オグリが心配で、スタッフにさせて貰った。(完結) 作:ハヤモ
オグリキャップのウィニングライブ。
当然、最後まで見に行った。
決して広大とは言えない会場に、大勢が押し掛ける中。
俺やジョー、ベルノは関係者というのもあってか前の良い所に陣取る。
特等席……といっても、立ち姿勢。
でもオグリの綺麗な衣装と踊りを見れるのだから、最高の位置だ。
走って踊れるオグリキャップ。
露出度の高い衣装。
おへそ丸出し。
うん。 とても良い。
「はは……最初に比べりゃ、かなりマシになったな」
ジョーが苦笑い。
心の整理が付いた様だ。
「北原トレーナー」
不意に、いつか聞いた声が聞こえた。
振り返りゃ中央の制服。
周囲がザワつく。
それだけ凛とした佇まい、美貌と抜群のプロモーションは紛れもなくヤツさ。
「あっ、魔王ガ●ンドルフ」
「シンボリルドルフだ、貴様わざとだな?」
黒い笑顔で つっこまれた。
いやだって……●すとか黒い言葉じゃん。
既に黒いし。
「トレーナーには先ずとんだ無礼をした事、謝罪を述べたい……申し訳ない」
「いえ、そんな……」
なんか北原に謝ったよ。
ナニをしたというのだね。
「そしてリョウマツ君。 君には もっと言いたい事があるんだ……中央に来たら うんと叱咤激励したく思う」
御乱心かな?
あまり暴虐染みたら激怒するよ?
そして磔にされてオグリの前で鞭やら口籠を使用したハードな 裏切りの うまぴょい うまだっち をされるんだ、されちゃうのかよ。
「いや中央のトレセンには入れないと思うので、諦めて下さい」
残念でした!
素人が入れる場所なワケないもんねー!
「安心して欲しい。 丁度ヒト手が足りない部署があってね、君はソコに就いて貰う事にしたよ……フフッ」
悪魔の笑みを浮かべられた。
ナニソレ。 ガクブル。
「嘘やろ?」
「おめでとう。 中央に無試験無資格で即座に異動とは稀有な例だ。
"どこかの権力者達"には感謝しないといけないよ。
私以外にも、大勢待ち侘びている」
手招きしている美しいウマ娘達を幻視する。
天使かって?
いいえ悪魔です。
景色は赤色。
四肢が捥げそう。
中央が地獄に思えて来たんだが。
「ナニが感謝だ!? ゼッテー権力者の1バは君だろうよ! 職権濫用者め!?」
「心外だな。 君だってオグリキャップの側にいたいだろう?
衣食住。 至れたり尽くせりだぞ?」
「そんな配慮、嬉しくねぇよ!?
それにだ! 他のウマ娘の所や、もっと言えば中央トレセンに異動にならなくても良いんやで!?」
抵抗を試みる。
あっ、そうだ(唐突)。
カサマツトレセンの校長が許可しないだろ!
と、思ったが。
心を読んだか、魔王は先回りしていた。
「なに、カサマツの事は気にしないで欲しい。 校長は君の異動を快く引き受けてくれたよ」
「いやいや、ナニ当事者がいない所で進めてるの? 第二のオグリなの? 被害者なの?」
「君に諫言しても問題行動を何一つ悔い改めないというからな。 ひとつ肉体言語……こほん、中央の優秀な者達に調教して欲しいとも言っていたよ」
嘘だッ!!
買収されたか!?
いや脅迫か!?
「どんな汚い手段を取りやがった!」
「───今から内心忸怩たる思いで過ごすと良い。 府中で待っているよ」
あかん。 これじゃ死ぬぅ。
プライドも身体も色々バキバキにされる。
男の尊厳を踏み躙られる前に捨てる発言しておこう。
「すいません、中央舐めてました。 靴をお舐めします、許して下さい」
「フフフッ♪」
黒く、すげ〜笑顔。
楽しそうで何より。 俺は楽しくない。
「あ、あのルドルフ?」
付き添いのウマ娘が魔王に声を掛ける。
確か……マルイノガスキー??
