男が少ない世界で人生を謳歌するために必要なのは? そう紳士道!!   作:庫磨鳥

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お気に入り、ありがとうございます。

ノリと勢いのみで書いているので楽しんで頂けたら幸いです。

※『男衛』の給料に関してちょっとだけ変更しました。


寿司食べてから護衛ができるまで

寿司屋では結局母と姉の遠慮するな攻撃によって理性の壁は半壊。折衷案として海鮮巻きを丸ごと一本ご馳走になった。イカやマグロだけではなく、高級なウニやいくらも惜しみなく巻かれた寿司は大変美味であり、これなら単体で頼むよりも安くすむという自分の予想は正しく、子供の胃を満足させるには充分だった。

 

それでも一本3000紅月圓したのだからやはり寿司というものは贅沢品である。母には改めて感謝しなければならないな……なぜか祝えなかったからと、後日あらためて姉に一緒に出かける約束をすることになったが、まあ、そのときは適当なハンバーガー屋にでも行けばいいだろう。普通に食べたいし。

 

この世界の暦は地球と全く一緒であり、入学式があったのは金曜日に当たる日となる。つまり、いざ小学校生活の始まりかと思えば、二連休が挟まれており、少し出鼻を挫かれた気がするが国が定めた休みなら仕方が無い。むしろ自衛手段を考える時間が出来たとポジティブに考えよう。

 

さて、であればまずは母に相談しようか、それで良い案が浮かばなかったら、いい機会だ。姉に頼んでパソコンを使わせてもらおう。授業でも使うようだから何時までも苦手意識を持っていては不味いだろうしな。

 

「母よ。少し相談があるのだが。今後の学校生活においてやはり不安が多くてな。身の安全のために自衛の手段を得ようと思うのだが、なにか心当たりはないだろうか?」

「あれ? 言ってなかったっけ? 今日来る予定なんだけど……?」

 

なんと母は事前に自衛手段を用意してくれていたらしい。伝えるのを忘れていたと謝罪されるも、むしろ感謝しかないと礼を返す。

 

ただ不安があれば、いったい何を買ったのだろうか? 殺傷可能な武器であった場合は申し訳ないが返品願い。改めて自分で考えると言おう。警棒ぐらいであればいいが。

 

「――お待たせしまい申し訳ありません! 『アカスズメ男子護衛会社』所属の『緒口 奈々子(いとぐち ななこ)』です! これから一年間、契約に基づき神詩家の大事なご子息様を全身全霊、命を投げ打ってでも守ります。どうかよろしくお願いします!」

 

――この世界は容易く自分の想像を超えてくる。インターホンが押されたことで、てっきり荷物が届いたと、母と共に玄関を開ければ、そこには黒生地に赤いラインが入った分厚いパーカーを着る首ほどに整えられた黒髪の女性が立っており、自分と一瞬目が合ったかと思えば緊張しているのが分かるほどの震え声で挨拶してきた。

 

「えっと、随分と若いけど……」

「はい! 確かに専門学校を卒業したばかりですが、在籍中には護衛部門ではトップランカー賞を二年連続獲得しています! まだまだ未熟なのは確かですが護衛という面に関してはお任せください!」

「というか一人なの? 男衛って二人一組が基本って聞いたけど……」

「はい、それは私が『単独護衛』の特別資格にて合格しているからです。こちらが許可賞とIDナンバーとなっています。気になるようであれば『男子護衛組合』にてご連絡していただき確認のほうをよろしくお願いします!」

 

――護衛……護衛? と母を二度見するがよほど真剣なのか息子の視線に気付かず話を進める。まるで上官に応対する兵士みたいな話し方をする緒口さん。背筋をピンと伸ばし手を後ろに回して組んでいる様子から本当に軍隊の出身かも知れない。いや、どうにも会話から察するに彼女は、男子専門の護衛業者なのだろう。

 

興味のないことはとことん忘れっぽい脳みそをフル稼働して思い出したのはテレビのワイドショー。男子を護衛する専門の女性たちが居ると確かに言っていた。通称は『男衛』と、かなりそのまんまで、二年間の専門学校にて地獄のような授業とノルマをすべてこなし、そして国家試験に合格したもののみが成れる、この世界の女性誰もが憧れる職業。

 

この世界の女性の大半は男子を何度か見たぐらいで人生を終えることが多く。接点を持つというだけでも中々に難易度が高い。特に精子を保存する技術が発展してきた現代では、男女の接触頻度は社会的に問題になるほど年々少なくなっているらしい。そんな中で『男衛』というのは合法的に、常に男子の傍に居られる数少ない職業、つまり男子と深い関係になれるチャンスが多いらしい。そのため専門学校の倍率はどんな大学よりも高く、無事に卒業できたとしても男衛に就職できるのは、さらに一握りだと言う。

 

それを考えれば、まだ十代後半になったばかりにしか見えない緒口さんは男子を個人で護衛する特別資格を獲得しているという太鼓判を押されていることもあって、経験量は不明だがエリート中のエリートと考えても間違っていないだろう。

 

さて母よ、まさかこの護衛の方が自衛手段と言うのではあるまいな?

