ。なんのタメにボクがキミと一緒にいてあげてると思ってるんダヨ」
「じゃあ、どこかで隠れて待ってるから」
あからさまに逃げようとするキャラに釘を刺すと、無表情を崩して少しだけ不満気な顔をした。
珍しく子供っぽい仕草をする彼を見て、サンズは意味深に笑う。
「いいんじゃないか?そいつなら、ひとりでも平気だろ」
「エ」
「……」
キャラはどこか拗ねるように顔を背けると、こちらが止める隙を与えずどこかへ走り去っていく。
急いで追いかけようとすると、
「待てよ、大丈夫だって。オイラを信じろ、な?」
「この星の住民ッテ、みんな未来予知能力でも持ってるノ?」
「ヘヘ、そんな訳ないだろ。ただの勘だよ」
「フーン」
「言いたくないってことか」とは言わずに、興味がなさそうな声を出して相槌をうつ。キャラといいサンズといい、なにかを見透かしたように語る彼らの事を、表面には出さずともマホロアは警戒していた。
「心配ダケド、二人がいいって言うならマア、良いカナァ……」
「じゃ、行こうぜ。こっちだ」
着いてこいと手を動かす彼の後について、じめじめした道を抜ける。角を曲がると一瞬視界が歪んで――――気付くと、レストランの一席に座っていた。
「ウワッ!ナ、ナンデ……!?」
「な、すぐだったろ?ほら、食えよ。ちゃんと予約してたんだぜ」
まさか、こんなに直接的にワープを使ってくるとは。近道などとぼかした言い方をしている割に、全く魔法を隠す気のないサンズの、予想外の行動に思わず驚く。見慣れているのか、そんなマホロアの様子を軽く流して食事を勧める言葉に、立ち上がりかけた腰を下ろした。
「ア、アリガトウ……本当だ、おいしいネェ!」
サンズに勧められるままハンバーグをひとくち切り分けて口に入れる。そして、味の感想を少し大袈裟に言ってみた。どうやら大した警戒はされていないようで、相手にこちらの一挙一動を探る様子は無い。
そうか、とサンズは満足そうに頷いて、料理を食べ続けるマホロアに少し真面目な顔になって話しかける。
「なあ、アンタは……どこから来たんだ?」
「どこからって……言って分かるカナ?ポップスターっていう星ダヨ!」
「そういうことじゃなくて、あー……どうやってこの地下世界に来た?」
言葉を選びながら質問を投げかけてくるサンズに疑念を抱きつつ、それを表に出さないように答える。
「ボク、宇宙でも異世界でも、自由に道を繋いで飛び回れる船を持ってるんだヨォ。ローアっていう、かわいい船ナンダ」
「異世界……か。なるほどな。で、どうしてここに落ちちまったんだ?」
「ナンカ、時空が歪んでたみたいデネ、異空間ロードが開けなかったんダヨ。仕方ないカラ、その原因を探しに行っタラ、うっかり落ちちゃったノ」
自分のミスの話をする時は、少し恥ずかしそうな仕草を忘れずに。照れ隠しのように水を飲んで、「それで、」と話を切り替える。演技は、バレないうちに終わらせた方がいい。体に染み付いた一連の動きだった。
「ナンデ、そんなこと聞くノ?」
「いや、気になっただけだよ。アンタは今まで、一度も見たことがなかったからな」
「マァ、それはソウだろうケド」
真剣な表情でそんな当たり前のことを呟くサンズに首を傾げる。言葉通りに取れば、地下世界は排他的な思想を持った世界で、突然現れた部外者の素性を知りたがっている――ように聞こえるが。
何となく、そういう意味ではない気がした。
「あの人間とは、どういう関係だ?」
「アノ子?」
次の質問だ、と投げかけられたのは、どうやらサンズの事が苦手らしいあの子供のこと。
「遺跡で偶然会ったんダヨォ。そこでトリエルに面倒見てくれってお願いされチャッタから、地上に出るマデ面倒見てルノ」
「トリエル……待て!あのおばさんは、生きてるのか?」
突然声を上げた彼に思わず体を揺らして、質問の内容を聞き返す。
