オグリが心配で、スタッフにさせて貰った。(完結)   作:ハヤモ

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オグリとベルノ、北原にスカウトされるの巻。
主人公は影から見守る素敵奥様型じゃありませんので、クビをツッコミます。


第5R「スカウト」

 

 

「頼む! 俺のチームに入ってくれ! まぁ、チームっても他 誰もいねぇんだけど……」

 

 

落ち着いた後、ジョーさんは改めてオグリに頼み込む。

 

その姿勢は夢追い人。

 

腐っていた目は消え失せ、若く輝いている。

 

 

「絶対後悔させねぇから!」

 

 

随分な自信だ。

 

だが悪徳勧誘の類ではない。

 

稀に見る本物だ。

 

大人のヒトも輝ける。

 

青春とは子供、学生だけの特権ではない。

 

それを実証して見せている。

 

歳上のヒトに思うにしては失礼だが、素直に羨ましい。

 

実は良いヒトなんだろう。

 

それが勢いだけでなく、ちゃんとオグリを見てくれるなら指導鞭撻の程を頼んで良い。

 

それがオグリの為になるなら。

 

無理矢理入園した挙句にレースを知らないスタッフといるよりはマシだ。

 

だが、はいそうですかと会ったばかりの男にオグリを渡したくはない。

 

そもそもオグリの気持ちは どうなのだ。

 

俺は不安気にオグリを見る。

 

会って間もない男について行くのかと。

 

幼い頃から注意したじゃないか。

 

ニンジン飴をあげるから、ついておいで とか言われても ついて行っちゃ駄目だと。

 

そんな俺の蠢く不安を察する事もなく、ジョーさんの熱弁も軽く流しつつ。

 

オグリは体前屈の姿勢を取っていた。

 

側には いつの間にか、別のウマ娘もいる。

 

友だちらしい。

 

Bの髪飾りを付けた娘だ。

 

食堂でも見かけた。

 

ゲートの時は、オグリを案じて立ち止まってくれていたな。

 

ただ、その所為でドベに。

 

その髪飾りに恥じぬBダッシュを見せつけてくれれば良かったのだが。

 

そんな特筆すべき特徴は無かった。

 

流石に都合良い走りは出来ない。

 

そんなウマ娘はヒソヒソとオグリと話し始める。

 

大の男2人が寄ってる状況だからね、訝しむのは仕方ない。

 

でもね。 こうして実際にやられるとね、意外とツラいんだよね。

 

 

「誰?」

 

「キタハラジョーンズとリョウ」

 

 

ジョーンズってなんだ。

 

蛇嫌いの冒険家か。

 

それかサメなのか。 でーれん なのか。

 

 

「……誰?」

 

「リョウは私の幼馴染」

 

「そうなんだ?」

 

「良いヒト」

 

 

よし。 良いぞ。 もっと褒めろ。

 

シャークマンより俺の評価が高い。

 

そりゃそうだ。

 

小さい頃から共に歩んで来たんだ。

 

どこぞのウマの骨ではない。

 

 

「頭に段ボール被ったり、不法侵入したり、ご飯を取り上げたりする」

 

「……えーと、それ、良いヒトなのかな?」

 

 

良いヒトだよ!?

 

ふざけるなよオグリ。

 

全部お前の為だからな。

 

 

「それより ちょっと背中押してくれる?」

 

「あぁ、うん」

 

 

一喜一憂している俺をスルーし、オグリは背中を押してもらう。

 

お腹が……胸が地面に着地するくらい前に倒れた。

 

相変わらず良い体をしている。

 

ルビーさんと俺が頑張った甲斐がある。

 

 

「わっ、スゴ……」

 

 

驚くBダッシュ(仮名)。

 

隣のジョーンズは何かを確信して尋ねる。

 

 

「その柔軟性、生まれつきか?」

 

「いや」

 

 

オグリより先に俺が答えた。

 

 

「むしろ 立ち上がれない程 膝が悪かった。

けど、オグリのお母さんと俺が毎日何時間もマッサージしてきたからな」

 

 

コクリとオグリは頷いた。

 

Bダッシュは「それでここまで……」と納得している。

 

そこまで話して、今度はジョーさんが語り始める。

 

 

「俺はスターを育てたい」

 

 

自分の夢を。

 

内に秘め続けていたであろう情熱を。

 

 

「多くの観客を魅了し、どんな期待にも応えてみせる、そんな圧倒的な存在を!

