「!!?」
突如僕の前に現れた初恋相手、アイズ・ヴァレンシュタインさん。僕はこれからどうなってしまうのか! 続きはまた来週──―って。
「そんなボケかましてる場合じゃない!」
「大丈夫ですか? ベルさん」
水を勢いよく飲み干すと僕は頭を冷やす。予想外の人の登場に僕の頭はどうかしてしまったようだけど大丈夫、正気に戻った。
「……ご心配おかけしました」
「本当に大丈夫ですか?」
「えぇ、まぁ大丈夫です」
姉さんの影響かパニックになるとボケで現実逃避する癖がついてる為にシルさんに心配されてしまった……うぅ、ごめんなさい。心の中で謝罪しながら僕は見つからないように身を潜める。幸い彼女は僕の姿は気付いてはいないらしく気付かれた様子はない。ふぅ~、多分今の僕が対面すると恥ずかしさとか色々な感情がいっぱいいっぱいになってパニックに陥ると思うから助かった……けど、すきなひとに認識されないのは何と言うか悲しいな。
「ロキ・ファミリアさんはうちのお得意さんなんです」
どうやら彼女、彼女達はアイズ・ヴァレンシュタインが所属するファミリアの団体客らしくダンジョン遠征の打ち上げでここに来ているようだ。
「彼らの主神、ロキ様がここをいたく気に入られたみたいで」
シルさんの説明を聞きながら僕は考える。僕も頑張ってヘスティア・ファミリアを盛り上げたらあんな風な光景、見る事ができるのかな? 神様がその場を仕切って盛り上げ僕が無理矢理飲まされ姉さんがそれを介抱する……うん、楽しそうではあるけど僕にとって地獄絵図になる事は間違いない。明確に浮かび上がってしまったイメージ図にそんな風になればいいとかでもなったらなったで大変だろうなぁ~とちょっと考えながらもここに来ればアイズ・ヴァレンシュタインさん会えると考えていた。
それから時は経ち。僕は出された食べ物を食べ終え、アイズ・ヴァレンシュタインさん達、ロキファミリアの皆さんもお酒で酔って来た頃。
「よっしゃ! アイズ、そろそろ例のあの話、皆に披露してやろうぜ」
気分が良くなってきたのか獣人の人が大きな声で──―
「アレだって、帰る途中で何匹か逃したミノタウロス、最後の一匹、お前が誤解で始末しただろ? そんで俺その時いたトマト野郎の話だよ」
──―僕の話を始めた。
※※※
ベルの後をつけて俺は豊饒の女主人と言う店に到着した。一応姿がバレないようにフードを深く被り入店、適当にメニューを頼んだんだけど……っく、悔しいがどれも美味い! 肉の下処理も完璧だし魚の調理法も分かってる。そして煮つけモドキに関してはきちんと具材に味が染みわたってると一口で感じられるほどに味が濃い。これは確かに食べに来たくなる味だ、ベルが来るのも納得の一言に尽きる。
そのままもきゅもきゅと俺は食事を続けていると団体客が入って来た。どうやらファミリアでの入店らしくえらくテンションの高い事……なんか問題起こしそうだな。若干不安を覚つつ俺は大量に盛り付けられたナポリタンにかぶり付く……美味い、けど量が多い!
何とか味は上手いが量が常識外の料理たちを食べつくし満腹感で苦しんでいるとあのファミリアの獣人の冒険が気分よく語り出す。恐らく酒が入ってるから気分が良いんだろう、周りの事を考えずに大声で喋り出した。
「アレだって、帰る途中で何匹か逃したミノタウロス、最後の一匹、お前が誤解で始末しただろ? そんで俺その時いたトマト野郎の話だよ」
へー、そんなことが……もしかしたらベルもそのミノタウロスとエンカウントしたんだろうか……帰ったら問い詰めるか。
「いかにも駆け出しのひょろくせえガキが逃げたミノタウロスに追い詰められてよ、そいつ」
うわぁ~、駆け出しがミノタウロスに……お気の毒。普通駆け出し冒険者でミノタウロスとエンカウントするだなんて確率的には万に一つ、本当に運が悪い。
「アイズが細切れにしたくっせウシの血を浴びて」
うわぁ~……血を浴びるって血抜きが大変だろうに……ん? 血抜き??
