男が少ない世界で人生を謳歌するために必要なのは? そう紳士道!! 作:庫磨鳥
なんだかオリ日刊七位になったようで、本当に嬉しいです( ̄▽ ̄)。
あっちの執筆が一段落したので、こちらを投稿しました。楽しんでいただけたら幸いです。
灯元家は結構近く、出発してから十分も経たずに到着した。
奈々子さんが、先んじて連絡を入れていたようで到自はすでに外で待っていた。その隣には到自の母親らしき女性がおり、その表情から心配が見て取れる。
「おはよう」
「よう! やっと着いたか! 待ちくたびれちまったぜ!」
到自は母親から何かを言われ続けており、鬱陶しそうにしていたのだが、自分たちの車が家の前で停車すると持ち前の瞬発力で、すぐさま後部座席に乗り込んできた。
「なあ、早く猟哉拾って遊園地行こうぜ!」
「まあまて」
奈々子さんが到自の母親に大事な息子を預かりますと挨拶しにいくと何やら話し始めてしまった。それが終わるまで出発はできないと告げると、到自は母ちゃんマジで話長いんだよなと不満げに口を尖らせる。なんでも待っている間に延々と同じ注意を聞かされていたらしく、鬱陶しかったとのことだ。男を差し引いても大事な子供。親として心配になるのは分かるが限度を超えてしまっているようで、そんな大事な子供の強いストレスになっていると本人は気付いているのだろうか? 手遅れになる前に灯元親子の関係が改善されることを密かに願う。
「それに到自が乗るのはあっちの車だ」
「別にどっちでもいいだろ」
「そうは行かない。なぜなら、このままだと美並さんが持たないからな」
「す、スポーツ系美青年が私の隣に……あ、汗の臭いやばい……やばい……」
唐突に到自が乗り込んできたことで美並さんは避難するチャンスが与えられず、口元を押さえて隅っこに縮こまってしまった。どうにも到自の汗の臭いを嗅いでしまったことで、理性があじゃぱーになりかけているらしい。
「ん? もしかして話に聞いていた『男衛』か? 今日はよろしく頼むぜ!」
「ぴえ」
ちなみに到自も猟哉も、自分が連れてきた『男衛』だからというのはあるのだろうが、紅校で白雪先生や食堂の婦人方たちと触れ合っていくうちに女性にある程度慣れてしまったのか、今では自発的に挨拶もするし、女性だからと言って無闇に怖がることはなくなった。
まあ、今回はその成長が悪いほうへと向かってしまったようで、到自は美並さんに親指を突き立てて笑顔を送った。中学生に見間違う体格に綺麗な白歯によるさわやか青年スマイルの直撃を受けた美並お姉さん。すでに限界寸前である。
「到自。ただでさえ無理を言って来てくれたんだ。彼女たちの仕事の邪魔になるような行為は控えてくれ。でなければ最悪の場合遊園地にも行けなくなるぞ」
「まじでか!? ごめんな!」
「い、いえ。むしろありがとうございまひゅ……」
遊園地行きが中止になるかもしれないというのがよほど効いたのか、到自は大人しく車から降り、二号車に乗り込んだ。ちなみにあちらは、きちんと前に『男衛』、後ろに護衛対象つまり到自と猟哉が乗り込む手筈となっている。
「……大丈夫か?」
「も、問題ないでしゅ……です……せ、先輩は毎日これを耐えてるの? わたしやっていく自信がないよ……」
「ふむ、そう言わないでくれ。事情があったとはいえ、それでも奈々子さんたちが選んだのだ。少なくとも自分は二人のことを信用している。どうか自分たちを護ってくれ――美並お姉さん」
「――お、お……おねえちゃんがんびゃきゅ! …………ぅぅ」
……まずい。ついうっかり奈々子さんのノリでやってしまった。彼女ならば慣れてきたということもあり顔を赤らめて恥ずかしがるだけで終わるのだが、未だ雛鳥の美並さんには刺激が強すぎたようだ。
まあ彼女も学生の身とはいえプロだ。なにかあったら起きるだろう。緊張で夜眠れなかったようだし、今は寝かしておこう。
