男が少ない世界で人生を謳歌するために必要なのは? そう紳士道!!   作:庫磨鳥

18 / 19
感想、評価、お気に入り登録、ここすき、誤字報告ありがとうございます。

こちらではお久しぶりです。作業環境に変化がありまして、不定期ではありますがまた更新していきたいと思います。他作品との統一性を保つため感想の返信などはどの作品でも控えさせて貰います。申し訳ありません。

久しぶりの執筆にあたって、色々とあるかもしれませんが、楽しんでいただけたら幸いです。


遊園地で遊ぼう 4

国内有数の巨大テーマパークであるワグルマランドは、客数を増やすために定期的に広告を出しており、テレビでCMを何度も見かけたことがある。しかしながら老舗故の思考か、それとも付き合いか、ワグルマランドはインターネット広告分野において遅れをとってしまった。

 

地球でもそうだったが若者の情報送受信元はテレビよりもインターネット。最も有名ゆえに口コミだけでも多大な集客率を誇るだろうが、それで胡坐をかかないのは流石は国が誇る遊園地か、遅れてしまったものの参入しない理由はないと、ネット広告用のPV撮影を行なう事となったらしい。

 

そして、現実から遠ざかり夢のような時間を与える事を生業とする遊園地ゆえか、企画した広告の内容が、この世界にとっては正に夢のような内容だった。

 

ありきたりと言ったらそれまでだが、なんと女性がひとりでワルグマランドに遊びに来たら、本当に偶然、男性と出会えたという、この世界で言えばあまりにも非現実的。夢そのものと言っても過言ではないようなシチュエーション。それが此度のPVの中身とのこと。

 

ワグルマランド及びPV・MVを専門とした広告代理店の関係者たちは頑張った。大手企業の予算があってこそのなせる技とはいえ、それに甘えず彼女たちは懸命に頑張った。何故なら彼女たちにとっても、このPVは喉から手が出るほど欲しかった夢の産物なのだから。

 

直接的な宣伝行為に男性を使用することは法律やら何やらで厳しく規制されている中、たったひとつのPV、たった一度の撮影のために専門の弁護士先生を雇って、何度も何度も市役所などの公共機関に通い何十にも及ぶ手続きのサインを書いて撮影する権利を勝ち取った。

 

ならば今度は実物だと、貴重な男性芸能人のスケジュールを、会社の財力と権力と繋がりと人間の尊厳をコストに一日だけ獲得することができた。この時、ワグルマランド側、広告代理店側両方ともかなり盛り上がったらしい。

 

彼女たちは調子に乗った。CGでは味気ないと、実際にワグルマランドを貸切にして撮影しようとした。しかし、彼女たちよりも偉い立場の人たちから、ふざけるなときつめのお叱りを受けて、撮影を理由に貸し切りはできないと断られた。

 

一度は冷静になった彼女たちであるが、芸能事務所側から貸し切りであるならば現地でも構わないと許可が出て再燃。そして和車家の男子が遊ぶために貸し切りになる日、つまりは今日の事を知った彼女たちは、ほんの少し撮影のためにお邪魔できないかと、上の人にしつこくギリギリまで交渉を行ない。相手側……まあ、自分たちにバレないように撮影する事を条件に見事許可を勝ち取った。なお、こちら側には一切話が入っていない。完全な無許可である。

 

まあ、許可収得に関しては、奈々子さんメイド隊、関係者一同の大人たちが対応するだろうということで一旦置いておくとして、彼女たち広告代理店は場所も人も機材も最高のものを揃えて現地入りした。

 

しかし、ここで致命的なトラブルが発生する。自分たちにも影響を及ぼした猟哉に対する義兄たちからの嫌がらせ。そう貸切だったはずのワグルマランドの通常営業である。

 

これによって男性側の事務所がドタキャン。ただし、これに関しては強引なねじ込みが原因なので、身の安全を考えれば芸能事務所側が断るのは至極当然の判断だろう。

 

ーーそして現在。ドタキャンを受けた広告代理店側が追い詰められた。

 

どれぐらい追い詰められたかというと、監督兼社長の女性が、それなら貸切の理由となった本人たちに代役を頼もうと、とんでもない事を言い出して誰も止めなかったぐらい。そんなわけで現在。PV監督兼広告代理店社長は、俺らに男性役の代役として出て欲しいとダイレクト土下座を行なったと不審者は語った。

