オグリが心配で、スタッフにさせて貰った。(完結)   作:ハヤモ

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やっとこさ漫画であったシーンとか。
正史をなぞるだけが、ウマ娘の世界じゃ無い筈だよね(ドロップキック。

デビュー戦
カサマツレース場
キャップが出走するのは14時30分〜の第1レース。 コースはダート(砂)の800m
短距離な上にカーブがきつい。 出遅れたら取り戻すのは難しい。 よってスタートが肝心

ジョー:レースはひとりで走るんじゃない。 他のウマ娘達と駆け引きをするんだ
先頭を走る奴が どこにいるか常に意識しろ
どこでスパートをかければ良いか考えながら走るんだ


第13R「デビュー戦」

デビュー戦。

 

とうとうオグリの晴れ舞台の日がきた。

 

新入生のオグリ達を待ち受けるのは、全てのウマ娘が経験する始まりのレース。

 

ジョーさんが教えてくれたところによると、オグリの出走は14時半からの第1レース。

 

5枠5番。

 

コースはダート(砂)の800m。

 

場所はカサマツレース場。

 

レースを一周もしない距離らしく、その意味では短距離なのかも知れない。

 

だが、ヒトからしたら普通に長く感じる。

 

ウマ娘とヒトのレースは全然違うのだな。

 

でもオグリなら、きっと大丈夫。

 

無事に終わったら、労いの言葉でも掛けてやろう。

 

俺はカサマツレース場へ。

 

約束通り、見に来たぞ。

 

疎らな観客席の、適当な所に座る。

 

目の前には広い楕円のレース場。

 

ううむ……。

 

こういう所に来た事が無いから落ち着かない。

 

いかんいかん。

 

ちゃんとオグリの走りを見なくちゃ。

 

放送やら実況なんやらを聞き流し、やがてパドックに出てきた小規模なバ群に注目した。

 

パドック。

 

レース前のウマ娘達が周回しながら、準備運動をする場所。

 

出走するウマ娘のお披露目の場でもあるらしい。

 

その場において、見知った娘が見受けられた。

 

名前は知らずとも、学園の生徒たちだ。

 

食堂や学内で見かけた事のある娘もいる。

 

その群の中。

 

俺と話してくれた、オグリと同じ芦毛の娘がいた。

 

 

『1枠1番フジマサマーチ』

 

 

実況の声が気持ちに沿う。

 

そう。 マーチ、フジマサマーチだ。

 

誰だウマノマーチって言ったのは。

 

俺だよ。

 

 

『カサマツトレセン学園期待の星と言われています。 堂々の1番人気です』

 

 

そう多くはない客席から歓声が上がる。

 

見やれば……不良3バだった。

 

君達、ファンだったのね。

 

 

「かっこいい……」

 

「がんばれ〜!!」

 

「ガチ勢かよ」

 

 

ヤンキーは、ちょっと違うみたいだが。

 

 

『続きまして5枠5番』

 

 

おっ!

 

オグリが紹介される!

 

俺は改めてパドックを見直した!

 

そこには陽を照り返す灰色の美しいシンデレラが……!

 

 

『オグリキャ……プ』

 

 

もさっ。

 

ボロボロジャージ。

 

ヨレヨレ ゼッケン。

 

陽を受けて沈んで見える……。

 

 

『……えっと。 はい。 洗濯が間に合わなかったのでしょうか』

 

 

思わず顔を両手で覆った。

 

なんでや。

 

洗濯したやん、お前。

 

なんで、そう、すぐボロボロにするの。

 

特に今日は公の、めでたいデビュー戦だよ?

 

 

「汚っ……」

 

 

不良チビメガネの声が聞こえる。

 

皆、そう思ってるだろう。

 

ああ、見ないで みんな!

 

醜態を晒すオグリを見ちゃらめぇ!

 

 

『おっと!』

 

 

見ていた実況が声を上げる。

 

釣られて見やれば、バッと髪飾りを取り出したところだった。

 

 

『オグリキャップ髪飾りを着けたー!!』

 

 

ブッピガァァーンッ!!

 

謎の効果音が聞こえるのは現実逃避したいからかな?

 

まぁ、それはそれとして。

 

あの髪飾り……。

 

ルビーさんが現役の頃使っていたヤツだっけ?

 

小さい時、見せて貰った事がある。

 

でも、なんでオグリが?

