耐えきれなくなった気持ちを怪文書に変えて投擲。
つまるところは元気玉。
みんなー!オラに妄想分けてくれー!
やっぱりいいです。自分だけでもキャパオーバーです。

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page.1 ゴールドシップ

ふと、聞いてみたくなった。

 

「なぁゴールドシップ。」

 

 後ろで無惨にも分解されたボールペンで不思議オブジェクトを作り出している彼女の名前を呼ぶ。以前からのちょっとした疑問だった。こんなふとした拍子に口をついて出てしまう程の。

 

「なんで俺だったんだ?」

 

彼女が不思議そうにこちらを見て言う。

 

「なんでって、何がだよ。ボールペンだけじゃなくて万年筆まで分解したのまだ怒ってんのか?」

 

あのチラチラみえている金属部品は俺の万年筆だったのか、どうりでないと思った。

 

「あぁ、いやそうじゃなくてだな、それはもう良いんだ。他の人にやらなくてよかったと安心してるくらいだ。俺が聞きたいのはなんで俺を君のトレーナーに選んでくれたのかってことだ。」

 

 今やゴールドシップといえば皐月賞で大差をつけて勝利、続く日本ダービー、宝塚記念と過密とも取れるハードスケジュールにもかかわらず勝利を収め、続く菊花賞を控えクラシック三冠を期待されているウマ娘だ。

 なぜそんなにも輝かしい成績を残しているかといえば、単に彼女の才能に依るところが大きいだろう。恵まれた体躯、後ろから追い抜く力強さ、そして何より長距離を走り切る豊富な持久力。そんな才能に溢れた彼女だからこそ自分のような新人ではなくもっとーーー

 

「俺みたいな新人じゃなくてもっと腕の良いトレーナーもいただろう、それなら君はもっと上を目指せたんじゃ無いかなって。」

 

それを聞いた彼女は目を丸くした後大きなため息をついた。

 

「お前アタシの話聞いてなかったのか、初めの頃言っただろ、暇そうな奴がいるからそいつにしたって。辛気臭い顔してたから楽しくしてやろうって思ったんだよ。」

 

目から鱗だった。まさか彼女が見ず知らずの自分のことを考えての行動だったとは。

 

「日頃からアタシに人の話を聞けって言ってるのはアンタだろ。」

 

そんなふうに考えていたなんて思わなかった。けどーー

 

「聞いてなかっただと、ゴルシお前、急に人をドサ袋で拉致しておいて何言ってやがる。」

 

 流石に我慢ならなかった。たしかに担当の娘が見つからず、候補生の娘達の練習を眺める毎日だった。だけどもいきなり視界真っ暗、上下反転、無茶苦茶揺れるの三拍子でこの世に生を受けて最大の恐怖だった。

 

「なんだよ今更、お前だってあの時全く反対しないで頷くだけだっただろ。」

 

「それはお前、急に前が見えるようになったら知らないウマ娘がいて自分のトレーナーになれ、書類はもう書いてある、あとはお前の印だけで完了だ、だなんて言われて冷静に対処できるかよ、こちとらお前の名前聞くので精一杯だったぞ。」

 

そうやっていつものように話していると急に彼女の方から聞いてきた

 

「それで、どうなんだよ」

 

「どうって、何がだ」

 

「だから、今のアンタは退屈してないのか」

 

「そりゃぁ、お前」

 

急で意外な質問に少し言葉を切る。

退屈か、だと そんなもの決まっている。

 

「お前と一緒にいるんだ、退屈なんかしてる暇はあるわけないだろ」

 

本心からの言葉だった。少し恥ずかしくて顔を逸らしてしまうほどに。

 

すると彼女は、

 

「そいつはよかった!」

 

明るい声でそう言いながら、俺の椅子を思いっきり引いた。倒れ込む俺、スタートを切るゴールドシップ。

 

「ゴォォオオルドシップゥゥゥウウウ!」

 

起き上がりながら叫ぶ。

 

「アハハハハ!捕まえられるもんなら捕まえてみな!」

 

そんな彼女の横顔はいつもより少し嬉しそうな顔をしていた、かも。



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