「なにやってるんですか……」
お眠した美並さんを見て、全てを察したのか呆れた視線で自分を見つめてくる奈々子さん。ちょっと待ってくれと、トドメ以外は到自がやったと責任の分散を図ったのだが、結局トドメを刺した自分が十割となってしまった。さもありなん。
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猟哉が住む超高層マンションへと到着。話に聞いていたが35階のマンションビル。この周辺では最も高い建物であるため最上階はさぞ景色が良さそうだと、しみじみ見上げる。なおその最上階に住んでいる人こそが猟哉である。
和車の実家は首都にあるらしく、紅校に通うためにわざわざ親が買ったそうだ。借りたではなく買ったである、金持ち凄い。ただ使用人は居るものの家族が居ない環境で日々を過ごし、かと思えば夏休みには実家に強制的に戻されて仲の悪い兄妹たちとの生活を余儀なくされる。知れば知るほど猟哉に対して同情してしまい、今日は是非とも楽しんで欲しいと心から願う。
自分も興味があると奈々子さんと共にマンションの出入り口付近で待つ。本格化してきた夏の熱さを我慢して待ってみるが降りてくる気配がない。
「遅いな?」
「いま降りると返信はありましたが、なにかトラブルでもあったのでしょうか?」
「もういちど連絡を……っと降りてきたようだな」
階層表示灯が動き出したのを確認し、もう少しだけ待つとエレベーターが開き猟哉が現れた、沢山のメイドと何か言い争いをしながら。
予想外の光景に驚いていると、メイドたちの代表っぽい、黒髪を三つ編みにしている二十代ほどの眼鏡メイドが、猟哉に対して訴えかける。
「――猟哉坊ちゃま! やはり心配でなりません、私たちもご同行します!」
「メイド長。何度も言っているが待機命令が出た以上。このマンションの外に出るのは命令違反になる。もしもそれがバレたら、君たちは辞めさせられてしまうかもしれないんだぞ?」
「ですがっ!」
「甲羅のエンブレムにメイド服。『クロカメ』の『男衛』たちがこんなに……」
奈々子さん曰く、猟哉に付いていくと言って断わられ続けているメイドたちは『クロカメ男子護衛会社』に所属する『男衛』たちとのこと。護衛業以外にも奉仕業に力を入れている会社らしく、専門学校にて護衛科と共に奉仕科でも高い成績を残さないと就職できないことで有名のようだ。戦うメイドが実在するとは。ここは異世界であると強く実感する。
「猟哉」
「志亮。すまない遅れた」
「構わない、それよりも彼女たちは?」
「……和車家で雇われて、俺の世話をしてくれているメイドだ」
「これはご挨拶が遅れて申し訳ありません。わたくしたちは猟哉坊ちゃんに従う
猟哉のメイドたちは特に合図をしたわけでもないのにタイミングを揃えて頭を下げてくる。洗練された一礼は彼女たちが付き従う者として高い教養を持っていることを表わし、彼女たちも猟哉と同じく、一介の男子である自分とは違う世界の住人のように思えた。
「こちらも挨拶が遅れてすまない。猟哉の友達の神詩志亮だ。自分も話に聞いていた貴女たちに出会えて嬉しく思う」
しかし、紳士を目指すものとして挨拶で遅れを取るわけには行かないと、優雅さを意識してメイドたちに返礼する。腰を曲げては大袈裟かと軽い会釈程度に留めたが、紳士帽が欲しくなるところ。今度姉に教わりながらネットで探してみるか。
「私たちメイド相手に勿体ない。恥ずかしくも身に余るお言葉、ありがたく頂戴したいと思います」
「それで、どうにも言い合いをしていたようだが、なにかあったのか?」
「彼女たちが俺に付いていくって聞かないんだ」
「ふむ、なら連れて行けばいい……と簡単な話ではないようだな」
