オグリが心配で、スタッフにさせて貰った。(完結)   作:ハヤモ

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不良サンに認められ、金華山の所まで。
そこで僅かに明かされる主人公の過去。

正史に擬える事が多いかもなウマ娘の世界。
そこには「120億事件」「沈黙の日曜日」或いはライスシャワーのような刺客。
正々堂々闘い勝利したにも関わらず、祝福では無く罵声を浴びせるような……ヒトの感情に振り回された暗い再現もアニメやゲームであったと思います。
暗い話はレース中に限りません。
とある北の地、父親不明で生まれた馬の話があります。
母親の妊娠に気付かずか、身重の状態でレースに出走され、生まれた後は管理不足だと非難され、そして その仔馬の命は最期……。
ヒトにもあれば、ウマ娘にもある。
だけど。 前世で不幸だったとしてもウマ娘の世界に生まれた娘達まで不幸になる必要は無いと思うのです。
それも、性格や人生……バ生だって同じ運命でなくても良いって。


第19R「愛された出生不明」

地方新聞でオグリの恥辱が見出しに乗ろうと、当のウマ娘は意に介さない。

 

代わりに厨房で ざる蕎麦と天ぷらを大食い中。

 

レース後なので、いつもより多い。

 

デフォルトである、体積を超える量を食っている。

 

 

「揚げまくれ……テンションは下げろ……」

 

「茹でまくれ……後先考えるな……感じろ」

 

 

厨房は相変わらず。

 

冷酷で覇気ある戦士のみが鎮座する。

 

俺も皆も、流れ作業。

 

されど多忙を極めていた。

 

生きている実感は無く、味わえるモノは機械的な無機質感。

 

これが日常化すると感情は希薄となり、目が死んで逝く。

 

いよいよ終わりの始まりか。

 

考えてはならない。

 

ある種の現実逃避である。

 

それは皆の心も同等に。

 

ウマ娘も例外ではない。

 

最早、誰も突っ込まない。

 

精々、視線の赴きが増す程度か。

 

チラリ。

 

作業をしつつも、オグリを見やった。

 

ズゾゾ〜という音と共に、蕎麦と天ぷらの標高が下がっていく……。

 

アハ体験でも やらされているのか?

 

いや、風呂桶の栓を抜いた……湯水の如くと表現すべきか。

 

なんにせよ、あの体積は どこに消えていくよか未だ不明。

 

その点、下手なホラーよりホラーである。

 

そもそも蕎麦の標高降下ってなんだよ。

 

 

「今日は また一段と多いね……」

 

 

ベルノが突っ込んでる。

 

止められるもんなら止めて欲しい。

 

 

「レース後は すごく お腹が空く……不思議だ……」

 

「限度ってものが あると思う」

 

 

ぐぅ〜っと、食堂に響くオグリの腹の虫。

 

乙女の恥じらいが存在しない。 無遠慮。

 

最悪の無秩序。 限度なんて知らない。

 

カサマツ学園は早急に食糧治安維持法を成立させ、食安を確保するべきだね。

 

そんな事を思っていると。

 

ドカッ、とギャルがオグリの前に座った。

 

説教した2バもいる。

 

例によって声の出だしはヤンキーだ。

 

 

「おう。 邪魔すんぜ」

 

「な……何の用!?」

 

 

ベルノが耳を後ろに伏せて、ガタッと立ち上がる。

 

最大限の警戒と敵意の表情。

 

まぁ……うん。 気持ちは分かる。

 

不良サンが来たら、そら悪さ されると思う。

 

当の連中は敵意なんて無さそうだが……。

 

これは日頃の行いが悪い。

 

 

「別にケンカ売りに来たわけじゃねぇって。 ノルンが話あるんだってよ」

 

「…………」

 

 

ヤンキーの仲間への優しさが垣間見れるが、後は自力で なんとかするか。

 

 

「………………部屋」

 

 

言い辛そうに、ボソリと。

 

 

「片付けた……から」

 

 

ああ。

 

そういう事。

 

部屋が片付いていないのを理由に、オグリを部屋に入れず、物置部屋に押しやってたもんな。

 

どうやら入れる気に なったらしいが……。

 

 

「……? お疲れ様?」

 

 

オグリは察しが悪かった!

 

いつでも どこでも天然物!