「真っ赤なトマトみてえになっちまったんだよそれでだぜ」
真っ赤なトマト……そういえばギルドでベルを担当しているエイナさんからそんな苦情が来てたような……
「そのトマト野郎は叫びながらどっかに行っちまって」
そしてその苦情の内容も血だらけで街中を走らせないようにって言う自分でも冗談みたいな内容だったような……
「うちのお姫様、助けられた相手に逃げられてやんの、ハッハハハ!!」
……そしてベルはダンジョンで出会ったアイズ・ヴァレンシュタインに一目惚れを……その子の二つ名が剣姫。
「情けねったらねえぜ」
……ほう。コイツ、ベル事を笑い者にしてるのか。
気付いた途端、俺の体内にある回路は熱を帯び始め温度が危険域に達そうとしている事を知らせる警告が頭の中で鳴り始める。
あのワンころ、吠えるじゃないか。酒が入ってるとは言えうちのベルを笑い者にするとはいい度胸。
「そもそも17階層でミノタウロスを逃がしたのは我々の不手際だ、恥を知れ」
そんな調教の足りないワンころの仲間にも常識人はいるようで発言を咎める。しかしワンころはそれに対して反抗、ついにはベルの事をゴミと言い始めた。
このあたりからであろうか、持っていたジョッキの金属部は俺から出る熱で溶け始め、様々なエラー音が鳴り響き始めたのは。
「あ、あのぉ、大丈夫ですか?」
俺は怒っている。それも激怒だ。しかしここは公共の場、問題を起こすとヘスティア様に迷惑がかかるここはクールにいこう。文字道理のクールにだ。
「あ、あのぉ~ってさっむ!」
全身の冷却装置をフル稼働させて何とか体内にこもった熱を逃がすが廃熱が追い付きそうにもない。あはは、ヤバいなこりゃ、怒り過ぎて冷静になって来やがった。
「自分より弱くて」
……
「貧弱な」
……れ
「雑魚野郎に」
……まれ
「お前の隣に立つ資格なんてありゃしねぇ!」
……黙れ!
「雑魚に釣り合わねぇだ、アイズ・ヴァンシュタインにはな!!」
俺も我慢の限界が来て、あのワンころに躾を施そうと立ち上がろうとした瞬間、見覚えのある白い髪の青年が店を勢いよく飛び出して行った。
「ベルさん!」
「ベルッ!」
入口へと視線を直ぐに向けると俺の無駄に高性能な瞳にその光景を捉えてしまう。涙目で悔しそうなベルの顔を。
「……店員さん」
「は、はい!」
「ご勘定を、それと今出て行った青年の勘定もお願いします」
「わ、分かりました」
何故か怖がっている店員さんにベルの分まで代金を払うと俺はあのワンころの元へと向かう。
「あ? ダレだぁ、テメェ」
訳の分からないようにこっちを見る間抜けずらへと俺は──―
「だから、誰だって言ってんd「あの子の家族だ」あ?」
フルパワーで引っぱ叩いたのだった。
※※※
こりゃ、おもろい事になって来よったで。
今、あの出て行った子の家族を名乗る女が突然、ベートを引っぱたきよった。
これだけならベートよりも叩いた女の方をベートの荒い性格的に心配するのがいつもことなんやけど今回は違う。
「ッカ!?」
高レベルの冒険者であるあのベートがたった一発のビンタで意識を失いよった。流石にこれにはアタシの子供達もビックリ、あの女、一体何者や。
「……誰?」
そんな中、アタシのアイズたんが話かける。ほんまあの子は天然やなぁ。
「あの子の家族、今この駄犬が罵倒した子の」
……ははぁ~ん、読めたで今回の騒動。家族を目の前でバカにされ、激怒し手を出したって感じやな?
「それは……ごめんなさい」
そしてそれに対して謝るアイズたん……なんでそこで謝るんや、そこで天然発揮せんでもええやろ。ってかうちのファミリア1のしっかり者であるフィンやリヴェリアはどうしたんや! なんであれに対してなにも言わへん!
そう思いそちらへと目を向けるが──―って。
「ッフン、自業自得だ」
「自分の家族をバカにされたらそりゃ怒るよね……あ~僕は何も見てないし何も聞いてない、僕は不干渉を行使するぅ~」
──―片一方は自業自得とあざ笑い、片一方は酒に完全に酔っとる! 何時もと違い酷い始末になっているうちの子供達を横目に立ち上がる。
駄目だこりゃ皆使いもんにならへん状態になっとる……しゃーないなぁ、ウチが出るしかないか。そう考え何事も無く出ていくあの女への肩へと手を伸ばした。
「ちょっと待ち、姉ちゃん。うちの子に手出して何も無しってのは──―え?」
遠くからじゃフードのせいで顔は確認できんかったけどこの女……
「失礼」
アタシがそれに気を捕らわれているうちにウチの手を振り払いあの女はそそくさと店を出て行きよった。 えらく逃げ足の速いこっちゃどこのファミリアに所属しているかも聞き出せんかった。でも……それにしてもあの女。
「……アイズたんそっくりやったな」
その後、起きたベートからあの女について問い詰められるのは別の話やな……そういえばアイズたんって双子の姉妹っておったっけ?