俺は お前の中にそれを見た! お前なら東海ダービー優勝も夢じゃねぇ!!」

 

 

なんか分からないが熱い男だ。

 

リングに上がる勢いじゃないか。

 

ところで。

 

トウカイダービーってナニ?

 

 

「と……東海ダービー!?」

 

 

Bダッシュが驚く。

 

驚いてばかりな気がしてくる。

 

 

「おう! 知ってっか?」

 

「知ってるも何もSPIの重賞レースじゃないですか!!」

 

 

ごめん。

 

ナニ言ってるか分からない。

 

聞いてみるか。

 

 

「サメを殴って重症になるレースか?」

 

「お前は何を言っているんだ」

 

 

 

ジョーさんが呆れた。

 

オグリはクビを傾げてる。

 

俺同様、分かってない この顔。

 

ほら良く見ろ。

 

俺だけじゃないぞ、分かってないの。

 

一方、聞いたBダッシュはコケた。

 

可愛い。

 

 

「えーと ですね……」

 

 

で、教えてくれたところによると。

 

SPIとはスーパープレステージの略。

 

重賞レースとは その競走における看板レースであり、中でもSPIは東海地区での最高格のレースを指す。

 

SPⅡ、SPⅢと続くそうだ。

 

なるほど。 分からん。

 

オグリを見る。

 

クールな表情を維持している。

 

俺には分かる。 アレは理解していない。

 

 

「あぁ。 東海地区の同年代で、最強のウマ娘を決める大レース。 俺の夢だ!

俺は この夢を何としても叶えたい! ここにカサマツに、スターがいるぞって伝えたい!

俺と一緒に夢を叶えてくれ! オグリキャップ!!」

 

「……よく分からないけど」

 

 

やっぱ分かってなかった。

 

オグリは立ち上がって、ジョーさんに相対する。

 

 

「チームに入らないと、レースに出られないんでしょ?」

 

 

そうなのか。

 

てっきりエントリーすれば誰でも走れるとか、安易に考えていたよ。

 

意外と残酷なんだな。

 

だって、こうしてスカウトされてチームに入らないと、走る事が叶わないのだ。

 

走る事が叶わない……。

 

ただ走るんじゃない。

 

レースという勝負の走りの世界に立つ事が出来ない。

 

ウマ娘にとって残酷な事だ。 きっと。

 

 

「なら入るよ。 キタハラのチーム」

 

 

オグリはクールな表情のまま、綺麗な瞳をジョーさんに向けていた。

 

 

「私をレースに出して」

 

 

私を甲子園に連れてって、みたいな?

 

なんという事だ。

 

俺も言われたかった!

 

飯屋に連れてってくらいしか言われた事ないぞ!

 

 

「……おう! 任せとけ!」

 

 

ナニゾクッとキてるんだジョーさん。

 

俺もキてるんだよ。

 

 

「じゃあ、書類にサインを……」

 

「俺も入れさせて欲しい」

 

 

だからハナを主張した。

 

 

「は?」

 

「リョウはヒトでしょ?」

 

 

当然、ナニ言ってんだお前みたいな顔をされる。

 

いや。 ウマ娘としてじゃないぞ。 勿論。

 

 

「アレだよアレ。 マネージャー的な感じ」

 

 

競技。 大会。 スター。 マネージャー。

 

これらワードから連想するのは、キャプテンとマネージャーの恋愛ドラマ。

 

苦楽の努力を通して、支える異性が側にいる。

 

吊り橋効果でも何でも良いが、あわよくば俺の気持ちに気付いて欲しい。

 

無理かも知れない。

 

だが何もしないのは違う。

 

そんな、褒められない情熱を内に秘めた。

 

 

「いや、お前……自分の仕事は?」

 

「時間が出来たら見に来ます」

 

「それは……お前、駄目だろ」

 

 

厨房やグランド整備、清掃の手伝い?

