「一目惚れ……ですか?」
「うん……どうしたらいいかな、姉さん」
マージか。信じて送り出した弟がどこぞの女に落とされて帰ってきよった。
時をさかのぼる事数分前、あの日の昼下がり。ようやく屋根の修繕が終わりこれで雨漏りに悩まされずに済む~とか考えながらバイト帰りのヘスティア様を待っていると珍しくベルの方が早く帰って来やがった。どうしたん、ベル。そんなにウキウキと楽しそうにして、良い事でもあった?
「そ、それが……僕、恋しちゃったみたいなんだ」
「」
恋? LOVE? それってマジ? 思いもよらない情報に思考がフリーズしちゃったがそれってマジ?
「恋……とうとうベルも色を知る年となりましたか……時の流れと言うのは残酷です」
「年って、僕これでも今年で14歳だよ、もう大人……」
「どちらかと言うと青年では?」
「細かい事は良いから」
何だか疲れた様子のベル。大丈夫、多分俺の方が予想外の情報の処理で疲れてるから。
「僕、どうしたらいいかな?」
いやどうしたらいいかと言われても……俺も前世含めてそんな経験無いし、俺ってば今の性別は女だけど普通の女性の感性は持っていないしで……さて、どうやってアドバイスしたものか。
ここで話は変わるが俺の今の体はサイボーグに近い機械人形と呼ばれる物らしい。頭の中にある情報によると古代の文明がモンスターへと対抗するために量産された兵士の一体……らしい。そこでだ、俺はその中でも情報処理が高く司令機と呼ばれる個体。なので頭の回転は凄く早い方と自負しているんだけど……その頭脳をもってしてもマジでわっかんね。
「と、とりあえず、私に聞くのは悪手ですね。他の女性に質問する事を推奨します」
「姉さんにも分からないことってあるんだね……」
ごめんなベル、お姉ちゃんもこればっかしはどれだけ考えてもわかんねぇわ。その女性のタイプにもよるだろうけどとりあえずはセクハラに気よ付けて接したらいいんじゃないかな? 知らんけど。
「ところで、夕ご飯はどうします?」
今日は腕によりをかけたビーフシチューを用意し──―
「ごめん姉さん。僕、今日は外食しようと思うんだ」
──―たんだけど外食ってマジ?
よく見たら手に持ってるのは覚えのない包と弁当。これはあれか? 俺が作る意外の料理をどっかでご馳走になった系の奴か!? 超絶気になる、だって俺が育てたベルの舌を満足させるほどの食事を提供している飯所なんて超絶に気になるぞ!
「……分かりました、ベルの夕ご飯は明日に回します……ちょうど今夜はビーフシチューだったので時間を置けば味が染みて美味しく──―」
「本当にごめんなさい姉さん、だからそんなに悲しそうにしないで……」
おっと、あまりのショックで顔に出てたか。これは失敬。表情筋の信号を固定してっと、これでOK。これでいつもの表情で固まったはず。
「すみませんベル、用件は分かりました。楽しんでいってください」
「う、うん、本当にごめんね」
そう言って走っていくベルを見送る俺‥‥‥‥すみません、ヘスティア様。俺──―
「目標変更、これより弟ベルの追尾行動へと移行します」
──―やっぱり気になるのでちょっとストーカーデビューをしてみようと思います。
※※※
「ハァ~‥……姉さんには悪い事をしたなぁ」
何時も僕の予想のつかない美味しい料理を作ってくれる姉さん。毎日感謝はしているし三食きちんと食べてる僕だけど……今回はほら、このお弁当のお礼を言わなければいけないって理由もあるから……
「だから決して姉さんの夕ご飯が食べたくないわけではないよ、うん」
誰に言い訳しているんだろうと気づいた時には遅く、僕は目的の場所へと到着していた。はぁ、ついちゃったなぁ。
目的の場所、豊饒の女主人。このお店の歴史も古く、そして噂ではいろんな有名な冒険者が利用している酒場……らしい。僕も噂ぐらいしか聞いた事無いけど出てくる料理は絶品との事。節約する関係上や姉さんが出す料理が美味しくって外食はあまりやらなかったから分からないけれど、どれだけ美味しいんだう?
