オグリが心配で、スタッフにさせて貰った。(完結) 作:ハヤモ
オグリは入学早々に遅刻してます。
お母さんにジャージを見て貰ってたり、朝トレが原因というより、天然な性格が原因でしょう。
制服とはナニかも知らず、ジャージで登校してますし。
オグリといられるだけで幸せ。 例え共に走れなくても、近くで肩を並べる瞬間は幸せだった。
毎日挨拶を交わし、料理を作ってやり、洗濯物を畳む。
その幸せが潰れかけた入学事件。
焦った俺は、藁をも食う想いでトレセンの門を叩く。
スタッフというゲートに立ったのだ。
スタート地点に立ったばかり。
先は長い。 それでもオグリを支えられるなら、幸せだ。
でも今は違う。
また不幸が忍び寄る。
これからオグリは全寮制学校生活。
群れに入るのだ。
あの場はヒトにもウマ娘にも順位がある。
カースト上位が下位をどう扱うか、俺は知っている。
オグリは天然だ。
未だ気付かない。
小学生の頃、芦毛は走らないダメウマだのなんだのと、苛めっ子に絡まれた時は酷かった。
どこからどう見てもイジメなのに、当のオグリは「友だちが増えた」とのたまいおった。
故に危惧している。
エスカレートして、傷付けられてからじゃ遅いというのに。
当時の俺は、我慢ならず拳を突き出した。
だが、これからはスタッフとして接する以上、バカな真似は出来ない。
それでも俺は守ると決めたんだ。
じゃなきゃ、何の為にトレセンに来たのか。
そんな決意と共に迎えたオグリの入学日。
俺の厩務員としての世話は既に始まっている。
オグリはトレーニングを自分に課し、朝4時台から動いている。
走れる事が、嬉しいらしい。
立派だと思う。
だけど、全てこなしてから登校では遅刻だ。
オグリの脚力、超前傾姿勢での走りを持ってしても間に合わない。
なら、どうするか。
俺はトレーナーでもないのに、飴と鞭を打っていた。
先ずは飴である。
「知ってるか。 トレセンの食堂は食い放題だ」
「そうなのか!?」
「俺も厨房に立って手伝うんだ」
「リョウが作るのか! いつも 美味しいからな、また食べられると思うと楽しみだ!」
食い付いたな。 いつものオグリキャップ。
無邪気に喜んでいる。
お前の喜ぶ事は手に取るように分かるぞ。
なら次は鞭打ちだった。
「だけど入学式に遅刻したヤツに食わせる飯は無い」
オグリキャップの目が死んだ。
だけど次には困惑と絶望を短いスパンで繰り返し、最後は闘志の炎が見て取れた。
もう大丈夫だろう。
焚き付けるのも、スタッフか。
俺は笑みを浮かべ日を跨ぐ。
そして入学当日。
門の前を竹箒で掃除しつつ待つ。
待つのみだ。
そして、どんなウマ娘よりも速く、流星の如くゴールしたウマ娘がいたのである。
速さと風圧に驚く登校中のウマ娘たち。
一方、結果を出せた彼女と分かっていた俺は涼しげな表情だ。
「おはようオグリ」
「おはようリョウ」
先ず一勝だ。
優勝おめでとう。
ウィニング・ゴハンはコロッケだよ。
俺は確信した。
飯抜きの言葉はかつてより絶大であると。
同時に思った。
ハツラツし過ぎて、これはこれで悪目立ちしたんじゃねと。
諸刃の剣じゃねと。
周りを見る。
ざわざわしていた。
嘘だろ。
速い。
あんな子がいるのか。
やらかした。
早朝だから、まだ多くには見られてないのが幸いか。
オグリを見る。
嬉しそうにジッと見てくる。
分かってる。 君は何も悪くない。
焚きつけた俺が悪いのだ。
胃が痛む。 火に油を注いだようだ。
責任を取ろう。
だが、その前にツッコミは入れよう。
「制服どうした?」
ジャージ姿で登校している事に。
「セーフク? なんだソレは」
あっけらかんと、そう放つ。
嘘だろ? 制服を知らない?
頭をガツンと殴られた気分になった。
時々こうなる。
お前といると人生が楽しいよ。 本当。
郷愁に似たモノを覚えるも、味わいたくない感覚だけどね。
「周りを見てみろ。 あれが制服だよ」
スカートがヒラヒラしている、今を輝くウマ娘たちを指差す。
オグリは赤面した。
「常に腰布一枚で生活するとか正気の沙汰じゃない……」
「スカートの事を腰布とか言うんじゃないよ!?」
全くこのウマ娘は!?
「アレが学生のあるべき姿だ」
「変態じゃないか」
「お前は全ての女学生を敵に回す気か?」
公の場で発言して良い事じゃないよ。
「実家にある?」
「ない」
ないのかよ。
いや、でも仕方ないかと俺は閉口した。
ルビーさんも、家計は大変だ。
主にオグリの食費に圧迫されている所為だが、それを抜きにしても裕福ではない。
古いアパート一室で、女手ひとつでオグリを育ててきた母子家庭。
それを思うと、可哀想だ。
やはり俺が面倒見なければ。
「買ってやるから慣れろ」
「恥ずかしい」
「恥を捨てろ。 俺の為に着てくれ頼む」
カサマツはガチガチ規律じゃないが、制服くらい着ないと怒られる筈。
なにより周りより浮く。
「……そんなに見たいのか?」
耳を左右別々に動かし、落ち着かない。
ズボンを握り締めるオグリ。
尻尾もユラユラと揺れている。
不安か。 だが仕方ない。 仕方ないのだ。
それに俺はオグリの制服姿が見たい。
だから強く所望しよう。
「見たい」
「どうしても?」
「どうしても」
暫くプルプルした後、ようやく決心がついたらしい。
耳はそのままで、だけど真っ直ぐに見つめて答えてくれた。
「分かった……着る」
よし。 英断であったぞ。
「今日は仕方ない。 先生には事情を話して通して貰うと良い」
「うん」
コクリ、と頷く。 可愛い。
「じゃ、入学式に出ておいで。 美味しいコロッケを揚げて待ってるよ」
「ッ! 分かった! 行ってくる!」
バピュンッ、と疾風の如く校舎へ入っていくオグリ。
食べ物が絡むと本当チョロ可愛い。
同時に悲しくなってくる。
俺はコロッケに勝てるのだろうか。
俺とコロッケ、どっちが好きなんだろう。
ああ、それはソレとして。
いつまでも後悔しているワケにはいかない。
オグリが他の生徒と上手くやっていけるか不安だが、ここでは ずっと付きっ切りで動くワケにもいかない。
次の戦場は厨房だ。
オグリキャップ。
恐ろしき健啖家。
芦毛の怪物。
その怪物相手に食べ放題などという末恐ろしい行いをする料理長に物申さねばならない。
───このままでは地獄を見るぞと。
カサマツトレセン学園
正式名称:岐阜ウマ娘カサマツトレーニングセンター学園
総敷地面積:30万㎡
生徒数:400人弱
地方で開催されるエンターテインメントレース
『ローカルシリーズ』
そこで活躍するウマ娘を指導・育成するトレーニングセンター学校