 

 

「おいノルン、こいつ察し悪いぞ」

 

 

ヤンキーが突っ込んだ。

 

ごもっともで。

 

 

「部屋戻って来て良い つってんの!

あーしとアンタ相部屋でしょ!」

 

「そうだっけ?」

 

 

最早、そんな事情すら忘却の彼方であったオグリ。

 

そして耳が下がる。

 

あの表情……物置部屋の方が居心地良くて気に入ってたとでも言いたげだ。

 

というか、そうだろう。

 

 

「それと これ」

 

 

ギャルがチケットかナニかをオグリに渡した。

 

 

「ウチの親がやってるダンス教室の回数券」

 

 

そう言うと、目線を合わせる事なく席を立つギャル。

 

顔は どこか赤く見える。

 

 

「毎度 盆踊りを踊られても たまんないし、あげるから練習しに来なよ。

……あと、いじめてごめん……」

 

 

ギャルがオグリに謝った。 すげぇ。

 

 

「ほら行くよルディ! ミニー!」

 

「ちょ……待てって!」

 

 

逃げる様に食堂を後にしていく不良サン。

 

可愛い所あるじゃない。

 

名前含めて。

 

誰かのガールフレンドみたいな。 ハハッ!

 

 

「なんだったんだろう……」

 

 

ベルノは見送り、オグリは回数券を見て面白くなさそうにしている。

 

食券だったら喜んだかも知れない。

 

でも、嫌でも行って欲しくある。

 

ギャルの言う通り、ドレスで盆踊りは そう何度も見たい光景では無い。

 

上手いけど。

 

兎も角。

 

不良サンなりにオグリに謝罪したと見て良いだろう。

 

 

「リョウマツ君……もっと心を殺しなさい……さすれば恐怖を味わずに済む……」

 

 

料理長の無機質な声が聞こえる。

 

そうだね。 心を殺してるヒトからも恐怖を感じるからね!?

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

所変わって金華山。

 

岐阜市街を一望に収める事が出来る標高、その山頂を目指すようにして、オグリとベルノは上り坂ランニング。

 

トレーナーのジョーは流石にヒトである、スクーターに乗ってメガホンで監督中。

 

不良サンはトレー二ングをサボっているそうだが、オグリとベルノは ちゃんと やっている。

 

良いねぇ、青春だねぇ。

 

 

「って、なんで また お前がいんだよ!?」

 

 

ジョーに突っ込まれた。

 

前にも言ったじゃないか。

 

愚問だな、捻りが無い。

 

 

「別に良いだろ。 俺だってオグリと青春したいんだよ」

 

「ウマ娘じゃないだろ お前! というか、良く併走出来るな!?」

 

 

そういやそうだな……なんで?

 

あれ。

 

疑問に思ったら猛烈な疲労感が……。

 

 

「急にダメだ……俺の屍を超えて行け……」

 

 

速度がガクッと落ち、オグリ達に置いてかれる。

 

ついでにバタリと地面に倒れた。

 

無念なり。

 

我が青春、ウマ娘と駆け抜けず。

 

 

「リョウマツさん……の事……ぜぇぜぇ……時々分からないよ……」

 

「リョウは時々凄いんだ。 怒ると もっと凄い。 怖いくらいに」

 

「だぁー!? 一旦休憩ッ! 介抱すっぞ!」

 

 

遠くボンヤリと、皆の声が聞こえてきたと思ったら。

 

次には 何処かへ運ばれた。

 

くっ。 不甲斐ない……。

 

 

 

 

 

気がしっかりしてくるのに、時間は掛からなかった。

 

石レンガに木板を載せただけの簡易ベンチに寝かされている。

 

むくりと起き上がり、周囲を見やる。

 

ベルノだけが側にいた。

 

 

「あっ。 気が付きました?」

 

「……ジョーとオグリは?」

 

「オグリちゃんが飲み物を買いに行って、中々戻って来ないので……ジョーさんが探しに」

 

 

いかん。 迷惑を掛けた。

 

オグリの脚を引っ張る訳にはいかないというのに。

 

 

「そっか……ごめんな」

 

 

謝罪しつつ、俺は立ち上がる。

 

 

「ちょっ……どこ行くんです?」

 

「ふたり を探しに」

 

