男が少ない世界で人生を謳歌するために必要なのは? そう紳士道!! 作:庫磨鳥
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到自と矢地さんがジェットコースターを堪能してしばらく、自分たちは少し早めの昼食を摂ることにして飲食店へと入った。遊園地側の配慮と言えばいいのか、本来であれば事前予約が必要な二階に案内された。エアコンは人類が生み出した文化の極みである。
ちなみに一階の通常席では、男子と同じ場所でご飯を食べる権利を賭けて、ちょっと言葉にするには難しい状況になっているようで、先ほどまでは建物自体揺れていたのだが、奈々子さん提案、メイドさんたちが伝達、スタッフがお客に向けて騒がしくした奴は即刻失格と通達したら静かになったとのこと。
いったい下では何が起きているのか好奇心を我慢出来ず、席を選んでいる振りをして窓から外を見たらこちらを真顔で見上げる何十人の女性と眼があってしまったので気にしないことにした。お化け屋敷はもういいかもしれんな。
「すごかった! マジですごかった!」
癖が付いてしまったのか無意識に学校の食堂と同じように座ると、ジェットコースターを堪能した到自が興奮冷めやらぬといった様子で感想を叫ぶ。内容の九割が“マジ”と“凄かった”のふたつで構成されているが、あのジェットコースターが特別であることがしっかりと伝わってきて、純粋な評価というものはなによりも勝ることを教えてくれる。
「落ちた時こえぇって思ったんだけどよ! そっからガーって行くのがマジで凄かった!」
「高い身長というものに余り興味は無かったんだが、そこまで言われると羨ましくなるな」
「楽しんだようでなによりだ……その……無事か?」
「ほげー」
立ったまま意識がどこかへと飛んでしまっている矢地さん。苦手なジェットコースターに乗った影響か、それとも到自の隣に乗ったことが原因か、白目むいて到自に肩で支えられながら階段を降りてきた時は驚いたものだ。その時の仁義なき戦いをしかけていた遊園地スタッフと客が射殺できそうな視線を一斉に矢地さんに送った時は本当に驚いたものだ。かなり刺激的な光景であった。百を超える人の視線が一カ所に集まるというのは自分が対象で無いにしろ怖いものである。
「矢地、そこではもしもの時に動きづらいです。左真横に一歩半移動してください」
「ほげー」
奈々子さんの指示に投資に失敗したような蕩けた顔をしながらも従う矢地さん。意識を失ってもなお自分たちを護衛すると本能が働いているようだ。そんな彼女に最大級の感謝と敬意を送る。というか躊躇いなく犠牲に……もとい指示を出した奈々子さんを見る後輩の眼が期待に満ちながらもどこか脅えてるといった複雑怪奇なものとなっている。
安全を考えればジェットコースターの時のようにアトラクションを奈々子さんたち『男衛』の誰かと乗ることになるのは確実だ。地球ではデートの定番の遊園地。男女が一緒のアトラクションに乗り込んで楽しむというのはありえる話ではある。しかし、この世界では夢物語レベルの出来事だ。女性として至極当然に期待してしまうものなのかもしれない。
自分としては是非にとは思うが彼女たちは仕事中。自分がいつもの調子でやってしまえば迷惑にしかならず、ひいては自身の危険にも繋がる。ここは我慢の時だろう。まあ多分、早めに生け贄として差し出される……こほん、お仕事が回ってくるとは思うが。
各々に頼んだ料理が届く、自分は動き回ることを考えて軽めにトマトレタスサンドのみを注文。到自はがっつりハンバーガーセット。猟哉はホットドッグ。どこでも食べられるジャンクフードであるが、各々のパンには『ワグルマランド』のオリジナルロゴの焼き印が押されており、この遊園地でのみ食べられる料理であることを強調している。一口、うむ、普通のトマトレタスサンド。美味い。だが無料でなかったら頼むかと言われると正直ちと高い。……次遊びに来るときは弁当を作って持ってくるのもありかもしれないな。
「……おっと、そういえば忘れていたな」
「どうした?」
「白雪先生に、遊園地に無事についたら報告しようと思っていたんだ」
夏休みが始まってから自分は定期的に白雪先生に連絡していた。会話の内容は歌の練習についてや他愛も無い日常会話である。遊園地に行くことも話しており、初めての長距離外出だからか天にお還りあそばされるのでしょうか? と心配されてしまった。
その時は普通に遊びに行くだけだと宥めたのだが、彼女のことだ。今でも不安に感じているのは想像に難くない。連絡するだけでは払拭されるか分からないので、写真のひとつでも送ろうか。そうやってスマホのカメラ片手にポーズを模索していると、猟哉も到自も白雪先生に送るならと自分から一緒に写ることとなった。というわけで奈々子さんに撮影を頼み、三人横一列となって各々の食べかけの料理が見えるように写す。
このあいだ奈々子さんに自撮りの写真を送ったら喜ばれたので、ポーズの練習をしていたのが役に立つ。紳士を目指すならば、やはりある程度は自分を格好良く見せる練習を積んでいかなければな。