 

うーむ。 あっ。

 

そういや仲直りした後、ベルノが言っていたな。

 

オグリがソワソワしながら、お母さんからの荷物を待っていたと。

 

そんで、手紙を見てニヘニヘと笑顔を溢れさせていたと。

 

送られたのは、あの髪飾りだったのか。

 

 

『オシャレにも気を遣ってますね!』

 

 

……実況に気を遣われてる。

 

 

「実況に気を遣われてんじゃねぇか」

 

 

ヤンキーが突っ込む。

 

ごもっともである。

 

言い返せない……。

 

 

『何故このタイミングで着けたのでしょう』

 

 

オグリの事だから深く考えてないかもだが。

 

ラジオか何かでルビーさんがオグリのレースを聞いているなら……狙った可能性もあるけど。

 

そうこうしている間にも、ウマ娘達がゲート前へ。

 

 

『各ウマ娘、ゲート前でスタートの時を待ちます』

 

 

準備運動する者、深呼吸する者。

 

オグリは俺のあげた靴……その靴紐を結び直している。

 

みんな初めてなんだ。

 

緊張しているのが ここまで伝わる。

 

こっちまで緊張する。

 

頑張れよオグリ。

 

ばっちい件は後で聞くからな。

 

そんな勝負前の中。

 

緊張感の無い空気が流れてきた。

 

 

「柴崎テメェ!」

 

 

怒鳴り声。

 

なんだ喧嘩か?

 

こんな所で……オグリの晴れ舞台に、そういう不躾な行為は許し難い。

 

ちょっと殴りに行こうかと向いたら、そこにいたのはジョーさんとベルノ。

 

あとマーチのイケメントレーナーだった。

 

両手を握り合い、ギリギリと押し合っている。

 

ナニやってんだアイツら……。

 

 

「よくもキャップにマーチぶつけやがったな!」

 

「知らなかったんですって!」

 

 

なんの話か分からんが、聞き耳を立てておく。

 

レースが始まるまで少しありそうだし。

 

 

「優秀ですよ彼女は。

高い運動能力に優れた頭脳……なにより瞬発力が素晴らしい。

ジョーさんには申し訳ないですけど、今日は勝たせてもらいます」

 

 

マーチの素晴らしさを説くイケメン。

 

信用しているのは良い事だ。

 

でも、俺はオグリを信用している。

 

それはチームのジョーさんとベルノだって。

 

言ってやれ2人とも!

 

 

「なにおう! キャップだってなぁ! あれだぞ!

あの……膝とか超柔らかいんだぞ!」

 

「そうです! あと お母さんとか大好きなんです!」

 

 

うん。

 

もう少し言い方とか、無かったか?

 

 

「プレゼン能力」

 

 

イケメンが突っ込む。

 

あかん。 先程から返す言葉が見つからない。

 

 

『ウマ娘ゲートイン!』

 

 

おっ。

 

余所見している間に始まるところまで来た。

 

 

『ダート800M新バ戦、10人がゲートに おさまりました!』

 

 

いよいよ始まる。

 

緊張の空気、再び。

 

そして。

 

 

───ガシャンッ!

 

 

ゲートが開く、刹那。

 

 

───ドッ!

 

 

ウマ娘達が地を蹴る音が鳴り響いた!

 

 

『ゲートが開いて今スタート!!』

 

 

始まった!

 

滑らかなスタートを切れた中に芦毛。

 

オグリじゃない、マーチだ。

 

待て。 じゃあ肝心のオグリは!?

 

 

「よし!」

 

 

イケメンがガッツポーズ。

 

 

「キャップは!?」

 

 

ジョーさんの悲鳴と困惑の混ざる声。

 

それには同意見だ。

 

目を凝らし、灰被りの少女を探す。

 

 

『ややバラけたスタートに始まりました。 新入生デビュー戦。

一体どのウマ娘が勝利を掴むのか!』

 

 

くそっ、どこだ!?

 

先頭集団にはいない!

 

真ん中! いない!?

 

なら後方……!

 

 

『おっと!?』

 

 

俺とほぼ同時か。

 

実況も気が付いたような声を上げる。

 

 

『5番オグリキャップ出遅れたぁー!!』

 

 

最後方。

 

そこにオグリキャップは、いた。

 

 

「なっ……!?」

 

 

思わず声を上げるジョーさんとベルノ。

 

そして俺も。

 

ここから表情は良く見えないが……いや、苦悶の表情を浮かべている様子は無い。

 

どうしたオグリ。

 

初めてのレースで慣れないか?

 

らしく無い。

 

いつもの、天然で気楽な君で良い。

 

 

『ゼッケン5番オグリキャップ出遅れた! 後ろからのレースとなります!』

 

「ははっ。 また靴紐が解けでもしたか?」

 

 

ヤンキーが嘲笑した。

 

睨むように見やれば、何時の間にか蹄鉄風ハンバーガーを食べていた。

 

どこで手に入れた。

 

 

「あれだけスタートが大事って言ったのに……」

 

 

ジョーさんの嘆く声。

 

まだ諦めるな。

 

トレーナーだろ。

 

ああいや、諦めはしてないか。

 

だが800mはレースとしては短距離か?

 

スタートが肝心だろう、出遅れたら取り戻すのは難しい。

 

でもオグリだ。

 

オグリの脚なら巻き返せる。

 

まだレースは始まったばかり。

 

分からないぞ。

 

だから、俺に出来る事は。

 

 

「頑張れオグリーーッ!!」

 

 

元気良く応援してやる事だ。




【お母さんからオグリへの手紙】
オグリへ
私が現役の時に使っていた髪飾りを送ります。
レースで使ってね(^ν^)v
母より
P.S.レース、ラジオで聞きます。
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