 

服の洗濯?

 

でも大丈夫だ。

 

オグリに鍛えられた。

 

 

「大丈夫です。 いつもやってる事をするだけでも、俺は役立つと思います」

 

「はぁ……?」

 

 

アピールするだけでも意味はあるが。

 

ジョーさん、分かってないな。

 

オグリの私生活を。

 

食堂を恐怖のドン底に堕とす日々を。

 

それをサポートする俺を。

 

その面、世話出来るのは俺しかいない。

 

世話無くして、オグリが走れると思うなよ。

 

 

「とにかく。 認めましょう、ジョーさんの熱い気持ち。

オグリも入りたいというなら、止める理由は無いです。 セクハラしなきゃねぇ!?」

 

「まだ引き摺ってるのか!? セクハラじゃねえよ! ソッチを先に認めろよ!」

 

 

また争いの気配を醸し出す。

 

それにBダッシュがクビをツッこむ。

 

オグリと北原の間に紛れて目を細めた。

 

 

うまぴょい(セクハラ)……? 北原さん、うまぴょい(セクハラ)したんですか?」

 

「してねぇよ! 冤罪だ!」

 

「君も気を付けた方が良いぞBダッシュ」

 

「Bダッシュってなんですか!? 私の名前はベルノライトです!」

 

「そうか。 オグリと仲良くしてやってくれライトノベル」

 

「ベルノライトですっ!」

 

 

明るく元気な子だ。

 

それでいて しっかりしてる。

 

俺は莞爾として頷いた。

 

この子が側にいるなら、少しは安心。

 

そう安堵しているところに。

 

書き終えたオグリが、バインダーをラノベに渡す。

 

 

「はい」

 

「え……?」

 

「……? 書かないの?」

 

 

オグリマジ天使。

 

灰色のシンデレラ。

 

 

「え、で……でも私は……! スカウトされてないし……」

 

 

俺はジョーを見た。

 

オグリがここまでしたのだ。

 

断ってみろ。 俺の拳が飛ぶぞ。

 

そして無理矢理サインさせるまである。

 

よし。 脅そう。

 

もし駄目なら。

 

 

「最悪は俺が貰います」

 

 

オグリの大切な友達だからね!

 

俺はラノベの頭に手を置いて撫でながら、不敵な笑みを浮かべた。

 

ラノベは困惑。

 

オグリは耳を後ろに倒している。

 

怒ってる。

 

何故?

 

幼馴染でも分からない事はあるよ。

 

 

「トレーナーじゃないだろ……あー、なんだ嬢さん。 まだ何処にもスカウトされてなかったのか。

行くとこないならウチに来い。 まとめて面倒見てやるよ」

 

 

ジョーさんは受け入れた。

 

オグリにゾッコンって訳でもないようだ。

 

その方が都合が良い。

 

 

「……当てウマにしよう」

 

 

ボソッ。

 

 

「へ?」

 

「何でもありません」

 

 

言う傍、ベルに手を差し伸べるオグリ。

 

耳は立っていた。

 

さっきのは何だったのだろう。

 

 

「よろしく、ベルノ」

 

「ッ! うん!」

 

 

手を取るふたり。

 

青春だね。

 

ここから始まるって感じ。

 

 

「……私、負けないから」

 

 

え?

 

言ったのはオグリである。

 

珍しい。

 

挑戦的な言葉を使うなんて。

 

でも、その真意は分からなかった。

 




オグリキャップ
誕生日:3月27日
身 長:167cm
芦毛 健啖家 天然マイペース

ベルノライト
誕生日:5月22日
身 長:146cm
栗毛 温厚篤実 実家がスポーツ用品店
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