男が少ない世界で人生を謳歌するために必要なのは? そう紳士道!! 作:庫磨鳥
約束の時は来た。今日は兼ねてより楽しみにしていた遊園地に遊びに行く日である。
男子が夏休みのテーマパークに遊びに行くというのは、この世界では普通ではないが普通らしい。どういうことかと言うと、数千から数万単位の女性が居るであろう場所に好んで遊びに行く男は殆ど存在しないが、金を持っている男の中には自分が遊びたいからとテーマパークを丸ごと貸し切りにすることがあるそうだ。これは海外の話になるが、地球で言うところのアメリカアニメを題材にした某なんたらランドに匹敵する巨大テーマパークを二ヶ月貸し切りにし続けた事もあるようで、紅月国でも稼ぎ時であるはずの長期休暇で前触れもなく休みになるときは大体そんな感じらしい。
自分には縁の無い話。他人事だと思って、そこまで遊びたいものかとテレビにツッコミを入れていたのだが、当事者となったいま遊園地を貸し切りで遊べるという現実に気持ちの昂ぶりが抑えられない。
なんとも太っ腹な話で猟哉が義親に相談したところ、和車家が保有する遊園地の一日遊び放題のフリーパスと園内の飲食物完全無料。交通費から男衛費まで全て負担してくれるという。国有数の金持ちすごい。
ただ、急な話だったため和車家のほうで『男衛』を用意できなかったらしく、自分たちの安全のためにも都合が付くまで待ったほうがいいかもしれないという話になりかけたのだが、残念がる自分を見て奈々子さんが伝手を頼ってみると名乗りを上げてくれた。
その結果。どうにかなりそうという事で予定通りの日に遊園地に行く事となったのだが、現在進行形にて奈々子さんは心底申し訳なさそうに頭を下げて謝罪してきた。
「すいませんでしたああああああ!!」
そして、その隣で女性が夏の太陽によって熱されたアスファルト道路で土下座していた。まったく見覚えのない人に全身全霊で謝罪される日が来るとは、二度目の人生は退屈とは無縁である。
「とりあえず。綺麗な肌が焼けてしまっては自分も辛い。立ち上がって事情を話してくれないか?」
「は、はい……え? 優しい、現実?」
「その気持ちはもの凄く分かります」
奈々子さんと同じ赤雀のエンブレムが刺繍されたパーカーを着ている女性の名前は高崎矢地さん。短く整えられたくせっ毛が目立つ茶髪。奈々子さんに比べると身長が頭二つ分大きいものの、どこかあどけない印象を受ける。奈々子さんの学校時代からの友人であり同じ会社に所属する『男衛』とのこと。どうして謝られるのか自発的焼き土下座をやめさせて事情を聞くと、なんでも今回、自分たちを護衛する仕事に就かせて貰う代わりに『男衛』集めを担当したのが矢地さんのだが先輩や同期には悉く断られてしまい、呼べたのは謝る後ろで縮こまっている二人のみだったかららしい。
「ふむ。そちらのお二人は?」
「私たちの後輩です。まだ専門学生で……職場体験という形で無理を言って来て貰いました。志亮様に自己紹介を」
「も、
オレンジ色のショートヘアー。名字と似た容姿から察するに双子なのだろう。年齢的にもまだまだ子供の面影が強い。本人が望めば中学二年目から中退して専門学校に入学することができるのは奈々子さんから聞いていたが、日本で培ってきた常識があるせいで中々感慨深いものがある。奈々子さんのように16で新社会人になっている女性のほうが多い世界だ。これからも十代社会人に会うことは多いだろうし、できるだけ早めに慣れよう。
それにしても、まだ専門学生である彼女たちを現場入りさせて色々と大丈夫なのだろうかと奈々子さんと矢地さんのふたりに視線を送ると。今にも消え入りそうな表情になったので、できれば使いたくなかった裏技を使用したことだけは分かった。ともあれ自分たちのためにしてくれた行為なのだ。なにか問題が出たさいには自分が無理言ったと訴えかけよう。
「美並さんに榎並さんか、今日はよろしく頼む」
「「は、はい!」」
「それで志亮様。この通り最低人数は確保できましたが、素人同然の学生二人に私を含めて新人が二人です。粉骨砕身の覚悟でお守りいたしますが、場合によっては苦労を掛けてしまうことになるかと……」
「構わない。自分たちからすれば今日遊園地に行けなくなることのほうが問題だ」
猟哉も到自も楽しみ過ぎているらしく、中止となったらどれほどショックを受けることやら。であるため猟哉たちも多少のリスクがあったとしても遊園地に行くことを選ぶのは確信しているので、勝手に二人の意思を代表して伝える。
