男が少ない世界で人生を謳歌するために必要なのは? そう紳士道!! 作:庫磨鳥
自分の作品は誤字が本当に多いので助かります( ̄▽ ̄:)ありがとね。
感想で主人公が血に飢えている兵器扱いばかりされていた解せ……(審議)……結果は遊園地編が終わってからに(  ̄▽ ̄)
『ワグルマランド』。名前から分かる通り和車家が保有している遊園地で国内発祥の中ではもっとも施設数が多いテーマパークとして有名とのことで、毎年何かしらでテレビで紹介されている印象を受けた。園内には絶叫マシンから観覧車まで王道とも呼べるアトラクションが取りそろえられており、紅月国では遊園地と言えば『ワグルマランド』の事を指すとも言われている。
テレビにて年に何度か見る国有数の遊園地を貸し切りで遊べるとあっては体は子供、心は大人な自分であっても、はしゃぐものである。そんなわけで到着した『ワグルマランド』であったが最大のトラブルが発生した。なんとびっくり貸し切りだと思われた遊園地が通常営業しているとのことだ。
「――はい、はい。わかりました……はい……とりあえず、皆さんに話してみます……はい、承知しました……はい……」
「どうだ?」
「園長に事情を確認したところ、どうにも連絡の行き違いがあったようです、本日貸し切りの予約が入っていたのは確かだそうですが、その次の日にはキャンセルの連絡があったとの事なので通常オープンしたそうです」
「どこか行き違いがあったのか?」
「……まだ可能性の話ですが。園長の話を聞く限りあちらの話に不備はありませんでした。キャンセルの連絡を入れたのも和車家の者で間違いないらしく、そのことから義兄弟たちの妨害かと」
「またか……」
証拠などはないが、これ以上の納得感を生める理由もなさそうだと呆れる。そして人に迷惑しか掛けぬ兄を持つ猟哉に心底同情する。話の邪魔にならないようにと黙っていて美並さんも話を聞いて思わずか、うわぁと声を漏らした。
つまりはこれも猟哉に対する嫌がらせなのだろう。遊園地で遊びたいなら顔も知らぬ数万の女性たちと一緒になみたいな。この世界の男性からしたら楽しい遊園地から一転、トラウマ必須の地獄のゾンビランドとなったようなものか。そうなったら遊ぶどころではない、今すぐにでも安全な所へと避難して、大人しくしているのが正しい。
こうなっては仕方ない。遊園地は諦めてどこか別の遊べる場所を探したほうがいいだろう。なにかあってからでは遅い。自分たちに直接被害が出てくるものであり、奈々子さんたちにも迷惑もかかるし、母たちにも心配を掛ける。
――だが、このまま背を向けるのは。あまりにも面白くない。旅のトラブルも素敵な思い出の一部とは言うが、これは人の悪意によって引き起こされたもの。楽しく思える要素が皆無であり、結果よくてもヨシとは言えるはずがない。なにより猟哉と到自の気持ちはどうなる? 彼らは今日を本当に楽しみに来ていたんだ。
「奈々子さん。意見を聞きたい」
「……『男衛』としても、個人としても志亮様の身に降りかかる危険を考慮して遊園地を諦めて、別のプランを考えるべきです」
「であろうな……だけど、自分は今日、遊園地に遊びに来たんだ」
質問した辺りから、どこか諦め気味だった奈々子さん。額に指を当てて難しい顔をする。恐らく自分を止めるための言葉を必死に探しているのだろう。だが、本当にすまない今回だけは諦めてほしい。我ながらむきになっている自覚はあるが、ここで折れてしまえば二人の人生にも関わりそうなのだ。男には危険と分かっていても遊園地にてジェットコースターに乗らないと行けない時がある。多分身長的に乗れないだろうが。
「……美並。あとで榎並にも言いますが最大限フォローはします。命懸けで仕事に励んでください」
「せ、先輩!? その……よしたほうが……」」
「元々、私たちに指示できる権限はありません。それにああなった志亮様は止められないので、被害が最小限になるように努力してください」
「でも、これだけの女性を相手に四人で三人を護りきるのは無理ですよ!」
「いえ、むしろ護るというよりも……とにかく仕事を全うしてください」
「意味深に言葉を区切らないでください~!?」
それに紳士として、いや男として顔も知らぬクソ野郎の悪逆非道の行ないから逃げるわけには行かない。明日では駄目だ、いつかでは駄目だ。自分は今日、遊園地で大いにはしゃぐ、自分の予定は下らない虐めでは狂わない。
ただ、自分の勝手我が儘に付き合うか否か尋ねないと行けない。
「――到自、猟哉」
二号車で待機していた猟哉は全てを察しているのか酷く顔色が悪い。到自は周りの不穏な空気を感じ取って苛立ちを隠せないで居る。矢地さんも榎並さんも心配していて車内の空気はかなり重い。
「――どうした遊園地についたのに、随分とシリアスだな」
「志亮! 俺は……!」
「猟哉。遊園地は営業している。ならば自分は遊ぶぞ。二人はどうだ?」
「んなもん、オレも行くに決まってるだろ!」
「まってくれ! あまりにも危険すぎる!」
「猟哉。紳士は時として険しく危険な道をあえて進まないといけない。それは人生に不必要な歩みかもしれない。違う道を選ぶのも時には必要だろう。だが自分はこんなことで道を変えるつもりはない。これが紳士の道ならば喜んで真っ直ぐ突き進もう」
「志亮……君がそのつもりならば、俺も行く……いや、行きたいんだ」
≪行けません坊ちゃまっ!? ……もしも遊園地に入るというのならばメイドたちは今すぐにでも坊ちゃまのところへと向かいます!≫
メイドたちは来月からの生活を盾に猟哉を止めに入る。それはそうだ。彼女たちからすれば
「すまない。俺は義兄たちから逃げたくないし、なによりみんなと遊びたいんだ」
≪猟哉坊ちゃま……≫
「――何年かかってでも、君たちを雇ってみせる」
≪猟哉坊ちゃま!?!?≫
しかし、雇い主のキメに決まった台詞でメイドたちは陥落。半数以上が若年性ぎっくり腰を患ったので変わらず自宅でオペレートしてくれることになった。うん、よかったな猟哉。ただ自分を参考にシンシらしく思いを語ってみたのだが、これでよかったのだろうかと感想を求めないでほしい。どこか微妙な微笑みを向けることしかできない。
ともあれ! 男子たちは全員遊園地に行く。そんな自分たちを護衛する奈々子さんたちを見れば覚悟を宿した顔をしている。自分が歩き出すと、全員がその後ろを同じ歩幅で歩き出した。絶対に遊園地に遊びに行く空気ではない……。まあ遊園地マジックがこの空気を変えることを信じて入り口に向かおう!