「生きてるのか……ッテ、キミ、彼女と知り合い?」
「まあ、そんなもんだ。生きてるのか?」
「そりゃ、生きてるヨォ。フツーに元気だったケド」
「他にモンスターはいたか?彼女の他にだ」
「他に……?イヤ、ダ〜レモいなかったヨォ」
閑散とした遺跡を頭に浮かべながら答える。そういえばと、最初に暴力的な挨拶で出迎えてきた、あの花の事を思い出した。
「ソウダ、フラウィっていう喋る花のモンスターがイタヨ。逃げてきたから、その後どこに行ったのかは知らないケド……ホント、か弱い旅人に攻撃するなんて、失礼しちゃうヨネッ!」
「なるほどな……」
何やら考え込んでしまったサンズを前に、最後の一切れになったハンバーグを飲み込む。食べ終わってみれば、見た目よりも量の多い料理だった。こんなものをぺろりといくつも食べてしまうあのお人好し達の胃袋は、やはり常軌を逸していると実感する。
「とっても美味しかったヨォ!モウ、話は終わり?」
「ああ。悪いな、付き合ってもらって」
「そんなのイイヨォ!……ア、チョット待って!」
席を立ったサンズを慌てて引き止める。彼の言うことが本当なら、ここはあの街からずっと離れた場所だ。何故か道を知っているキャラやこの世界の住人のように土地勘がある訳では無い。追っ手から逃げるためにも目的地にたどり着くためにも、この場所についての情報が必要だった。
「ネェ、ココってさっきの場所と比べるとどのくらい離レタ場所?」
「ここか?言ったろ、遠い場所だよ」
「さっきの洞窟を抜けた先トカ?それともゼンゼン違う場所ナノカナ」
「抜けた先だ。って言っても、アンタはニンゲンを迎えに行くだろ?さっきの場所まで送るぜ」
多少探りを入れてみて、あっさり教えてくれた事に安堵する。このレストランは、あきらかに遺跡やスノーフルと比べて、高い技術力で作られていた。
自分の求めているものは、この付近にあるかもしれない。
「あのねサンズ、実はボク、コンピューターを探してるんダヨォ。家庭用よりもスペックが高くて、インターネットに繋がるヤツ」
「……何に使うんだ?」
「さっき、船を持ってるって言ったデショ?あの子なら、この地下と地上を繋げるゲートを開けるんダヨ!だから、正確にデータが割り出せて、ローアと通信できるコンピューターを探してるんダ」
「……へえ、そんなにすごい船だったのか。ゲートってのはさっき言ってた異空間ロードの事だな?」
「ソウダヨ!ローアにしか出来ない、トクベツな力ナンダ!」
「へえ」
笑っていた彼の瞳がふっと暗くなる。
「じゃあ、お前はどうやってパピルスの部屋に入った?」
つう、と冷や汗が流れた。
失言したか。あの現場を見られていたのだ。きっと、キャラの事を――そしてマホロアのことを、彼はずっと監視していたのだ。
重ねた嘘は強く、そして脆い。どれかひとつが壊れるだけで、簡単に全てが崩れ落ちる。笑顔を申し訳なさそうな顔に切り替えつつ、頭をフル回転させて次の台詞を絞り出した。
「エット……ゴメン、嘘ついてたヨ。ボクも、ちょっとダケ異空間ロードが開けるンダ。でも短い距離しか繋げナイシ、魔力の消費が激しくて何回も使えないんダヨォ……アレ、弟サンの部屋ダッタ?どうしても連絡が取りたくて、キャラの提案に乗っちゃったンダ。ゴメンネ……?」
崩れかけた嘘を、急いでいくつもの柱を建てて補強する。……これもまた、なれた作業だ。バレたのがちょっとした嘘なら、すぐに真実を語れば相手は納得してくれる。申し訳なさそうな表情を浮かべて恐る恐る謝れば、
「……そうか。あのニンゲンが……。悪かったな、お前さん」
先程までのように、明るい表情を浮かべたサンズを見て、「いいんダヨ。ボクこそゴメンネ」と謝りつつ、込み上げる笑いを隠すように立ち上がった。
「ソレデ、コンピューターの場所、知らないカナ?」
――出来ればこの地下世界で、一番スペックが高いヤツ!