男が少ない世界で人生を謳歌するために必要なのは? そう紳士道!!   作:庫磨鳥

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お気に入り、感想、評価ありがとうございます。

恐らく連続投稿は、今回だけになります。別作品との折り合いを考えながら書いていこうともうのでよろしくお願いします。


入学式から寿司に至るまで

紳士とは社会的に高い地位を持つ男性、あるいは幾多の難事件を解決する頭脳や一輪の薔薇で状況を覆す射撃能力を持ち、時には手品で華麗にお宝を盗みながら格闘術や特殊な呼吸法を極めて吸血鬼と戦いながらも、礼儀やマナー、そして女性の扱いに長けている男性のことを指す。

 

この男が少ない世界で自由に生きるには、そんな紳士となる以外に道はないと、女性校長の話を一切聞いていないであろう態度の悪い同年代の男子共に囲まれ、その後ろに己の母親のを含めて随分とシャッター音が喧しい入学式の中で決意を新たに表明する。

 

今日、自分が入学したのは、この国、『紅月(あかつき)』の名前を付けることを許された『紅月男子小学校』である。名前の通り男子小学生のみが入学を許されている、酷くつまらない学校である。とは言うものの入学式を行ったバカにでかいと思った体育館も、式が終わった後に入った校舎内のヤケに金が掛かっている学校の整備の数々が国内の男子小学校の中では一番下と聞いて度肝抜かれた。

 

――いや母よ。驚いたのは豪華さであって、貧しいからって意味ではないぞ?

 

どうにも後で調べれば、男子小学校は公立で無ければ行けないという法律があり、そのため費用は全て国が負担してくれるらしい。元々、国は男子が通う学校を作る際にはできるかぎり平等になるようにしたらしいのだが、金持ちの親共が自分の息子が通う小学校に援助の雨あられを振るったことを起因に学校に格差というものが生まれてしまったようで、自分の息子により良い学校に通って貰いたい親たちによるネットワークを切っ掛けに非公式ながら学校序列というものが出来上がってしまったらしい。

 

母親は勝手ながら自分をなるべく上のランクの小学校に通わせたかったようだが、上へ行けば行くほど倍率が高くなるのは当たり前であり、在籍可能人数が溢れてしまった場合の選考方法がなんと試験とかではなく、親の年収や貢献度とのことだ。男性を故意ではないとはいえ値踏みすることは失礼と当たるため、その母親を選考基準にしているとのこと、であれば息子たちにとっても自分ではなく親の所為に出来るとあって、学校側に来るクレームを最小限にできるとか。

 

随分と世知辛い事情である。国の名前を冠している小学校が最下位なだけあって特に世知辛く思える。

 

「ううっ。情けないお母さんでごめんねっ!」

 

息子を産んだことで国からの援助して貰えるようになったとはいえ、一般OL並の収入では一個ランク上の学校にすら書類選考の時点で落とされてしまったらしく、そう言って母は静かに涙を流していた。言葉の通り、息子に不憫な思いをさせるのは稼ぎが悪く情けない自分の所為だと思い込んでいるようだった。

 

「――ふざけるな!」

 

そんな母に、自分は大声で怒鳴った。驚愕のあまり目ん玉を丸くしている母親。ちなみに現在、入学式を終えた同級生と、その保護者と先生の50人ほどで、一年間世話になるクラスへ移動していた所である。だが理性が完全にとんだ自分は、そんなことお構いなしに言葉を続ける。

 

「母よ。貴女は大変素晴らしい母だ。朝から夕方、時には深夜まで懸命に働いているのに、文句ひとつも言わず、飯や風呂を準備してくれて、どうしても無理な時は精一杯自分たちに謝ってくれる。さらには懐に対する不安を一切表に出さず姉を大学まで通わせた偉業を家族である自分はとても尊敬している。だから自分の母親であることを誇りに思え! 決して貴女は情けない母ではない!!」

 

