レベル4の投稿日は未定です。
「止まれ、ニンゲン!」
まずい。まずい。あのまんまるなイレギュラーめ!こんなの致命的なバグだ!こんなことがまかり通ってたまるか!
恐ろしい速度で飛んでくる槍を必死に避ける。ちり、と頬を掠めた槍が、HPを幾らか削った。お返しとばかりに放ったバレエシューズでの蹴りは、その装甲の前にあっさりと弾かれる。
「待って、アンダイン!僕は殺戮なんてしてないだろ!」
「黙れ。パピルスから、貴様の服に沢山塵がついていたという話を聞いている。先程もモンスターの命を奪っていたな?言い逃れが出来ると思うな」
そりゃあ、マホロアが居ないからとうっかりモンスターを倒した自分にも非はある。……というか、非は全て自分にあるというのは、完全に麻痺してしまった今の精神でも理解している。
が、まさかその現場を見たアンダインが、前回のルートのように本気で襲いかかってくるとは思いもしなかった。
既に通常ルートに入っているにも関わらず戦うことが出来たあのモンスターの子供を前に、好奇心が抑えきれず攻撃してしまったのが運の尽き。こんなこと、今まで一度もなかったのに。
「貴様は、今この場で確実に始末する。どうせ、我々の目を欺き一度通過した後で、スノーフルに戻って殺戮を行うつもりなのだろう!」
「違う――――がッ」
前のルートで一度は倒した相手だ。負けるはずがない――と思いきや。
「どうした?その程度の攻撃で、私が殺せると思うな!」
ばきり、とタマシイが真っ二つに割れる。すぐにケツイを力に変え、吊り橋の手前で目を開けた。
これで何度目だ。一向に勝てるビジョンが浮かばない。
勇者たる本気のアンダインに、通常ルートを歩んだLOVEの低い自分の攻撃が、届くはずなんて無いのだ。
「クソ、あのイレギュラーたまご!」
光に手を翳し無意味にセーブをして、その場にしゃがみ込んだ。
間違いなく、とんでもない異常事態が起こっていることは確かだ。何度も地下世界を歩いた自分だからわかる。
今から戻って、LVを上げてくる?いや、恐らく意味が無い。もちろん多少は戦えるようになるだろうが、あの時の自分と違い、今の自分には『殺戮を行うケツイ』が無い。まともに勝負になるとは思えなかった。
――っていうか、なんであんなに本気なんだよ!
無表情を崩さないまま、心の中で吐き捨てる。
この無防備な状態でアンダインに出くわしても嫌なので、決意を固めて橋を渡り始める。
モンスターの子供は、初めの一回以来現れなくなった。おそらくアンダインは、前のルートでの出来事をうっすらと覚えていて、モンスターの子供を家に返す事に成功しているのだろう。モンスターにも関わらず、強い決意を抱いたあの勇者の事だ、ありえない話ではない。
シューズの紐を結び直し、行動パターンを思い出す。とにかく、戦いの遅延に努めよう。今はそれしか思いつかない。とにかく耐え抜いて時間を稼いで、援軍の到着を待つのだ。
イレギュラーにはイレギュラーを。
早く戻って来い、マホロア!
