男が少ない世界で人生を謳歌するために必要なのは? そう紳士道!!   作:庫磨鳥

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三没したので遅れました( ̄▽ ̄)月末と月初めはすこぶる調子悪い作者です。

今回は奈々子さん視点オンリーとなりますので、楽しんでいただけたら幸いです。




緒口奈々子の気苦労 その1

『アカスズメ男子護衛会社』の社内休憩所にて緒口奈々子は深いため息を吐いた。蓋を明けた缶ジュースの中身は減っておらず、眉をひそめて難しそうにスマホを操作しているさまは誰がどう見ても困っている様子だった。

 

「あれ? 奈々子じゃん。おひさー」

「……矢地」

「なんかもう見たまんま悩んでいるご様子だったけど、どしたの?」

 

そんな奈々子に声を掛けたのは『高崎 矢地(たかざき やち)』。専門学校時代からの同期であり、授業などではコンビを組むことが多かった。

 

「やっぱりEランクのお仕事は大変? 奈々子は私たち『男衛』の中でも特に理性が強いから癇癪に付き合わされても辛いだけでしょ。護衛対象とは上手くやっていけてる?」

「……」

 

新人は三年仕事にありつけない男衛業界。そのため同期は血で血を洗う関係になりやすいのだが、矢地は友達として純粋に奈々子の心配をする。

 

矢地から見た学校時代の奈々子は、一匹狼で成績は優秀だったが自分の事となると無機質で孤独な二歳年下の女の子だった。このまま自分が話しかけないと、ずっとひとりなんじゃないかと思い、矢地は彼女に話しかけた。それからというもの矢地にとって奈々子は天才の名を欲しいままにする同期であり、頼れる友達であり、そして目が離せない世話が掛かる妹みたいな子だった。

 

「どうしても駄目だったら仕方ないと思うけど、『男衛』辞める前に私に相談してね」

 

目を逸らす妹的存在にやっぱり護衛対象である男子と上手く行っていないのかと矢地は考えるが、それは勘違いであり、奈々子は条件反射的に神詩志亮という存在を同業者に知られたくないという独占欲から黙秘権を行使しただけである。男が絡めば女性同士の友情なんて儚いもの、奈々子もまたこの世界の女子であることに変わりなかった。

 

「そ、そういえば矢地は今日休みなんですか?」

「今日、というかはしばらくは仕事しないでおこうかなって」

 

露骨な話題逸らしに矢地は気付かず自分の現状を話し始める。

 

「なんて言うのかな……男性を護るのが仕事なのに、やっている事って単なるパシリばっかで……学校でも実際の現場はこうなんだよって教えられていたけど……仕事のギャップに心が付いていかなくなっちゃってね」

 

『男衛』は男性を傍で護衛する職業であるが、護衛対象である男性がその通りの扱いをすることは希であった。先輩の付き添いで連れていって貰えた仕事先での矢地の扱いは使用人に劣る小間使いである。近くのコンビニでお菓子やジュースを買ってきて、言われたものを買ってきても気分次第ではこれじゃないと怒鳴られる。そうやって尽くしても外で走り回っているだけなので護衛対象には覚えて貰えず。別れる時には“ああ、まだいたんだ”と言われる始末。憧れが何も変換できずに消費されるだけの日々に、なんで自分は『男衛』をやっているのだろうかと毎日考えるようになってしまった。

 

「矢地……」

 

専門学校時代に矢地が『男衛』を目指した理由を聞いていた。それはありきたりと呼べるものであり、テレビのCMで男性を護る『男衛』がとても格好良く、そして男性にあれだけ近くに居られるといったものだった。男の罵倒はご褒美と言い続けてきた矢地がこうまで弱っているとは、仕事先での境遇の酷さ、そして先輩が矢地を仕事先に連れて行った理由がスケープゴートだという事が嫌でも分かってしまった。

 

「愚痴言っちゃってごめんね。奈々子もEランクの仕事で大変だろうけど頑張ってね!」

「あ、はい……」

 

確かに奈々子は大変な思いをしていたが、それは矢地が想像しているのとは完全に真逆の意味である。

 

