男が少ない世界で人生を謳歌するために必要なのは? そう紳士道!! 作:庫磨鳥
総合評価が5000を超えました、これからも楽しんでいただければ幸いです( ̄▽ ̄)。
あっちの作品が終盤になってきてるので、しばらくはこのペースで投稿したいと思います。
様々なスポーツを体験できる施設内にて、遊ぶにしても全部見てからの方がいいだろうということで施設内をぐるりと回る。そんな中で猟哉が興味を持ったのは地球では不思議では無いが、この世界では意外そうなものだった。
「あれは……? 車のゲーム?」
「本物の車のように運転するタイプのレースゲームだな」
地球のゲーセンとかに置かれていた本物の車の運転席に似せて作った座席型のカーレースゲーム。大人用二席と子供用二席の合計四席が、ひと目に付きにくい隅っこに置かれていた。座席裏に貼り付けられた説明欄を見ると、内容は至って普通のレースゲームであるが、ゲーム内での車の動きと座席が連動しているとのことだ。
荒々しくコースを走る車の映像に猟哉は興味津々と言った具合だ。アトラクションの反応を見る限りスピードを体感できるものを好んでいたから琴線に触れたのかもしれない。
「……志亮」
「ああ、これにするか」
人が興味を持てば自分もと言った具合にアクセルを吹かしたくなったので断わる理由はないと、いそいそと子供用座席に乗り込み、シートベルトを着用。お金は必要ないらしくスタートボタンを押すと画面が切り替わった。
「む? これはどうやって……?」
「ハンドルを左右に動かして選び、アクセルペダルで決定するみたいだ」
「……詳しいな?」
「画面に出ていたのをそのまま読み上げただけだ」
ハンドルやアクセルという単語を当たり前のように口にする猟哉。理由を聞けば本で読んだことあるとのことだ。前世で似たゲームをプレイした事がある自分よりも手際よく猟哉は対戦モードを選び、車とコースも決めた。その後勝手にコースを選んだが良かったかと聞かれたのだが構わないと返すことしか出来なかった。
遅れて自分も車を選んでゲームが本格的に始まる。座席のスピーカーからけたたましくなる排気音に小刻みに揺れる振動。レーシングカーを意識してか日常で乗る車よりも、かなり激しい。この演出は中々に心が躍る。それは猟哉も同じ気持ちなようで驚きながらも、その瞳はギラついていた。
「猟哉。手加減せずに行くぞ!」
「こっちもだ。志亮!」
始まる前からテンションマックスとなってしまい、思わず格好付けてしまうと猟哉も乗ってくれた。互いに気分はもう完全にプロレーサーである。
左上に表示されているマップを確認、レース前半はカーブが多く最終の直線が長めのシンプルだが結構難しそうなコースを選んだようだ。スリーカウントが数えられてレースがスタートする。その瞬間アクセルを強く踏み出した自分。一方で猟哉はアクセルを踏み続けていたためにスリップした。
「なっ!? ……知っていたな! 志亮!?」
「たまたまさ!」
その驚く顔が見たかったと悪い顔をしながらアクセルを踏みしめる。加速の度合いでシートベルトが強く締まり、ハンドルを切って車体を曲げると、それに合わせて座席の位置が変わることで擬似的なGが身体を襲い。荒れた場所を進む時には下から強めの震動が伝わってくる。そんな所々の実際に運転していると感じさせてくれる仕掛けがかなり楽しく、しかし調子に乗りすぎたようで盛大にコースアウトした。
「しまった!?」
「速度に尖った車を選んだのにアクセルが強すぎたな、志亮!!」
「くっ、まだまだ終わらんよ!」
車に乗って勝敗を決めるためにアクセルを踏みしめる行為は例えゲームであっても心を狂わせる。だって男の子だもん仕方が無い。というか猟哉は性能のバランスが良い車を選んだためか、それなりの急なカーブでも無理なく曲がれている。君本当に初めてか?