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――――そして、そんな心からの叫びを知る由もない、当のマホロアは。
付箋が大量に貼り付けられた、一台のパソコンの前に座っていた。
レベル3 アルテリア ラボ
「ホント〜に、感謝するヨォ、アルフィ博士!」
「もちろんだよ!旅人さん、あなたが私のコンピューターをアップグレードしてくれるって言うんだもの。あ、ファイルは開かないでね!」
「ウンウン、もちろんダヨ!」
手早く部品の分解、接合を繰り返し、どんどんとPCの性能を底上げしていく。確かに、あのスケルトンの家で見たものよりもスペックは高いようだったが、それでもはっきり言って五十歩百歩。自分が納得いくように改造を続け、気付けばほぼ別物になっていた。
「こんなかんじカナ。容量も通信速度も大幅に増やしておいたヨォ!モニターはボクの私物ダケド、パソコンを貸してくれるお礼に貰ってネェ!」
「す……すごいわ!これが異星の技術なのね。仕組みを教えて欲しいところだけど、時間がないんだっけ」
「そうなんダヨォ。じゃ、ちょっと借りるネェ!」
ここに来てから二度目の、ローアとの通信回線を起動する。青いスクリーンにパスワードを打ち込むと、すぐに画面中央に星のマークが現れた。
「ヨシ、繋がったヨォ!」
「うそ、こんなにロードが早いなんて」
「ローア、お待たせ!早速だけど、座標を送ってヨ!」
くるくる、と早い連絡を喜ぶように画面の星が回る。そして、待っていたかのようにすぐに数値を表示した。――CAUTIONの文字とともに。
「エ、な…ナンデ?さっきまで、あんなに安定してたノニ」
現れたのは、ぐちゃぐちゃと混ざるように断続的に変わり続ける数値。つい先程確認した数値など比べるまでもなく、もはや地上にいた時よりも酷いものだった。
「これじゃ、ヤッパリ異空間ロードが開けないジャン!ウーン」
予想外の出来事に頭を抱える。時間を置いただけで改善していたことから、一時的な自然現象だとばかり思い込んでしまった。……が、どうやらそれは大きな間違いだったらしい。
「原因の位置特定……も、ソモソモ空間値が正確に出ないカラ無理ダシ……一応出せるかやってみてクレナイ?」
覗き込んでくるアルフィーの視線を感じつつ、思いついた可能性を片端から打ち込んでいく。
Not foundの文字が画面に点滅する。
「ジャア、地下世界のマップの表示……。エーット、現在時刻は?これもダメ……?」
Error、Errorと打ち込む度に点滅する文字に肩を落とす。画面の星はマホロアを慰めるようにくるくると回った。
空間を掌握する事に長けたローアでも、その空間自体が歪んでしまえば手も足も出ない。手足が奪われることと、文字通り同じなのだ。
「た、大変なことになってるみたいね……?」
「アルフィー博士、ここではいっつもこんな感じナノ?」
「そ、そんなことないわ!その……言いにくいんだけど、私のとれるデータでは特に異常はないのよ。だから、そのコンピューターがバグっているか、こちらで感知できない情報を受け取っているかのどちらかだと思うの」
「マァ、後者だろうネェ。地上にいる時にその可能性は考エテ、バグじゃないのは確認済みなんダヨォ」
長い溜息をひとつ。こうなってしまえば八方塞がりだ、と頭を増築したモニターから離す。
「博士、使ってない携帯端末とかって無いカナ?インターネットに繋がるやつ」
「ええ、あなた携帯電話をもってないの?うーん、困ったなぁ……私が昔つかってた物ならあるかも……?」
待ってて、とその場を離れるアルフィーに、礼を言い、伸びをひとつしてモニターに視線を戻す。
「アレ……ローア、どうしたの?」
何の指示も出していないのに『Now Loading』を表示した愛船に、船外で声が聞こえない事も忘れて問いかける。すぐに気付いて文字で打ち直すと、ちょっと待ってと言うように文字が飛び跳ねた。
『――Complete』
どこか自慢気な完了の通知と共に、いくつかのデータが画面内に浮き上がる。
「コレ……」
今までのデータの乱れの統計。変化していた全ての座標のマッピング。そして、それらから分析可能な原因の一覧。――ローアと別れてから、時空の乱れの原因解明のために動いていたのは、マホロアだけではなかったらしい。
「ローア、凄いヨォ!流石だネェ!」
思わず褒めちぎると、集めたデータを更に大きく表示し、右下に小さく『要メンテナンス』のアイコンをちかちかと点灯させた。もちろんダヨ、と打ち込むとアイコンは嬉しそうに緑に光る。交渉は成立したようだ。
気を取り直して、ローアの纏めたデータに急いで目を通す。重要そうなデータを頭に叩き込み、最後に原因の予想を見た時、大量に算出された可能性、その中の一文に目を奪われた。
「空間ではなく……時間の操作によるモノ?」
すぐに、未来を予知しているような、あの子供の顔が頭によぎる。あれが、予知や予想ではなく、時間の操作によるものだったら――?