撮影が終わり、写真を確認。ポーズに違和感があったり、口元に食べかすが付いていたら撮り直そうと思ったのだが、そのまま奈々子さんのスマホということで白雪先生に送って欲しいとお願いする。
「――花音……あなたは良き友人であり戦友でした! 恨むなら己の幸運を恨んでくださいっ!」
送りつけた爆弾を起爆するようなノリで送信ボタンを押す奈々子さん。二人は仲がよく学校でもよく話しているのを見る。なので友達に対するお茶目な『男衛』ジョークなのだろう、そういうことにしておこう。
――この日、既読はついたが白雪先生からの連絡は来なかった。
ふと、奈々子さんが遠慮がちに自分を見ているのに気付く、言いたい事を察した自分は二人に確認をとって了承を得たので写真は消さずに残しておいても構わないと伝える。すると奈々子さんは表情こそいつものように変えないものの、ありがとうございますと嬉しそうにしてくれので、自分もとても嬉しい気持ちになった。
≪こちらオペレーター。アルファ。独占は許されません≫
「こちらアルファ。分かっています。全ては今日と言う日を生き残った後に、どうぞ」
≪……グッドラック≫
「グッドラック。矢地、そろそろ覚醒してください」
「はっ!? 私はなにを……?」
奈々子さんの華麗な手刀による昭和テレビ的処方で矢地さんが元に戻る。どうやらジェットコースターの時の記憶は恐怖か何かで飛んでしまったらしく、どうして店内に居るのか首を傾げている。奈々子さんがぼそりと都合がいいですねと呟いた。今日はなんだか色んな彼女を知って得した気分である。
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紅月国でも有数の遊園地だけあって、体験するアトラクションどれもとても満足いくものであった。
子供向けの回転ブランコは想像していたよりも速度があって、遠心力による重力への開放感と言うべきか、身体が外へと飛んでいきそうになる感覚は中々に楽しかった。猟哉も風を切る感覚が気に入ったようで、もしかしたらジェットコースターに乗れるようになったら、誰よりも嵌るかもしれないな。なおメリーゴーランドはどこか物足りなさそうであった。
到自は高身長を活かして次々と絶叫系を網羅していく、搭乗時知らない客と隣同士になるのは危険ということで相方として必ず矢地さんが選ばれる。指示役の奈々子さん、まだ半人前の榎並さん美並さんでは不安だと消去法にてアトラクションに同行する『男衛』が矢地さんしかいないのだ。仕方ないという奴である。
「えへへ!」
しかし、最初こそ呆けていた矢地さんだったが現在では男性と一緒にアトラクションに乗るのを完全に楽しんでいた。降りてくるたんびに全て出し切っていた感情が、徐々に残るようになり、五つ目から降りてきたあたりで世界で一番幸せな女性の顔になっていた。客やスタッフたちによる羨望の殺気が向けられるのに、たいしたものである。
「いやぁ楽しかったね!」
「おう! 楽しかったな!」
ただ、調子に乗り始めて仕事というのを忘れているのではなかろうか、奈々子さんもこれは後でお説教ですねとため息を吐いた。美並さん、榎並さんも不満げである。
「先輩ずるいんだ~」「姉さん……否定はしませんが油断しないでください」「私もいつかあんな風に男の人とデートしたいな」「先輩別にデートしているわけではありませんが、私も姉さんと気持ちは一緒です」
「なら、自分と乗るか?」
「「……え?」」
――憂う二人を無視することはできなかった。自分はそう後になって奈々子さんに弁明した。
「……そろそろ、プランを変更したほうが良さそうですね」
遊園地を遊び回った結果。本来であれば自分たち同じく遊園地を楽しんでいたであろう女性客たちが後方数十メートルを行軍の如く追従してくる。その数は千を軽く超えるだろう。平和に遊べているほうが不思議なぐらいである。
というか、かなり意外である。彼女たちのことを自分は無礼を承知でゾンビと表現している。その理由は学校の行き帰りで見る、少年にワンチャンを求めるために『紅校』周辺で屯っている様子が正にそのまんまだったからだ。だから男とみれば熱された鉄板に触れる水滴の如く理性は蒸発し凶暴になるのが、この世界の女性。そう認識していた。
しかし遊園地にいる彼女たちはスマホで撮影もせず、ただこちらを記憶に焼き付けようとしているのか瞼を限界まで開いて凝視しているだけだ。まったく関係ないが沢山の目で見てくるだけの日本妖怪を思い出した。ぶっちゃけ普通に怖い。
「――今でこそ理性と常識と倫理と法律知識などを総動員しながら、互いが互いを牽制し合って均衡を保っているようですが。いつ決壊するかわかりません、そうなってしまっては人の波に飲み込まれてしまい貞操……以前に命も危ぶまれます」
意外に意外を重ねて、こちらを遠巻きに見る彼女たちは自分たちに配慮をしてくれていたようだ。いや、むしろ学校周辺のアレがおかしいだけで、この世界は存外まともなのかもしれない。そう思い、感謝のひとつでも送ろうと視線を向けたところ、奈々子さんに腕で視界を遮られた。