……とまあ、意気込んだ後、そういえばキャンセルということは遊園地のフリーパスや飲食全て無料もなくなったのかと不安に思い、それとなく奈々子さんに相談。その当たりも園長に確認をとってくれたらしく、すでに年間パスとして発行しているため受け付けで名前を出せば受け取れるとのこと、奈々子さんはやっぱり凄い。
+++
――この日『ワグルマランド』は歴史に残る日となった。そのはじまりを目撃したのは炎天下で入場の順番待ちをしている最後尾の女性たちだった。
彼女たちは中卒で社会人となった同級生たちであり、休みが重なったと久しぶりに集まり遊園地に来たのだ。仕事のことはそこそこに盛り上がるのは漫画やアニメについて、彼女たちが好むのは男女の恋愛漫画。志亮は姉の漫画を見て男女が一緒に居る漫画は少ないと思ったが、その逆、この世界は地球以上に男女の恋愛を綴った創作が山ほどある。
ただ大抵が、異性に飢えた女性の欲望が固められた創作物なので、不健全だと姉の手によって隠蔽された。とどつまり女性が漫画やアニメの話をするときは大抵、男に関係する夢の話である。
白馬に乗った王子様に迎えに来て欲しい、石油王に求婚されたいという広大な夢は話が進むにつれて、どんどん現実に引き戻されてしまい。最終的には男性に声をかけられたいまで萎む。だがそれでも漫画の世界で特別として描かれるほど現実では難しいのだ。科学技術が進歩して人口が増えた現代だからこそ、より男性と女性が顔を合わせ、会話が出来る確率は低くなっていると言う。
――私たちには一生縁が無いかも知れないね。
単なる世間話だったのに、どうにも憂鬱になった女子グループ。漫画の世界では遊園地イベントは男女の仲を深める定番のスポットだが、現実は厳しく、こんな女性だらけの遊園地で男子に会えるなんてそれほど天文学的な数字だろう。
「……失礼」
「はい? なんで……!?」
「入場口の順番待ちはここが最後尾か?」
しかし、宝くじの一等賞は誰かにしろ当たるものなのだ。それが今日遊園地に遊びにきた女性たちなのだろう。女子たちが振り向いた。そこには誰もいなかった、あれと思い視線を少し下ろすと、なんという事でしょう。まるで漫画から飛び出たような素敵な男子がそこにいるじゃありませんか、さらにはキリッとした目付きの
「あ、えっと、そう、ですね、はい、そうです……」
あまりの非現実的な光景にバグった脳みそを動かし、締め付けるほど喉に力を入れて言葉を生み出す。周辺はまだ気がついていない。
「そうか。ならば順番が来るまで後ろ失礼する」
「志亮様!? なにをしているんですか!?」
「なにって? 並んでいるだけだが?」
慌てた様子で『男衛』を表わすパーカー姿の女性がダッシュで
「私たちはあちらの優先口ですぐに中へと入れます! 並ぶ必要はありません!」
「そうだったのか……だから皆、端のほうへと行ったんだな」
「疑問に思っていたんでしたら一声かけてください……」
すまないと『男衛』に謝る
「そういうことみたいだすまない。先に入らせてもらう……また会えた時は改めて挨拶のひとつでもさせて欲しい、ではな――」
自分にそう話しかけて
ふと、音が止んだ。全員が彼に気付いたのだろう。場が静かになったことが気になったのか、改めて
順番待ちをしていた女性たちは、“餓え”が見せた白昼夢かと今までの出来事を判断して、大人しく順番を待つ。しかし音が戻らない。彼女たちは奇妙に見えるほど規律的な姿勢で己の順番を待ち、神聖視すら始めた入り口を通り過ぎて遊園地内に入ると、全員が魂を奪われたかのように覚束ない足取りで彷徨い出す。
――楽しい楽しい遊園地はまだ始まったばかりである。