1945年4月7日午前10時過
「ホーネット、発進準備完了、司令、発信許可を願います」
「姉さん、発艦を開始してください!」
「了解。ベニントン、ベローウッド、サンジャシント行くよ!」
バンカーヒル直率のTask3攻撃隊に続いて、ホーネット(2世)率いるTask1攻撃隊も発艦、両部隊は並行して敵に飛んでいった。
「私とエセックス姉様のヘル猫がヤマトに接触を続けてる。接触機の指示に従いなさい!」
「了解しました」
拘束した戦艦本体のコントロールをハックしたエセックスが、発艦作業の指揮をするバンカーヒルに聞いた。
「イントレピッドの発艦はまだ?」
「カタパルトが不調だから発艦できないとゴネているのです!」
「あの子は、何が不満でゴネてるのかしら!?まあいいわ、これ以上ゴネたらアンタのコントロールを奪って私が攻撃隊を発進させると伝えなさい!」
「わかりました」
コントロールを奪うと脅されて観念した、イントレピッドは、熟練整備妖精に発艦を急げと命じた。
「イントレピッドより報告、10時45分に発艦するってさ」
「姉様、ご苦労様です。期せずして波状攻撃ができますね。いいことを思いついた。イントレ姉にトドメを刺させてあげましょう!」
「そりゃ、いい・・コンスティチューション大姉様からイントレピッドに名誉勲章と感状をいただけるようアンタが手配しなさいな?」
「いい案ですね~」
「予定通り、みんなをアンタの格納庫に集めて、上映会するの?」
「当たり前じゃないですかぁ~。私から発進したアベンジャーの半分に撮影妖精を乗せました。ヤマトをKillした事実を永久に残します!」
「アンタも悪ねぇ!」
「姉さん程じゃありません!」
この抜け駆けが何を起こすか、考えてない二人は笑った。
同時刻・第一遊撃部隊上空
「援護機、去って行きます。貴艦の健闘を祈るとのことです」
「うむ。ご苦労。ここからは俺たちの力で進むことになる。辛いが頑張れよ!」
電探を任された井上兵曹長を激励した池山は、持ち場の防空指揮所に戻り、援護機を見送る矢矧も激励した。
「ここからは、俺たちだけで頑張るぞ!」
「ええ・・四条大尉が直した電探はどうなってるの?」
「ああ、13号・21号・22号全部正常に作動してる。さすが帝大の優秀生だね」
「それは良かったわ。後は中尉がそれを生かしきれるかどうかよ」
「ああ、レイテみたいに一方的に奇襲されるヘマはさせない。君と一緒に死ぬまでが、俺の仕事だよ!」
「そう、その時はお願いね・・一ついいこと教えてあげる。11時方向から敵の偵察機が接近してくるわよ」
西に進路を取る艦隊から見て、敵機を左斜めから探知した矢矧が言った。
頷いた池山は、9時から12時方向の警戒を重視せよ、と命じた。
「敵大型機が艦隊に接近してきます」
「よし、艦長に報告」
矢矧からの報告で大和も決断した。
「主砲で追い払います!」
轟音と共に前部の6門から三式弾が発射、驚いたカタリナ飛行艇は沖縄方面に逃げ出した。
「アレが大和の三式弾よ。心強いでしょ?」
大和の真横を進む霞が、後ろの冬月に言った。
冬月は頷いて、聞き返した。
「霞さんは怖くないですか?私は怖いです」
「そうね・・対潜護衛はしてきたアンタにとって今回が初めての艦隊防空ね。ビビるのもしょうがないかな?」
「霞さんは、どうなんですか?」
「私も最初は怖かった。初めての戦でヤラかしてしまったわ!」
「そうなんですか?」
「ええ、初霜も雪風もみんなそう・・初めての時はみんなヤラかすのよ。生き残れた証拠を恥じることではないわ」
