ずっと一緒にいた幼馴染。
 これからも変わらずいると思っていた。



 *友人たちとそれぞれオリジナルを創作しようという話から仕上げた短編もどきです。
  よければお読みください。

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 課題ついでに書いていた短編もどきです。
 これはこれで自分の実力のなさを感じますが、よければ楽しんでください。


恋とは

 俺と彼女は、よく言えば幼馴染、悪く言えば腐れ縁という関係だった。家も近所、幼稚園から一緒のクラス。あまりにもベタ過ぎるが、俺も彼女もギャルゲーとかにありがちな恋愛感情を意識する、ということは全くなかった。おなじみの一緒に登校、買い物の付き添いやどこかに一緒に出かけるということも度々したが、それだけだ。特に何かあるわけでも、意識するということもない。また、同姓だとちょっと分からない問題や異性だからこそ話ができることもあり、互いに相談相手となっていたため、お互い異性というよりも、異性のことをよく分かっている友人という程度だった。その上、周りの奴らも俺と彼女のそんな関係を知っているため、特に話題に上らないというのも原因なのかもしれない。

 ごくたまに事情を知らない奴――下級生や転校生――が囃し立てるが、それも数分で消えてしまうほど波風が立たない。

 さすがに思春期になればお互い意識するのかと思っていたが、中学・高校ともに合いも変わらず接していたため、さらに異性と見なさなくなってしまった。お互いあまりにも気にしていなかったため、高校で知り合った奴から『付き合ってないのに恋人みたいなカップル』という奇妙なあだ名を付けられたものだ。

 そんな俺たちだったから、これから先もこんな関係が続くものだと思っていた。互いを異性と思わず、互いを大切な友人であると思い、馬鹿なことも他の奴に言えない事を言い合うものだと。でもそんな日々も、あの日、久々に別々で帰った、ただそれだけで、そんな未来が無くなるとは、思えるはずなかった。

 

 俺は今、彼女の両親とウチの両親と一緒に、あいつが運ばれたという病院に来ていた。

 俺が家に帰った時、両親が慌てている彼女の両親を落ち着かせていた。いきなりのことに驚いていた俺に気づいたウチの母は俺に、彼女がぶっ倒れて病院に運ばれということを伝えた。それも学校を出て数分行った神社の鳥居の前で、だ。正直いきなりのことで理解できていなかった俺と未だ混乱中の彼女の両親を母が引っ張り、父が運転する車で病院まで向かった。

 看護婦の案内で彼女がいる病室まで行ったのだが、部屋に入ると医者らしき白衣を着た三十代の男と数人の看護婦がいて、当の彼女はぐっすりとベットでお寝んね中だった。両親の気を知らずに、それはもうぐっすりと。

 そんな様子に、呆れるのを通り越して苦笑してしまったのだが、医師の説明により、そんな考えも吹っ飛んでしまった。

 最初に思ったのは、珍しく冗談を聞いたなぁという逃避だった。だってそうだろう、さっきまで元気だったのに、特に何処も悪いわけではないのに、おかしなこと言うんだなぁこの人は、なんて考えて。

でも、そんな逃避をしていた俺の耳には、確かに、とても残酷な知らせが響いていた。

 ――彼女の命は、もって一月だと。

 

 今の医学では、遅らせることはできても治すことはできないということを、とても悔しそうに話す医師。それを聞いて崩れ落ちる彼女の母。それを支える彼女の父親とウチの母。ウチの父は、目をそらすことしかできないようだった。そして俺は彼女の近くで、何の表情も無く佇んでいたらしい。後で母に言われて知ったのだが、そのときから家に帰るまでの記憶が無い。気がついたら家に帰っていて、部屋でうずくまっていた。

 彼女には、病気のことは言わないという結論になったらしい。だが彼女は知っていたのだろう、自分の死期が近いことを。

 あの後初めて見舞いに行ったとき、彼女に言われた。

「あたし、あとどれくらいなのかな」

 俺は、何も言えなかった。

 それからの俺と彼女の関係は、これといって何も変わらずいつも通りだった。病気のことも最初の一回だけで、後は本当に普段の会話に戻っていった。それこそ彼女が病気で無かったかのように。

 だが日が経つうちに頬の肉等が段々と痩せ細り、起きている時間も短くなっていった。

 そんな彼女を、俺はただ見守り、いつも通りな会話をすることしかできなかった。たとえ寝ていても、声が出しにくくなっても、ただただいつも通りに。

 そして、宣告された刻(とき)がきた。

 

 彼女の姿からは、もう昔の面影を残していなかった。たった一月で人は変わるものなのだと知らされた。できれば知りたくなかった。

 彼女の周りには看護婦や担当したあの医師、彼女の両親、友人たち、そして俺と俺の両親がいた。すでに親たちは涙を流し、友人たちも涙をこらえながら声をかけていた。だが俺は、涙を流すこともせず、ただただ彼女の近くに立っていた。

 すると、彼女の閉じられていた目蓋が開き、眼をゆっくりと俺のほうに向けてきた。それに俺は少し驚き、さらに驚いた。

 近くにいた俺の手を、彼女は痩せ細ったその手で掴み、引き寄せると、一文字一文字手の甲に文字を書いてきた。ゆっくりと、時間をかけて。そしてできた言葉は

 

 

「あ な た が す き で し た

ご め ん ね」

 

その瞬間、今まで彼女といた時間が走馬灯のように頭に流れてきた。そして、今理解した。

 俺は、本当は彼女のことが好きだったのだ。何でも無いと自分を律していたのに、知らず知らずのうちに彼女のことが愛しい存在となり、でもその気持ちを伝えることもせずに、ただの幼馴染というポジションに甘えていただけだ。本当は初めて会った時から気になっていたのに、何でも無い振りをして誤魔化して、それで言いと納得させて、自分の気持ちを無かったことにしようとした。彼女もそれでいいはずだと勝手に決め付けて、結局伝えるのが怖かっただけだ。

 でも、彼女の言葉を聞いた途端、そんな抑えられていた気持ちが壊れてしまった。目から大量の涙を流し、彼女の手をきつく握り締め、言葉にならない言葉を吐き、謝り続けた。そんな俺を、彼女は笑いながら涙を湛えた目で見て、そして最期の瞬間、彼女は穏やかな表情をしながら、

「ありがとう……さよなら……いつまでも忘れないよ……」

そう言って、彼女は……そして俺は……

 

 彼女の最期を看取った後、医師から折りたたまれた可愛らしい便箋を受け取った。

 そこには、彼女の思いが少し書かれていた。

『こんなことを亡くなってから言うのは卑怯かなとも思ったけど、言うね。

あなたと初めて出会ったときから、ずっと好きでした。

 あなたといた日々は、かけがえのない宝物です。

 友達のように過ごしたあの日々は、実は恋人になった時にしたかったことだったんだ。

 だから、私はとても満足でした。

 もし、あなたが納得いかなかったら、今度はちゃんと告白してね。

 私はいつまでも待っているから。

 本当に、いままでありがとう。

 また、会おうね。

                 あなたのことが好きな彼女より』

 

 

 

 俺は此の先、恋はもうしないだろう。たとえ他の誰かを好きになっても、少なくともあの時以上の恋は二度とできないと思う。それぐらい俺と彼女との恋は、忘れられない最高の恋だったんだと思えるのだ。

 




 お読みいただきありがとうございました。
 正直自分はオリジナルのほうがさくさく出るみたいなのですが、二次のほうもよろしければお願いします。

 ありがとうございました。


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