オグリが心配で、スタッフにさせて貰った。(完結)   作:ハヤモ

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敬意を払う。 決意する。
朗報、吉報……でも誰かにとって凶報だと考えた事は?

漫画での描写を被せ過ぎない様にする為、ジョーとオグリの会話は書いてません。
大切な場面でありますが、内容的に ふたりきりにさせた方が良いかと思いました。
それに、主人公は結局 部外者ですから。


第28R「尊重」

 

「俺も行くよ」

 

 

と言っておきながら。

 

部室まで同行したにも関わらず、結局入口で待つ事に。

 

今、室内はオグリとジョーのみ。

 

ビビリなのもあるけど、ジョーが ふたりきりで話すと言うから仕方ないじゃん。

 

普段なら お父さん許さない〜とか言いながらドロップキックをかます所だが。

 

そんな空気じゃない。

 

ベルノも察してか、部室の外に出た。

 

特大ブーメランを投げた気がするが、気の所為としよう。

 

 

「……リョウマツさん」

 

 

ベルノが不安気に嘶いた。

 

 

「オグリちゃん、中央に行っちゃうんでしょうか」

 

 

行くもんかよ。

 

そう言えたら、どれだけ楽だったか。

 

 

「オグリが決める事だ」

 

「でも」

 

「でもも待ったも無いんだよ、こればかり」

 

 

ルドルフが言っていた『1番の選択』。

 

あの言葉が呪詛の様に纏わりつく。

 

前までの俺なら、ウマ娘だろうとURAの重役だろうと殴り込んで言う事を聞かせようとしただろう。

 

でも駄目だ。

 

それじゃ駄目なんだ。

 

オグリのバ生を無理矢理決めて、無理矢理走らせて。

 

それが幸せだなんて どうして言えようか。

 

 

「断るも受けるも、オグリで決める事が"1番の選択"なんだと思う」

 

 

ルドルフの言葉の意味。

 

そう解釈した。

 

 

「ジョーは もっと日の当たる道を走らせたいだろうけど。

自分の夢に挟まれて苦悩しているのも分かる。 それでも……な」

 

 

ルドルフは威厳こそ見せてきたが、此方を否定したワケじゃない。

 

権力を奮って奪うワケでもなかった。

 

その上で此方には拒否権がある。

 

だからオグリを考える余地がある。

 

それはある種、残酷だった。

 

オグリの気持ちを第一に尊重すべきなのは分かっている。

 

トレーナーとて、無視して欲しくない。

 

だがアレは……ひとたび飛び込めば洗礼に耐えねばなるまい。

 

俺はその時、支えられるだろうか。

 

 

「……お付き合い、してるんですよね。 もし中央行くとなったら、ついてくんですか?」

 

「勿論」

 

 

遠距離恋愛は辛いもんな。

 

 

「中央のトレセンは、地方みたいに いきませんよ?」

 

「だろうね」

 

 

頭下げても解決しないのは経験済み。

 

どこで?

 

"中央"で。

 

 

「じゃあ……」

 

「トレセンに入れなくても、東京には入れるさ」

 

 

どこぞの映画じゃないんだ。

 

上京自体、問題にはならない。

 

関所の前で門前払いされる事も無い筈。

 

カサマツが感染るぅとか、イジメ地味た迫害も無いと信じる。

 

 

「家賃も物価も高そうですよ」

 

「う、うーん……?

最悪はオグリに鍛えられたサバイバル術と質素倹約術で……。

東京じゃなくて関東圏なら……埼玉?」

 

「追いかけてくれるヒトがいるなんて、羨ましいなぁ」

 

 

1歩間違えたらストーカーだが。

 

 

「でも……トレーナーさんは そうはいきませんから」

 

「中央のライセンス?」

 

「ご存知でしたか」

 

「いや。 でも そんなトコだと思ってた」

 

 

夢だけでなく現実的な問題を上げるなら、その辺もだろうと。

 

得てして、高貴な所とは相応に払うべき敬意と身分が必要だ。

 

誰でも入れないなら、理由がある。

 

凡俗な俺でも分かりやすい例が、免許や資格絡みだ。

 

一定のレベル以上という事。

 

機関がレベルを維持したい、上げたい、間違っても下げたく無いなら合格点を設けて選別を行う。

 

差別や平等を理由に、否定するヒトもいるが、棲み分けがあるから巡り巡って己の場所が成り立つ。

 

そう考えれば。

 

こんな"理不尽"も……凶報も受け入れられる。

 

なんて。

 

甘かったな……。

 

 

「それでも、オグリと別れる事になっても、オグリの意見を尊重するべきだ。

トレーナー視点からどうとか、逆にカサマツの皆が望むからとか、それで決める事こそ独善じゃないか……それも、さ……分かってる筈なのに。

オグリが1番なのに……なんで、こんなに……辛いんだろうな……」

 

「……うん」

 

「オグリに走り方を教えたのはジョーだ。 勝てたのもジョーのお陰だ。

オグリの才能もあったかも知れない、だけど。 それを引き出したのはジョーだ」

 

「……うん」

 

「どう見ても俺じゃねぇ。 レースに微塵も貢献出来てない俺なんかじゃない。

いてもいなくても変わらない俺なんかより!

いや! 1番脚を引っ張る俺より!