これからの予定としては猟哉と到自の家まで迎えに行き。そこから距離的にはそれほど遠くは無いため休憩を挟まず高速道路で一気に遊園地に向かうとのことだ。『男衛』の四人は出発予定時刻まで会議をするらしく自分は先に助手席に座り時間まで待つ……という風を装い。『男衛』たちが一体どんな話をするのか気になって車の陰に隠れて、四人の会話を盗み聞きする。
「やばい。本当にやばい。本人が写真で見た以上にイケメンで性格も素敵がすぎる。二次元から飛び出してきたとしか思えない。ほ、本当にEランクの護衛対象なの?」
「志亮様の前でランクのこと言ったらぶん殴りますよ」
「ごめんなさい」
「で、でも本当に格好良い。あんな男性初めてみるよ榎並もそう思うよね!?」「美並姉さん……まあそれは否定しませんが……」「それにあと二人も居るんだよね? その人たちもすごいの?」
「ご友人の方々も信じられないほど素晴らしい男子たちです」
「男の人って聞いた話と全然違って、あんなにも素敵なんですね! 『男衛』を目指してよかった……」「いえ、恐らく神詩志亮様が特別なだけかと」
「まじそれな。こういったら悪いけど私が護衛してきた男性たちとオーラが違いすぎる……ねえ、奈々子。今からでも応援頼んでみる? 他会社にいった友達にはまだ声を掛けてなかったから、もしかしたら来てくれるかも」
「どちらにせよ。耄碌している老害たちが作ったランクの所為で結果は変わりませんよ。頭悪いこと言われて断られるのがオチです」
「私の時みたいに、あの写真を見せればいいんじゃないの?」
「あれは特例です。本来ならば独占して墓場まで持っていくつもりでした。そもそも志亮様のこと極力知られたくない……」
「だよねー。あーあ。先輩たちも勿体ないことするなー。私だったらお金払ってでも護衛するのに……不安になってきた、やっぱり五万圓ぐらい貢いだ方がいいかな?」
「やめてください」
なんか会議の内容が想像と違う、まあルートやポジションは事前に話し終えていたのだろう。それで今は時間が余ったから他愛もない会話をしているのだ。そういうことにしておこう。
しかし、どうにも『男衛』が集まらなかった根本的な原因は自分にあるようだ。会社から格付けされたランクが低いから、報酬を期待できずに断られ続けたといったところか。奈々子さんに直接聞いたわけではないので、風の噂程度になるが依頼のランクは主に報酬の額が関係していると聞いた。裕福とは言えない我が家庭。Eと付けられるのも仕方がないのだろうが、お金を出してくれた母がバカにされているようで正直面白くないという気持ちになってしまう。
金か、小学生の間は考えるだけどうにもできないだろうと思っていたが、やはりどうにかしたほうがいい気がする。奈々子さんを雇う金も毎年バカにはならないだろうし、日によっては夜遅くまで働く母に物入りがまだまだ多い姉に負担を掛けているのは本意では無い。小学生でも稼げる“何か”も探したほうがいいのだろうか。
「――それでは気合いを入れて行きましょう!」
「「「はい!」」」
まあ今日は遊園地で遊ぶ特別な日だ。お金については後日考えることにしよう。円陣を組んで気合いを入れる奈々子さんたちは話が終わったらしく、自分もそれに合わせて車に戻ると、連鎖的なタイミングで奈々子さんと美並さんが車に乗ってきた。矢地さんと榎並は二台目の車のほうで、そちらに猟哉と到自が乗る予定である。
「あれ? 助手席なんですか?」
「悪いが指定席でな、代わりに自分の背中を護ってくれないだろうか?」
「――は、はい! 美並お姉ちゃんにお任せください!」
「美並。早く乗ってください」
心臓を捧げる系のポーズをしたまま車に乗ろうとしないので先輩から注意される。先ほどの会話を聞く限り、彼女の方が双子の姉にあたるらしく性格は楽天的なようで、妹の方は冷静でしっかりものといった所だろうか。瓜二つな容姿でありながら見事に正反対の印象を受ける。
「それでは出発します」
「改めて、苦労をかけると思うが今日一日よろしく頼む」
「お任せください。志亮様の『男衛』として、楽しい思い出だけが残る日にしてみせます」
「はい。美並お姉ちゃんもすっごい頑張りますからね!」
――本日は晴天なりて、二台の車は動き出した。今日は始まったばっかりである。
なぜ当日報告になってしまったかと言うと、矢地がギリギリまで粘ったからです。奈々子も、予想外の事態だったらしく胃がキリキリしまくって、成果がきちんと出るまでポジティブな報告をするのは二度としないと誓いました。なお双子は美並が偶々先輩とお喋りしたいという理由で電話を掛けたのが切っ掛けです。
本来の予定にはないのですが、なんだか面白そうなので遊園地に行くまでの過程を書きたいと思います。駄目そうだったら遊園地にキンクリします……これ長くなるな()。