メイドたちもまた『男衛』であるのならば、一緒に来てくれたほうが心強いのだが、猟哉の掻い摘まんだ説明を聞くところ、彼女たちには直接の契約者である和車家から、今日丸一日は、このマンションで待機するようにと命令が下されており、これを破ってしまえば最悪の場合は契約違反としてメイドたちは明日から無職になってしまう可能性が高いそうだ。
「融通は利かんのか?」
「無理だな。どんな事情があるにせよ。命令に背いた『男衛』を義母上は決して許さないだろう。俺が擁護したとしても兄たちがここぞと嫌がらせのためだけに義母上に味方するのは目に見えている……俺はまだ無力な末弟でしかないんだ」
「あまりにもご無体な……」
悔しそうにするメイドたち。契約者からの命令が不本意であることが目に見えて分かる。だがおかしな話だ。猟哉の話によれば和車家では『男衛』を用意できないとのことだったが、『男衛』であるメイドたちには特に意味も無さそうな待機命令が出されている。単に遊園地に行って遊びに行くだけなのに、どうにも話が難しくなってきた。
「猟哉様の身の安全を考えれば、彼女たちにご同行してもらった方が安心なのに、和車家は何を考えて?」
「和車家の考えではない、これは義兄の嫌がらせだ。それ以外に意味はない」
そもそも和車家から『男衛』を出せないという話も兄が横やりを入れて義理の母親に、そうするようにと頼み込んだかららしい。メイドたちは護衛のために付いてくるき満々だったため、待機命令が出たときはかなり驚いたとのことだ。会ったことの無い猟哉の義兄の正気を疑う。
「大人はなにも言わないのか?」
「義母上も、兄弟間のこのようなやりとりが好きらしくてな、費用は約束通り出してくれるが……兄に虐められる弟というのは需要が高いとのことで、寧ろ率先して煽っている節がある」
思い詰めるかのように猟哉が語る。メイドたちは不憫だと涙を流し、あのど畜生女がと恐らく雇い主張本人であろう和車家当主を小声で罵倒する。その様子から察するにメイドたちは契約者こそ和車家であるが、忠誠心は猟哉に向いているようだ。案外彼女たちと暮らす日常は猟哉にとって一番まともな環境なのかもしれない。
自分たちに迷惑を掛けていると言う罪悪感からか、どこか浮かない顔の猟哉。どうにも難しいことを考えているようなので、自分は遊園地に行きたくないかと問い掛けた。すると猟哉が驚いた様子で見てきたので、それを強い眼差しで受け止めていると、猟哉はハッキリと答えた。
「……行きたい。今日のことずっと楽しみにしていたんだ」
「ならば行くぞ。今更中止となれば到自も、そして自分もひどく残念な気分になる。行って楽しもう」
「ああ」
今日は朝から夜まで丸一日楽しむ日なのだ。難しい事は明日の太陽が昇ってから考えればいい。それに金はしっかりと払ってくれるというのだ、日々の迷惑料代わりに、遊んで喰って騒げばいいと言えば、猟哉はそういうものかと吹き出した。
さて、後の問題はメイドたちだ。一緒に同行すればクビとなるのは猟哉も望まないだろうし、かといってこのまま見送るのもよしとするような空気では無かった。どうしたものかとメイドたちに目を向けてみれば、なにやら奈々子さんと真剣に話をしていた。
「――この様に、私たち『アカスズメ』の『男衛』たちが中継点になることで自宅でもカメラを使いサポートはできるかと思われます。そのための機材は私たちの車に積んであるので、よろしければお使いください」
「わかりました。感謝します。そしてこちらがわたくしたちが使用しているルームアプリの部屋IDとパスワードとなります。ここは主人にすら立ち入ることを拒否することができるメイドたちによる秘密のお茶会場です。これで連絡を取り合えば義兄弟たちに、私たちの協力がばれることはないでしょう……本来ならば、別の、それも他社の『男衛』には教えるのは御法度なのですが……猟哉坊ちゃまのこと、よろしくおねがいします」
「はい、ここは互いのご主人様のためにも」
