遊戯王 リスペクトストーリー   作:tbrh

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二話ですがまだまともにデュエルが出来ません。
ありえるのか……こんな遊戯王小説が……。




第二話 楽しいデュエル

 

紅璃の案内により、遠野はようやく校長室に辿り着いた。

手を振って彼女と別れ、地図に記された校長室の場所を改めて確認する。

 

「こんな上の方にあるなんて……校長先生も楽じゃないって事なのかなぁ」

 

窓から見た景色が想像していた以上に高かったため、遠野はここに来るまでの苦労を重ね、これから合う校長先生に僅かに同情した。

よしっ、と気合いを入れて着衣の乱れを正し、一つ咳払いをしてからドアをノックする。どうぞ、と応える声に従って入室すると、豪奢な机に腰掛ける校長先生らしい人物と共に、アカデミアの教師らしい、中年と言うにはまだ若い男性が脇に控えていた。

 

「遠野悠、本日着任しました。その……お待たせして申し訳ありません」

 

挨拶もそこそこに、待ちくたびれた様子でこちらを睨み付ける教師に頭を下げる。もう予定されていた時間は大分超過してしまっていた。

 

「いや、構わんよ。迷わずたどり着ける人間の方が珍しいくらいだからな。アカデミアにようこそ、遠野先生」

 

初老の校長は鷹揚に頷き、遠野に顔を上げさせた。

 

「既に聞いている通り、君には彼に代わりデュエル実技を担当してもらう。彼はどうもこの頃体調が優れないようでね。本土への転任を希望していたのだ」

 

そう言って傍らの教師を指し示す。遠野には、確かに彼の表情には疲れが見えるような気がした。

 

「丁度良いと言う言葉は少々不謹慎かもしれないが、まだ着任先の決まっていなかった君に白羽の矢が立ったというわけだ」

 

「いえいえ、書類ミスも怪我の功名だったって事ですね。それで憧れのセントラル校に来ることが出来たんですから!」

 

本来彼は本土にある別のアカデミアに赴任する予定だったのだが、他の教員の赴任が既に決まっていた枠に誤って彼の名が記載されてしまっており、その事で色々と発生してしまった問題を解決するために彼が赴任を辞退したことで彼の赴任先が宙ぶらりんになってしまっていた。そんな人間がいたことは、この教師にとっては幸運であった。

 

「散々歩き回って疲れただろう。今日はゆっくり休み、明日、彼から仕事を引き継いでくれたまえ」

 

そう言うと、校長は男性教師に頷いて見せる。

 

「……自分が教員宿舎に案内しましょう。ついてきて下さい」

 

「はい、ありがとうございます。あ、では失礼します!」

 

せわしなく退室していく遠野を見送り、校長は窓の外に目をやった。

 

「憧れのセントラル校、か」

 

 

 

一般教科や座学の講義を終えた一年生の生徒達が、必修科目である実技の授業に集まってくる。

今回は新任の教師が赴任してくると言うことで、屋内デュエル場が使われることになった。全員でバラバラにデュエルを行うのではなく、ランダムに選ばれた一組だけがステージでデュエルを行い、その内容を題材に、戦術や構築、プレイング等の議論を行う形式の講義に主に使用される場所である。

他にもサークル活動や個人での使用も許可を取れば可能となっており、争奪戦となることも珍しくない。

ステージ前に集まった生徒達の前に立ち、実技担当の男性教師が声を上げる。その傍らには、先日着任したばかりの遠野悠の姿もあった。

 

「皆集まりましたね。今日はまず、皆に報告があります。私は近いうちに、諸事情により本土に戻らねばならなくなってしまいました」

 

その声に、生徒達がざわつく。

 

(ああ、なるほど)

 

ただ、新任の教師である遠野に既に出会っていた紅璃だけは納得したように頷いた。同時に思う。

 

(……可哀想に)

 

「そういうわけですので、今後は彼、遠野先生が実技の教師を担当することになります。どうぞ」

 

「あ、はい。ありがとうございます。紹介にあずかりました、遠野悠です。彼に代わって実技を担当させてもらうことになります。まだ教師になったばかりで色々不便をかけることもあると思いますが、よろしくお願いします!」

 

緊張しているのが傍目にも分かるその様子は、ざわついていたその場の雰囲気を幾らか和ませた。

 