二度目の人生で初めて声を荒げて本音を伝えた。姉が自分が産まれたことで金銭的余裕が生まれるまでは、バイト代を全部、家に入れていたと二人の話を聞いた。そんな優しくて自分とは比べものにならないほど頭のいい姉という存在が、母がどれだけ立派な母親をしていたかの証明になってくれていた。

 

そんな思いの丈を叫んだ結果、母はさらに泣いた。解せぬ。私を抱きしめて赤ん坊のようにわんわんと大泣き始める。百人以上いる人の前で、自分はすべてを諦めて仕方ないなと背中をさすってやった。

 

――おい、なぜ他の親も自分を見て天使と呼ぶんだ? 将来は最高の紳士になる予定だから勘弁してほしいのだが?

 

それから数分後、泣き止んだ母親と一緒に世話になる教室へと向かい、他の生徒保護者に遅れて中へと入る。教室内を見て驚いた。まず地球の教室と比べて、少なくとも二倍以上は広い。今年度入学した生徒は自分を含めて20人であるため隣同士の間隔がかなり開いている。教室机というものは存在せず、わざわざ小学生サイズに合わせた片袖机がひとり一つ与えられており、その上にはPCが置かれていた。

 

これがこの国の教育スタイル……ではないのだろう。漫画やテレビを見る限り、恐らくは女子の学校であれば自分が想像した教室風景が一致するはずだ。つまりこの教室は男子のみに与えられる特別なのだ。

 

保護者スペースである後ろ端に向かう母を見送ったあと、余っていた一番前の席に座る……なんだこの椅子。ふわふっわ過ぎて永遠に座ってられるぞ!?

 

入学式から自分たちを引率した老齢の先生と入れ替わるようにウサギを連想させる白長い髪の若く、合法ロリとまでは行かないものの小柄で可愛い先生が教室に入ってきて教壇に立った。  

 

「は、初めまして、今日から一年クラスを担任をさせて頂く、白雪 花音(しらゆき かのん)です。教師になったばかりで色々と分からないことがたくさんあると思いますが、その男子の皆様には充実した学校生活を送れるように頑張らせて頂きます……」

 

間近で可愛い先生を見られるとあって一番前の席が残っていた幸運を噛みしめていたら、やたら腰が低い自己紹介が始まった。

 

生徒たちをまるで権力者と扱う姿勢に、自分いがい誰も違和感の“い”すら持たず、むしろ若い女教師をあてがうなんて、この学校は何を考えているんだとほぼ反対側であるはずの自分の耳にまで聞こえる声量で不満を口にする奥方様がまぁ多いこと。蛙の子は蛙だと言わんばかりに、その親の子であろう数人を除いたクラスメイトたちも、己の処遇に不満を持ってふんぞり返っている始末である。

 

これは酷い。なんとも愚鈍な連中による無様な光景だろうか、息子を大事に思う親心と若気の至りによる帳消しを図っても全然足りないほどである。事実、白雪先生は萎縮してしまい顔を下げてしまっている。垂れた前髪の隙間からみえる儚い表情は確かに可愛いが、救いがなさすぎる。

 

であれば、紳士を目指す男子として、ここは精神的にも、そして物理的にも立ち上がなければなるまい。

 

「ふえっ!? あ、あなたは先ほどの天使様!」

 

うむ、驚く仕草も愛嬌があって大変癒やされる。あと天使と言うな。というか見ていたのか……。わざとらしく咳払いをして、姿勢を真っ直ぐに右手の平を左胸に置いた。いかにもな礼儀が正しい紳士的ポーズが完成したところで口を開いた。

 

「――神詩志亮と言う。趣味は今のところは読書。将来の夢は紳士を極めることだ。よろしく頼む」

「えっと、“シンシ”……ですか? 先生はその“シンシ”というのは分かりませんが、なにか夢のために協力できることがあれば先生を遠慮無く頼ってくださいね」

 