「死にますよ?」
「すまない」
深々と頭を下げる。あくまで今は彼女たちの理性が保っているだけで、刺激すれば襲いかかる猛獣であることは変わりは無いのだろう。どうしてこう自分は短絡的な行動をとるのであろうか、その謎を探るには未開のジャングルにでも行かなければ分からなさそうである。
「こほん。それでどこへ?」
「施設のアトラクションエリアを貸し切りにして、中に入りましょう。それからスタッフ達と協力して、外で待機する他の客をいったん散らします。志亮様はどこに行きたいですか?」
「そうだな」
貸し切りにするというのに引っかかりを感じてしまうが、そもそも今日は自分たちの貸し切りの予定だったと気にしないことにした。地図を見ながら、そういえば下調べの時に自分たち三人が公平に楽しめそうな所があったことを思い出す。ここなら二人に確認を取らずとも次の目的地に決めてもいいだろう。なにせ元から行く予定ではあったのだから。
「なら、ここに行こう」
「わかりました」
この遊園地には体験型のスポーツ施設が存在する。ボウリング、ピッチングマシーンからバスケットボールをゴールポストに入れるゲームセンターで見かけたやつなど、とにかく身体を動かすタイプの娯楽施設である。
スポーツ用の服をレンタルしており借りる事となった。男子用というのはなかったがデザインが非個性的とあって、自分たちが着ても違和感はなく、赤や青など系八種類の色から選べるとあって黒を選んだ。ちなみに到自は青、猟哉は紫である。
機械の稼働音などで騒騒しいが、自分たち以外の客が居ない完全な貸し切り状態。いまごろ施設の外では遊園地のスタッフたちは総出で群がる女性たち相手に頑張ってくれているのだろう。熱中症で倒れる人が現われないことを祈る。
ちょっと落ち着いた所で男衛組はクーラーが特に効いている自販機場で休憩していた。遊園地に入ってから炎天下にもかかわらず水一滴も忙しくて飲んでいる様子を見ていない。奈々子さんと矢地さんはプロなだけあって余裕そうであったが、双子は疲労が目に見えて分かる。先ほど自分がやらかしたこともあってしっかりと休憩して欲しい。
「うわぁ。私服も破壊力やばかったけど……スポーツ姿も大概……奈々子。マジで毎日あの環境で仕事してるの?」
「マジですよ。志亮様と到自様は週に三回以上、自主的に体育をしています。慣れないと死ぬので慣れました」
「先輩すごい」「先輩ヤバイ」
「といいますか、これからが本番なので今のうちに気合いを入れ直してください」
「これ以上にまだなにか!?」
「スポーツするんですよ。激しく動くんですよ? どうなるか想像でき……したら死ぬので、なんとなくふわっと理解してください」
「……汗がぶしゃっ!?」
「姉さんが鼻血だして死んだ!?」
「そこら辺のベンチで
「……奈々子、私ね。いま貴女のこと死ぬほど羨ましいなって思ったのと同時に本気で尊敬した」
「ありがとうございます。矢地も頑張ってください」
「……がんばって?」
「到自様は対戦型のスポーツをお望みです。体力に自信がある方なので、ついて行けるのがこの面子で貴女だけなんですよ」
「…………あの奈々子さん。私は護衛をしないといけないんですよね?」
「ここには私たちしか居ませんし、それにスポーツに勤しみにながらでも何かあれば動けますよね? 仕事着のままでフルマラソンを2週できる専門学校きってのフィジカルモンスターの貴女なら」
「それとは別問題だよね!?」
話を聞いていると、到自がすぐにラケットと羽を持ってきてバトミントンやろうぜと誘ってきたので、できるだけ自然体で矢地さんはどうにもスポーツ万能なようで、到自の相手してくれるようだぞと紹介した。すると到自は本当かと、すぐに矢地さんに声を掛けて、返事も待たずに手を握ってコートの方へと引っ張っていった。
「奈々子さん!? もうコレなんですかね!?」
「仕事です」
間違いなく仕事であるが、仕事を楽しんでは駄目という法律はこの世界にも無いだろう。また役得ということで頑張って欲しい。自分も最近は到自の体力について行けないんだ。まだまだ遊ぶ時間がたっぷりある中で早々に電池切れを起こすのもはっきり言って嫌なので、矢地さんには是非とも頑張って欲しい。
「ふむ、そういえば猟哉とこうして身体を動かして遊ぶのは初めてになるか?」
「運動は得意じゃない。お手柔らかに頼む」
猟哉は運動がちょっと苦手らしく、下手に怪我をしてしまうと先生に迷惑が掛かってしまうと遠慮していた。そもそも自分と到自の体育の様子を見て、アレは無理だと思っていたのこと。しかし、折角なので自分と一緒に回ることになったのだ。
――さて、まずは何から遊ぼうか。
なんだか微妙にスランプになって遅れました。かなり前から殆ど完成していたんですが投稿せずに発酵させていました。もしかしたらその当たりが作品に出てしまっているかもしれません。それでも楽しんでくれたら幸いです。