大和特攻始末記   作:オットー・カリウス中尉

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空襲

昭和二十年四月七日未明・横須賀技研本部

 

四条貴明大尉は連日、徹夜で対艦誘導弾の研究をする如月正宗大尉の部屋を訪ねた。

 

「如月、差し入れだぞ」

 

「四条、すまんな。大和は今、どこかな?」

 

四条貴明は、壁にかかってる日本地図の種子島辺りを指差した。

 

「そうか、種子島か・・・・沖縄に行けるかな?」

 

「今日の沖縄方面の天気は曇天と聞く。上手くやれば、空母機動部隊の裏をかくことができる」

 

「上手くやれば?」

 

四条は地図をなぞりながら、如月に説明した。

 

「種子島から沖縄本島へ直進すれば、向かってくるだろう水上部隊を相手にするだけでいい」

 

「水上部隊?」

 

「おそらくは、米海軍の戦艦娘も大和を討ち取りたいと思ってるからさ・・」

 

「なるほど。四条、貴様はここに来る前、呉で大和達の電探の整備をしたそうだな。その成果を知りたいのか?」

 

「それもあるぞ。最前線の修羅場を見た俺としては、大和たちに死に花を咲かせて欲しいんだ!」

 

四条の思いは理解できた如月は、無理だぜと言わんばかりに首を振った。

 

「しかし、沖縄にいる戦艦は10隻だぜ。半分が立ちふさがるとしても5隻だ。全滅は間違いなしだぜ!」

 

四条も尤もだと頷くが、答えた。

 

「戦艦2隻やれば御の字だろう。しかし、航空機に嬲られるよりはマシだぜ。願わくは、日吉のモグラどもが余計な口出しをしないことを祈るよ」

 

「余計な口出し?」

 

如月の疑問に、四条は、地図をなぞりながら答えた。

 

「鹿児島沖を横切り、佐世保に退避するように見せかけて、大回りで沖縄へ突撃なぞという小細工はしないことだ」

 

「もっともだな・・小細工して勝った試しがない!」

 

再招集されて戻った海軍でも、段取りの悪い上層部に振り回されている二人は、大和の活躍を願いながらも、学ばない上層部を嘆いた。

 

四月七日朝・鹿児島沖

 

「開聞岳は、これが見納めになるかしら?」

 

「そうだろうな。今まで特攻機を見送ってきたあの山は、艦隊の見送りをするわけさ。直掩機は来るかな?」

 

「伊藤中尉にも、地獄行きに付き合って欲しいの?」

 

大和を無援護で出すことに納得できなかった宇垣提督の計らいで、伊藤中尉(伊藤提督の息子)率いる戦闘機隊を艦隊の直掩に出したと聞いた矢矧は、池山に聞く。

 

「ああ、付き合って欲しいね。水上艦隊の最後の出撃に直掩なしはあんまりじゃないかな?伊藤のやつ、特攻隊に回るらしいな。可哀想に・・・」

 

「そういう、あなたのお父様は山本元帥の同期だけど、特攻艦隊でしょ?」

 

「3人兄弟の末の俺は、覚悟して軍人になったんだ。でも、アイツは、伊藤長官の一人息子だよ。平和な時なら、いい医者になって大勢の人を救うことが出来るだろうに・・・」

 

池山の嘆きを聞いた矢矧は、傘下の雪風達に対空陣形をとるよう命じた。

 

「朝霜どうしたの?」

 

「司令、悪い肉離れを起こしたよ」

 

タービンに不具合が生じて18ノットしか出せなくなった朝霜は、指揮下の初霜と霞に、本隊に付いていくよう命じた後、落伍した。

 

「修理には、どれぐらいかかるかしら?」

 

「5時間はかかる・・・終わったら全速出して追いつくよ」

 

「頼んだわよ」

 

「ああ悪い、アタシの分も残しといてくれよ」

 

これが朝霜の姿を見る最後だったが、大和達は朝霜が戻る事を信じて20ノットで先を急いだ。

 

「ユウグモ型が落伍した。ヤマトはそのままウェストにヘッドしてるよ。司令に報告」

 

「了解!」

 

偵察のヘル猫達の報告を受けたバンカーヒルは、軍議を開くと戦艦娘達にも告げた。

 

彼女は、軍議に先立って根回しはできたか姉に聞いた。

 

「姉さん、巡洋艦と駆逐艦は私達の味方になってくれるかしら?」

 

「しっかり根回し済みよ。戦艦連中が反対したら数で押し切るよ!」

 

「そうね。年増どもが動く前にヤマトをKillするよ!」

 

軍議は始まった。バンカーヒルが、戦艦達に現状の説明を始めた。

 

「偵察隊からの報告によると、ヤマトは西に向かって航行、サセボに向かって退避しようとしてるそうよ。我々はカミカゼに警戒をしつつ全力をもってヤマトをKillする。わかったわね!」

 

「待ってよ!ニューメキシコ長官に、話さないと・・・・抜け駆けはダメ!」

 

最後になるだろう戦艦同士の正面決戦を叶えさせたいサウスダコタが反対した。バンカーヒルはその思いを嘲笑った。

 

「あのさぁ~私達、第58機動部隊は、戦略上、適当と判断すれば独自で動いてもよいとニミッツ太平洋長官から許されてるの!この但し書きに基づいて、我々はヤマトをKillする!これで納得してくれるかしら?」