「余計に ややこしくなりますよ。 待っていて下さい」

 

 

うぐっ。

 

それもそうだ。

 

大人しくベンチに座り、待つ事にする。

 

 

「そうだな……すまん」

 

 

静かになる金華山。

 

気不味い。

 

ベルノも特に話さない。

 

なのに目の前に立たれては落ち着かない。

 

 

「あー、 その。 隣座れば?」

 

「あ、汗臭いので……」

 

 

恥じらう仕草を見せた。

 

ちょっとショック。

 

 

「そうか……俺臭いのか……」

 

 

かなり走ったしな。

 

ヒトの身で無茶をした。

 

身の丈を知れ。 間違えた、身の程知らず。

 

 

「えっ!? いやいや大丈夫です!

じゃなくて! 私の事で!」

 

「うん? ああ、気にしないよ」

 

 

そういう事なら、別に良いや。

 

隣をぽんぽんして、座るよう促す。

 

 

「じゃ、失礼します……」

 

「休める時に休んだ方が良い。 顔赤いし」

 

「誰の所為だと思ってるんですか……」

 

 

うん。 マジごめんなさい。

 

 

「俺も考えなしにトレーニングに付いて来ちゃったよ。

次はスクーターに乗せてもらうから」

 

 

ジョーの腰に手を回したくは無いが止むを得まい。

 

オグリの走りを間近で見たいじゃん?

 

 

「そういう問題では無い気が」

 

「そういう問題だろ。 俺はヒトなんだ、併走は無理」

 

「無理って。 途中まで走ってた気がするんですが」

 

「途中までだろ」

 

 

出来たらオグリの隣で走り続けている。

 

それが無理なら、別の方法を取るしかない。

 

 

「途中でも普通に凄いですよ。

ヒトより体力がある筈の、ウマ娘の私がバテ始めた段階で、まだリョウマツさんはついて来れてました」

 

 

そりゃぁ……。

 

 

「ベルノが体力不足なんじゃ?」

 

「酷いっ!? 否定出来ないのが悔しいけど!」

 

 

ぷんぷん怒るベルノ。

 

背が低いのも合わさり、とっても。

 

 

「可愛い」

 

「えっ!?」

 

 

…………。

 

……。

 

デジャブ?

 

前にも やらかしたよね俺。

 

まるで成長していない!

 

くそっ! なんとか空気を歪ませ誤魔化せ!

 

 

「……あ、あー! 可愛いと言えばアレだよアレ!

靴屋にあった靴! あんな風に可愛くもレース用が あったら良いなぁ!?」

 

「……誤魔化すの、下手過ぎません?」

 

 

ぷくー、と膨れっ面で突っ込まれた。

 

可愛い。 そんな表情、しゅき。

 

そう思考する俺は酷くキモい。

 

バレたら極刑に処されそう。

 

 

「はぁ……もう良いです。 リョウマツさんが そういうヒトなのは今更ですし」

 

「君も中々酷いね」

 

「おあいこ です」

 

 

むぅ。

 

悔しいし、不満足。

 

周りを見渡す。

 

まだオグリ達が帰ってくる感じじゃない。

 

何処に消えたんだろうな?

 

 

「もう少し話そうか?」

 

「別に良いですけど?」

 

「意地悪するなよベルえも〜ん」

 

「うわっ、キモいですよ」

 

 

吐血! ただし心の世界で!

 

可愛い娘にキモいとか……抉られる。

 

 

「…………………………悪かった。 忘れて」

 

「ごめんなさい!? そこまで真に受けるなんて思わず!」

 

「じゃあ、何か話して」

 

「この流れで!?」

 

「……鬱だ。 死のう」

 

「悪かったですって! じゃあ、えーと、えーと!?