むっ、やはりこの世界では紳士という言葉そのものが無いのか、もしかしたら母が知らないだけかと思ったが、これは確定と思っても相違ないだろう。しかし白雪先生は教師の鑑らしい。正直に知らないことを口にしながらも否定はせず、生徒の夢のためならば協力は惜しまないと断言してくれた。であれば紳士を目指すものとしてリップサービスのひとつでも送ろう。それで少しでも気持ちが晴れれば幸いである。

 

「ふむ、白雪花音先生。名前の通り純白の雪花のように素敵な方のようだ」

 

言ってから気付いたが『音』が抜けてしまっていたな。反省である。さて、失敗してしまった以上笑われても仕方ないが感想は如何なものか? あ、そういえば笑顔を浮かべるのを忘れてしまった。後出しでも大丈夫だろうか? 瞳を合わさる直前ニコっと笑みを浮かべてみる。

 

「……きゅ~」

 

美白顔を真っ赤にして倒れた。ふむ……緊張の糸が切れたということにしておこう、さて、母よ呆けてないで保健室に運ぶのを手伝ってくれ。小柄な人とはいえ流石に子供の身では難しい。

 

さて、入学式とあって授業はなく午前中で解散となり、母と共に帰路につく。せめて白雪先生が起きるまで待とうとしたのだが、起きて目の前に自分が居たとあってはトドメになるからと言う母の助言に従い止めておいた。どうせ明日になれば会えるのだ。その時に改めて謝罪のひと言を添えた方がいいだろう。

 

「志亮、先生にしたみたいなことあんまり女の人にしちゃだめだよ? 先生が理性強い人で良かったけど、独身の女なんて野獣よ。ちょっとでも油断して近づけば志亮のこと食べようとしちゃうんだからね?」

 

運転しながら注意を促す母の言葉に、そんな大袈裟なとは思わない。なにせニュースで聞く限り、この世界の女性は袖が振り合ったほどの理由で性的犯行に及んでいるのだ。それに実物が目で見える範囲に居るのだ疑う余地もない。

 

車の外を見やる。隣に車内で女が二人自分のことをガン見している。その顔は欲情に染まりきっていた。反対の歩道側も同じような顔をした女性で溢れかえっている。ちなみに登校時もそんな感じであり、確か男性の盗撮は重罰が課せられるらしいのでスマホのカメラを向けられていないだけましといった具合である。

 

外の世界は確かに危険で母が心配するはずだと納得する。ふと、興味本位で歩道側の窓を少しだけ開ける。

 

「やだ! 天使みたいに可愛いショタがいる!! ペロペロしたい!!」

「え!? どこどこ!? 美少年どこ!? お姉さんの瞳の中に閉じ込めさせて!!」

「あああああああ、脳フォトが埋まり尽くすうううううう!!」

 

静かに窓を閉じる。…………紳士とは“人の女性”に優しくするものである。うむ自分のことながら器量が狭い気もするが、この世界ではこれぐらいの考えの方がいい塩梅だろう。

 

しかし、パッと見た感じバイオ的な災害が起きたと言われても信じてしまうほどである。であればせめてゾンビに対抗出来るほどの自衛手段をなにか考えておいたほうが良いだろう。頭の中は“アレ”とはいえ女性の類いであることは変わりない。なにか身体を傷つけないながらも無力化できる手段があればいいが。

 

「あ、夕食なんだけど、家にいるお姉ちゃんを拾ったら、そのままお祝いも兼ねて外食いくよー」

 

……寿司という単語は日本生まれ日本没の『紅月』生まれとなった自分に大層効き目があるらしく、自衛の手段について捻っていた頭が寿司で埋め尽くされてしまった。ああ、もしも神様というものがこの世界にいるのならば、寿司があることを感謝しよう。とてもとても楽しみである。

 

――母よ。息子は寿司が回転しているのを見たいので店を変えてはくれないだろうか? 姉も給料袋を出すな……自分は玉子とカッパ巻きが大好物だ!

 




そういえば一人称書くのもの凄く久しぶりですね。
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