オグリが心配で、スタッフにさせて貰った。(完結) 作:ハヤモ
ウマ娘はヒトと同じ食生で問題なさそうですね。
とはいえ、料理は詳しくないのでツッコミもあるかも知れません。
また、朝昼晩、食堂全ての描写があるワケではないのでオリジナルな部分が多分に含まれます(今更感)。
ご容赦下さい。
レース指導はジョーに任せ、俺は厨房に召集された。
やむを得ない。
これから昼である。
阿鼻叫喚の激戦である。
トレーニングを経て、空腹のウマ娘を相手に切り盛りしなければ。
食堂のプロな、おばちゃんですら対抗するのは難しいのだ。
特にウチの娘。
1番狂気ハラペコオグリ。
名を言ってはいけない例の怪物。
鉄の胃袋。
違うな。 烏滸がましい。
深淵の胃袋。 闇そのもの。
それでも食堂は努力をしていた。
ウマ娘が日々輝ける走りをする為に。
ヒト……スタッフも彼女達の為に努力しているのだ。
食糧を調達するには金と労力、保管スペースが圧迫される。
カサマツトレセン学園は裕福ではない。
設備、人員、土地、予算、練度。
不足を挙げればキリがない。
それらを節約しつつ、それでいて大勢の胃袋を満たすのは至難の業。
だが諦めない。 言い訳に使わない。
料理長は釈然と立ち直った。
「今まで芦毛の娘とは、どのように?」
「食事制限を掛けましたが……それは極力したくないのでしょう?」
「本望ではないよ」
「量で勝負出来ないなら、ハイカロリーで補ってきましたよ」
「それでも美味しい物を お腹いっぱい食べさせられるに越した事はない」
「ここはヒトにもウマ娘にも等しく戦場です。 飯が尽きるのは1番ヤバい筈」
「間違いない」
俺と協議し、あの怪物への対抗手段を相談。
指示の下、農家の方々を訪ねて回る。
品質は問題なくても形と大きさの問題で出荷されなかった野菜類を無料ないし格安で譲り受けた。
それなりに集まった。
保管場所は気にしない。
オグリ相手だ。
蒸発するから問題ない。
いや。 問題しかないが。
怪物による飢饉は現実と目前に、常に待ち構えているのだから。
せめてもの対抗としては、高熱量に仕立て上げる事。
調味料。
醤油。 バター。 チーズ。
砂糖と果物、牛乳等を用いてデザートをも考案してみる。
延命処置でしかない。
ウマ娘とはいえ、年頃の女の子に出すメニューとしてはキツいかも知れない。
でも何もしない訳にはいかなかった。
飢餓。
これだけは。 これだけは駄目だ!
絶対に何が何でも!
それだけは あっては ならない!
ここは厨房。
ウマ娘を支えるスタッフの最前線にして最終防衛ラインなのだッ!!
「リョウマツ君。 君は即戦力どころか我々のエースだ。 頼むぞッ!」
「最善を尽くします」
1列に整列する中、料理長に肩を叩かれる。
重バ場なのは、いつも通りだ。
「では参りましょうか」
諸君。 料理に愛を捧げよ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
おばちゃんがバシャウマのように駆け回り、集めてくれた糧秣の山と相対。
中には傷む生モノ、日持ちしない小魚が混ざっている。
どこで手に入れたんだ。
まあ良い。 使う。 使わざるを得ない。
ロハだろうと万額だろうと、食材に丸ごと愛情を注ぐ。
引いてはオグリへの愛である。
1匹1本足りとも無駄にしない。
余裕もまた、無い。
「おばちゃん達よ! 俺にチカラを分けてくれ!」
「任せて! 私達も伊達に厨房に立ってないわ!」
「手伝える事があれば言って頂戴ね!」
オグリに鍛えられた腕を試される時が来た。
短時間で大量の飯を作るのだ。
それもオグリ+他カサマツトレセンウマ娘。
体力と技術が必要だ。
効率を上げる為に下拵えされた野菜類はともかく、時間が無く裸体を晒す食材を前に包丁を2丁持ち。
割合の大きいキャベツとニンジンは、縦に交互に動かし叩きまくり細かく刻む。
一部は付け合わせのサラダとして そのまま使うが、皮を剥いたジャガイモは蒸してすり潰し、混ぜる事でポテトサラダにする。
だが野菜は決して脇役では無い。
小魚を小骨ごと叩き潰しボールに入れ、めん棒で磨り砕く。
そこに刻んだ野菜を練り上げ丸めると油で揚げた。