神詩志亮の護衛は幸福に満ちあふれていた。まず前提として奈々子にとって志亮は、不能と危ぶまれていた自分を救ってくれた救世主である。そして女性であるのに、とても優しく、尊重もしてくれて、我儘も言わないどころか学校内では自分も食べられるようにと食堂と掛け合ってくれて、夏休みに入れば自ら毎日欠かすことなくアイスと麦茶の差し入れをしてくれる。極めつけは自分のことを素敵な女性といい、一生傍にいて欲しいと言ってくれるのだ。女性として産まれた以上、誰もが夢を持つ理想の男性の傍で仕事ができることに、奈々子は毎日が夢見心地である。

 

この間なんて、夏の暑さにやられてセクハラから職務放棄まで完全にアウトなことをした自分をお許しになってくれたのだと、奈々子は、その時の事を思い出しては忠誠心を勝手に上げていってる。

 

まあ、『男衛』冥利に尽きることではあるが、自分や心の友である紅校の教師、白雪花音に対して甘い言葉を囁いてくれるのはご褒美いがいの何でも無いけど、ちょっと手加減して欲しいなと思っていたりもする。遠慮されても嫌なので直接言ってはいない。

 

「……あの、矢地、でしたら私の仕事を手伝ってみませんか?」

「手伝う?」

「ええ、実は私が受けている護衛対象者が今度お友達二人と遊園地に行くことになりまして、その護衛のために人を集めている最中なんです」

 

奈々子は隠し通すつもりであったのだが、罪悪感から矢地を誘う。事の発端は志亮の無茶ぶりからであった。同級生である猟哉と到自の三人で外で遊びたいのだが、なにか良い方法は無いかと相談を持ちかけられたとき、キリッとした真面目な顔にやられて、ほぼ無意識に単独では無理だけど『男衛』複数人いたら外で遊ぶことも可能かも知れないと言ってしまったのだ。

 

それから止めても聞いてもらえず。話はトントン拍子に進んでしまい神詩志亮、和車猟哉、灯元到自の三人は和車家が保有する遊園地にて遊びに行くことが決まった。ただし遊びに行くには『男衛』の面で問題が出てきてしまった。報酬や費用は和車家が全額出してくれるとの事だが、こちらの方で最低でもあと五人『男衛』を見つけなければ行けなくなったのだ。

 

そして現在、難しいならまた別の方法を考えようと言いながらも残念がる志亮に奈々子は私がなんとかすると見栄を張ってしまった。しかし、奈々子は知り合いなんて、それこそ矢地しか居ないし、元がEランクなため同僚の反応は冷たく、今の自分の評価は後先考えずに仕事を受けてしまった愚かな新人でしかないため、話をまともに聞いてくれる人はいなかった。上司に相談は論外であるため八方塞がりの状態で期限は後二日に迫ってしまっていた。

 

そもそもつい前日まで矢地は現場入りしていたので、私情を抜きにしても話を受けてくれるとは考えにくく、奈々子は当初から選択肢に入れていなかったのだが、今にも『男衛』を辞めてしまいそうな友人に黙って見送ってしまえば流石に目覚めが悪すぎると気持ちを変えて話を振ってみる。

 

「んー。誘ってくれたのは嬉しいんだけどごめんやっぱ疲れちゃって……」

「そうですか、分かりました。無理を言ってすいません」

 

……とはいえ、本人から断るのならば引き留める理由はないので話を終わらせに掛かる。恨むなら友達の誘いを断った自分を恨むことですねと心の中で両手を合わせる。男が関わると女の友情なんてこんなものである。

 

補足すれば、矢地は定員1名だけだからと、先輩に誘われた時にそう言って入社したばかりで右も左も分からなかった奈々子のことを置いて行っていたりしたので。過去にやられているからやり返していての態度だったりもする。

 

「それに男子が三人って言ってもみんなEランクでしょ? ちゃんと仕事できる自信はないかなー」

「志亮様はそんな人じゃありません」

「……ん?」

 

Eランクの依頼は地雷。それは『男衛』にとって常識であり矢地にとって単なる軽口でしかなかったのだが、忠誠心が爆上がりしている奈々子にとって己の主人を馬鹿にしているように聞こえてしまい、別のスイッチが入ってしまう。

 

「……私のご主人様はSSRです」

 

