男が少ない世界で人生を謳歌するために必要なのは? そう紳士道!! 作:庫磨鳥
そういえば、前回一年生の授業に苦戦していた主人公ですが。その理由としては算数はそもそも苦手なので論外として、紅月国と日本の文字は似ているようで違っているなど、それ以外にもこの世界風に覚え直しをしないと行けないなど、転生特有の学力チートが逆に作用している状態です。⑨ED。
紅校の食堂は、地球のテレビで見たことがある一般人でも出入りが自由な大学の食堂なみの広さと整備があるようだった。高級レストランを思わせる煌びやかな清潔感と言うべきか学校設備としては明らかに逸脱した雰囲気を醸し出している。
だが、学級崩壊または限界集落。そんな単語が浮かぶほど悲しいまでに食堂は閑散としていた。猟哉と到自、そして自分の三人以外に学生がいないのだ。一年は自分たち以外授業の動画を見終わって帰ってしまったが、上級生は居るものだろうとはかなり浅い考えだったらしい。
久しぶりに学生が食堂に来てくれたと感動する食堂の恐らく母と同じく年齢に比べて遙かに若々しい婦人の方々に切なさを感じながら本日の献立を尋ねると、注文してくれたら何でも作るとのこと、成長期の子供には中々毒になりえそうな甘美な言葉である。
自販機で食券を買ってセルフで出来たものを持って席に座るのではなく、席にはメニューが置かれており、注文すれば持ってきてくれるフルサービス形式だった。これは普通に楽なので正直嬉しかったりする。
そして驚いたのがメニューの豊富さである。子供が好きそうなのを中心にラインナップが多すぎて、これが全部無料と考えると喜びしか湧かないというものだ。困ったことがあるとすれば何を食べるか悩んでしまうことだろう。できればちょっとずつ色んなものを味わいたいものだ。そんなメニューはないものか。
……お子様ランチ? 注文するものが決まったな。
「お子様ランチ……それは“シンシ”に関係するのか?」
「いや、普通に食べたいだけだ」
なにかと紳士の道に繋げたがる猟哉に勘違いを膨らませるのもどうかと思い正直に答えながら、そういえばとつかず離れず適切な距離で護衛してくれている奈々子さんに話しかける。
「奈々子さんは昼食、どうするんだ?」
「はい、自前のシリアルバーがあるので、それを食べたいと思います」
「昼はいつもそうなのか?」
「……はい」
そう返事はしたものの、彼女は隠し事が苦手らしい。視線が明らかに泳いでいる。そういえば『男衛』の給料は契約先が支払う報酬の額によって決まるとか、であるならば神詩家は、男の自分が産まれて国の援助を受けて初めて普通になった家庭なので裕福とは言いづらい。であるならば彼女の財布の厚さが、どれほどのものか想像できてしまう。
「……すまないが、このビーフハンバーガーも追加で頼む」
「こ、志亮様?」
しばらく待ってると、ほぼ同時に全員分の注文した料理が来た。その中のビーフハンバーガーをバケットごと奈々子さんに持っていって差し出す。
「やっぱり頼みすぎたようだ。すまないが食べてくれないか?」
そんな風に言い訳をした直後、これなら片手間に食べられると思って選んだのだが仕事柄、炭水化物の塊であるハンバーガーは食べないかと心配になる。せめてサンドウィッチのほうが良かったかと後悔していると、奈々子さんは恐る恐ると言った風に受け取ってくれた。
まあ、ちとルールに反する行為かもしれないが、これでも一介の男子なのだ。多少の我儘なら許されるだろう。駄目そうなら後日、頭を下げて頼んでみよう。でなければ安い賃金で自分のことを一年間守ってくれる彼女に流石に申し訳が立たないというものだ。
「あ、ありがとうございます!」
金も払ったわけではなく、ほぼズルのような行為で感謝されることに罪悪感と気恥ずさしさが生まれて、早めに食べるようにと言い残して席に戻る。もう少し成長して金を稼げるようになったら彼女の誕生日にお洒落なレストランでも行きたいものだ。
「……なるほど、頼みすぎたのは『男衛』のためか、それも“シンシ”に関係することか?」
「……自分の家はそれほど裕福ではなくてな。だから別の形で報いたいだけだ」
なんだか自分の行い全て紳士に繋げようとする猟哉。注文したのは米と味噌汁と漬物多数のお新香セット。美味そうだが渋い。
「つーかよ。結局“シンシ”ってなんだ?」