オグリちゃんの お母さんって どんな方なんですかね!?」

 

「ちょっw 案外フツーw」

 

「どうしろってんですか!?」

 

 

ベルノは虐め甲斐があるなぁ。

 

でも質問には答えよう。

 

 

「お母さんは、優しいウマ娘だよ」

 

「オグリちゃん、大好きみたいですもんね」

 

 

それな。

 

オグリが歩けなくても、大食いになっても、ちゃんと面倒を見続けた。

 

俺にも優しかったし。

 

世の中には暴力を振るう者もいる。

 

ノイローゼになったり、その前から育児放棄するような母親もいる。

 

その点、俺は恵まれたと感謝したい。

 

誰に? ルビーさんに。

 

 

「ホワイトナルビーさん。 元競走バだったみたいだね。

今、オグリが着けている髪飾り。 アレはルビーさんが現役の頃に使っていたんだ。

…………本当、優しいウマ娘で良かった」

 

「……リョウマツさんの お母さんは」

 

「ルビーさんだよ」

 

 

即答。

 

 

「えっ!?」

 

「いや育ての親って感じで」

 

 

その意味では、カサマツ……近所の皆がそうだろう。

 

 

「あ、あぁ……そうですよね」

 

 

変にホッとされた。

 

たぶん血縁は無い筈。

 

 

「本当の お母さんは……」

 

「さぁ?」

 

 

これまた即答。

 

 

「あ、その……ごめんなさい」

 

 

何か深入りしてしまったと察し、ベルノは引いていく。

 

うーん……俺は気にしないよ。

 

今更なんだと言うんだ。

 

変わりはしない。

 

辛い想いをさせられた記憶も無い。

 

 

「構わないよ。 なんなら話そう」

 

「無理しなくても」

 

「無理はしてないよ。 オグリも知ってるし。

と言っても……真実なんて知らないのだけど。 聞いた話になるな」

 

 

そう前置きして、ベルノの了解を取らずに一方的に語り始める。

 

とある雨の酷い日。

 

カサマツの、どっかの道端に、捨てられたように あった揺り籠。

 

その中にいた赤ん坊。

 

声を上げられないくらい雨で冷え切って、弱り切った赤ん坊の事。

 

命の灯火が消える前に運良く拾ってくれて、育ててくれたカサマツのヒト達やウマ娘……ルビーさんの事。

 

そして物心つく頃には、オグリと同じアパートに住んでいた事。

 

そうして……オグリと出会って、今日まで一緒に来た事。

 

 

「つまり肉親より育ての親って感じ」

 

「……そんな平然と……リョウマツさんは、平気なんですか?」

 

 

ウマ耳をしょげて、心配そうな声を上げられる。

 

なにも、ベルノが めげる事は 何もない。

 

 

「平気だよ。 今も こうして生かされているし、生き甲斐だってある」

 

「……オグリちゃん?」

 

「ご名答」

 

「……そっか。 うん、敵わないな」

 

 

へへへ、と薄く笑い始めるベルノ。

 

よく分からないが、笑ってくれて良かった。

 

 

「これで私は恵まれてない、なんて言えないですよね」

 

「言っても良いんじゃない?

他人の不幸は当事者しか知らないし、逆に俺の不幸をベルノに押し付けるつもりは無いよ。

結局、最後は自分の事は自分だけの物なんだ。

それに知りもしない、事実かも分からない他者の聞き齧りの不幸と比べる必要はないさ。

良くも悪くも、ね」

 

 

状況次第だろうけども。

 

そう言いつつ、俺は矛盾している。

 

オグリが不幸なら、俺も不幸だと思っている。

 

全く。 俺にも困ったモノだよね。

 

自傷気味になり、俺もベルノみたいに笑う。

 

 

「あっ。 オグリちゃんが戻って来ました……よ?」

 

 

ベルノが疑問符付きの声を出す。

 

見やれば、理由が分かった。

 

だって芦毛が2バ、こっちに来るんだもん。

 

並んで歩いているんだけど、放出する謎の威圧感に圧倒される事暫し。

 

 

「じゃ、じゃあ……ごゆっくり……」

 

 

ベルノに見捨てられた!

 

アイヤアア!

 

ナンデ!? アシゲ2バ ナンデ!?

 

またデジャブ!? 幻影じゃない!?

 

マジなんでだよ。 なんで……!

 

 

「マーチがいるんだよ!?」

 

 

だれかたすけて。

 

さっきの話の流れから、どうして見捨てられようか!

 

己の不幸を呪うが良いってか!?

 

 

「「リョウは どっちが好き?」」

 

 

そして放たれる、謎の怪奇音。

 

 

「マジなんの話だよ!?」

 

 

突っ込まずにはいられない。

 

どうして こうなった。 だれかたすけて。




主人公は何者なんでしょうね……。
取り敢えず愛が重バ場。
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