男が少ない世界で人生を謳歌するために必要なのは? そう紳士道!! 作:庫磨鳥
お気に入りめっちゃ増えててやばい(語彙力)、ほんとありがとうございます。
あっちの作品が一息(1/3)ついたのでこっちを更新することにしました。だいたいこんな感じの感覚でやっていこうとおもうのでよろしくお願いします。
自分は行き詰っていた。いくら考えてもこれと言える自衛の方法が思い浮かばなかった。確かに『男衛』である奈々子さんが傍に付いてくれているのは心強い。直接武力を行使する姿はまだ見たことないが、登下校時には日夜繰り広げられている自分をひとめ見ようと群がるゾンビのような女性たちとの心理戦にて勝利し続けていることから、その実力が本物であることが伺える。
だがいつ何時、不測の事態が起きてもおかしくないのだ。そういったもしかしてを考えると自分の身。ひいては家族に心配を掛けず。奈々子さんの職を守る為にも自衛の手段は必要だと強く思う。
事の発端は数日前。学校生活が落ち着いてきたので忘れかけていた自衛手段を持つという目的をはっと思い出したことから始まる。自分で考えても埒が明かないと今度は大学生である賢い姉を頼ることにしたのだが、自衛手段が欲しいと姉に伝えると奈々子さんが不満なのかと誤解されかけてしまい話は弁明から始まってしまうこととなった。
なんとか念には念を入れているだけだと納得させて話を聞くと、賢い姉はシンプル且つ最適解として『男衛』を増やした方がいいと言った。なぜなら、秋の誕生日まで、数えて七つの子でしかない自分が護身術を学び始めたり、防犯グッズを身につけたとしても大の女性相手ではほぼ意味をなさないからだ。
そう姉の理路整然と語られる理由に確かにと納得するしかなかった。守られる側の自分が自衛をしなければならないということは、もはや逃げることすら出来ないほど追い詰められている状況である。
であれば窮地に陥らないことが最大の自衛手段であり、自分の護衛を増やすことが現実的で最善な策であることは間違いないだろう。流石は姉である。
「姉さんの弟として生まれたことを誇りに思うよ」
などと、イケボを意識して低めの声で言ってみれば、姉は昔のように鼻血を垂らして幸せそうな面で気絶してしまう。姉はどうにも男らしい低めの声が好きなので感謝と相談に乗ってくれた恩返しを同時にできるならと短絡な考えでやってしまったと後悔。そして椅子に座りながら気を失った姉を見て、いつもは怠けているばかりの脳みそがここぞと閃いた。
――この声、自衛に使えるのでは?
母に姉。白雪先生に奈々子さんと、この世界の女性に何度か言葉を贈った自分なりの結論であった。事実、彼女たちは思考を停止させたり、腰を砕かせたり、気絶したり、鼻血を出したりしている。耳は最も脳に近いとあってか、その効果は絶大だ。
それに声だけならば身体を傷つけることはなく、距離が多少遠くても届き、囲まれた場合でも全方位に影響を与える事ができる。考えれば考えるだけ自衛の手段としてこれほど最適なものはないと思えるほどであった。とって付けたような事を言えば、紳士としても声を武器にするというのは割とありだろう。格好いい台詞を言い放つと敵が倒れていって、全てが終わった後、ニヒルに笑う自分をイメージすると中々格好いいようにも思えた。
であればと鉄も打たなきゃ剣にはならず。声を武器にするなら声を鍛えないといけない。
白雪先生の担当科目が音楽だったことを思い出し、さらに授業動画を見終わった後は生徒が頼めば、先生の個人授業を受けられると言う。これはもう運命か宿命かが己の声で身を守れと言っているようなものだと、あまりにもわくわくが過ぎて、姉の事を完全に忘れてしまう。
この日は姉の大好物のオムライスを作って手打ちにした。すまんかった。
思いついたら即行動と次の日、白雪先生の個人授業が受けたいと願い出た。すると白雪先生はバグったのかのように数秒ほど停止し、再起動を果たしてすぐに天使の歌に文句を付けられるほどの出来た人間ではありませんのでと、訳の分からぬことを言って断ろうとするので、これは紳士になるために必要なことで先生の力が必要なんだとごり押し、承諾を得ることとなった。
ただ、覚悟が出来ていないので今すぐ授業をするとなると内臓全てが持たないと言うので、数日間の執行猶予をくださいとのことで、焦る必要もないと自分は承諾した……執行猶予?