 

「え? そうだよ」

 

当然と言わんばかりに答える母に思わず頭を抱える。確かに母は仕事、姉も大学で忙しく毎日送り迎えをするのは難しく、あの男に飢えたゾンビの群れを見る限り一人で登下校するのは危険極まりないだろう。なので護衛を傍に置くというのは、そう過保護ではない発想というのは納得できる。

 

それを踏まえても自衛手段が道具や技術ではなく、人というのは中々に衝撃的である。

 

「神詩志亮様! 至らないことが多くある身ですがまずはお試しでもいいので私に護衛を努めさせてください! お願いします!!」

「どうする? 彼女が嫌だったらチェンジを頼むことも出来るよ?」

 

どうやら悩んでいる素振りを悪い方向へと勘違いされたらしく、緒口さんは懇願するように頭を下げて、自分を選んでくださいと手を出してきた。それに母がどうするかを問うてくる。

 

はっきり言って可愛い女の子が一年も傍に居てくれるというのならば、むしろ自分が頭を擦りつけてでもお願いしたいのだが、外見だけで選ぶというのは紳士が欠けているのではと理性を引き留めて、幾つか質問をすることにした。

 

「質問したいのだが、自分以外に護衛を受けたことは?」

「はい! 先輩の休暇交代要員として何度か、日数にすると13日間となります」

「なるほど。では、これからよろしくお願いする」

「はい! …………はい!? ……はい、はい! よろしくお願いします!!」

 

咄嗟となると聞きたいことがこれといって思いつかず、ひとつ聞いたからもう充分だろうと答えを出した。緒口さんは他にも質問されることを予想していたのか自分の即決に驚きの声を上げたあと、次第に選ばれたことにたいする嬉しさから来るのか、隠しきれないほどの柔らかな表情になった。ギリギリの所で表情筋を固めて笑うのを我慢しているのはプロゆえか、いずれちゃんと笑っている顔を見たいものだ。

 

「改めて自己紹介を。神詩志亮(かみうこころ)という紳士の道を究めんとする今はしがない男子だ。とりあえず一年間よろしく頼む」

「は、はい。緒口奈々子です……えっと」

 

恐らく紳士という単語に疑問を抱きながらも、名前を返してくれた緒口さんだが自分の差し出した手に戸惑い口が止まる。先に手を差し出してきたのは貴女の方だろうにと自分は仕方ないという面を醸し出して、緒口さんの下げていた手を掴んだ。

 

「よろしいか?」

「は、はい!?」

「手を触れる許可に感謝を」

 

驚いただけだとは分かっているが、いけしゃあしゃあと許可を貰ったという体で手袋を外す。その手には道具痕がくっきりと残っており、握れば訓練しているためかその手は母と姉に比べて固かった。緒口さんの手は前世から共にこの世界へとやってきた性癖に刺さるもので、ほぼ無意識的に口が動いてしまった。

 

「自分を守ってくれる決意が表れた美しい手の平だ。貴女のような人に守られる人生はきっと幸福なものとなるだろう」

 

地球ではキザったらしくて気持ち悪いと評判最悪であったが、白雪先生の反応からしてこっちではそれなりに好感触だとは思う。少し実験的な意味でも思った事を紳士風に変えて伝えてみたのだが、さて反応やいかに。

 

緒口さんは頬を真っ赤にして固まっていた。今更この話し方を矯正できるほど器用では無いので、少なくとも反応がドン引きではないことに安堵する。

 

「う……あ……は、はい! ありがとうございます!! ではまた平日の朝七時に迎え来ますのでよろしくお願いします、はい!!」

 

そういって緒口さんは逃げるように出て行った……母よ、そんなまたやったなコイツという目で見ないでくれ。気絶してないので、まだ許容範囲だと思うのだが?