「今日は彼に授業を見てもらう意味で、この形式とすることにしました。誰か、代表でデュエルを行いたい人はいますか?」

 

その声に、生徒達が元気に手を挙げる。

 

(おお……皆やる気満々って感じだ)

 

皆のやる気に、遠野は自分も気合いが入るのを感じた。

手を挙げた生徒の中から二人を男性教師が指名し、審判役の彼を残し遠野を含む全員が観客席に場所を移す。

 

「準備はよろしいですね? では……」

 

 

『デュエル!』

 

 

「俺の先攻! 俺は手札から剛鬼スープレックスを召喚! そして効果により手札から剛鬼ガッツを特殊召喚!」

 

(おや?)

 

現れた筋骨隆々の鬼達を見て、遠野は首を傾げた。

 

「更にこの二体をリンクマーカーにセット! 聖騎士の追想イゾルデをリンク召喚! 聖騎士の追想イゾルデと剛鬼ガッツ、剛鬼スープレックスの効果がそれぞれ発動! 剛鬼再戦、剛鬼ヘッドバット、剛鬼ツープラトンを手札に加える!」

 

首を傾げた拍子に、遠野は生徒達の間に見知った赤みがかった栗色の髪を見つけた。そちらに向かって僅かに身体を寄せ、話しかける。

 

「やあ、また会ったね」

 

「ん。一日ぶり」

 

サーチを繰り返す生徒の声を聞きながら小さく挨拶を交わす。

 

「あのデッキは彼自身のデッキなのかな?」

 

「合ってる」

 

「本土の授業はアカデミアで用意する授業用のデッキを使う物だと思っていたけど、ここでは違うのかい?」

 

「あるにはある。けど、使ったこともないし、使っているところを見たこともない」

 

会話を交わしながらも、彼らの視線はデュエルの方を向いている。そして、デュエルは更に進行していく。

聖騎士の追想イゾルデの効果で剛鬼マンジロックが特殊召喚され、更に手札から特殊召喚されたヘッドバットと共に剛鬼シャドウオーガがリンク召喚される。墓地に送られた剛鬼達はまた効果を発動し、剛鬼死闘、剛鬼スープレックスが手札に加わった。

 

「剛鬼再戦を発動! 墓地の剛鬼スープレックスと剛鬼ガッツを特殊召喚! そして剛鬼スープレックス、剛鬼ガッツ、剛鬼シャドウオーガをリンクマーカーにセット! 現れろリンク4! 剛鬼ザ・ジャイアント・オーガ! フィールド魔法、剛鬼死闘を発動して俺はターンエンドだ」

 

「1ターン目からエースを出して来たか!」

 

「いいぞー!!」

 

「まぁでも、効果使い損ねたのは勿体なかったよな」

 

大剣を携えた屈強な鬼のプロレスラー。その圧倒的な存在感に、生徒達から歓声が上がる。

 

(おや?)

 

またもや遠野は首を傾げた。

剛鬼ザ・ジャイアント・オーガの耐性は強力であり、壁とするなら悪い手ではない。彼が疑問に思ったのは既に同名ターン1制限によって効果を使えなくなった剛鬼達をリンク素材にしてしまった事ではなく、先攻1ターン目にも関わらず相手の展開を阻害する盤面を作ろうとする気配を見せなかった事である。

 

「……フェニックス、マスカレーナ、グリフォン」

 

漏れ聞こえてきた紅璃の呟き。生徒達の方にチラリと視線を向けると、楽しげな生徒達に混じり、不満げに眉を顰める生徒達が混じっていることに気がつく。

「俺のターン! ドロー! そいつには散々苦しめられてきたが、今日は思い通りには行かないぜ! 俺はジャンク・コンバーターの効果発動! サテライト・シンクロンとこいつ自身を墓地へ送り、ジャンク・シンクロンを手札に加える! ジャンク・シンクロンを召喚して効果発動! 墓地のジャンク・コンバーターを特殊召喚し、墓地からの特殊召喚に成功したことで手札のドッペル・ウォリアーを特殊召喚! レベル2のジャンク・コンバーターにレベル3のジャンク・シンクロンをチューニング! ジャンク・ウォリアーをシンクロ召喚、効果発動! シンクロ素材となったジャンク・コンバーターの効果により墓地からサテライト・シンクロンを特殊召喚! これで攻撃力は3800だ! 更にレベル2のドッペル・ウォリアーにレベル2のサテライト・シンクロンをチューニング! アームズ・エイド!」