砕かれた骨のコリコリした食感、"わた"の苦味が食欲を唆らせ、野菜の甘みが疲れた体に染み渡る主菜として堂々のセンターを狙う。
一方、同時進行させるようにして大鍋でニンジンスープを作る。
此方は豪快にニンジンを丸ごと放り込んでいるが、雑なようでいて そうでもない。
火力を無理に上げず、バター、砂糖、塩、コンソメを入れて じっくり30分ほど煮る事で驚くほど柔らかくなる。
スプーンですくって食せるそれは、見た目の食べ応えと裏腹に、激しい運動後でも優しい甘さと温かさでウマ娘達を包んでくれる筈だ。
そして無駄とは言わせない。
デザートだ。
時に余裕の象徴かのように、真面目な頭デッカチに無駄扱いされる分野だが俺は そうは思わない。
カロリーを美味しく摂取出来る甘味は、頭の回転を上げる他、疲労回復に効果があるし、やる気を上げる期待も持てる。
今日はニンジンを使ったマフィンを焼く。
ニンジンは元より甘く、色も鮮やかで楽しい。
年頃の女の子にも嬉しい筈だ。
ニンジンは皮を剥き、ボウルで磨り潰す。
大粒が無くなったら、間髪入れずにサラダ油、砂糖を入れて磨り混ぜる。
次に溶き卵を加えて、よく混ぜる。
ホットケーキの素を入れて、粉気が無くなるまで混ぜたら型に流し入れ、180度に余熱したオーブンで30分焼く。
時間が経ったら取り出して粗熱を取り、女の子に媚びる為に制作したハート型ニンジンのデコレーションを載っけて完成。
複雑な工程でなくても、沢山のウマ娘にニンジンの自然な甘さと、ふわふわ食感を楽しんで頂く。
通年採れるニンジンは、葉から皮まで一片足りとも無駄にしない。
ウマ娘の多くが好物らしき野菜でありながら甘く栄養もあり、食のレパートリーが豊富にあるのは大変有り難い。
飽きさせるのもまた、俺や料理長、皆の望むものじゃないからな。
「で、出来た……」
ゼェ……ゼェ……。
鼻息荒く、嘶くどころか立つのもシンドイ。
「す、スゴいわリョウマツ君!」
「レベルが違う……!」
「中央の厨房でも通じるんじゃない!?」
すみません。 面白くないです。
あと中央ってどこ。
「ウマ娘たち来ましたー!」
「パターン葦毛! オグリです!」
来やがったなオグリ。
出来る事はしたぞ。
到底、オグリを満足させられないかも知れないが、飢えさせる事はしない。
「料理長。 我々が試される時が来ました」
「君は 我々が到達し得ない事をやり遂げた。 誇りなさい。 そして祈ろう」
息も絶え絶えな俺に手を差し伸べる。
オグリがしたように。
俺は手を取った。
背後では、おばちゃん達は皆に盛り付けをしていく。
頼むぞ。
オグリ、他のウマ娘……喜んでくれるか?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「美味い!」
「おかわり!」
「おいしい……」
「ズルい! 私も!」
大好評だった。
好評過ぎて、皆のペース配分がバグった。
オグリに全部喰われてたまるかと、競うようにカウンターに詰め掛けている。
オゥ……予想"害"デース……。
「疲れていても、食べ易いな」
「この団子。 魚肉の旨味と苦味、野菜の甘みが見事に混ざって良い。 コリコリした食感も楽しい」
「スープに大きなニンジンが入ってたのは驚いたけど……スプーンで掬えるくらい柔らかかったのは、もっと驚いた」
「食べ応えがありながら、解れる優しさと食べ易さ」
「デザートまで出るなんて」
「わぁ! ハート型のニンジン!」
キャッキャッヒヒーン嘶かれ、あっという間に食べられた。
皆も大食いになってしまったというのか。
「リョウの味は好きだ。 おかわり」
ボテ腹輝くオグリが、嬉しい事を言ってきたが。
すまない。
もう無いんだよ。
「ごめん。 もう無いんだ……」
「……何故だ」
「他の娘も いっぱい食べてくれたからね」
「リョウの料理が皆にも……むぅ」
耳が垂れる。
なんで、しょげる。
食べ物はオグリだけの物じゃないんだぞ。
オグリが1番だけどね。
「夕方まで断食しないと いけないなんて」
「そんな短いスパン、断食って言わねぇよ!?」
全く この娘がいると大変だ。
でも好き。
夕飯も作るんだろうけど、さて、どうしたものかね。