 

「納得しないよ。ヤマトは来る。彼女もニューメキシコ姉様達と同じく、この戦いがバトルシップの時代が終わると知ってる。必ず姉様達に正面から挑むわよ!」

 

「必ず・・その証拠はどこにあるの?」

 

「そんなものはない!強いて言うなら、私達戦艦が持つ誇りよ!」

 

戦艦の誇りと聞いて鼻白んだバンカーヒルは答えた

 

「話にならないわね・・まあいいわ。軍議は出撃と決まったわ!攻撃隊、発進準備!」

 

「待て、待つんだ!」

 

作戦室のドアに立ち塞がったサウスダコタやミズーリは叫ぶ

 

「正気かしら・・上官反逆罪と敵前逃亡の容疑で訴追するよ?」

 

「正気よ!」

 

サウスダコタ達6隻は、16in砲を空母達に向けた。

 

「バンカーヒル、私達を力で排除するなら、これが直撃するわよ!」

 

「・・・・直撃したらタダで済まないことは知ってるよね!」

 

脅迫されたバンカーヒルは馬鹿にした表情で笑った。

 

「バカへの説得は無駄か・・バーミングハム、サウスダコタ達6隻はカミカゼの攻撃を受けてPTSDになった。司令官の権限に基づき、6隻の身柄を拘束、ドクターに見せてやりなさい!」

 

「仰せのままに!サウスダコタさん、ミズーリさん、身柄を拘束します!」

 

バックアタックした巡洋艦娘や駆逐艦娘は、戦艦達の身柄を拘束した。

 

「攻撃隊は10時に出撃」

 

「了解!」

 

エセックス達は、嬉々として本体に戻ったが、Task4を率いるイントレピッドは本体に戻るのを躊躇った。

 

「姉さん、早く行きなさいよ」

 

「司令、本当にいいの?何か良くないことが起こるんじゃないかしら?」

 

「姉さん、バカなことを言わないでよ!働きが悪い姉さんを第一線から下げようと話が出てるんですよ。姉さんにも手柄を立ててもらわないと・・私達が困ります!」

 

「でも・・・」

 

「嫌なら、姉さんの脳をハックして無理矢理でも攻撃隊を出させるわよ!」

 

「わかったわよ・・出すわよ!」

 

「わかりました・・熟練整備妖精を回しますわ!」

 

本体に戻った姉を見送りながら、バンカーヒルは呟いた

 

「これは正義のステイツが悪のJAPを裁く正義の戦よ!」

 

75年後の天界

 

どこぞの映画のように、駆逐艦部隊の鼻先を通過して、挑発する2機のF35にイラついた彼女達は戦闘行為とみなして扶桑姉妹達に攻撃を開始した。

 

「・・どうしましょう、全弾直撃ですよ」

 

「バカ、これからが本番だぜ!」

 

どこぞの宇宙世紀物OVAのように、ダミーの外装をパージした姉妹は真の姿になった

 

「どうせ虚仮威しだ・・対艦ミサイル再装填!目標、JAPのデカブツ2隻」

 

「山城、お任せします」

 

「私の本当の力を見てくださいね!」

 

上空にいる高槻達に微笑んだ山城は、後部格納庫からRビットを展開させて、レーザー砲を反射させた

 

「すげぇ、MAですね」

 

「そうだな・・次は扶桑さんの番だぜ!」

 

扶桑は、両脇の155ミリ・リニアーガンをVSBRのように構えて駆逐艦群に発砲した。直撃を受けた2隻の駆逐艦が吹き飛ばされた。

 

「ビビるな反撃だ!」

 

体勢を立て直した駆逐艦娘は出力を最大にしての接近戦を2隻に挑んだ。

 

「接近戦ですか?甘いですね!」

 

「質量を持った残像だと!」

 

推力を機動力に切り替えた扶桑は。宇宙世紀物の映画のような高機動で近接攻撃をやり過ごすと、76年前に嬲り物にされた恨みを晴らすように、迫る駆逐艦娘に反撃を開始した。

 

「ウワァ~逃げろ」

 

「逃がしませんよ!」

 

半分近くの兵力を失って遁走する駆逐艦連中をニコニコしながら狙撃する扶桑を上から見守っていた高槻は、扶桑姉妹に言う。

 

「扶桑さん、前座はその辺で切り上げて、後は第三艦隊に任せろ。艦載機が相手では分が悪いぜ!」

 

「そうでした・・山城、私たちの遊びはここまでですよ!」

 

「わかりました。姉様・・敵艦載機多数が接近中と電探が探知しました」

 

扶桑姉妹が第3艦隊の方向に逃げ出すのを見届けた高槻は、接近する敵の大群を見て、呟く

 

「F4・F111B・F14・F18・A6、ステルス機はないようだぜ」

 

「でも、あの360機が第1波なのでしょう。あの数ではゴッドさん達もキツイですよ。」

 

「連中の腕を信じよう。俺たちの仕事は他にあるぞ」

 

「そうでした・・・高槻さん、どっちに行きますか?」

 

「俺は第一遊撃部隊の支援に向かう。貴様は第二遊撃部隊の支援に迎え!」

 

「了解しました!」

 

現在の彩雲を操る二人は、愛宕と足柄を支援するべく別れた。

 

(続く)


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