教えたくない気持ちとは裏腹に――奈々子はすごく我慢していた、ようは自分のハッピーをめちゃくちゃ自慢したかった。男性関係で女性が同性に対してマウント取りに行くのも、この世界では割と当たり前である。奈々子はスマホの画面が見えるように矢地の前に出す。

 

「ご主人様ってなにを言って……」

 

矢地はスマホに映し出された写真を見て思考を停止させる。それは夏休みに入った直後、会える時間が少なくなりますねと寂しそうにしていた奈々子に、ならばと志亮がプレゼントとして送ってくれた狂気(至高)の一枚。志亮本人の自撮りである。上45度から撮られている少年は視線を凜々しくしながらも優しく微笑みを浮かべている。その奥には運転中の奈々子が写っており、事実上のツーショット写真となっていた。

 

本人はこれで寂しさを紛らわせてくれれば嬉しいと冗談半分に送ったのだが、奈々子にとっては国宝級の品物である。A3サイズに現像してラミネート加工した写真を額縁に飾り、毎日起きる時と寝る時に手を合わせて祈りを捧げていた。本人は温度差にまだ気がついていない。

 

「……奈々子。い、意外ね。あなたがこんな合成写真を作るだなんて……」

 

こんなイケメン男子。現実に居るわけないと矢地は写真は偽物であり、この写真に写っている男子は何かしらのアプリを使い、奈々子がとち狂って生み出したイマジナリー男子だと結論付けるのだが、奈々子はそんなことしない系女子だと家族よりも理解しているのが矢地だった。

 

「神詩志亮様。私の護衛対象(ご主人様)です。ちなみにコレは盗撮写真じゃありません。夏休み入って寂しいと本音を零してしまった私のために志亮様がプレゼントしてくれたものです」

「嘘だ! ぜったい嘘だ! そんな漫画みたいな男子いるものか!?」

 

先ほどの嘘を吐かないという評価はなんだったのか矢地は魂の奥底から叫んだ。奈々子はあまりの優越感に深い鼻息をする。表情筋が死んでなければにんまりと笑っていただろう。

 

「……奈々子、そういえばさっき人手が欲しいとか言っていたよね?」

「敬称が抜けていますよ?」

「ぐぎぎ……奈々子さん、お金はいりません! 仕事中は奈々子さんの命令に一切逆らいません! なのでどうか私に奈々子さんのお仕事を手伝わせてください!」

「嫌ですよ。さっき断ったじゃないですか」

「くけーー!」

 

奇声を上げて十数秒まえの己を呪いはじめる矢地。学校時代から男子に関係することでやたらうざがらみされてきた奈々子は、はじめて矢地に勝ったと小さくガッツポーズをする。あと冗談でもなんでもなく、嫌なのは本音だったりする。男子が絡んだ女性は(以下略)。

 

「……奈々子様、借り一、いや二でどうでしょうか?」

「借り三。あと信用のできる『男衛』を四人、最低でも二人見つけてきてください。期限は二日です」

「わかった! すぐに見つけてくるから待っててね~~! 絶対待っててね!」

 

しかしながら、志亮たちの外遊を成功させるためには数人の『男衛』を集めないと行けないのは確かなので、ここぞとばかりに恩を着せながらも自分の苦手な作業を全部押しつける。これぐらい強かでないと、志亮をひと目見ようとあわよくば情熱を捧げようとしている女たちに情報戦で勝利し続けていない。

 

矢地はダッシュで何処かへと行ってしまったが、彼女の交流関係の広さを知っている奈々子は、これで志亮の期待を裏切らなくてすむと安堵しながらも、矢地に志亮の事が知られたことに本当にこれでよかったのかと頭を再度抱える。

 

矢地は高校から専門学校に転入してきただけあって頭もよく、総合成績も1位以外の1桁台を常にキープしていた。特に身体能力に関しては圧倒的だ。しかし理性試験のほうはギリギリであり、理性が一般女性に近しいため、果たして志亮を前にして彼女の理性が耐えられるかどうか。

 

最悪の場合は友達として問題を起こすまえに葬ってあげましょうと決意を露わにしながら、彼女の能力をなにひとつ疑ってもいない奈々子は、先んじて志亮に結果報告の電話を掛けた。ちゃっかり自分だけ褒めて貰えるようにと。

 

 




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定期的に思い出したらいうので、よろしくお願いします(  ̄▽ ̄)

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