男が少ない世界で人生を謳歌するために必要なのは? そう紳士道!! 作:庫磨鳥
お気に入りが千件行きました、本当に嬉しいです( ̄▽ ̄)。
あっちの作品と同時投稿をやってみました。天国と地獄同時に書いている気分になりました←。
※予約投稿失敗したので先んじて公開しました。
結局、毎日自分の声を直で聞くとなると負担は大きく、白雪先生の心体が持たないとのことで、火と木曜日の週二日で行われることになった。慣れはじめたら日数は増えるとのことだが無理はしないでと心配したら、優しいと言って気絶仕掛けたので、今年中は無理だと思った。
それ以外の月水金では、音楽室は自由に使っていいとの事なので、事前に白雪先生が考えてくれたメニューにそってボイトレを行う。コントロール・ルームに避難もとい機械操作をしてくれる奈々子さん曰く、極楽と奈落が同時に味わえる空間らしい。そこまでか?
そんな日々が続いてそろそろ春も終わり夏ももうすぐ。同級生はさらに人数が三人減った。ただ転校できたのは一人だけであり、二人は不登校になったとのことだ。白雪先生という素敵な担任がいるというのに全くもって勿体ない話である。
白雪先生は不登校になった生徒を気にしている様子であったが、電話一本或いは自宅訪問なんてしてしまえば、男子を狙う不埒な女扱いを受けるのがこの世界。警察に連行されかねないので心配するだけしかできないというのが、男子校教師の辛い所である。
まあ、紳士にあるまじきであろう黒いところを内心で吐いてしまえば、ちょっと話しかけたら、男に色目使っている痴女と言う暴言を吐くクソガキなんぞ、早めに聖学というなの男の監獄に転校して貰い、真っ当な大人になるまで幽閉されて欲しい所が自分の正直な意見である。
「……そういえばこの学校には行事がないのか」
てっきり春には遠足にでも行くと思ったのが話すら無かったなと白雪先生にそんな質問をした。まあこの世界の男子事情を考えれば、複数の男を連れて外に遠出をするのは普通に危ないかと、ひとりで納得しかけた所に想像以上の事情を聞かされる。
「学校側としては、その月ごとの学校行事を決めてはいるんですが、生徒たちが参加せずに、そのまま転校してしまうので殆ど形骸化しちゃっているみたいです」
紅校は、学級通り越して学校崩壊しているようだ。生徒が全員、居なくなるから学校行事が行えなくなるとは初めて聞いたぞ。という事は春の遠足も同じ理由で忘れ去られていたのかと問えば、そこは年端もいかない男子を外に出すなんてと自分の想像通りだった。
「なぜ、この学校が存続できているか分からんな」
「男子校を廃校にしてしまえば国の評価を下げることになり、ただでさえ男子に関する保護が遅れていると評価されている紅月国にとって大きな外交の弱みになってしまう。それに紅校が潰れてしまえば他の男子校四つは自分たちが最下位にならないようにと過剰な競争を行うだろう。だから他校としても国としても底辺の存在として『紅月男子小学校』は残したいんだと思う」
自分の疑問に猟哉はきちんと答えてくれた。やはり聡明ぐあいが小学生を超えている気がする。授業中の質問も自分では到底理解できぬ難しいことばかりで、白雪先生が言うには中学・高校で教えるようなことばかりと言う。同じ授業をしているのかと気になって授業中のことを尋ねてみれば。最近、動画を見終わった後、パソコンを使って自習をしているらしい。
「なぜそこまで勉学に励む?」
「どんなシンシとなるべきか、それを決めるにしても俺はまだまだ知らないことが多すぎると思った。だからたくさん勉強して色んなことを知ることから始めたんだ」
「……その考えに、心の底から敬服したい」
猟哉はかなり立派だった。立派すぎて逆に申し訳なくなるレベルであり、変に格好付けた“すげぇ”としか言えなかった。なんて自分は小さい人間だろうと猛省するばかりである。ちなみに到自のほうは普通で、日本語で言うところのカタカナを覚えている最中である。
「なあ、今日の昼キャッチボールやろうぜ!」
そんな到自は、年相応に身体を動かして遊びたいと思った自分がなにげに誘った、ゴムボールでのキャッチボールを大変お気に召したらしく、自分のほうから誘ってくるようになった。その頻度、ほぼ毎日である。
「すまないが、今から自分は白雪先生と個人授業だ」
「あ、そっか。じゃあ明日やろうぜ」
「それなら構わないが……そうだな、到自が良かったらだが、違うスポーツをしないか?」
「違うスポーツ!?」
