オグリが心配で、スタッフにさせて貰った。(完結)   作:ハヤモ

16 / 35
漫画に無い話数が増えると進まない気がしたので、掛かり気味に。

漫画であったウイニングライブシーンへ。

ウイニングライブ
レースに参加したウマ娘が応援してくれたファンへ感謝の気持ちを表すライブ。
レースの上位入賞者または1位のウマ娘のみがステージに立てる。


第15R「祝・初ウイニングライブ」

不幸中の幸いと言えるのか、それは分からない。

 

だが事態を進展させたのは学園の誰かじゃなくて、カサマツレース場の整備員らであった。

 

少なくとも、キッカケではある。

 

単に仕事であり、意図したモノではない。

 

それでも膠着状態を打破する転機にはなった。

 

心中でも謝辞を述べるべきだろう。

 

すまない、と。

 

不法侵入した俺を下げるべく立ち入ったのが最初。

 

しかしココは修羅バ。

 

立ち退く様言おうにも、下手な発言は蹴り殺される空気に怯む他ない。

 

最終的にだが、俺に芦毛両バが抱き付いていれば躊躇するというもの。

 

両手に花?

 

デスマーチとオコグリギャップである。

 

これが花? 悍バの間違いだ。

 

下手に俺に触れようものなら、愛バ状態のウマ娘の鉄脚が飛んで来る。

 

この時こそ当てウマのベルノが率先して欲しいのだが。

 

あいや。

 

それはそれで後が怖いから、やっぱ駄目。

 

仲直りしたばかりなのに、酷というモノ。

 

それを危惧したか知らないが、更なる整備員らがきた。

 

ダートの、特にオグリによる抉れた足跡を直すヒト達のようだった。

 

となれば、いよいよ邪魔である。

 

整備員も仕事を放棄する訳にはいかない。

 

怯えながら超控えめに「邪魔」発言せざるを得ず、それが何人ものヒトが囲って言い始めれば……まぁ、仕方なくレース場を後にするしかなかったのだ。

 

群れのチカラは偉大だね。

 

数の暴力には勝てない。

 

特にオグリに関しては、ウイニングライブとやらをしなくてはならず、ソレをぶっちぎっては今後に関わる可能性から離れざるを得なかった。

 

それを屈辱ではなく好都合としたのはマーチ。

 

笑顔で送り出した。 俺に抱き着きながら。

 

とても敗者とは思えない。

 

寧ろ勝者の振る舞いだ。

 

ナニが彼女を滾らせたのだろう。

 

 

「早く行ってこい。 ファンを待たせるものじゃないぞ」

 

 

ああ、ヤメテ。 オグリの目が死んで逝く。

 

 

「安心しろ。 一緒に見ていてやる♪」

 

 

あひぃ……。

 

更に抱き寄せないでぇ……。

 

全然嬉しくない。

 

もはや感覚が麻痺して、堪能も何も無い。

 

オグリと俺のナンかを煽ってどうしたいん。

 

焚き付けないでマジで。

 

しかも踊るオグリの前でイチャつけと?

 

拷問だろ。

 

オグリがどう感じるかは知らんが。

 

だけど、いくら天然オグリでもイラッときて、オラオラ系になる可能性は否めない。

 

あの不良サンバカの仲間入り……ゾッとする。

 

少なくとも。

 

踊る愛バの前で堂々浮気は正気の沙汰じゃない。

 

アレ?

 

なんだかブーメランな気がしてきた。

 

気の所為だろう。 そうであれ。

 

 

「あー……なんだオグリ」

 

 

とにかく。

 

ナニか言わないと、オグリがヤバい。

 

尻尾と耳が激おこである。

 

目の色は漆黒深淵、無言が痛い。

 

世界に音を響かせねば。

 

俺は意を決し、空気を震わした。

 

 

「お、応援してるぞ?」

 

 

そしたらオグリ。

 

壊れたブリキ人形のように。

 

ギギギ、と。

 

クビを俺に向けた!

 

怖い怖い怖い怖いッ!?

 

 

「………………私も応援した方が良いか?」

 

 

そして何かを言った!

 

オウエンシタホウガヨイカ?

