男が少ない世界で人生を謳歌するために必要なのは? そう紳士道!!   作:庫磨鳥

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色々あって遅れました。楽しんで頂ければ幸いです。


遊園地で遊ぼう 1

入場口でちょっとしたトラブルの後、受付のお姉さんに何度も止めた方がいいと止められたが、そこは今更、奈々子さんが事情を説明してフリーパスを受け取り、無事に園内に入ることができた。

 

まず、目に飛び込んできたのは転生して直接目で見るのは初めての光景。つまり見渡す限りたくさんの人である。左右前後どこを見ても人だらけではあるが、その全てが女性であることが、改めてここが異世界だということを実感させる。

 

というか美女美少女揃いなのがとことん異世界じみている。といっても彼女たちがこれだけ綺麗なのには結構ちゃんとした理由があり、言ってしまえば次に種を残すための生存戦略である。科学技術が未熟だった時代。女性は何かしら秀でていなければ男性に選ばれる事は無く、寿命が短いこともあってそのまま絶家になってしまう事がそう珍しくなかった。それゆえ男に見初められるために必要な努力を行なう気骨というべきものが遺伝子レベルで刻まれているらしい。

 

さらに科学技術が発展した現代において、そういった事情からも美や若さに関係する技術が地球よりも遙かに進んでおり、化粧水ひとつでもまるで魔法のようなアンチエイジング効果を持っている。なので母のようにアラサー、アラフォーの貴婦人かたが二十代にしか見えない方が多いのもそういった理由である。

 

それでも、むしろだからこそなのか男性には忌避されて男女の溝が空いてしまっているのは進化論とはなんとも厳しいものである。まあ自分にとっては目の保養しかならないので、なんとも素晴らしい世界である。

 

「猛獣が生息するジャングルに居ると思って行動してください」

「「は、はい!」」

「よーし、どこでもいつでもこーい!」

「襲撃を望まないでください」

 

奈々子さんたち『男衛』一同は自分たちを『正方形・角の陣』にて囲い、忙しく視線を動かして周辺の女性たちの一挙手一投足を注視していた。強い気迫を感じられ、なにか不審な動きをした人物がいれば攻撃は最大の防御と言わんばかりに狩りに行きそうだ。

 

「う、おお……」

「これは……すごいな」

 

到自と猟哉は初めてみるたくさんの女性に腰が引けている。やはりこの世界の男性は本能的に女性を嫌悪する生まれつきのものがあるのだろうか? そうなると遊園地を回ったところで脅えて楽しむことができないのか心配だ。

 

そう心配して確認してみると、どちらも問題無いと返ってくる。強がりではあるみたいだが及び腰になってはいない。むしろ、先ほどから遊園地のアトラクションたちが気になって仕方ないといった具合だ。

 

「奈々子さん。そろそろ移動したいのだが問題はないだろうか?」

「はい、出入り口付近で立ち止まっているのは危険ですし、とりあえず移動を開始しましょう」

 

こちらを二度見、三度見をして瞼を限界まで見開く女性たちを警戒する奈々子さん。彼女たちは、ここに男が居ることを、己が生み出した幻覚だと考えているのだろうか、危ないくらい何度も目を擦っており、彼女たちの視力のためにも奈々子さんの提案を承諾。とりあえず移動する事になった。

 

というわけで自分たち紅月小学校遊園地隊、出発である。なおこの部隊名はいま思いついたので非公式で、これから使うことは多分ない。

 

「……歩いてる?」

「え? あ、歩いてるっ!?」

「うそ、歩いてる!?」

 

遊園地の奥へと進み始める自分たち、なぜだか歩いているというだけで周囲に驚かれる。通常営業している遊園地に遊びに来る男というものが希有なのは分かってはいるが、そこまでか?

 

予想どおり前世を合わせて経験の無い数の女性の視線に晒されるも、最初から覚悟完了していたおかげか、そこまで気にはならない。猟哉もメイドたちと暮らしている影響、あるいは和車家の男ゆえか堂々としているが、到自は居心地が悪そうだ。元々人混みに慣れていないのもあるだろうが、身長が高いこともあって自分たちよりも視線に晒されているのかもしれない。

 

……ふむ、まずは到自の気分を変える必要があるか。

 

「奈々子さん」

「はい」

「まずはここへ行こうと思う」

 

背後を護ってくれている奈々子さんを傍に呼んで、入場口にあったのを持ってきたパンフレットに記載されている、とあるアトラクションを指す。

 

「構いませんが……よろしいのですか?」

「ああ。どちらにせよお昼前には行こうとは思っていたからな」

「わかりました」

 

奈々子さんは自前のパンフレットを取り出して前を歩く双子に目的地まで進むルートを伝える。二人が頷くと、先導よろしくお願いしますと言い素早く元の位置に戻った。

 