「直線で追い抜く!」
「抜かせないっ!」
勝負は対戦モードのためかNPCが弱く遅く設定されており、自分と猟哉の一騎打ちとなっている。曲がるのが苦手でカーブが多い地帯で猟哉に追い抜かされれば。ゴール前の直線で自分が追い抜き返すを2周繰り返し、勝負は最終ラップへと移行する。
このまま展開が変わらなければ最後の直線で追い抜く自分の勝ちである。なので自分がするべき事はミスを最低限にして決して離されないこと。周回する毎に明らかに上手くなっている猟哉に必死に食らいつく、ふと隣を見れば、同じくこちらを見ていた猟哉と視線が合いふっと笑みを浮かべ合う。
「ゲ、ゲームとは思えない気迫ですね」「どっちもがんばれ~」「姉さん気を抜かないでください……が、がんばれー」「どっちが勝つんだろうね~」
「志亮様です」
≪猟哉坊ちゃまです≫
「≪んっ?≫」
奈々子さんたちが何やら騒騒しくなってきたが、それを気にするだけの余裕は無い。激しくハンドルを動かしており、それにあわせて座席が動くために少しでも気を抜いてしまうとG(偽)によってミスしてしまいそうになるのだ。これ明らかに子供向けの調整では無いな!
最後のカーブを曲がれば残すは直線のみ、猟哉が先頭を走っているが距離はそう離れていない。カーブを曲がりきってすぐにアクセルを全開にすれば、ゴール直前には追い越すことができる!
「この距離! 貰った!!」
「――いや、この勝負俺の勝ちだ!」
「なっ、ショートカットだとぉ!?」
猟哉は最後のカーブに入る前のコース端がジャンプ台に成っている、つまりショートカットルートに気づき実行したのだ。何度も言うが猟哉はレースゲーム自体初めてである。なんという理解力、そしてなんという実行力。
「……悔しいが居るものだな。天才というものは。完敗だ」
とんでもない負け方をしたためか興奮が冷めずプロレーサー気分は続行。思わずお洒落っぽい負け台詞を言い放ってしまう。実際前世での経験があるから勝てるだろうと慢心していた故に悔しさは意外なほど大きい。猟哉を見てみると呆然としていたが、その表情には喜色が漏れていた。
「猟哉、楽しかったか?」
「……ああ、身体に伝わる振動。スピード感。偽物と分かっていても……これが本で読んだことがある心に響くというものか、正にその通りだな」
猟哉はカーレースゲームが大層お気に召したようだ。アトラクションの好みから心のどこかでもしやと思って居た所はあったが、こうも嵌まるとは想像を超えていた。もしかしたら人生で初めて誰かと競って勝ったのかもしれない。だったら勝利の美酒に酔ったと言っても過言ではないのだろう。
「そうか。ところで猟哉」
「なんだ?」
「こういうのは三回勝負と相場が決まっている。さあ時間が惜しい早く次を始めよう」
まあなんにせよ負けたのは普通に悔しいので再戦を求めた。猟哉も予想通り一回の勝負だけでは物足りないようで、年相応にしてはまだまだ落ち着きがある態度であるが初めて見るような輝かしい表情でわかったと頷きスタートボタンを押した。
「――うーむ。強かった」
結局あのあと十番勝負まで引き延ばしたが全敗。後半になると猟哉はコースや車のスペックを完璧に覚えたのか、もう手も足も出なくなった。何度もキノコや甲羅などのアイテムが欲しいと思ったが、所詮は無い物ねだりにしかならなかったので、今度はアイテム有りきのレースゲームを探してリベンジしたい所だ。
座席が動き身体に負荷が掛かるゲームなので、朝から動き回っている事もあり流石に疲れたとNPCに選手交代。猟哉はソロプレイ中である。その傍には双子が両脇を固めており、自分は奈々子さんと一緒に近くのベンチにて休憩中である。
≪……神詩志亮様。改めてメイド一同、勝手ながら感謝を送らせ頂きます≫
「ふむ? 感謝されるような事をした覚えはないのだが?」
≪いいえ。わたくしたちメイド隊は神詩様に返しきれない恩がございます。……猟哉お坊ちゃまについて、ほんの少しだけお時間を頂いてもよろしいでしょうか?≫
「構わない」