 

恐怖が勝って頭が理解しない!

 

 

「そうしてくれ」

 

 

マーチも何かを言った!

 

意味が分からない!

 

なんで応援される側なんだ!?

 

そこに更なる追い討ち!

 

 

「それじゃ、先に会場に行こうかリョウ君」

 

 

俺の名前を言った瞬間パキリ、と。

 

空間にヒビが入った錯覚を覚える。

 

死んだ。 よく分からないが、俺は死んだ。

 

或いはそうかも知れない。

 

 

「ふ、ふふ……ふふふっ」

 

 

オグリから、聞いたこともない笑い声が聞こえてくる。

 

いや訂正。

 

身体が痙攣した結果、口から出た空気の振動音だ。

 

夢なら早く醒めて欲しい。

 

感覚が無いから、夢の可能性はある。

 

俺はその可能性に賭けたい。

 

 

「そうか、もうそこまで仲良しなのか……仲良しなのは良い事だ……ふ、ふふふ……」

 

 

祝いではない、呪いの言葉になってるよ。

 

未来永劫呪詛する気しかしないよ。

 

ブツブツ言いつつ、会場へと去っていく芦毛の怪物。

 

なんだろう……カサマツから脱出した方が良いよな。

 

うん。 今すぐ逃げたい。

 

本能が警笛を鳴らすが、同時に理性が諦観の境地を見い出す。

 

それも悟りを開いたような満面の笑みで。

 

アレは「逃げても追って来るよ❤︎」と。

 

ウマ娘に勝てる要素は微塵も無いのだから。

 

そして死より怖い経験をさせられる。

 

血祭りに上げられ、五体満足じゃなくなり、心にナニか変なモノを埋め込まれるのだ。

 

……被害妄想をしたところで現実は変わらない。

 

心が楽になりもしない。

 

じゃあ、どうするか。

 

 

「ライブ会場……案内してくれ」

 

 

覚悟を決めろ。

 

マーチに片腕を占拠されつつ、俺はライブ会場へ。

 

その様子を遠くから震えながら見ているだけのトレーナー2人と非当てウマ。

 

このヒトでなし!

 

整備員達を少しは見習え!

 

心で絶叫、滂沱の如く涙を流し、俺は会場へと……下手すると処刑場へと案内されたのであった……。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

ウイニングライブ。

それは、レースに参加したウマ娘が応援してくれたファンへ感謝の気持ちを表すライブ。

 

レースの上位入賞者または1位のウマ娘のみがステージに立てる……とは誰かから聞いたが。

 

当の本人は、レース中の時みたく震えている。

 

俺は もっと震えてる。

 

漏れる。

 

全身の穴という穴から、あらゆる汁が出る。

 

 

「やべっ。 ライブの練習全然やってねぇ……」

 

 

ジョーさん、そこじゃないだろ!

 

オグリの心配より俺の心配しろ!

 

それとも現実逃避か?

 

ベルノは汗をダラダラかいているだけ。

 

イケメンは……見当たらない!?

 

マーチを置いて逃げやがったな!?

 

あの野郎! 覚えてろ!

 

生きて帰れたら、この報いを……。

 

…………。

 

うっ……うぅ……。

 

もう観客でも誰でも良い、だれかたすけて。

 

 

「見事 初勝利を飾りましたオグリキャップ!

ウイニングライブを披露していただきましょう!」

 

 

無慈悲にも時は来た。

 

決して大きくはない、小規模なライブ会場。

 

否。 処刑場。

 

そのセンターに愛バが……シンデレラが立った。

 

持参したラジカセを置いた。

 

皆がザワつく。

 

美しいライブ用ドレスを身に纏い、綺麗な芦毛は夕日を照り返す。

 

絶望の中、息を呑む。

 

嗚呼。 綺麗だと。

 

いつかの幼少の記憶が蘇った。

 

悟る。

 

これが走マ灯かと。

 

 

「ハァ〜♫踊れ踊れやカサマツ音頭♩」

 

 

何故かライブ会場に音頭が流れて聞こえる。

 

嗚呼。 とうとう幻聴が。

 

だって変だろう。

 

ライブ会場で音頭が流れるのは。

 

こういう所の曲って……知らんが、ナウでヤングな感じじゃないか?

