オグリが心配で、スタッフにさせて貰った。(完結)   作:ハヤモ

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なんとかカサマツ編も ここまで来ました。

間違いもあると思いますし、オリジナルの部分もあります。
ですが、楽しんでくれていれば幸いです。


第33R「last run」

 

『1番人気のオグリキャップ、ゲートに入ります!』

 

 

始まる。

 

俺はジョーの側で見守る事にした。

 

 

『───フジマサマーチがゲートに入ります! 集中力は充分といったところ!』

 

 

芦毛対決への期待。

 

同様の者が少なくない筈だが、俺やオグリにとっては重さが異なる。

 

あの時と同じではない。

 

マーチはキレて、オグリは中央への移籍を賭ける。

 

だけどレースでは冷静に走る筈。

 

それだけ実力を持つウマ娘だ。

 

暴走、掛かり気味になる事はないと見る。

 

気持ちは、ある。

 

トレーナー、アンタはどうだ。

 

 

「ジョー」

 

 

声を掛けた。

 

 

「……なんだよ」

 

 

シケた面で返事をされる。

 

隣のムサカさんがイラつく気持ちも分かる。

 

 

「決めた事だろ。 トレーナーだろ。

レースから目を背けるなよ」

 

「お前に何が分かる。 夢を奪われた様なモンだぞ」

 

「そんなアンタは、オグリの気持ちを考えたのか。 応援するファン達を考えたか」

 

「オグリキャップは……もっと高みを目指すべきウマ娘だったんだ」

 

 

俯いて。 腐ってウジウジするジョー。

 

なんだよ。 何回呟けば気が済む。

 

それは自分の都合だ。

 

 

「今は? 今のオグリキャップは?

まさか夢の為に負けてくれ、とでも? トレーナーなら自分とこのウマ娘の勝利を信じるべきじゃないのか?」

 

「……お前も、同じ事を言うんだな」

 

 

誰だろう、俺と同じって。

 

ムサカさんにでも言われたのか。

 

誰でも良い。 重要なのはそこじゃない。

 

 

「なら、信じてくれ。 俺も信じて応援するから。

カサマツの皆だって応援する。 勿論、勝つ事を信じてだ。

中央に行って欲しくないと思っても、負けて欲しいなんて思ってるファンなんているもんか。

いたら、ソイツはファンじゃねえ。 損得で測れる程、レースは冷淡な世界じゃない!

それはジョー! アンタなら知っている筈だ!

素人な俺よりも、ずっとずっと!

アンタ言ってたよな!? 自分の原点をさ!

その時の情熱は、レースを見た時の興奮、希望はどこにいっちまった!?

忘れちまったか、思い出せよ!」

 

 

目を合わせてくるジョー。

 

死んだ目に、僅かな光が揺らいで見える。

 

 

「ああ……ああ……ッ、そうだ、そうだよ。

その通りだ」

 

 

気を取り戻した面になり、前を向き直し始めた。

 

 

「レースは……レースに出るウマ娘は勝つ為に走るんだ。 負ける為じゃない。

トレーナーだってな、負けて欲しくて出バさせねぇんだ、勝つのを信じて送り出すんだ。

身を背けて自分とこの娘すら応援出来ないなんて、トレーナー失格だよな」

 

「これからだ、間に合うぞ」

 

 

ジョー共々前を向く。

 

ゲートにウマ娘が居並ぶ。

 

 

『本日のメインレース ゴールドジュニア。

まもなくスタートです!』

 

 

シー……ン。

 

誰もが声を殺す。

 

始まりの瞬間が、やってくる。

 

 

「始まる……」

 

 

気持ちをひとつにした一言が聞こえてきた。

 

俺かジョーか、半ば空気として見守ってくれたベルノライトか。

 

誰でも良い。 皆がそうだ。

 

そして。

 

 

ガシャコンッ!

 

 

開いた!

 

 

『ゲートが開いて今スタートしました!』

 

 

始まった!