 

「申し遅れました。私あいたたたた! 名刺渡すだけ! 名刺渡すだけなので!! ……改めまして、まほじんと申します」

 

奈々子さんによって取り押さえられながらも、商魂逞しいと評すればいいのか、名刺を自分に渡してくる不審者改まほじん社長。会社名は『まほー✩さ~くる』と言うらしく、まほじんと言う名前の横に代表取締役と書いており、彼女がこの会社の一番偉い立場の人間であることは間違いないらしい。

 

「……芸名の類か?」

「はい。個人で活動していた時のをそのまま使ってます」

 

よろしければ本名用の名刺もありますがと言うが、別に必要性もないので、問題ないと伝え、名乗られたならば一応名乗り返すのが筋かと思い、姿勢を正して声を整える。

 

「――神詩志亮と言う。気軽に名前で呼んでもらっても構わない。よろしく頼む」

 

紳士さを意識した微笑みを送ると、まほじん社長は色で例えるならば赤、黄、青の順で表情を変え、擬音で言えばファー! からアッー! でサー……だろうか? やはり宣伝に関わる職業の人だ。リアクションがとても分かりやすい。

 

「――あなたはいったい?」

 

待ち望んでいたと言えば仰々しいが、さすがは創作に関わる人間だ。そんなアニメらしい言い回しで問いかけられたら、紳士として反射的に着飾った言葉を言いたくなるものだ。紳士が関係しているかは知らん。

 

「神詩志亮だ。紳士を目指している男子。今はそれ以上でもそれ以下でもない」

「……シ」

「し?」

「シンシというものが何かは分かりませんが、あなたのような男性は初めて見ました!! んんん! やばい! すごい!! あなただけのPVを作って世間に知らしめてぇ!」

 

料理人に押さえられているまな板の鯉のように、興奮して跳ね出すまほじん社長。それを完璧に拘束する奈々子さん、どちらもプロだな。

 

「神詩志亮さん! 代役とは言わず是非とも主役として、私の作品に出てください! お礼からなにまで何でもお支払いしますから!!」

「……ふむ」

 

悩む。まほじん社長のド派手なお誘いには驚いたが、降って湧いた役者活動に大変興味がある。別に芸能界自体には、まだ興味らしい感情はないが、単純に何かしらの作品に出演するということ考えると中々わくわくする……と悩む素振りを見せて勿体ぶってしまったが、困った女性を放っておくのは紳士を目指すものとして許されざる行為だろう。彼女が自分の目の前で土下座を行なった時点で、既に心は決まっていた。

 

奈々子さんを見つめる。困らせてしまうことに申し訳ないと思うが、自分はどうしようもない人間である。しばらく目で訴えると仕方ないですねと苦笑を返してくれた。やはり彼女には何かしら礼をしなければなるまい。

 

「……ちょっと、こちらに来てください」

「警察に突き出すのはいいですけど、是非とも神詩氏に出演の許可をもぎ取ってからでないと囚人になってもなりきれません!」

「それなら話が早いですね。後はこちらで対処しますので、ゆっくりと事情聴取を受けてください」

「……え? あれ?」

 

――大人たちが話あっている最中。自分は到自と猟哉に確認をとる。ちゃんと話してはいなかったが、PV撮影に出演するのは自分だけであり、二人にはその間待っていて貰う必要がある。勝手に決めたことを謝罪しながら、確認をとると猟哉は自分の所為でという申し訳なさから、到自は持ち前の気前の良さから了承してくれた。

 

「猟哉。此度の件は彼女たちの自業自得と呼ぶべきものであることは間違いない。あまり気にするな」

「だが、俺に対する義兄からの嫌がらせが発端であるのは確かだ。和車家の事情たちに巻き込んでしまった。出来れば謝りたいが……」

 

環境がそうさせるのか。生まれつきの性格なのか、ひとりで抱えこみやすいらしい猟哉は、まほじん社長たち『まほー✩さ~くる』に所属する社員一同のことを気にしてしまっているようだった。

 

「よくわかねぇけど、悪いのは猟哉の義兄貴(あにき)たちだろ? 猟哉がなんで謝るんだ?」

「到自の言うとおりだ。それに悪い考えなのは承知だが、自分はこうなったのを幸運だと思っている」

 