「どうした」
「優越に浸ってる所悪いのだけれど、その、要件もあるし……何より周りがね?」
ハッとしてルドルフ共々見る。
周囲の人々はポカンとして見ていた。
北原もベルノも。
まさかの展開についていけてない、といった表情だ。
「こほんっ。 私語が過ぎた、申し訳ない」
おせーよ。
尊厳、カリスマ?
消し飛んだだろ、これで。
皆の心がひとつになった気がした。
「北原トレーナー」
この空気を置いて、キリッと話し始めるルドルフ。
いやもう良いです、進まないのも嫌だからね。
「アッ、ハイ」
……片言になろうと、進めば良い。
俺は逃げたい。
ステージからの目線も痛い。
「リョウマツ君が言っていた様に、貴方の夢を奪う形になったのは事実。
ですが、心に決めた事かと。 後悔はありませんね」
「はい……いや、正直ちょっと憎らしく思ってました。
ようやく叶うと思っていた夢を目の前で奪われたようなものですから。
でも、もう大丈夫です。 新しい夢ができましたから」
そう笑顔を向けると、オグリに向き直る。
オグリはステージの上で観客から中央行きについて問われている。
チラリ、とオグリはジョーを見る。
ジョーが頷くのを確認すると、オグリは答えた。
「私は今日のレースを最後に、中央へ移籍します!」
刹那、様々な声が。
行かないで、とか。
嘘だろ、とか。
ずっとここで走って欲しい、とも。
で、その中に不良サン……ギャルがいた。
滂沱状態だった。
「ノルンが泣いた!!?」
「涙など、とうに枯れたものだと……!!」
不良の目にも涙。
すげぇ。
『トレーナーの北原です』
気を取られていたら、いつのまにか北原がステージに上がっていた。
手にはマイク。
丁寧な言葉を選び、つっかえなく発言していく。
迷いは無い、って事かな。
『本日はオグリの応援、ありがとうございました。
皆さんのお気持ち、大変よく分かります。
かくいう私も、つい先日まで最強のウマ娘に駄々をこねておりました』
むっとなるルドルフ。
いいぞ。
俺も中央に行ったら、やり返してやる。
ヒヒンヒヒン泣かせまくってやるぅ……!
『……ですが皆さん、夢を見たくないですか?
このオグリキャップが『田舎の灰被り娘』が、中央の猛者達を圧倒する そんな夢を!
もっともっと大きな夢を、皆さんも見てみたくないですか!?』
それが新たな夢、か。
中央への成り上がり。
……俺は成り下がる。
想像し、生唾を飲む者もいた。
……俺もだよ、調教を思うと。
目を見開く者もいた。
……死んだ目だよ、俺は。
兎も角。
賛同者は多い。
そんな支持率の中。
ジョーは頭を下げて、お願いした。
『なので どうかお願いです! これからもオグリを応援してやってください!
私が保証します! こいつは絶対に俺達の期待を裏切らない!!』
言い切った次の瞬間。
「「「うおおおおおおおおお!!!」」」
応援する雄叫びが響いた!
「わたし応援するー!!」「やってやれー!!」「頑張れよー!」「行く前にサインちょうだい!」「中央に見せつけてやれー!!」
皆の期待を一身に受け。
オグリは改まって、ぺこりと頭を下げた。
うん。
ふたりの仲は、もう大丈夫だよな。
さて心配なのは……。
俺の身だな(絶望)。
中央では更なる悪夢を見るやも知れぬ……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
落ち着いた後。
皆で無観客となったレース場を見納める。
この景色を、故郷のレース場を、しっかりと見ておこう。
俺に限っては特に。
「オグリ」
口を開いたのはジョーだ。
「俺、中央のトレーナーライセンスに挑戦してみるよ」
マジか。
オグリ共々、驚いた。
ジョーは手の平を空に向けて語る。
「死ぬ気で勉強して、お前に見合うトレーナーになってみせる。
それが俺の、新しい目標だ」
グッ、と手の平を閉じて拳を作る。
うん、良いんじゃないかな。
代わって欲しいくらいだ、無理か……。
「北原……」
感傷に浸っていると。
ドドドドドドッと凄い音。
「なんだ?」
振り返った瞬間。
「!?」
ドワッと不良サンが飛び掛かってきた!?