 

堰を切れば、ワッと飛び出すウマ娘。

 

スタートダッシュは淀みない、最早紛う事なきアスリート集団。

 

凌駕し余り有る脅威の脚々。

 

それすら当たり前、驚嘆は上がらずとも始動とは心を揺れ動かすに十二分。

 

それがウマ娘。 それがレース。

 

 

『10バのウマ娘が一斉に飛び出します!』

 

 

デビュー戦の様な、バラバラしたものは皆無。

 

真剣勝負に違いなく、されど技量は格段に上。

 

ストライド、フォーム、皆まで見事。

 

綺麗な走りは それだけで魅了して止まない。

 

だが、目移りするのも最初だけ。

 

心に決めたシンデレラを応援するのみ!

 

それがファンだ!

 

 

「行けええええオグリイイイッ!!」

 

 

叫ぶ!

 

拳を前に出し叫ぶ!

 

俺を皮切りに、周囲も思い想いのウマ娘を応援し始める。

 

不良サンも、中央行きを憂いながらも負けろとは絶対に言わない。

 

言うワケない。

 

言うのは愛バへのエールのみ。

 

 

「オグリーーッ! 走れ! 走るんだァッ!」

 

 

それはジョーも一緒だった。

 

憑き物が取れたように、心の底から叫んでる様だった。

 

少し涙が出ている。

 

感情のままに、信じて叫んでるんだって分かった。

 

 

「……フンッ。 バカ野郎が」

 

 

ムサカさん、一瞥して満足気だ。

 

でも、少しは素直に言ってあげれば?

 

 

「オグリちゃん、頑張ってー!」

 

 

ベルノも応援する。

 

もうそれしか無い、そうするべき場所まで来たのだ。

 

出来る事せずして、何を成す。

 

 

『誰が行くんでしょうか、注目の先行争い!』

 

 

バ群から抜きん出る者はいない。

 

だが芦毛であるオグリとマーチは目立つ。

 

それも先頭集団側、3番手と4番手。

 

やはり後半、この2バが支配する布石とでも言いたげな位置取だ。

 

 

「マーチはオグリをマークしたな、予想通りとも言えるが」

 

 

ジョーが言った。

 

ちゃんとレースを見ていたんだ。

 

俺は思わずニッ、とした。

 

実況風に聞いてみる。

 

 

「解説お願いします」

 

「ああ。 つっても予想の域だが……前回、同時にスパートを掛けた時、マーチは先行していたにも関わらず抜かれたからな。

それを警戒して今回は後方でマーク、プレッシャーを与えてオグリのペースを乱そうとしているんだ」

 

 

展開から目を離さず、それでも語ってくれる。

 

 

「乱れるモンですか?」

 

「ぴったり着かれるって感じてしまうとな。 自身がどれだけ走っても引き剥がせないとなると、自分より余力があるとも捉えられるし、いつ抜かれてもおかしくない状態とも捉えられる。

そのプレッシャーはストライド走法や精神面、体力面、それらペース配分が乱れる事に繋がる。

そうなれば、マークしている側から有利に働く」

 

「でもオグリは天然だし、セカンドスパートは驚異的。

いくらマークしているからって、マーチに勝ち目は……」

 

「勝負は最後まで分からない。 レースに絶対は無い。

……マーチだって勝ちに来てるんだ」

 

「じゃあ、どうします?」

 

「そりゃあ」

 

 

一拍おいてから、

 

 

「キャップを応援するに決まってる」

 

「それが聞けて安心しましたよ」

 

「心配されるたぁ、歳を食ったもんだ」

 

 

隣、もっと歳食ったムサカさんいるけど。

 

ジョーは、ムサカさんを心配した事あるのかね?

 

レースを見る。

 

オグリは内側インコースを避けて走っている。

 

冷静に、だが気勢を保つ。

 

 

「内側に行かないのは、距離短縮よりカーブ時の遠心力に備えてですか?」

 

「いや、今日は不良バ場だ。 荒れている内側を走れば体力を消耗してしまう。

勿論、その分ロスはあるが、それでも走りやすい方が良い」

 

 

考えて走っている、という事か。

 

レースは改めて力任せでは無いと思う。

 

 

『ウマ娘達、向こう正面を通過! オグリキャップは前から3人目!』

 

 

引き続き応援を続けた。

 

1バ1バ、様々なドラマや想いで走ってる。

 

オグリも、マーチも。

 

それ故に譲れない。

 

中央がどうとか今は、今だけは良い。

 

 

『さぁ、後続が詰めてきた! 残り600M!』

 

 

直感した。

 

もうすぐ運命は決する。

 

 

『フジマサマーチ 一気に詰める!!』

 

 

マーチがラスト・スパート!

