オグリが心配で、スタッフにさせて貰った。(完結) 作:ハヤモ
専門家も「知らんがな」と匙を投げる究極の栄養補給(漫画に出てくる新聞記事によると)をオグリはやっています。
オグリたち生徒がHRを受けていても、スタッフは忙しい。
食堂で働く者に関しては、朝早くから料理や仕込み、終われど買い出しがあり重バ場だ。
だからか。
無資格新人の俺まで駆り出されたのは。
いや、それは良い。
現場を尊重しよう。
オグリのそばにいられるようなモノだ。
だが。 だがしかし、である。
食べ放題にするなんて自殺行為だろ。
「私の夢はカサマツのウマ娘達を、全員お腹いっぱいにする事だ、新人君」
料理長。
芦毛の怪物は常人の夢で満足しません。
健啖家なんです。
地獄を見ますよ。 このままじゃ。
「これだけ用意したんだ。 大丈夫だ」
箱いっぱいの、仕込みが終わり挙げ待ちコロッケ。
大量のパンパンな米袋。
所狭しと置いてある。
大きな業務用炊飯釜も複数完備。
ふむ……。
量とトレセン生徒数、オグリのペース配分を思案する。
うん。
大丈夫じゃないです。
ヤツは体積を超える量を食べます。
俺は言ったが聞く耳持たず。
ウマの耳に念仏。 有難い言葉を理解出来てない。
俺が新人だからなのもある。
良いから仕事しろと突き放されてしまった。
そうか。
そうかそうか。
お前はそういうヤツだったんだな。
良いだろう。
百聞は一見にしかず。
しかと両目に焼き付けると良い。
オグリキャップの存在を。
最悪、他の生徒の食い扶持を潰しかけたら止めるくらいはしてやる。
そして やってきた晩御飯。
食堂にゾロゾロとバ群がやって来た。
各々が好きなだけコロッケと米を取り着席する中、ヤツが来た。
芦毛の子、オグリキャップ。
ジャージなのもあり、すぐ見つかった。
表情はキラキラしている。
普段はポーカーフェイスというか、クールな顔だけど、俺には分かる。
アレは喜んでる。
早く食いたい、という顔だ。
ぶるっちまうよ。 あの顔は。
そして、逃れられぬ恐怖が始まる。
オグリは20人前は軽く凌駕するコロッケを器用に皿に盛り、茶碗に見事なまでのライス・タワーを立て始めた。
そして、クールにそれを食す。
みるみる消えていく。
蒸発。 そう表現するに値しよう。
見えている分には清々しく、オグリが幸せなら俺も幸せだ。
だが周囲は引いている。
オグリの隣に座った「B」の髪飾りをつけたウマ娘はナニかに挫けそう。
この場においては悲鳴に包まれていた。
「ダメ! 在庫が足りない!」
「誰よ! 食べ放題とか決めたの!」
「お米もう無いです!」
厨房は阿鼻叫喚。
だから言ったんだ。
食べ放題は禁忌なのだ。
右往左往する厨房のおばちゃん。
そんな様子を気にする事なく、オグリは再び近寄って皿を出してきた。
クールな表情にヘソ出しボテ腹で。
「おかわり」
───バァンッ!
《本日終了》
おばちゃんは逃げるようにシャッターを閉じた!
「何故だ……」
シャッターの向こうから声が聞こえる。
涙目になるオグリが見える見える……。
「なんだ……なんだ、あの怪物は!?」
「ええい! 今年の新入生はバケモノか!」
「このままでは食糧庫が尽きます!」
「馬鹿な! 学生全員でも5年は満たし続けるだけの食糧庫だぞ!?」
「食べ放題じゃなく、これではやりたい放題だ!」
大して上手くない言葉を言い残し、厨房の皆は大急ぎで買い出しに行ってしまった。
すいません、俺は?
「あ、ああ。 後は我々に任せてくれ」
「済まなかったリョウマツ君……こうなる事を知らず、失礼な事を言った」
料理長が脱帽して、謝ってきた。
いや、もう仕方ないです。
「過ぎた事ですから。 それより、どうするんです。 もう食べ放題は止めた方が良いと思います」
下手すると、オグリの所為で他のウマ娘が飢えてしまう。
それは俺の望む光景じゃない。
オグリが幸せでも、周りが不幸になるのは望まない。
だが、料理長は穏やかな表情でクビを横に振る。
「いや。 可能な限り続けるよ。 あの子……オグリちゃんの事も満たしてあげたい。 私の夢はカサマツのウマ娘達を、全員お腹いっぱいにさせることだからね」
と、言って厨房を後にした。
夢を簡単には諦めたくない。
その想い。 俺にも分かる気がする。
オグリを追いかけて、ここに立っているから。
今度は俺が脱帽する番だった。
さて……この後はウマ娘たちは就寝の流れだろうか。
夜這いをかける勇気は無いが、そう、オグリが心配だから様子を見よう。
男性は寮に入っちゃダメな気がしたが、気がしただけだろ。
もし見つかっても知らなかったで通そう。
無理か。
でもバレなきゃ犯罪じゃないよね。
素顔を段ボールで隠し、俺は行動する。
段ボールはコロッケの匂いがした。
オグリの口の中も、今はこうなってるのだろう。
……ちゃんと歯を磨けよオグリ。
北原さんや、レースの話も出したいですね。