 

対戦相手の生徒が召喚したのは、仲間の力を結集して戦う青紫の装甲に身を包んだ機械の戦士。そして機械仕掛けの巨大な掌。嘗て伝説のデュエリストが相棒とした、由緒正しいモンスターである。

 

「バトルだ! ジャンク・ウォリアーで剛鬼ザ・ジャイアント・オーガに攻撃!」

 

指示に従い、ジャンク・ウォリアーが上空に飛び上がる。更にスラスターが火を噴き、急降下の勢いを乗せた拳が剛鬼ザ・ジャイアント・オーガに向かって振るわれる。剛鬼ザ・ジャイアント・オーガも大剣を振りかざして応戦し、ステージに轟音が鳴り響いた。

 

「攻撃力で越えてきたか! だが、ジャイアント・オーガは戦闘で破壊はされないぜ!」

 

「とっておきの秘策があるのさ! 俺は攻撃宣言時、ジャンク・ウォリアーを対象に手札から速攻魔法スクラップ・フィストを発動! 戦闘ダメージを倍にし、戦闘を行った相手モンスターをダメージ計算終了後に破壊する! いっけぇ! スクラップ・フィストォ!!」

 

ジャンク・ウォリアーの拳を受け止めた剛鬼ザ・ジャイアント・オーガの大剣にひびが入る。そして次の瞬間、大剣を粉々に打ち砕いたジャンク・ウォリアーの拳が剛鬼ザ・ジャイアント・オーガを貫いた。

 

「うわああああ!?」

 

「もう一体も逃がさないぜ! アームズ・エイドで聖騎士の追想イゾルデを攻撃だ!」

 

この攻撃によりモンスターが全滅し、ライフポイントも大きく開く。エースモンスター達の熱い戦いに、遠野は生徒達と一緒に拍手を送った。が、やはり疑問はあった。

 

(あの盤面ならジャンク・ウォリアーを召喚しつつ、制圧用のモンスターを召喚することも出来た筈だけど……)

 

生徒達の中にもやはり、戦闘時には目を輝かせたものの、そのままの盤面でターンを終えたことに少なからぬ不満を持つ生徒達が散見された。

このデュエルは最終的に持久力に勝る剛鬼を使用した生徒が勝利し、両者共に相手の健闘を湛えながらステージを降りた。観客席から見ていた生徒達も教師を含む三人に合流する。

 

「ナイスデュエル!」

 

「まさかあのジャイアント・オーガを一ターンで倒すなんてな……しかも必殺技なのが熱いぜ」

 

「お前も何か言えよ。良いデュエルだったろ?」

 

口々に二人を称賛する生徒達の内一人が、黙っていた生徒に話を振る。

 

「あぁ……うん。良いデュエルだったんじゃ……ないかな」

 

気のない返事をするその生徒に、話を振った生徒が眉を顰める。

 

「なんだよその反応。不満でもあるのか?」

 

「そ、そんなことないよ」

 

「だったらちゃんと褒めてやれよ。黙ってないでさ!」

 

「どうしたんだい? 二人とも」

 

強い口調で責める生徒の肩に、手が置かれる。彼が後ろに顔を向けると、ニッコリと笑う遠野と目が合った。

 

「意見交換は喧嘩じゃないんだから、もう少し優しく喋らないと」

 

「べ、別に喧嘩じゃないんですよ。こいつが、あのデュエルに不満そうだったから……」

 

責められていた生徒に目を向けると、彼は話したくないというようにそそくさと距離を離していた。

 

「僕もいいデュエルだったと思うよ。何より、二人ともとても楽しそうだったしね」

 

「ですよね! 俺もあんな風にやりてーなー」

 

遠野の同意を得られたことで、生徒はそれ以上その話に触れることはしなかった。

 

「……さて、ではここで遠野先生にも感想をもらいましょうか。こちらに来ていただけますか?」

 

「あ、はい! それじゃ、また後でね」

 