アイツらふたりが! ふたりこそが……!」

 

 

ベルノがぽん、と背中を優しく叩いた。

 

今度は不安そうじゃない、優し気な表情で。

 

 

「ありがとうございます。 皆の事を考えてくれて」

 

 

小さなウマ娘に、母性を感じるとか。

 

これは浮気……じゃないと信じて甘えたくなる。

 

 

「……考える程じゃない」

 

 

そう言った矢先。

 

オグリが早歩きで部室から出てきた。

 

耳は背後に倒れている。

 

尻尾は激しく揺れ動く。

 

こりゃキレてる。

 

クールな表情を、珍しく歪ませる程に。

 

 

「オ、オグリちゃん!」

 

 

ベルノは弾かれた様に、オグリを追いかけた。

 

俺も追いかけようと思ったが、遅れて出てきたジョーに気が付き、歩みを止めた。

 

 

「ダメだった」

 

 

ジョーは、複雑そうに言った。

 

 

「中央には行かないってさ」

 

 

予想通りの答えだ。

 

まぁ、でも。

 

 

「……どっちにしろ、ダメだったって言うつもりだろ」

 

「まぁな」

 

 

どっちに転んだって悩む羽目になっていた。

 

残酷である。

 

俺は不安な気持ちを言葉にする様にして、理不尽にも浴びせ始めた。

 

 

「じゃ、花道のチャンスを断るのか? それともマーチ達を裏切って夢諦めて。

成功するかも分からない中央に無理矢理行かせて、傷付いて帰ってきたら皆で叩くワケだ。

1番傷付くのはオグリで、成功するなら感動を貰えるし、失敗したら、それを嘆かず敗北者を皆で仲良く叩いて同調感の快楽を得る。

どっちに転んでも苦労せず得するヤツはいるんだ、オグリと少数の者だけ嘆いてな。

だから気にするなよ、どっちになろうとさ」

 

 

被害妄想をズラッと並べ立てる。

 

側から見たら気持ち悪い。

 

責める資格なんて無いのに。

 

そうしたいのは、オグリが……違うな、俺が傷つくかも知れないからだ。

 

だからまた、自分から傷付いた。

 

また逃げたんだ、オグリから。

 

それはオグリを1番考えてない事の証左である。

 

まるで成長していない。

 

 

「そうだな」

 

 

ふぅー、とジョーは空を仰ぐ。

 

怒るワケでもない。

 

今までのお礼に殴って来る事もしない。

 

どうでも良いと手放しもしない。

 

ただ肯定し、流される会話をしてきた。

 

 

「お前みたいに、俺だけ責めてくるなら楽なんだが。

キャップの事を考えてるヤツが他にいるのが分かっただけ、気が紛れるモンだ」

 

「率いられてる側だし、それこそ身内なら考えるさ」

 

 

オグリについて行ったベルノとか。

 

 

「なんなら違うチームのヤツだって」

 

「マーチか?」

 

「あと不良サン」

 

「不良サン……?」

 

「いや、分からないなら良いんだ」

 

 

苦笑して、傷を舐め合う。

 

味方がいる事も加味して栄養バランスが良い。

 

そうして問題を先送りにする下の下な俺。

 

しばし、沈黙。

 

遠く、他のウマ娘の練習声が流れてくる。

 

口火を切ったは、ジョーだ。

 

 

「1番傷付かないのは、中央行きを断る事だ」

 

「そうだね」

 

「幸いにも断れる権限はあるし、キャップも断った。 他にも材料に事欠かない」

 

「だね」

 

 

ジョーの夢とか。

 

ライバルもいて、約束もあって、目標もあり、友達もいて。

 

それに、オグリキャップはカサマツのアイドルホース。

 

レース場の土産店にオグリ人形が並ぶと聞く。

 

芦毛は走らない、なんてカサマツじゃ言うヤツはいないんじゃないか。

 

皆に夢を、情熱を見せたんだ。

 

そんなウマ娘だ、去って欲しく無いファンは相当数だろう。

 

目下向かう所敵なし、とも言い切れないだろうし、走る場所は まだまだある筈だ。

 

 

「だが」

 

 

それを知った上で、彼女のトレーナーは言う。

 

 

「いちトレーナーとしては、中央にも行ってもらいたい。 挑戦して貰いたい。

今回を逃したら……もう次はないんだ」

 

 

オグリを想っての発言だ。

 

素人でも分かった。

 

 

「そりゃあ」

 

 

いらぬ差し出口をきく。

 

 

「ジョーもだろ」

 

 

それこそ、次は無いかも知れない。

 

 

「わかってる!」

 

 

怒声を浴びせられたよ。

 

決意を揺らがす失言だった。

 

俺が悪いので謝る。

 

 

「余計な口聞いた、悪い」

 

「分かってるなら止めろ! そういうところだぞ! 一言多いんだよ お前は!」

 

 

ふぅー、と息を吐く。

 

今度は ふたりともだ。

 

 

「考えた」

 

 

ジョーは目を腐らせて、また吐いた。

 

何か妙案が?

 

 

「ゴールドジュニア」

 

「はい?」

 

「ダート1600の重賞レースがある、キャップをソレに出す」

 

 

出して……何が変わると言うんだ。

 

走って変わる話なら、とっくに過ぎたろ。

 

だが次にジョーが言ったのは。

 

それこそオグリに"理不尽"な事だった。

 

 

「このレースに勝てたら中央。 負けたら東海ダービーを目指して貰う」

 

 

前の俺だったら、この時に殴ってたね。

 

ジョーの事なんか どうでも良い、オグリ1番大好きー、と。

 

でも そうしなかった。

 

無言で過ごしたのは、余計な一言より悪手だったかも知れない。




読んでいて不快になった方、すいません。

そろそろ終わりが見えてきましたね。
完走(カサマツ編)出来ると良いなぁ……(他人事。
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