 

オグリとの距離が狭まる!

 

 

「来た! 仕掛けて来たぞ!」

 

 

ジョーは駆け出した!

 

 

「ジョー!?」

 

「お、おい!」

 

 

最後の直線側、最前列フェンスの前まで!

 

俺は追いかけ、ムサカさんの声が聞こえるも構わない。

 

走れ。 止まるな。

 

ジョーも、オグリも。

 

 

『第4コーナー回った! オグリキャップ現在3番手!

フジマサマーチ並ぶか!?』

 

 

ジョーは観客を退けながら、前へ前へと掛かり気味に進んでいく。

 

その所為か、誰かの足に引っ掛かったか派手に転んだ。

 

 

「ッ!!」

 

 

俺は脇を掴んで無理矢理にでも立ち上がらせる。

 

 

「立て! 立つんだジョー! お前も立って走れ!」

 

 

見やれば鼻血をダラダラ垂らし、地面に鮮血を描く。

 

それも構わないと、抱き起こされたジョーは前へ前へと前傾姿勢するように進んだ。

 

とうとう最前の柵まで辿り着く。

 

そうして叫んだのだ。

 

 

「オグリィイーーーーーーー!!!」

 

 

魂の奥底から、揺るがす声で。

 

 

「走れ!!! 走るんだァアアア!!!」

 

 

俺も負けじと、応援だ!

 

 

「頑張れオグリキャップ!!! 走れ走れ走れ!! 絶対に負けんなーーー!!!」

 

 

───気持ちは、共に走っている。

 

 

オグリは涙を浮かべて。

 

闘志溢れる笑顔を浮かべ、大地を蹴った。

 

 

───ドンッ!!

 

 

『オグリキャップ来たァア!!』

 

 

オグリ特有、超前傾姿勢!

 

これが本気の、いや。

 

声援を受けた……。

 

本気を超えたラスト・スパート!

 

大地を抉り、風を切る!

 

これが、これこそがオグリキャップ!

 

 

芦毛の怪物!

 

 

「良いぞオグリィイイイッ!!!」

 

 

追従を許さぬ圧倒的な末脚は、マーチと後続に大差を付けていく。

 

カサマツに別れを告げる様に。

 

その悲しくも力強い背に、ジョーは語る。

 

 

「そうだ、お前が時代を作れ! 世の中を変えてやれ!

お前の走りがヒトを励まし、勇気付け、生きる力を与えろ!

そして誰からも愛されるような……その愛に全力で応えてしまうような。

そんな、唯一無二のウマ娘になれ!」

 

 

心残りか、スローモーションにオグリの背が見えた。

 

 

『来た来た来たぁ!! オグリキャップ、先頭に躍り出たぁああ!』

 

「オグリー!」

 

「行けぇー!!」

 

 

いつの間にか、ジョーと俺の近くにはギャルとベルノ、ムサカさんも来た。

 

喜怒哀楽の、一体感。

 

その先へ、オグリは走る。

 

走って走って、走り続けた。

 

その僅かな一瞬、彼女は振り返った。

 

涙を浮かべて、相手を想う憂いの顔で。

 

 

───私……勝っちゃうよ?

 

 

そう言って聞こえた。

 

 

「……勝てば良いんだよ」

 

 

ジョーも涙と笑顔を浮かべて応える。

 

 

「お前は天下を取る、ウマ娘なんだからよ」

 

 

この瞬間、ふたりだけの空間なんだって気付いた時は ちょっぴり嫉妬したな。

 

 

───……ありがとう。 北原、リョウ……。

 

 

俺の名も聞こえた気がするけど。

 

 

『ゴォオール!!!』

 

 

ゴール板を潜った刹那。

 

運命は決した。

 

 

『オグリキャップ1着でゴールイン!

もはやカサマツに彼女を止められる者は いないのか!?』

 

 

ワァアァアァ───!

 

 

「オグリー!」「オグリキャップー!」

 

 

 

声援は、讃える歓喜の声へと昇華した。

 

カサマツレース場。

 

オグリキャップ、ラスト・ラン。

 

勝利の女神は、シンデレラに微笑んだ。

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