話していた生徒と別れ、遠野は男性教師の傍らまで移動した。すると、後ろに下がりながら彼が小さく耳打ちをしてきた。

 

「……もっと制圧しろ、等とは決して言わないで下さいね」

 

「? わかりました」

 

少々驚きながらも、遠野は素直に頷いた。新任の教師がどんな感想をくれるのか、生徒達の間には二つの期待が入り交じる。

 

「え~っとまずは、二人ともお疲れ様でした。研修中もあまり見たことのない、とてもいいデュエルでしたよ!」

 

それは彼の、偽らざる本音である。彼の思ういいデュエル、とは、まず対戦を行った二人が笑顔である事が絶対条件なのだ。

その言葉に紅璃を含む何人かが落胆の表情を浮かべ、沢山の生徒が拍手を送った。

 

「ですが二人とも、まだまだ上を目指す才能はあると思います。知識的なところや瞬間的なコンボ選択等の技術は後から付いてくるかと思いますので、デュエルの色々な楽しさと共にその辺りをちゃんと僕も教えていきたいですね! ……これくらいでいいですか?」

 

「結構です。ありがとうございました。ではそろそろ、次の対戦者に出てきてもらいましょうか」

 

再び動き始めた生徒達の中で、紅璃はつまらなそうに小さく溜息を吐いた。

 

 

 

「あ、先生! お疲れ様です」

 

実技の見学後、座学の方にも顔を出した遠野は職員室に戻る途中で先程共に授業を行った男性教師を見つけ、声をかけた。

 

「おや、遠野先生。向こうはどうでした?」

 

「ええ。楽しく見学させてもらいました!」

 

「楽しいばかりでは困るのですがね。ちゃんと要領は掴めたのですか?」

 

「そ、それは問題ありません! ……多分」

 

気づいた教師も声をかけ、簡単な会話の後二人は並んで歩き出した。

 

「それでちょっと気になったんですけど……ここではプロの世界で行うような、実践的なコンボや戦略の授業はやらないんですか?」

 

放課後の職員室周りは生徒の出入りが少ない。生徒がいないことを確認してから、遠野はずっと感じていた疑問をぶつけてみることにした。

 

「やっていましたよ。と言っても、二年ほど前までですが」

 

「二年前って……結構な期間になりますね。それに、生徒達の態度もなんだか少しギスギスしてますし、何かあったんですか?」

 

それを聞い男性教師が立ち止まる。

 

「……少し長話をしましょうか。こちらへ」

 

教師は丁度横にあったドアを開け、その中に入っていく。遠野も後に続くと、そこは小さな会議室だった。四角形に置かれた長机に、向かい合うように二人は腰を下ろす。

 

「二年ほど前、今は三年生となった生徒達の間で、とある運動が起こったのです。彼ら曰く、今のデュエルはつまらない、デュエルの楽しさを減じている、このままではデュエルは駄目になる、と」

 

「つまらない……」

 

それは、些細な諍いが発端だった。

いつものように行われるデュエルモンスターズの授業。今のような風潮のない、デュエルエリートを育てる気風のセントラル校では、毎年プロデュエリストも招いての対戦会イベントが開催される。遙か昔に行われたジェネックスというイベントを始まりとするそれは、以降セントラル校の伝統として受け継がれてきた。

その年もイベントが開催され、プロの世界を夢見る生徒達とプロデュエリストが混ざり合い、戦いを繰り広げた。諍いがあったのはその最中の事である。

 

「参加したプロデュエリストは手心を加えることなく、容赦ない戦いで生徒達を倒していきました。これ自体は毎年のことですし、生徒に簡単に負けるようではプロなど名乗れません。生徒達もやられながら、その技術を吸収しようとしていました。しかしその年、プロデュエリスト達の中に一人、他と少々異なる者がいたのです」

 

一人のプロが、そんな彼らを批判した。曰く、そんなデュエルでは相手も観客も楽しくないだろう、と。彼もまた生徒達とデュエルを行っていたが、その内容は敗北した生徒達も思わず興奮するような拮抗したものであった。彼は言う。相手のことをリスペクトし、互いに理解し合うことで初めてデュエルは本来の楽しさを発揮するのだと。

 

