オグリが心配で、スタッフにさせて貰った。(完結) 作:ハヤモ
そんな勝負師を支える語り部の様なベルノライト。
作中では主人公に当てウマにされてしまうが……?
短めかも。
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私とリョウマツさんが出会ったのは、ゲート体験授業の時だった。
遠くの土手から、トレーナーさんに混じって此方を見ていた。
トレセン学園に入学したウマ娘はレースに出る為に、トレーナーからスカウトされなきゃいけない。
チームに所属して、監督してくれて、やっとレースに出走できる。
先生はデビュー戦を見越しているから、手を抜かないようにと言っていた。
言われなくても、きっと みんな は ちゃんと走る。
ここでトレーナーにアピールして、スカウトして貰うんだって。
デビューして、華々しい活躍をするんだって。
だけどオグリちゃんは、トレーナーの事を知らなかった。 仕組みそのものすら。
走る前に教えてあげたけど、興味なさそう。
オグリちゃんは、レースに出たくないの?
なんというか、変わった娘だなって思った。
一先ずゲートに4人ずつ入って、出走を体験する事になる。
オグリちゃんと私、それとオグリちゃんに絡んでいた嫌な娘2人。
スタートして、意気込んでゲートから飛び出すも。
オグリちゃんは突然しゃがみこんだ。
靴紐がほどけて、直し始めてしまった。
私は置いて行く事が出来なくて、一緒に残っちゃった。
タイムよりも、スカウトの目よりも、オグリちゃんが心配だから。
その間にも、2人は私が追い付けない距離まで離れてしまう。
これはレースじゃない。 飽くまで授業。
素直に諦めよう。
そう思い掛けた時。 風が強く吹いた。
ううん。
オグリちゃんが、凄い速度で走ったんだ。
ダートが音を立て、風が切れて、オグリちゃんは あっという間に2人に追いつき前に躍り出て……勝った。
勝っちゃった。
普通は追い付けない距離を。
私も抜かされた2人も、驚いた。
驚き過ぎて、声が詰まった。
ハッとして、トレーナーさんを見る。
マーチさんに 掛かって、オグリちゃんの事は見ていなかった。
見ていたら、マーチさんみたいに人気になったのかも。
でも全員じゃない。
土手の方をもう一度見ると、リョウマツさんと帽子を被ったトレーナーが残っている。
2人はオグリちゃんの事をちゃんと見ていた。
トレーナーの方は、私たちと同じ様に驚いていたけれど。
リョウマツさんは満足気な表情をしている。
まるで最初から分かっていたみたい。
2人はその内、ダートまで降りてきてオグリちゃんにスカウトを始めた。
オグリちゃんは2人を知っているらしく、特にリョウマツさんは幼馴染だと言う。
ああ、それでと納得。
側で走りを見てきたなら、今頃驚かない。
ジョーと名乗ったトレーナーは、オグリの両手を包み込んで熱弁を始めて。
瞬間、リョウマツさんが急に怒ってジョーさんを蹴り飛ばすハプニング。
呆気にとられたけど。
止める前に、自然鎮火したから良かった。
そこで分かった事がある。
リョウマツさんは、オグリちゃんの事が好きなんだなって。
きっと、努力して来たんだ。
振り向いて貰おうと。
少しでも長くいられるようにと。
本人は気付いてない様子だけど……。
その後はなんだかんだと、オグリちゃんと私はジョーさんのチームに所属した。
リョウマツさんも協力してくれるという。
チームというより、オグリちゃんの為なんだろうな。
羨ましいな……。
そんなリョウマツさん。
今は厨房で良く見かける。
料理が上手みたいで、とても美味しい。
オグリちゃんが健啖家だから、その影響かも。
オグリちゃんもリョウマツさんの料理は好きだって。
他のウマ娘も好きみたいで、こぞって競う様に おかわりラッシュが起きた。
私も好きになったよ。
オグリちゃんは毎日食べさせてくれてたのかな。
やっぱり羨ましいな……。
ある時。
オグリちゃんが不機嫌に。
ジョーさんに、カサマツのダートコースの走り方を教えてもらった後だ。
練習が嫌だった様子は無い。
凄い前傾姿勢で、息切れ1つなく走っていたし、ジョーさんの提案にも素直に頷いていた。
先に学園に戻った時、リョウマツさんと何かあったのかな。
そう思って、食堂へ。
リョウマツさんは配膳していた。
先に配膳されたオグリちゃんは、今度は落ち込んでいて、いつもより少ない量を食べている。
やっぱり何かあったんだ。
私は思い切って聞いてみた。
レースをするウマ娘は、メンタルも大切。
チームメイトだけど、それ以前に友達だから。
だけどリョウマツさんは私の名前で遊びながら、知らないと答える。
同時に どうして そうなったのか探るよう、お願いされちゃった。
頼れるのは私しかいないって。
私しかいない……。
他の誰でも無い、私しか。
不思議と、体の内側から温かいモノがコンコンと湧き上がる。
耳の先から尻尾の先までピンッと快感が走って痺れる。
その心地良さのままに、頷いた。
どこまで出来るか分からないけど、私はリョウマツさんのチカラになりたい。
……オグリちゃん。
あまりリョウマツさんの事、困らせちゃダメだよ。
私、もっと好きになっちゃうよ。
そうしたら……きっと、私が勝っちゃうよ?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
オグリちゃんは晩御飯の後、また何処かへ行こうとしたから、引き止めて話を聞いた。
何かあったの? と聞いても、クビをフルフルするだけ。
だから質問を変えた。
「リョウマツさんの事、嫌いになったの?」
目を見開き、驚かれた。
さっきより激しくクビをフルフルした。
嫌いにはなってないと。
ただ他のウマ娘と話しているのを見て、胸がチクチクして、イライラして。
他の娘には優しくするのに、ご飯を制限されて悲しくなって。
今までこんな気持ちにならなかったのに、学園に来てから変だって。
落ち込むオグリちゃんを見て思った。
リョウマツさんとオグリちゃんは両想いだ。
今度は私まで胸がチクチクした。
でも互いに分かってない。
隙だらけ。
そうじゃなかったら、すれ違わない。
リョウマツさんは私に相談した。
オグリちゃんも私に。
後は間に立つ私次第。
2人を仲良くさせるも、離すのも。
…………最低だ。
自覚した。
目の前のオグリちゃんは、何も分かってない顔で、クビを傾げている。
どうしたの、と。
「ううん。 何でもないよ」
───口元が裂けるくらい、笑みが零れた。
どんどん厄介なことに。