僕はそんな疑問を胸に入店する。
「お、お邪魔しまーす」
建物内は酒場らしく、出来立ての料理の美味しそうな匂いや、お酒特有のツンとした匂い、そしてウェイターさんが忙しく料理を運び、訪れている冒険者たちの騒がしくそして楽しそうな声が響き渡る、そんな店だった。
「冒険者さん! 来てくれたんですね」
「はい」
そして出迎えてくれたのが朝、僕の存在に気付いたのかお弁当を持たせてくれたウェイターさんが話しかけてくれた。
「自己紹介がまだでしたね、私の名前はシル・フローヴァです」
「これはご丁寧に、僕はベル・クラネルです。よろしくお願いします」
「はい!」
姉さんは言っていた。自己紹介は大事、人の価値は第一印象で変わると。なぁ~んて昔言われたことを思い出しながら店の中へ案内される。1人で来たこともあってかカウンター席へと案内され、そして──―
「あんたがシルの知り合いかい?」
「ぁッ」
──―大量のナポリタンを出されました……多い、量が多いよ女将さん!!
「冒険者の割には可愛い顔してるねぇ」
「ッは! ふむ、ほっといてください」
見たこともないほど大量に盛り付けられた料理を前に僕はそれを頬張る……うん、噂になるほど美味しい理由、分かった気がするよ。味は大味だけどハーブや香辛料がパンチを効かせていい味を出している。
「美味しい!」
「そうかい、嬉しいこと言ってくれるね」
これが300ヴァリスで食べられるんだからお得かなー……来る前に姉さんからお小遣いもらってよかったぁ。そんな風に安堵していると。
「足りないだろ、今日のおすすめだよ!」
女将さんが頼んでもいない料理を出して来た。いや、頼んでませんよ!
「若いのに遠慮しなさんな!」
そう言ってカウンターの反対側へと歩いて行く女将さんは終始笑顔で合った。とほほと思いながら今日のおすすめの金額を確認する──―と!?
「850ヴァリス!?」
姉さんゴメン、何時もお金はきちんと取っておきなさいって言いつけ守って来たけど今回は守れそうにないや。この後確実に財布が寂しくなるんだろうと覚悟を決めているとシルさんがニコニコと笑顔を浮かべながらこちらへと近づいて来るのが目に入った。
「どうです? 楽しまれてます?」
「圧倒されてます」
普段こういう所来ないから分からないけど何処もこんな感じなのかなぁ……アハハ。
「ウフフ、ごめんなさい、私の今夜のお給金期待できそうです」
そんな僕を楽しそうに笑うシルさん。まぁ、僕がここでお金を使えば使うほどシルさんのお給金が増えていくんだから笑いも漏れますよね……
「よかったですね」
財布の事で気分が落ちながらもおすすめを一口‥‥……ッく。 おかみさんがおすすめと言うはずだ、悔しいほどにすっごく美味しいよこのお魚。そんな僕の様子に気分が良くなったシルさんは語り出す。
「この店、いろんな人が来て面白いでしょ?」
「確かに、沢山の人が楽しそうに過ごされていますね」
「そうなの、だから沢山の人がいるとたくさんの発見があって 私、つい目を輝かせちゃうんです」
確かに姉さんも言っていた。十人十色、誰一人として全く同じ考え方の人はいない。だからこそ、そこから自身が気付かなかったや思いつかなかったことが生まれては消えていくって。多分だけどシルさんも同じような事を言いたいんじゃないのかな?
「私、知らない人と触れ合うのが趣味と言うか、心がうずくと言うか―――」
あ、違う、シルさんそこまで深く考えてないっぽい。
「結構凄い事言うんですね……」
なんとなくスッキリした感じのシルさんを横目に僕はナポリタンの処理にかかる。味は上手いが‥‥‥‥量が多い!
そろそろ満腹感が僕のお腹を刺激し始めたころ、新しいお客さんが来たらしくシルさんと同じ格好をしているウェイターさんが嬉しそうに来店の知らせを告げた。
誰かなぁーっとそちらへと目を向けるとそこには―――
「ッ!?!!??」
―――僕の初恋相手、アイズ・ヴァレンシュタインさんが入店していたのであった……