「彼の言うことも分からなくもありません。実際、プロの世界で研鑽され尽くしたデッキは使い手の信じる最も強い展開を安定して行えるように調整されているため、拮抗した実力者が相手なら兎も角、生徒が相手では毎回同じ展開を繰り返すだけになっていましたから、自分も相手も楽しくはないでしょう。それこそ、相手のデッキのことなど考える必要すら無い程の実力差なのですからね」

 

「……」

 

最初は鼻で笑っていた相手も、しつこく食い下がる彼の熱意や彼に同調する生徒達に次第に苛立ちを募らせていった。そしてデュエルが行われた。

 

「結果は言うまでもありません。リスペクトを掲げる彼の敗北です。これが、それなりに拮抗した内容だったのであれば色々と違ったのかもしれませんが……一方的な制圧試合となってしまったのです」

 

イベントは終了したが、彼に同調していた生徒達の落胆は激しかった。特に、デュエルは楽しいものだと考えていた生徒達ほど、この結果は納得できないものだった。

彼らは考える。こんなにも楽しくないものがデュエルでいいのか、デュエルとは相手を倒すことが全てなのか。相手のことも考え、リスペクトすることは悪い事なのか。

「そして一部の生徒達の間で、制圧カードを使用せずにデュエルを行うという事が始まりました。その手応えが余程良かったのでしょう。次第にそれは手札誘発やカウンター罠、相手の行動を阻害する行動全般へと拡大していきました。そしてそれは水面下でシンパを増やしていくと言う形で行われていたため私達も気づくことが出来ず、気づいたときは学内の生徒殆どが彼らの言うリスペクトデュエルに染まっていたのです」

 

「リスペクトデュエル、ですか……」

 

その言葉に、遠野の表情が曇る。

 

「件のプロとて、こんな考えを望んでいたわけではありません。彼も手札誘発やカウンターの類いは使用していました。しかし、そんなことを言ったところでもうどうにもなりませんでした。そして彼らが圧倒的な多数派となってしまったことで、彼らの意に反するデュエルの授業は行う事が実質不可能となっているのです」

 

教師とて制圧や妨害を行った生徒を庇えばボイコットや排撃の対象となり、そのような事を教える授業は誰も単位を取ろうとしない。無論それでは卒業させることは出来ないが、ここは伝統あるデュエルアカデミアセントラル校。創設者の威光を曇らせないため、万が一にも集団留年や退学等という不名誉な実績で傷をつけることは出来ない。

そこまで話し終え、教師は席を立った。

 

「全ては力不足の言い訳でしかないのですがね。ですが、私はもう疲れました。身代わりにしてしまった貴方には申し訳ないのですが……」

 

「先生」

 

言葉を遮り、遠野が席を立つ。その表情は、柔らかく微笑んでいた。

 

「色々と事情を教えていただいて、ありがとうございます。今このセントラル校がとても大変なことになっていることは、理解しました」

 

「でしたら、余計な問題を起こさず思想が風化するのを大人しく待っていて下さい。所詮は一過性のものだと思いますので」

 

「いえ、それではやはりダメだと思います。彼らは精一杯デュエルモンスターズを楽しもうとしている。それ自体はとても素晴らしいことです。でも、それが他の生徒達を虐げることになっているのは、違うと思うんです」

 

彼は、紅璃を初めとする、何人かの生徒の様子がずっと気になっていた。しかし、思想の強要を行おうとする生徒達への接し方が分からなかった。しかし話を聞いて、決意が固まったのである。

 

「……修羅の道ですよ」

 

「こ、怖い表現をしますね。でも、いえ、ですから!」

 

遠野は、デュエルディスクを構えた。

 

「最後に気合いを入れていただきたく思います!」

 

その様子に教師は面食らったように目を見開いてから、ハァー、と大きな溜息を吐いた。

 

「わかりましたよ。餞別には丁度良いでしょう」

 

教師が壁のボタンを操作すると長机が床下に引っ込み、壁にライフポイントを表示するモニターが現れた。今時、デュエルに対応しない会議室など存在しない。

教師も、デュエルディスクを構えた。

 

「ネットデュエル以外で自分のデッキを使うのは久しぶりですが、お相手しましょう」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 

『デュエル!』

 

 

 

 






どうすれば皆がリスペクト流に染まるのか、中々良い理由付けが思いつかなかったので色々とよく分からないことに……。
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