ステーキを口いっぱいに頬張りながら聞いてくる到自。身体が大きいとやはりたくさん食べないといけないのか、とにかく肉がでかい。
そういえば紳士が明確にどういったものか説明した無かったと思い当たり、自分の紳士像を二人に伝える。聞き終わった二人の感想は概ね似たようなものだった。
「なんだその完璧超人」
「不可能とまでは言わないが、非現実の存在にしか聞こえないな」
「もちろん、これらは紳士と呼ばれる男性たちの特徴をまとめただけに過ぎない。紳士とは常に礼儀を忘れず優雅に華麗に強い意志や目標を持ち、そのための努力を決して怠らず。そして異性の前に立ちその背中で魅了し続ける男性のことを言うのだ」
たぶん。
「……女性たちの最後尾で玉座に座り、自分では何もせず全て他人任せ。それが男の理想の生きかただと教えられたけど、紳士の考えはまるで正反対のようだ」
「へっ、女どもの前に立つ生き方か、面白そうじゃねぇか!」
好感触と言えばいいのか静動の違いはあれど、紳士というものを知った二人はとても楽しそうだ。その様子に自分もまた嬉しく感じる。思えば前世も合わせてこんな風に同世代の友達とご飯を食べるというのは久しぶりだったかもしれない。これはいいものだ。
ご飯を食べきった後は自分たちの生い立ちを中心に会話が始まった。まず神詩家の話をすれば、自分の似たようなもんだぜと到自が言う。ただ灯元家は家の中でも危険や男のすることじゃないという理由から到自に殆どなにもさせなかったらしくかなり過保護な印象を受けた。荒っぽい言動はそんな束縛が強い環境の反動かもしれない。猟哉のほうは紅校よりも上の小学校に行ける裕福な家庭らしいのだが、ある事情によってほぼ強制的に入学させられたようだ。事情について深掘りすると反応したのは到自だった。
「そういえば和車って聞いたことあったわ」
「有名なのか?」
「わかんねぇけど。母さんがその名前聞く度に息子を渡すものかって怖い顔するんだよ」
「なに? どういうことだ?」
「……和車家は男子特別保護法によって保護された男子を引き取れる権限を持つ紅月国有数の富豪一族だよ……俺もそんな和車家の養子なんだ」
男子特別保護法とは、国の援助を受けてもなお男子を健全に育てられないと役所が判断した場合、親から親権を剥奪して男子を保護することができる法律だ。和車家はそんな保護された男子を国有数の金持ちだからという理由で養子にできる許可を国から貰っているらしく、なんと猟哉は実の親から引き離されて和車家の養子にさせられた子供だと言う。
「俺は赤ん坊の時から引き取られた血の繋がらない8人兄弟の末弟なんだ」
その話を聞いた自分は心底反吐がでた。何故なら猟哉の言い回しや表情から決して和車家での生活は幸せではないとわかるからだ。特に自分は神詩家が大好きだ。母の腹から二番目に産まれてきたことに何度神に感謝したか覚えていない。そんな家族と他人のエゴによって引き離されるとあっては喜怒哀楽の感情のうち三つが消え失せる事になるだろう。
「ひっでーな。兄弟っていじめがやばいんだろ?」
「まあ……否定はしない」
男としてのプライドか、それとも気を遣ってくれたのか猟哉はそれ以上は黙ってしまった。ぽりぽりと静かにお新香を食べている姿は、どこか達観しており年不相応の賢さも、そういった苦労が積み重なったものかもしれないな。せめて学校では楽しく過ごして欲しいものだ。今度トランプとか無いか先生に聞いてみよう。
それにしても二人が紳士に興味を持ったのは、恐らく家庭の事情から来るのだろう、心のどこかでは奇抜なものに眼を惹かれているだけと思っている部分があったが、二人とも紳士に対するガチ度が高そうだ。……単にこのままだと彼女すらできないぐらいの気持ちが切っ掛けだったことは心に秘めておこう。
昼食がすんだ後は二人とも家に帰るらしく、自分も同意する形で学校初日はこれにて終わることとなる。この世界について知識がより深まり、なによりも友達ができた事が嬉しかった。男子校だと一時は絶望もしたが、ここに来てとよかったと思う。
家族にいい土産話ができそうだ。さて自分も帰るか、奈々子さん車を出してく……るまえにハンバーガーを食べてくれ。一生大事にしなくていい。料理は消え物であるべきだ。
ここから、日数が結構とんだりします。それでは。