こうやって誘ってくれるのは嬉しいが、遊び盛りの男子なので、こう毎日同じ事だと飽きるばかりである。どうにも到自は野球そのものに興味を持ったという訳では無く、身体を動かす遊びがキャッチボールしか知らないから、そればかりを選んでいるように思えたからの提案だった。その予想は的中だったようで食いつきが凄い。
「本当か!? なにをするんだ!?」
「さて、体育館倉庫に色々あったからな、色んなことが出来ると思うぞ」
到自は玩具を与えられた子供、まあ子供なのは間違いない。到自は楽しみ過ぎて我慢ができず明日なんて言わずに今日行こうぜと言い出したのでやんわりと断る。しまったな。これなら明日遊ぶ直前に言えばよかった。
そもそも男子は小学校に入るまで家の中で過ごすものである。そのため子供の遊びといえばゲームとかであり、身体を動かした遊びというものを殆ど経験しない。到自も類に漏れずそんな生活を送っていたらしい。つまり中学生でも通じそうな巨体は本当に才能によるものだった。
事実、彼はスポーツの才能の塊である。なぜ数十回投げただけであんな綺麗なストレートを投げられるようになるのか、確かに前世で得た投げるコツを教えたが、小学一年生が投げていい玉ではない。途中から倉庫で見つけた子供用ミットグローブをはめ込んでキャッチャー役になり、到自の剛速球を受け止めては返球するのが、自分たちのキャッチボールである。もはや練習な気がする。
「へへ。こうやって色んな事をしていれば、オレもいつかは紳士になれるかな」
到自は今のところ普通に遊んでいるだけのような気がするのが、動けば身体は自ずと鍛えられ、スポーツを通して精神も磨き上げられると考えれば間違ってはいないだろう。であるならば友人として、到自には色んなスポーツを体験して欲しいものである。もしその中から得難いものを見つけられるというのならば、友人としても本望である。
ただ最近考えてしまうことがある。天才的な頭脳を持つ猟哉に天才的な身体能力を持つ到自。まるで物語の主人公のようなハイスペックの二人の友人であることはもの凄く嬉しいのだが不安事があった。
どうにもこの二人、自分のことをもの凄く尊敬している節があるのだ。比べてしまえば一介の男子でしかない自分にである。確かに自分が紳士という概念を教えたことで人生の転換があったのかもしれないが、自分は尊敬されるような人間ではない。いや、尊敬されること自体は嬉しいのだが、二人の期待を裏切りやしないかと心配になるのだ。
だからか最近、紳士らしく振る舞うことにより念入りとなった。言葉使いはもう前世の時からどうにもならんが最近では姿勢、歩き方や動き方、それに食べ方なんかも優雅さを意識している。所詮は前世の知識頼りの独学だ。単なる無礼で言葉使いが偉そうな奴になっていないかと自己嫌悪に陥ることもある。
一介の男子でしかない自分が、果たして数年後、二人の友人として隣に立てているのだろうか。
とまあ、ひとりで悩んでも答えなんて見つかるわけではないので、家族の次に一緒の時間を過ごしているだけあって、自分に慣れてフランクになってきた奈々子さんに少々格好付けた言い回しをした悩みを打ち明けたのだが。
「……え?」
ひと言だけ返され、運転中にも関わらず三度見された。その垣間見えた顔は“信じられない”とハッキリと書かれていた。そこまで?
「あの……し、心配ありません。志亮様は男子の中でも特別の中の特別。SSRです。だから志亮様にはゆっくりと成長をして頂いて貰いたく……はい」
慰めでというかは、もうなんか爆弾のボタンを押さないように慎重に言葉を選んで話す奈々子さん。妙な説得力に自分は難しいこと全部放り投げて納得することしか出来なかった。
――ま、まあ。どうやら自分は充分に二人の友で居られる資格はあるようだな……。ただ、紳士は手品とか推理とかボクシングとか熟練した一芸を持つ者でもあるし、早いうちに何か考えておいた方が良いだろう。
とは言うものの、最近念入りに行っていることと言えば読書かボイトレぐらいで……ボイトレ……声…………なるほど。
「――自分で曲を作って歌ってみるか」
「……志亮様? いまとんでもないこと言いませんでしたか? 志亮様? 気のせいで無ければ大量崩壊兵器を作るみたいなこと言いませんでしたか?……志亮様? 聞いていますか志亮様?」
「明日、白雪先生に相談しないとな」
「……すみません花音。私では止められません。せめて幸福に満たされながら逝く事を願います」
すでに前世の音楽を思い出しながら、どんな歌を作ろうか悩み始めた自分は集中しすぎてしまい、奈々子さんが何か言っているのに全く気がつかなかった。
奈々子さんと白雪先生はお互い志亮のために頑張ろうと誓い合った心の友です。
次は夏休み。