ともあれ約束の日は訪れて、白雪先生と奈々子さんとの三人で紅校の音楽室へと初めて訪れた。道案内も兼ねて先頭を歩く白雪先生の背中は、なんだか気が重いを通り越して断頭台へと赴く罪人に見えたのはきっと気のせいであろう。そういうことにしておく。
「――中に入りましょうよ奈々子ちゃん!」
「いいえ! 私はあくまでも部外者ですので! それに扉前で待機することは『男衛』として間違っていませんので服を離してください!」
「食堂で当たり前のようにお持ち帰りを頼みだした人が、いまさら何言っているんですか!?」
「……私には志亮様を守らなければいけないと言う死ねない理由があるんですっ!」
「いいんですか? 神詩君と二人きりになっちゃいますよ!? ここ防音だからなにがあっても外からでは分かりませんよ!? というか自分でもどうなるか分からないのでお願いしますので中に居てください!」
「そ、それは……」
音楽室の前でこんなやりとりがあり、教室と同じく外で直立待機しようとしていた奈々子さんであったが、白雪先生の必死の説得に負けて教室内に入ることになった。正直白雪先生なら襲われてもいいのだが、そうしてしまうと白雪先生が社会的に抹殺されかねないので、されるにしても、せめて自立の目処が立ってからのほうがいいだろう。早く大人になりたいものだ。
「これは……すごいな」
音楽室とは銘打っているものの、その中は収録スタジオそのものだった。白雪先生に教えられて初めて名前を知ったコントロール・ルームの本格的な機材の数々に驚き。白雪先生との二人で、その奥にある扉を通り抜けてブースの中に入り再度驚く。奇妙な空間と言えばいいのか無音というだけで、まるで違う世界に変わってしまった感覚に、どこか興奮めいたものが湧き上がる。ふとガラス越しにコントロール・ルームに残った奈々子さんが見えたので、手を振るうと、遠慮がちに顔を赤らめて手を振り返してくれた。
「簡単な機材なら私でも扱えるので、授業をするのには問題無いはずです」
「よろしく頼む」
今日やることは事前に決めており、ちゃんとした声の出し方、つまり基礎の中の基礎をやっていく事になる。先生が長さを調整してくれたマイクスタンドの前に立ち、ヘッドフォンを被る。その後先生はリモコンを操作してコントロール・ルームとは反対の壁に埋められている巨大モニターの電源を入れた。
テレビに写し出されたのは、楽譜に書いてあるような線に設置されている太い横棒をひたすら縦棒が通り過ぎる。言わば前世のカラオケ採点で見たものだった。試しに声を出してみると音程に合わせて別の横棒が現れたので間違いないだろう。
つまり、今回やることはカラオケ採点と同じく元からある横棒……バーに合わせて声を出していくと言うものらしい。なにせ自分がどこまで声を出せるのか才能があるのか分からないため、その確認をするとのことだ。全くもって道理である。
それから五分ほど「あ~」とか「ん~」とか「AH~」「HU~」とか、時折場所が上下するバーに合わせて声を発した。どうにも自分は感情に左右されやすく、気分が昇ってしまうと音程を外してしまいがちになる。ただ白雪先生が言うには、声の出し方が初心者且つ数えて七歳児にしては大人顔負けで安定しているらしくものらしく凄く驚かれた。前世でのカラオケ経験がこんな風に生きるとは、なにが役に立つかは死んだ後も分からないものである。
して、授業が始まって十五分経過したころ自分は途方に暮れていた。白雪先生に限界が訪れたのである。先生はまさに教師の鑑だった。マイクを通した声のみが聞こえるヘッドフォンを当てて自分の声を真剣に確認してくれていたのだ。その結果、彼女は立ったまま安らかな眠りについてしまった。死んではいない。
「知っていました」
白雪先生の様子がおかしいとブースへと入ってきて自分を止めてくれた奈々子さんの第一声である。その顔は赤らんでおり、息も荒かった……急いで来たからだと思いたい。
「……ちょっと聞いただけでこれだけの威力ですか……花音あなたは本当に頑張りました。同じ女性として心の底から尊敬します……」
最近こんなことばかりしているためか彼女も慣れたもので、頼む前に小柄ではあるが大人の白雪先生を軽々とお姫様抱っこして、コントロール・ルームのソファに寝かせた。しかし随分と気持ちよさそうに寝ている。もしかして寝不足だったのだろうか、であれば自分の声が程よい子守歌になってしまったようだな。そういうことにしておこう。じゃないと次の授業がすごく頼みづらい!
「……残酷」
やめてくれ奈々子さん。その二文字は自分に効く。
とにかく声を自衛に使えるということは計らずとも証明できてしまったので、音程合わせを再開することとなった……これが本当の個人授業というやつか。今後どうなるか心配であるが、とりあえずは白雪先生の体調をみながらやっていくしかないだろう。願わくば明日も音楽の授業を受けたいものである。
白雪先生が気絶しやすいのは理性が強い故にうまく感情の放出ができず、すぐに限界値を超えていまいシャットダウンしてしまうイメージ。何言ってるのか作者にもあんまりよく分かっていないけど、多分そんなかんじである。