オグリに向かって。
「マジで行っちゃうのかよオグリー!!」
「向こうに行っても連絡くれよー!」
「お前がいなくなったら、私は一体誰にイタズラすればいいんだ!!」
「なんかお前だけ違うな」
揉みくちゃにされるオグリ。
虐めてた不良サンが、ここまで懐くとは。
脚とは、ウマ娘にとっての指標なんだろう。
「リョウマツさんも行くんだろ!? いよいよイタズラ相手がいないじゃないか!」
「俺を巻き込むなよ」
勘弁してくれ。
そりゃ中央と比べたら、チビのイタズラが良い。
しかし。
中央の調教は末恐ろしいが、オグリと離れ離れになるより良い。
よって中央に挑む。
「そうだ、ベルノは?」
思い出し、周囲を見る。
ベルノは同じチームだが、中央にスカウトされたワケでは無い。
今まで良くしてくれたのに、離れると思うと寂しさが込み上げてくる。
いた。
いつの間にか、ジョーの隣に。
ナニか話し合っている。
「……その、ベルノは大丈夫か? 何か……言っておきたいこととか……」
「あ、ハイ。 私も中央行くので それは別に」
「そうか……え?」
へ、だよ本当に。
ベルノめ、ナンつった!?
「トレセン学園スタッフ研修生の編入試験受けたら合格しちゃって……」
合格しちゃって……じゃないだろォ!?
何故黙っていた!
あいや、落ちたら恥ずいしな、その保険もあったかも知れない。
でもココでカミングアウトですか……。
「やっぱり私、オグリちゃんとリョウマツさんのサポート続けたいなって」
「ええぇええぇええ!!?」
ジョーが叫ぶが、俺も内心叫ぶ。
怖い。
ナニがってカップルのサポートをしたいと発言したベルノライトが。
嬉しいだろォって?
考えてみて欲しい、ハンマーをチラッチラッさせてくる小娘が常にいるんだぞ?
鈍器である、ウマ娘に金棒である。
実はハンマーブ●スの転生者じゃないの?
「ベルノ好き」
オグリは純粋に好意を示し、抱擁する。
天然もまた怖い。
「あ、ありがとう……」
が、加減を知るオグリではない。
好きが先行し過ぎて鯖折りに掛かる。
ベルノが折れる折れると叫ぶので助けてあげる。
なんだろう、デジャブ?
……しまった、このまま予後不良……は縁起でもないので駄目だ。
「けほっ……ありがとうございます」
礼は中央で受けよう。
調教地獄から助けてくれ、マジで。
と、ザリッと別の足音が近寄る。
耳が良いウマ娘……オグリとベルノが先に気づき、俺は遅れて見やった。
「オグリキャップ」
「マーチ……」
そう。
カサマツの、もう1バの芦毛。
ライバルのフジマサマーチだった。
「お前のいない東海ダービーなど、まったく盛り上がりに欠ける……」
おぅ……。
マーチも、行って欲しくなかったんだなって。
「正直……今回、お前に負けたら二度とレースでは走らないつもりだった」
「!?」
これには天然オグリもショックを隠せない。
ウマ娘として青春を、ひとつのバ生を諦めるのと同義だから。
俺も、ちょっと待てよと言いたくなる。
「だが……気が変わった」
が、マーチは言う。
「やはり負けっぱなしは性に合わん」
そう言って、マーチは今まで見た事ない笑顔を浮かべたのだ。
「走って走って、走り続けて。 お前よりも永く ここ(レース場)に立ってみせるよ」
───なんだ、笑えるじゃん。
「中央でも暴れてこい、オグリ」
拳を前に突き出す。
この意味を分からないオグリじゃなかった。
「……あぁ、マーチ!」
オグリも拳を突き出し、ぶつけ合う。
行くのも、約束も許された。
じゃあ次は その約束を果たしに行くか。
ここまで彼女は頑張ったのだ。
讃える他、ナニがある。
「マーチさ、可愛いとこ あるじゃん」
「「え?」」
褒めよう、最後の別れ際くらい格好付けず。
「笑うと可愛いよ、うん。 1番可愛い」
「「…………」」
芦毛2バが作った拳を暫し見つめる。
待て。 嫌な予感しかしない。
「なぁオグリ。 リョウマツが 要らなくなったら私にくれよ」
「断る」
逃げよう。
思いったったら何とやら。
俺はスタコラサッサと遁走を始めた。
ウマ娘に敵うわけ無いのにねぇ、バカだねぇ。
「なら気を付けろ、浮気性だぞ」
「大丈夫だ、そういう時は どうするか決めているから❤︎」
「それは?」
「決まっているだろう?」
「そうだな、一緒にイイか?」
「勿論だ♪」
パッパカパッパカ!
