男が少ない世界で人生を謳歌するために必要なのは? そう紳士道!!   作:庫磨鳥

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護衛ができてから学校に登校するまで

緒口(いとぐち)さんが挨拶に来てから二日経過した。平日のはじまりである。前世を含めてここまで楽しみな休み明けはあっただろうか? 新しい生活に期待が膨らむばかりで気分はまさに有頂天だ。

 

弾む気持ちのまま顔を洗い歯を磨き、入学式でも着用した紅月男子小学校、略して月男子(つきだんご)……いまいちか、紅校(あかこう)の制服を着て朝食を摂る。献立は目玉焼き、ハム、チーズが乗った焼いたトーストをかぶりつき牛乳を飲む。美味い。

 

紅校の制服は腰ポケット部分に真ん丸模様が刺繍されている全体的に黒めのブレザー。デザイン元がこの紅月国の国旗と考えると国を背負っているようで、中々に重い意味を持ってそうではあるが、格好いいのでなにも問題はない。特に黒が良い。紳士を目指す自分にぴったりな制服である。

 

そういえばこの世界の男物の服は、できるだけ素肌を隠すことを目的に開発されており、基本的に男性服専門店に行けば厚着しかない。夏用でも長袖であり薄い生地を使っているとはいえ、中々に暑苦しい。この世の男性は夏場はどうやって過ごしているのだと聞けば、基本は冷房の聞いた部屋から出ることはないと言う。今のところ自分もそうなる未来しか見えない。

 

「志亮、用意はできた? 忘れ物はない?」

 

問題ないとスーツを着て化粧を施した仕事姿の母に答える。といっても持っていくものはハンカチぐらいである。この世界にはランドセルはあるものの男子が背負うことは無い。理由は下手に私物を歩いて外に出ると、自分で使うにしろ売るにしろ盗むやつが多いからだ。なので教材などを家に持ち込むことはないためランドセルを使う意味がない。

 

是非ともワインレッド色のランドセルと共に六年間をすごそうと思っていただけに非情に残念である。

 

そんな風にセンチになっていると、インターホンが鳴った。玄関カメラで外の様子を見ると、今日から自分の護衛を務めてくれる『男衛』の緒口さんが立っていた。背筋を伸ばして手を後ろにやって組む姿は、もう完全に軍人のそれである。

 

「おはよう」

「……っ! は、はい! おはようございます!」

 

うむ、一瞬だったが緒口さんのふやける顔を見ることが出来た。常にキリッとしている様も性癖であるが、そんな女の人の緩んだ表情も大好物である。挨拶は大事、これから毎日欠かさずにしよう。

 

「そういえばなんて呼べばいいか決めていなかったな。緒口さんと呼んでも? それとも奈々子さん?」

「えぅ……で、出来れば下の名前でお願いします……あまり名字で呼ばれるのは……あ、自分事ですいません!」

 

緒口さんは名字で呼ばれることはあまり好きでは無いらしい。であるならば自分としても遠慮無く名前を呼べるというものだ。

 

「分かった。今日からよろしく頼む奈々子さん。自分の事は是非とも志亮と呼んでほしい」

「は、はい! では志亮様と!」

 

様付けか、まあ彼女にとって自分は大事な客であることは間違いないし、女性が男を呼び捨てにするのは結構特別なことらしい。すこし面はゆいが下手に呼び捨てを求めたら、緒口さん改め奈々子さんに迷惑しか掛からないだろう。それに正直、高校生ぐらいの女性に様付けで呼ばれるというのは……中々いいものである。

 

「……えへへ」

 

自分の名を呼べることがそんなに良いものなのか奈々子さんは嬉しそうに笑った。恐らく自分ではいまどんな顔になっているのか気付いていないのだろう。年相応に喜ぶ姿は可愛い以外の何者でもなく、自分は調子に乗って白雪先生の意識を飛ばした紳士スマイルを向ける。

 

「ありがとう、これで下の名前で呼び合うもの同士になった。特別な関係とはこういうことを言うのだろう」

 

「……ごふっ! ……さ、さあ危険ですから……早く車にお乗りください」

 

しまったやり過ぎた、あわや膝から崩れ落ちそうになった奈々子さんは、プロ意識がそうさせるのか寸前で耐えて、膝を震えさせながら仕事を真っ当しようとする。流石に今回ばかりは真っ当に反省しなければなるまい。だから母よ。学校行かせないほうがいいかと悩まないでくれ。

 

それから、母と姉に見送られて、奈々子さんが用意してくれた車に乗り学校へと向かう。見た感じの普通車両であるが『アカスズメ男子護衛会社』のロゴと会社のエンブレムであろう可愛らしい赤色のスズメのステッカーが貼られている。窓はマジックミラーと防弾ガラスの二重になっているらしく、ドアにも鉛板が挟まれているといった、まんま要人警護仕様となっている。

 

車内はカーナビや通信機やドライブレコーダー。他にも正体不明のボタンや機械が運転手側に設置されており、男心をくすぐる空間となっている。将来はこんな車に乗りたいものだ。

 

ちなみに自分はいま助手席に座っている。護衛対象は本来後ろに座らせるらしいのだが、何故か助手席に座ってくれと頼み込まれた。シンプルに男子を隣に置きたかったのかと疑ったが、どうにも違うらしく、運転中の奈々子さんは先ほどとはうって変わり真剣な表情となっており、見て分かるほど仕事に集中していた。