自分がこの状況をポジティブに考えていることを示せれば気持ちが増しになるかと、到自らしい単純明快な正論に乗っかる形で本音を暴露する。

 

「幸運?」

「――テレビっ子でな、CMに出るのは昔からの夢だったんだ」

 

といっても、今回はネットPVではあるが映像を流して何かを宣伝するためのものという観点では同じ物だ。一緒くたにしてもそうは問題多分無いだろう。そんな風に三人で話していると、奈々子さんたちが帰ってきた。行きと明らかに違うのは、まほじん社長が自由の身になっているところである。

 

「外の準備ができ次第、現場へと向かいますがよろしいでしょうか?」

「自分は構わないが、準備とはなんだ?」

 

話し合いの要点を纏めると自分が代役を行なうにあたって、奈々子さんは自分の利になることを幾つか条件に持ちかけたらしい。細かな所は聞かなかったが、最優先となるのは身の安全の保証ということで、スポーツ施設の外を囲っている女性たち、というか本日ワグルマランドに来場している客の対処を、『まほー✩さ~くる』に任せることにしたという。

 

どうやら、撮影の際に念のためにと警備員と男衛を雇っていたらしく、彼女たちに他のお客の整理を担当してもらえるとのこと。

 

また、撮影が終わった後も引き続き自分たちに蔓延る……遠巻きに見ている客が近づかないように見張ってくれるように交渉し同意。警備員も男衛も違う会社の人たちなのではあるが、元からどちらも男性役者のために用意された人員なので、結果論になるが契約内容自体に間違いはなく、話はスムーズに進んだとのことで、それならお言葉に甘えよう。

 

「あの……大丈夫なんですか?」

「志亮様が望むなら、私は望みどおりにするだけです。それにこちらにとっても、むしろ僥倖な展開です。やはり四人ではどうしても限界でしたし、彼女の会社が雇った警備員や同僚の力が借りられば安全は強固になります」

「いえ、それも大事ですが……その……志亮様って電波に流していい存在なんですか?」

「志亮様が望むなら、私は望み通りするだけです」

「まあ、顔の上半分は隠すみたいだし、大丈夫なんかじゃないかな? ……ごめん、普通にヤバイと思う」

 

自分が電波に流れることに対して、不安そうにする奈々子さんたち。その反対にまほじん社長はなにやら興奮した様子で電話している。会話の内容から正気を疑われているようだ。それはそうだ。なにせ自分のことを創作でもそうはいないほどの、常軌を逸した存在として語るのだ。

 

そもそも、通常営業している遊園地に男性がいたという情報自体が、あちらにとってはかなり眉唾ものだったらしく、まほじん社長が追い詰められるあまり幻覚を患ったと思われていたらしい。絶対に居ると言う社長と、嘘だという部下一同。ムキになったのか、それとも経営者としての深い知恵か気がつけば自分の存在の有無で賭け事が発生していた。

 

「言ったなぁてめぇら! だったら言葉どおり本当にいたら、冬の即売会に趣味で出している同人PVてめぇら総出で手伝って貰うからな!」

 

――まあ、そのくらいなら可愛い物かと、その時の自分は無知故に気軽に考えていた。少し未来の話をすれば『まほー✩さ~くる』一同は地獄を見ることになる。

 

さて、そんなこんなでスポーツ施設を出た後、まほじん社長に連れられて撮影場所である、遊園地の中央最奥、ワグルマランドの象徴というべき城の中へと移動した。

 

ただのセットと言えばそれまでだが、お伽噺の舞台に入り込んだような絢爛豪華な城内。遊園地で男性と出会うというのは、現実味から遠ざかりまくっているから、それならいっそ異世界感を強調しようと言うことで、城を選んだらしい。因みにデートでも待ち合わせもでもなく、出会い止まりというところでこの世界の男女の関係性が垣間見れる。

 

「…………汚いって罵倒されながらモップでゴシゴシされる隅の苔になりたい」

 

そんな城内にて、自分でも知っているほどのテレビで見たことのある大人気アイドルがとってもネガティブな事を口にして膝を抱えていた。

 

――どうやら、世界が変わってもアイドルとは大変な職業であることは変わりないらしい。

 

 

 




『まほー✩さ~くる』
会社名とかはともかく、大手芸能事務所にも大手テーマーパークにも縁があるぐらいの広告代理店です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。