おおっと!
後方から白い影!
驚異的な末脚の音!
オグリキャップとフジマサマーチだ!
それは芦毛の死神の足音×2!
レースで1位2位を争った怪物!
今、ふたつの拳が顔面に重なり合い……。
「「せーのっ」」
刹那。
バキッィッ!!
俺の身体から、人体が発してはならない軋みが聞こえたとさ。
その後、自慢の回復力で立ち直った俺は集合写真に混ぜられた。
ギャルの提案だ。
カメラマンは通りすがりの、カサマツ年配の先生。
居合わせた不良サンと、オグリとベルノ、マーチ、そのトレーナー……北原と柴崎、不良サンのトレーナーと……サーロイン? のトレーナー。
オグリを真ん中に、ウマ娘をセンターに寄せて、トレーナーは挟み込む形で左右に散る。
俺は ただのスタッフなのに、何故かバ群の中に立たされた。
オグリとマーチに抱きつかれ、挟まれる形だった。
うん、嬉しいよ?
でもさ。
目が腫れて、鼻血ダラダラのヤツがいるとか、もう察して状態だよね。
アルバムを見返す時、絶対弄られるヤツじゃん、これ。
俺は詳しいんだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その後。
東京府中へと新幹線等で向かう形になる俺とオグリ、ベルノであったが。
中央組のレベルにリバースしそうになる予想は的中する。
厨房を仕切るババァと揉めたり、送られてくる刺客をバ刺し寸前までカウンターを決めたり、URAの諮問会に殴り込んだり。
後は夜這いの如くウマ娘寮に侵入、すると自分以外の足音がカツンカツン……と。
振り返れば窓からの月明かりに照らされ、緑の服を纏う妖麗な女性がニッコリと……。
ジョーが中央ライセンスを取ってくるまでの間、受け持ってくれるムサカさんとも絡みつつ。
お嬢様な娘さん、武道派な娘さん、どこにでもいる不良娘とも出会い、タマとの再会も果たし、俺の調教中央道は始まるのであった……。
とにかく。
カサマツとはレベルが違うのであった。
さて。
レース絡みの思い出は一旦ここまで。
オグリキャップの物語は皆が知るところまで来たんじゃないかな。
ビターエンドでもハッピーエンドでも、彼女の影響を受けた駆け出しの一等星の話に繋げるのでも どうぞ お好きな様に。
…………。
ここからは とある芦毛娘の話をしようか。
天然で、大食いで、マイペースで。
だけど笑うと とても可愛いウマ娘との思い出話を。
これにて おしまい!
文才も知識も無い中での作品でした。
シンデレラグレイ カサマツ編、なんとか終わった感があります。
打ち切り感は否定出来ませんが(ドロップキック。
中央編やifを希望する方がいましたが、モチベや前述の事もあり、控えさて頂きます。
半端な話で気性難にしてしまったファンの皆様、改めて申し訳ありませんでした。
また、ここまで読んでくれた方々。 付き合ってくれて本当にありがとうございました!
ウマ娘に惹かれ、半端者ながらレースや歴史、世界観や多くの感動を与えてくれたコンテンツに改めて感謝を。
そして作者の二次創作に付き合ってくれたウマ娘を愛するファンの皆さまに感謝を。
改めて皆さま、ありがとうございました!