企業に属して新人とは言えプロである奈々子さんと矢地さんは奇襲を受けやすい背後や側面、そしてすぐに前の異変に気づける後方に位置し、まだ学生の身である美並さんと榎並さんは正面のみに集中出来るように前方とのことだ。その中で奈々子さんは『単独護衛』の資格を持つとのことで臨機応変に動き回って『男衛』たちの指示や、自分たちの要望に応えていく遊撃的な動きをする。仕事量が半端ない。

 

後先考えず、自分の身勝手に付き合わせてしまった事に深く反省する。到自と猟哉の事もあるし手伝いとはならんかもしれないが、彼女たちの負担を出来るだけ軽くして行こうと思う。できるように努力する。

 

「へー。遊園地って初めて来たけどすっげぇなー」

「紅月国有数であるから、他と比べると広さもアトラクションの数も段違いであるとは知っていたが……こうやって歩き回るだけでも結構刺激的だな」

「夢中になってはぐれるなよ」

「気を付けよう。それにしても志亮は落ち着いているな?」

「そうでもない。気分が浮かれすぎて、今にもどうにかなりそうだ」

 

中身は二度目の精神であれど、子供脳であることが影響しているのか、ちょっとでも気を抜けば足はスキップを刻み始めるだろう。

 

仕方ない。本当に仕方ない。なにせ自分は人類の夢を叶えているのだ。大人になってしまい過去を思い出して、もう一度子供に戻って遊びたい。そんな願いを叶えているのだ。それも同年代の友達が居て、綺麗なお姉さんに囲まれて、こんなものはしゃがないほうが子供としてどうかしている。

 

残念な事に、遊園地さいこーと言いながら両手を挙げて全力疾走などは、みんなの迷惑を考えればできないが、そんなものは些細なことである。はやく遊園地定番のアトラクションに乗りたい。小学生低学年の今だからこそメリーゴーランドは絶対乗りたい。

 

――まあ、最初の楽しみは友達に譲ることになったのだがな。

 

「お、おおお!」

 

途中からまさかとそわそわし始めていた到自が、目的地に到着して腹の底から叫んだ。込められた感情は歓喜である。無理もない、このアトラクションを最も楽しみにしていたのは到自であり、彼は絶対乗ると決めていたのだから。

 

「もしかして――ジェットコースターか!?」

「もしかしなくてもジェットコースターだな」

 

日本でも遊園地と言えば名前が挙がる絶叫系のアトラクション。ジェットコースターである。数十人の客を乗せたビークルが、ゆっくりとレールの上を登っていき頂上へと到着、そのままほぼ直角の斜面を急降下。およそ日常じゃ経験しようのない速度での落下に喜色混じりの悲鳴がはっきりと聞こえてくる。

 

「乗っていいのか!?」

「乗っていいから、ここに来たんだ」

 

事前の下調べで必ず乗ると豪語していた到自。実物を目にしたらもしかしたら怖がって止めるとか言い出すかと思ったが、その逆、もはや夜を照らせそうなほど瞳が輝いている。

 

「まじか、ついにか!」

 

パンフレットに依れば最高時速150キロで疾走すると言う。さらに目に見えて分かるが、このジェットコースター2回転するのだ。『和車ランド』の目玉アトラクションにもなっているらしく、テレビでも何度も見た。それでも到自は怖じける様子はやはり無く、飛び出さないのが不思議なくらいである。

 

「どうした、はやく行こうぜ!」

 

どうやら自分が動き出すのを待っていてくれたみたいだ。到自は荒っぽいが先走ることは無く、きちんと仲間を待ってくれる優しい男だ。だからこそ申し訳なくなりながらも無理だと言う。どうしてだと本気で驚く到自に、猟哉はため息を吐いた。

 

「これで何度目だ? 俺たちは乗らないんじゃなくて乗れないんだ。身長が足りなくてな」

 

そう、ジェットコースターに乗るには身長が130cm必要なのである。自分と猟哉の身長は小学校一年生の平均前後であるため足りないのだ。猟哉に到っては10cm以上足りない、しかし、到自はすでに中学生と見間違うほどの身長である。なので下調べの時点で、ジェットコースターに乗る際は到自だけという話であった。

 

到自も思い出したらしく、忘れてたと後頭部を掻く。そこでふと、そういえば自分たちの下調べの時の話は全部、貸し切りが前提であった。なのでジェットコースターも到自ひとりで乗るという予定だったのだが、他の客がいる以上。どうなるのか?

 

「すいません。報告が遅れましたが、メイド隊経由で訪れたアトラクションのスタッフに連絡が入り優先的に使わせて貰えるように園長から許可を貰っています」

「そうなのか? しかし……いいのだろうか?」

 

ジェットコースターに関しては到自だけではあるが、他の乗り物でも例外なく自分たちは先に順番待ちをしていた人を押しのけて乗れるのだろう。その事に元は日本人として、どうしても罪悪感を抱いてしまう。そんな自分の心情を察していたのか奈々子さんは間髪入れず、志亮様たちの身の安全が最優先ですと言ってきた。

 

納得しかない。だが罪悪感を払拭できるかは別なのだが、奈々子さんたちにこれ以上負担を掛けるほうがなによりも申し訳ないので、今回ばかりは甘えることにする。

 