メイド長が語り始めたのは自分と猟哉の関係についてだった。メイド長は元々和車の実家に仕える
まったく見知らぬ多数の他人。それも異性。自分なら喜んで堪能するかもしれないが、猟哉は引っ越したばかりの時は脅えて部屋に出ないほどであったらしい。そんな猟哉を不憫に想いながらも歩みよれず、せめてストレスを与えないようにと、できるだけ視界に映らず音も立てず気配を殺して業務を熟していたのだが、家族の元を離れた猟哉は孤独で寂しそうにしていた。しかしメイドたちが傍に寄ろうにも怖がらせるだけだと悪循環に陥っていたらしい。
それを変えたのが自分だと言う。学校初日の帰り、メイド長はシンシとは何かと尋ねられたらしい……うむ、とりあえず黙って話を聞く。
≪その時は満足できる答えを口にすることができず、坊ちゃまを落ち込ませてしまいました。なので咄嗟に、そのシンシというものを仰ったご本人に意味を尋ねてみてはとお答えしたのです≫
声を掛けてきたのはメイド長が助言していたからと知り驚く。話は続き、猟哉が自分に話しかけてきて到自を含めて友達となった日の帰り。猟哉は初めて見るほど機嫌が良くて、ありがとうとメイド長に感謝したらしい。その日の事は生涯忘れられず日に三回以上は思い出してしまって顔がにやけてしまうのだとか、うむ、後半は別に言わなくてよかった気がする。あとメイドの数人が舌打ちした気がするのは気のせいか?
それから猟哉はメイドたちと話をするようになった。猟哉はまずメイドたちを労いはじめたそうだ。ごはんが美味しい、いつも洗濯してくれてありがとうと、なにより自分たちに女性であるのに猟哉は気さくに接してなおかつ優しくしてくれるようになり……話がそれなりに長くなったので纏めると自分たちは生涯を尽くす主を見つけられたとのことだ。奈々子さんが力強く首を頷いて同意しているのは、とりあえず反応しないでおこう。
これもすべて神詩様のおかげですとメイドたち全員から感謝の言葉を送られる。そう言ってくれるのは嬉しいが貰いすぎるのはどうにも気恥ずかしい。また、それを言うのならば自分だってメイド長に感謝をしなければならなかった。
「メイド長の助言のおかげで自分も得難い友人を得られた。こちらこそありがとう」
≪――身に余る光栄。これからも猟哉坊ちゃまをよろしくお願いします≫
猟哉の話を聞けて、心の底から遊園地に来て良かったと思えた。到自も楽しそうだし、そして自分ももの凄く楽しい。時間がもう少ししか残されていないことが酷く残念に思えた。『ワグルマランド』には夜の部もあるのだが、流石に危険過ぎるとのことで夕方には帰る予定だ。
「――っ!? 志亮様!」
最後にどうしても乗りたいものがあるのだが、折角だもう少しここで遊んでもいいかもしれないなと考えていると、突然、奈々子さんが自分を護るように前に立った。
「こちらアルファ!
通信機にて端的な指示を飛ばした奈々子さん。ここでようやく自分は全速力で向かってくる女性に気付いた。ゲームの音で全く気がつかなかった。自分たちを襲いに来たのか!? 猟哉と到自は無事なのか!?
「私の後ろから決して離れないでください!」
焦る俺とは裏腹に奈々子さんは極めて冷静に銃と警棒を取り出して応戦の準備を整える。襲撃者が目の前まで迫る。武器を持っている様子はない。そういえば、男性を襲撃する女性の中には生涯に一度だけでもいいからと、突貫してキスをしてくるタイプが居るとニュースでやっていたのを見たことがある。
もしかしてその類いかと身構えると、襲撃者はそのまま止まることなく……膝を床に付けて所謂スライディング土下座の体勢で自分たちの前で止まった。
「「……は?」」
二人揃って真抜けた声が出る中、土下座をかました襲撃者(仮)は、がばりと身体を起こして半泣きで叫んだ。
「――お願いします! PV撮影に出演してくださ
……とりあえず不審者と言うことで、奈々子さんは女性の関節を極めた。全員が集まってくる。何事だと聞かれたのだが、どうやら新しいイベントみたいだと、なんとも言えない苦笑を返すことしかできなかった。
書いてて別の意味でちょっと楽しかったです。