 

これも走マ灯の影響か。

 

楽しかった祭りの記憶がフラッシュバックする。

 

俺は懺悔するようにオグリを見た。

 

……幼少の頃は楽しかったね。

 

一緒に祭りに行って、君は屋台の焼きそばを喜んで食べていたね。

 

それも、スンゴイ量を。

 

 

「濃尾平野を踏み鳴らし〜♩猿の尾を引きゃ木曽川止まる♬」

 

 

ザワザワする周囲。

 

オグリは死んだ目を続ける。

 

 

「♬ア ヨイショ!♩」

 

 

オグリは盆踊りを踊り始めた。

 

完成度が高い。

 

そうだ。 オグリは盆踊りが上手かった。

 

だけど、あの時の君の目は光輝いていただろう。

 

 

「ハァ〜♩ 雨降り槍降り♫」

 

 

ああ……そうだ。

 

このままじゃ駄目だ。

 

俺は涙を拭ってオグリを見る。

 

 

「明日の天気は流れ星〜♩」

 

 

俺が愛バに何らかの理由で処刑されるのは100歩譲って仕方なくても、あんな無機質な目をして欲しいなんて思わない。

 

だから……だから。

 

 

「ハツラツッ!」

 

 

俺は笑顔を無理矢理作って叫ぶ。

 

小さな灰色の名前を。

 

無機質な目は俺を捉えた。

 

違う。

 

そんな表情と目じゃないだろ、オグリ。

 

俺は君に笑って欲しくて側にいる。

 

これが幻影だろうが夢の中だろうが関係ない。

 

俺は君に笑って欲しい。

 

 

「良いぞ! 最高だ!」

 

 

周りが呆然とする中。

 

俺だけ。 涙でグシャグシャの顔で。

 

そして笑顔で応援した。

 

 

「今日も踊れや♪ カサマツ音頭〜♬」

 

 

オグリの目に光が宿り。

 

笑った。 笑ってくれた。

 

そうだ。 それで良い。

 

俺も笑った。

 

最悪は、俺が嫌いになっても構わない。

 

でも。 いつも、そうであれ。

 

それが1番だ。

 

俺の知る、1番のオグリキャップだ。

 

 

 

 

 

その後。

 

ウイニングライブでまさかの盆踊り……は、俺の走マ灯でも何でもなく、現実で発生した事案であった。

 

それは不幸な話なのか、と聞かれればレースの催し物の1つとしては良くなかったのかも知れない。

 

俺は詳しくないが、洋食メニューに和食が混ざる……異色混入罪的なノリだったのだろう。

 

レースだけでなく、踊れなきゃいけないというのも ある意味では異色に感じる気もするが……。

 

いや、ほら……陸上部のヒトが勝ったら踊りを披露するとか聞かないじゃん……?

 

会見はしたとしても。

 

ウマ娘は可愛いからね。 仕方ない。

 

ただ、そんな事は俺にとって問題ではない。

 

その後だ。

 

俺はオグリに謎の理由で殺されると覚悟していた時だ。

 

笑顔を最期に見られたので、もうそれで良いと諦観していたが……。

 

どういう訳か、オグリは機嫌を直してくれた。

 

マーチがオグリの盆踊りを見て、脱力のまま腕から手が離れたのが理由かも知れない。

 

そしてライブ終了後、俺は脱兎の如く会場から抜け、オグリの下に自ら命を差し出す覚悟で向かったからかも知らない。

 

誠意を評価されたか。

 

何にせよ、延命された事にホッとしている。

 

やはりウマ娘に生かされているのだ、少なくとも俺というヒトは。

 

 

「リョウは応援してくれたから。 それに、私のところに戻って来てくれたから」

 

 

…………。

 

イマイチ基準が分からないので、綱渡り状態であるが。

 

 

 

 

 

「私を支えてくれるのだろう……? なのに、何故オグリキャップの下へ戻るんだ……?

私が1番じゃないからか?

なら、なら……私がリョウの1番になるまで勝ち続けてやる……!」




無理矢理感……。

感想やお気に入り登録、ありがとうございます。
励みになります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。