「それとですが到自様。女性が多く集まっている以上、お一人での搭乗は危険すぎます。なのでジェットコースターに乗る際は矢地を傍に置いてください」

「……ちょっ!?」

 

周辺の警戒に集中していたためか、矢地さんはお手本の様な二度見をする。ふむ、傍におくということはつまり、到自と矢地さんがジェットコースターには隣同士で座るということか。

 

「奈々子!? なにを言って――」

「おおいいぜ」

「うえっ!?」

 

矢地がジェットコースターに同行するのは奈々子さんの完全なアドリブらしく、矢地さんは、まさに寝耳に水という反応をする。そんな彼女に喧しいと視線で訴える奈々子さんに、いや待って心の準備をさせてと手を横に振って抗議をする矢地さん。

 

あくまで自分の想像であるが間違ってはいないだろう。到自も人が悪いと言うか、とにかくジェットコースターに乗りたくてしかたないらしく、些細な条件だと言わんばかりに即答したのだが、その結果矢地さんの動揺はさらに強まる。

 

矢地さんは何かしらの葛藤の後、腹を括るかと深呼吸をした。

 

「えっと、灯元様」

「到自でいいぜ!」

「あ、ハイ……そ、それではと、到自様。今からほんの少しの間だけですがよろしくお願いします!」

「おう!」

 

明らかに動揺から回復しきっていない矢地さんに、到自は畳み掛けるようににかっと白い歯を見せる笑顔で返事する……すまんが、ギブアップ寸前の顔でこちらを見ないでほしい。なお奈々子さんは心配半分同情半分のため息を吐いた後、これも必要な犠牲ですと小声で呟いた気がするが多分気のせいだろう。両手を合わせたが異世界だ。宗教が違うかも知れない。

 

「せ、先輩……」

「……よし! 私だって『男衛』! 任務を確実に遂行してみせるよ!」

 

自分の頬を叩いた矢地さんは、到自と共にジェットコースターのスタッフの元へと行った。矢地さんとスタッフが何度か会話すると、スタッフたちが先に並んでいたお客様たちに謝罪をしながら下がって貰える様に指示を出す。そしてスタッフが帯を外したガイドポールの間から到自たちは進み列の先頭へと立った。

 

急に後ろに下がってと言われてざわつく列の人たち。人気アトラクションなだけあって最後尾は一時間まち、今は最前列の女性たちも長いこと並んでいたはずだ。次は自分の番といタイミングで前に割り込んできた矢地さんに不満顔になり、次に到自を見ると目ん玉広げて驚き、お、男、うそ!? 私の目の前に男がと友達と一緒に驚きながらも嬉しそうにしている……なんか想像していたのと違うが、まあ問題にならなさそうならいいか。

 

出発したジェットコースターが戻ってきた。乗客が降りてきてスタッフが通行止めにしていたジェットコースターへと続く階段の道を開いたことで、到自はついぞ我慢の限界が来たのだろう、駆け足で昇っていく。矢地さんもそれに慌てて続き、その後ろの乗客も、といったところで再度道が塞がれた。

 

これには元最前列の女性たちも不満顔であるが、男性が乗るんだから仕方ないかと残念そうにしながらも納得している様子だった。それを見て罪悪感を募らせていくと、なぜか上に昇っていったはずの到自が降りてきた。

 

「――どうしたんだ!? お前たちも早くこいよ!」

 

……シンプルに到自は、ジェットコースターは数十人纏めて乗るものだという認識なのだろう。そして全員が乗りきらないと出発できないものと思っているかもしれない。自分と関わったことで女性の嫌悪感がかなり薄まっていたのも相まって、まさかの到自が女性たちにたいして一緒に乗ろうと言ったのである。

 

これには予想外が過ぎると驚いた。奈々子さんも、双子も、猟哉も、スタッフも、そして声を掛けられた張本人である並んでいた女性たちも心底ぶったまげた。特に並んでいた女性たちの驚きっぷりはすさまじかったらしく幻覚、幻聴扱いしたのか動こうとしない。

 

「早く来てくれないと出発できないだろ! 上で待ってるからな!」

 

しびれを切らした到自はそういって階段を昇っていった、すれ違いに遅れて来た矢地さんが到自を追って再度昇っていく姿が見えたが些細なことだろう。女性たちは白昼夢を見ているかのような足取りで、階段を昇っていく。

 

「……その、なんだ。止めなくてもいいのか?」

「…………こうなった以上、止めたほうが、危険性の高いトラブルが発生すると思いますので」

 

止めようがありませんと色々と諦めた様子の奈々子さんに、人数が上限だと入り口を閉じたスタッフと客たちがちょっと過激な言い合いをしているのを見て同意する。

 

「……ちなみに矢地なんですが……絶叫マシン苦手です」

 

その情報は日が沈んでから聞きたかったなと口にはせず、聞いた事がある声の絶叫に耳を傾けた。

 

 




到自は見た目こそ中学生ほどですが、中身は年相応に幼いです。
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