 

「そういえば、どうして助手席に座るように?」

 

分からなければ聞けばいいと単純な考えで質問すると、凜々しい顔はそのままで反対方向に視線をそらした。前向いて運転してほしいのだが? やはり邪な理由だったのだろうか? まあ男子を警備するプロとはいえ、やはり役得は欲しいものなのだろうか、であれば学校についたらサービスのひとつでもしてみよう。

 

「えっと……はい。その……後部座席ですとバックミラーに志亮様が映って……目が離せなくなる危険性があったからです……」

 

頬を赤くして恥ずかしくする奈々子さんを見て、自分をこの世界に転生せしめた神に感謝を送る。

 

「奈々子さんは自分の想像以上に可愛いかたなよぐぇ……!?」

「か、かわ……かわっ!? ……って大丈夫ですか!?」

 

この口は自分でも想像している以上に軽いらしい。超絶反応してしまった奈々子さんはハンドル操作を誤ってしまい車が振り子の如く左右に揺れる。流石はプロと言うべきか、奈々子さんはすぐに体勢を立て直し、顔を真っ青にしながら自分の心配をする。

 

――この世界では運転中の女性を無闇に褒めてはならない、極めて反省した次第である。

 

それから学校へと到着するまでの短い時間、落ち込む奈々子さんに謝罪して、気分を変えるために、なにげに気になっていた質問をした。『男衛』という職業があるのには納得したが、どうして『単独護衛』には特別な許可が無ければ行けないのかというものだ。

 

答え、相棒がいないと暴走した時、止められる者が居ないためとのこと。それはもうプロ失格なのではと思うが“未遂”だけなら過去に何度かあったのがこの世界クオリティ。護衛対象を襲ってしまうのは本末転倒。それが最悪にも未遂を通り越してしまったもんなら、会社の信用だけではなく、『男衛』という職業自体が崩壊しかねない大事件と発展してしまう。なので互いを監視しあい歯止めを利かせる意味でも二人~三人で護衛するのが『男衛』の基本なのだそうだ。

 

しかしながら男性の中には、自分を護衛してくれるとはいえ近くに女性がいるのを疎ましく思う勿体ない奴がいるらしく、そんな男性たちの感じるストレスを緩和させるために最低人数である単独での護衛ができる『男衛』というブランドを国ぐるみで作ったようだ。

 

専門学校の合格者が10%、無事卒業して就職できるのがさらにその10%とされている中で、『単独護衛』の合格率は、その中からさらに0.01%とされているらしい。

 

専門学校の受講生は毎年二万人を超えるらしく、つまり一人、違うか二人……二〇人? ……とにかく、ほんの一握りしか試験を合格できないほど難しいとのことだ。

 

奈々子さんはそんな最高難易度の特別資格を持っているとのことだ。エリート中のエリートとは思っていたが、ピラミッドの頂点に居るような『男衛』だったとは本当に驚いた。

 

だからこそ、そんな雲の上のような『男衛』が自分の所に来てくれたのが不思議でならなかった。新人と言えど、普通ならもっと大富豪や社長のご子息とか格が上の仕事を任せられそうなものだが?

 

「いいえ、『男衛』は基本的に従業員の指名形式です。会社が請け負ってランク付けを行った依頼を個人の裁量によって、その仕事に就くのか決めます。相手側の指名があれば別ですが基本はそうですね」

「指名制なのか、意外といえば意外だな」

「はい、会社そのものが全て決めてしまうと、トラブルが多かったみたいです。なので個人が判断できる要素を増やすことによって責任を分散させるようにしたと聞いています」

「トラブル?」

「……報酬の事もありますが、『男衛』には理性が強くないとなれない職業です。そのため男性の見方が一般的とは言えず……この仕事は現場が変わる事は年単位先になりますので、その結果、みんなが不幸になることが多かったみたいです」

 

自分が年端もいかない男子だからか、奈々子さんはそれなりに言葉を濁して語った。恐らく昔の体制のままでは奈々子さんのような『男衛』だけではなく、会社や顧客側にも何かと不幸なことが多かったのだろう。

 

「ふむ、となると奈々子さん本人が自分を選んでくれたのか」

「……はい。偶然ですがご指名させて頂きました」

 

それは色々と飲み込んだ発言に聞こえた。彼女は新人らしいし、もしかしたら実績ほしさに適当に選んだのが自分だけだったのかもしれない。しかし、個人的に理由はどうでもよくて、こうやって奈々子さんに会えたことに運命の神がいるというのならば感謝のみを伝えたいもの。

 

奈々子さんは気まずそうな顔で会話を終わらせる。彼女はどこまでも真面目で優しい女性らしい。だから落ち込んで欲しくないなと考えてしまうのは当たり前だろう。

 

「……ご指名まことにありがとうございます。貴女に守られることにこの神詩志亮、人生最大の喜びを感じているといっても過言では――」

 

――先ほどの反省などを完全に忘れる馬鹿の所為で、自分は遅刻することとなった。

 

 

 

 

 

 

 




登校初日は少し長く書きたいと思います。
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