 

ともあれ。これから学校への行き帰り緒口さんと一緒となるみたいだ。できればお近づきになりたいものだ。護衛の邪魔にならないぐらいで色々とやっていこうと思う。

 

 

+++

 

「……う、うう。失敗した失敗したぁ!」

 

会社から借り受けている車の中で緒口は頭を抱えていた。逃げ出すように出て行くつもりは無かった。嫌な女と思われてないだろうか? 仕事が出来ない女だと思われてないだろうかと不安が募る。

 

「こ、これが……男を知るってことなの?」

 

緒口は男性を前にしても動じない自信があった。緒口はある種『男衛』として天才的な才能を持っていた。それは男性に対して心が靡きにくいこと。

 

なにせ男子学校の教師試験にも実装されている“男性を目の前にしたさいの理性力”を測るテストにて二〇年ぶりとされるS判定をとっていたためだった。その内容は最難関とされている、音声、匂いをできるだけ男性の肉体に似せた抱き枕が用意された箱にて最大10分間理性を保つというもので、誰もが1分、長くて3分も耐えられない中で、緒口は試験官が確認を怠ったために時間制限を遙かに超えた14分20秒も平然と居続けた。その偉業に他の女性たちから『無反応(ノーライフ)』という異名を付けられていた。

 

子供の時からそうで、男性だからといって同年代のようにテンションを上げられず無礼な態度に不快感すら覚えていた。そのため学校はおろか家族にまで白い目で見られるようになった。そんな生活に耐えかねた緒口は『男衛』になれば、こんな自分でも反応できる男性に会えるかもしれないと思い、親に頼み込み中学校を中退、男衛専門学校に入学。16歳にて無事卒業を果たして四大男衛会社と呼ばれる『アカスズメ』に就職を果たした。

 

『男衛』という職業は新人にはとても厳しい環境だった。なにせ護衛する対象自体が少なく、『男衛』の大半が男性に近づきたいがためにこの職を選んだようなものだ。競争率はかなり高く、ライバルとなるのは後輩も一緒で、同じ企業に属する仲間であっても結構過激な蹴落としあいが発生してる。三年手持ち無沙汰が当たり前なんて言われるほど新人が『男衛』としてちゃんとした仕事にありつけることは滅多にない。 

 

「神詩家って本当にEランクなの? 信じられない……」

 

顧客は男衛を契約する際に金額を設定できる。その料金と支払い方で企業内でランク付けが行われており、一年契約の24回払いにて設定金額の最安値による契約を希望してきた神詩家は最低であるEランクであった。男性は確かに貴重で尊いものだが企業としては金払いの期待できない顧客はなんにせよ敬遠されるもので、さらに『男衛』の給料は高校生のバイト並に安い基本給に加えて契約金の10%であるため、下手に受けてしまうと護衛中に破産してしまう可能性も出てくる。そしてケチな家の男性は理性試験を通っている『男衛』から見れば例え男であってもちょっと……と人間失格な者が多く、適当な理由を付けて断るのが定番であった。

 

そんなEランクの依頼を自己申請で受けたのが緒口だった。彼女が受けた理由は自分が『男衛』になったのは、ガチの不能であるのか試すためであり、とにかく男性に会いたかったというのがある。そして相手と己の反応次第ではきっぱりと退職届を出して、ひっそりと社会の隅で静かに暮らそうという破れかぶれもあった。

 

しかし、蓋を開けてみれば出てきたのはSSRランクでも居るか疑わしい男の子。大人顔負けの凜々しい目つきが頭から離れない。視線を合わせた瞬間、生まれてこのかた体験したことのない電撃が走った感覚、そして治まることのない痒みが体を襲った。

 

それを我慢しながら、神詩母と話し合いをしていると男の子……神詩志亮は頭を抱えて悩み出した。それを見た緒口は断れるかもという恐怖にかられて思わず自分の方から懇願する。もうこの時点で緒口は志亮から離れたくないと必死だった。

 

だから、よろしく頼むと言われたとき緒口は発狂しそうなほど喜んでいた。そして最後、手袋を外されて訓練のしすぎで痕だらけとなった自分の手を握り、口元に寄せた志亮の表情を鮮明に思い出せる。

 

――自分を守ってくれる決意が表れた美しい手の平だ。貴女のような人に守られる人生はきっと幸福なものとなるだろう。

 

「――うっ」

 

子供にしては低い声で放たれた、どんな薬よりも脳を蕩かしそうな言葉を頭の中で何度も何度もリピートする。自分の存在を肯定してくれた天使のような男の子。

 

「神詩志亮……」

 

自分の半分以下の男の子の艶めかしい笑顔を思い出して、ついに痒みを我慢できなくなった緒口は会社に直帰の連絡をして、そのまま自宅へと帰った。

 

――そしてある程度痒みが抑えられたあと、平日から始まる刺激的になるであろう日々に頭を抱えることになるが、とりあえずは会社の人間には神詩志亮のことを絶対秘密にすると決意した。




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