はっと顔を上げ、データを読み返す。一度その可能性に気付いてしまえば、そのデータはあからさまにひとつの可能性を示唆していた。
「ボクが帰れないのは、アイツが原因カヨ……!」
――――この予想が正しければ。空間が歪んでしまっているのは、奴が好き勝手に時間を操作しているからだ。先程まで数値が安定していたのも、マホロアが一緒にいたせいで空間操作の魔法が使えなかったから、と考えれば辻褄が合う。
ふつふつと怒りが湧いてくるが、逆に考えればあの子供の説得さえ出来ればすぐに帰れるということ。得体の知れないものが原因であるよりもよっぽどマシだ。
「こんなものしか無かったけど、どうかしら?ま、前に私が使っていたやつなの」
古めかしい小さな機械を持ってアルフィーが帰ってきたので、慌てて強ばっていた表情を和らげる。
アンティークかと思うほどに簡素な作りのその機械は、アルフィーの話によれば一応インターネットに繋がるらしい。ローアとの連絡用にと思ったが、この様子では流石に無理そうだ。
とはいえ、これは相手が善意で持ってきてくれたモノ。断れば受け取らないよりも不審に思われる可能性がある。
「アリガトウ、アルフィー博士!ココを出る時に返すカラ、それまで借りていいカナァ?」
「も、もちろんいいわよ!早く出られるといいわね」
「ウン、ミンナ心配してるだろうシ、急いで帰らなキャ」
ちょっとしたデータの送受信くらいなら可能だろう、とローアに携帯電話の回線を登録し、また後でと打ち込んで通信を切る。
そのまま電源を落とし操作盤を取り外すと、アルフィーに向き直ってぺこりと頭を下げた。
「アリガトウ、アルフィー博士!キミが協力してくれたおかげで、色々分かったヨォ!」
「それならよかったわ。また、何かあったら連絡してちょうだい!これ、私の電話番号ね!」
「音声通信ダネ?アリガトウ!ト〜ッテモ助かるヨォ!」
携帯電話をマントの裏にしまい、ふわりと椅子から立ち上がる。そして、改めて研究所内を見回し、思いついたようにアルフィーに言った。
「ソウダ、アルフィー博士!後で、この研究所を見学させてヨォ!ボク、ここの技術に興味がアルンダ!」
「え?ええと……」
とたんにアルフィーの表情が曇る。
スペックの上がったコンピューターをみて、マホロアをみて、閉じた扉を見て、と迷うように視線をあちこちに動かすアルフィー。オネガイ、と懇願するように手を合わせると、諦めたように肩を落として笑った。
「じ、じゃあ……一階と二階だけならいいわ。その……地下は企業秘密なの」
「モチロンダヨォ!ヤッタァ!じゃあアルフィー博士、ボクは一旦戻るネェ。外でサンズが待ってるみたいなんだヨォ」
「あ、そうだったの?じゃあ、あなたが来るまでお片付けして待ってるわ」
「アリガトウ!じゃあ、後デ!」
ぱたぱたと手を振り、ラボの扉を抜ける。途端に熱気が吸い込まれるように押し寄せた。ここまで案内してくれたサンズは、律儀にずっと待っていたのか扉のすぐ横に立っていた。
「サンズ、遅くなってゴメンネェ。ずっと待っててくれたノォ?」
「アンタの帰る手助けになるんなら、そっちの方が良いからな。もう用事はないな?」
「ウンウン、もう大丈夫ダヨォ!」
「じゃあ、近道してウォーターフェルに帰るぜ」
「ハーイ」
サンズの後を追って角を曲がると、たちまち乾いた熱風は止み、代わりにじっとりとした空気が肌にまとわりつく。
「ついたぜ。じゃあ、早くニンゲンのところに行ってやれよ」
「色々アリガトウ、サンズ!」
早く行け、と手を振るサンズにお辞儀をして、薄暗い洞窟の奥へと歩を進める。冷たく湿度の高い空気に早くも先程の場所に帰りたくなったが、座標の分からない現状ディメンションホールが繋げる訳もなく、諦めて水の流れを横切った。
レベル3 クリア!