「ご協力いたしましょう」
猟哉をお護りしたいメイド。男衛が足りなくて不安な奈々子さん。利害は一致していたためか交渉は素早くすんだようで、メイドたちは待機命令を利用してオペレーターの役割を担うことで話が付いた。こういった物事において素早く対処し解決するところは、やはり奈々子さんはとても優秀で自分には勿体ないほどの『男衛』みたいだ。もっとも誰にも渡す気は無いがな。
「猟哉おせぇぞ! もうこねぇかと思ったじゃんかよ」
「すまない。ちょっと色々あってな。『男衛』たちも待たせてしまったようですまない。今日はよろしく頼む」
「遊園地までかっ飛ばしてくれよな!」
「到自。紅月国の道には速度制限があってな、それを超えて走ってしまうと彼女たちは捕まってしまうんだ」
「そうなのか!? じゃあ、普通の速さでいいから遊園地までよろしくたのむぜ!」
「は、はい。お任せください!」
「よろしくお願いします! ……せ、先輩。また凄い男の人が増えました……!」
「和車家の御曹子とは聞いていたから、正直性格はちょっとアレかな~って思っていた過去の私を誰かぶん殴って欲しい……紅校の男子レベル高すぎぃ!」
こうして無事紅校男子三人組が合流した。メイドさんがトランクに積み込まれた機材をマンションまで運んだことで、少し予定の時間が過ぎてしまったが、この程度なら旅の醍醐味だろう。頼もしいバックアップを得られたことで、奈々子さんもどこか気持ちが楽になったように見える。
また美並さんは、
それからの移動は特にトラブルもなく。高速道路にて初めて見る紅月国の景色を楽しんだ。パッと見た感じでは都会の日本とさほど変わりはなく、異世界らしさというものは感じられなかった。また到自と猟哉も、普通ではでない車の速度。長いトンネルや景色にテンションのボルテージは上がり続けているらしく、スマホからもの凄いはしゃいでいる声が止まず聞こえてくる。
≪こちら二号車。後ろが尊み溢れすぎてヤバイです。オーバー≫
「こちら一号車。了解。限界が来そうなら早めに報告してくださいアウト」
≪二号車。こちらメイドオペレーター。猟哉坊ちゃまはどうしていますでしょうか? オーバー≫
≪こちら二号車。三分ごとに確認してこないでください。とても楽しそうですオーバー≫
「こちら一号車。オペレーター。確認はせめて七分ごとにしてくださいアウト」
仕事をしている『男衛』たちもどこか楽しそうである。奈々子さんたちの通信を聞きながら、遊園地に思いを馳せる。貸し切りだから並ぶ必要もなしに園内のアトラクションを自由に遊ぶことができる。なので端から順に乗ってみるのもありか、それともジェットコースターなど絶叫系を中心に攻めてみるか、それとも行き当たりばったりで、みんなで決めながら回るか。
なんにせよ遊園地はもうすぐだ。本当に楽しみである。
「……これは」
「ちょ、ちょっと待っていてください!」
遊園地に到着した自分たち、まず最初に目にしたのは駐車場を埋め尽くす車たちである。全員が嫌な予感に支配される中、状況を確認した奈々子さんが衝撃の事実を告げる。
「――遊園地。通常営業しています」
猟哉のメイドたちは全員で八人おり、年齢は16から25歳まで。兄の嫌がらせによって集められたメイドたちであり、家族でもない若き女性と八人同じ室内で寝泊まりしている。この世界の常識としては男子にとっては逃げ場所が無い辛い環境であるはずなのだが、紅校に入学して志亮の考えに触れたことで、自分の事を甲斐甲斐しく世話してくれているメイドたちに対する恐怖や軽快心が薄れ、きちんと接するようになる。そのおかげでメイドたち全員が輪車家ではなく、猟哉個人に忠誠を誓うようになる。
長くなっちゃった(  ̄▽ ̄)
次話はあっちの作品が完成したらになると思うので、少々遅くなります。高評価や感想を頂けると嬉しいです。それでは