「そうですか・・じゃあ生き延びれるコツは何ですか?」
開戦からずっと最前線で頑張ってきた霞は答えた。
「敵の急降下爆撃機を早く発見することね!連中から目を背けなければ、死神は来ないわよ!」
「はい、わかりました。で、雷撃機はどうなんです?」
「あんなものは論外、雷撃機の魚雷は艦底をすり抜けるわ!無視しなさいな!」
「とにかく急降下爆撃機に気をつければいいのですね。ありがとうございます!」
冬月は霞に礼を言って本体に戻った。霞は後方を見ながら呟く
「朝霜はどうなったの。早く戻って来てほしいわ!」
落伍して、早3時間の朝霜が気にかかる霞だった。
75年後の天界
「長官、敵機の編隊を発見!随分な数だぜ」
上空哨戒するF35を操縦する、岩井勉中尉が報告した。加賀が答える
「了解しました。進藤少佐と志賀少佐の戦闘機を発進させます。中尉は接触を続けてください」
「了解だ」
「加賀提督、万事うまくやってるが、俺の出番は無しかな?」
第一機動艦隊兼・第三艦隊長官として総指揮を執る加賀に声をかける男がいた。山本五十六提督である。
「そんな・・山本長官がおられるから、翔鶴も大鳳も私に従っているのです。私だけではとても・・・」
「五航戦と一緒にしないでと言った君も丸くなったな。俺はここで加賀達の戦を見守らせてもらうだけさ・・それはそうと加賀、さっきデッキに降りて、高槻が呼んできた助っ人と世間話をしてきたぞ」
「ゲイリー・マックバーン大尉、ミッキー・サイモン中尉、フーバー・キッペンベルグ少佐ですか?」
そうだと頷いた山本は言う。
「俺が『フーバーはともかく、マックやミッキーはなぜ、こっちに来た?』と聞いたら、マックは、『自分が乗ってたレディーレックスは地上なのでね』と答えたよ」
「・・・サイモン中尉は何と?」
「ミッキーは、『タカツキにF35を操縦させてやると聞いて飛んできた』と答えたよ」
「志賀少佐や岩井中尉と同じ動機ですね・・長官、マック大尉達が出撃します」
「そうか・・・見送りに出るぞ」
艦橋で敬礼する加賀と山本に気づいた3人はそれぞれの流儀で挨拶して発艦した。
「マック、フィフティシックスはセイラー相手にでもしっかりと敬礼をすると聞いた噂は本当だったようだな」
「おい、ヤマモトはフィフィティシックスと呼ばれるのは嫌だとタカツキが言ったことを忘れたのか?」
「ヘイヘイ、わかったよ。戦闘機隊の指揮は誰が取るんだ?」
舌を出して反省したミッキーがマックに尋ねた。マックに代わってフーバーが答えた。
「マック、俺は貴様が仕切るべきだと思うがどうか?」
俺が乗っていたメッサーに比べたら、最近の戦闘機はテレビゲームだなと苦笑しているフーバーが答える。
「俺も異存はない。マック、第二波はあんたがやれ」
「了解、全機俺に続け!ミッキー、昔の仲間でも容赦するな!」
「俺たちの時にジェットは飛んでないぜ・・まあ、いいや、派手にやらせてもらいますよ」
大部隊を追跡する岩井機は、相棒の岩本機に近づいて話しかけた。
「虎徹、随分な数だぜ。やれるか?」
「やるさ、ゴッド、でも、俺たちがやるのは早期警戒機か・・マッチャン達に手柄とられるのは正直癪だけどな」
「敵の目を潰すことは、5機落とすより重要だぜ。戦争中の記憶を忘れたわけではあるまい?」
戦争中、早期警戒を怠って奇襲を食らい続けたことを思い出せと注意する岩井に、岩本も反省した。
「違いねぇな、ゴッド。じゃあ俺達は目潰しと参りますか」
敵のレーダーに映らないように注意しながら、F35を飛ばす二人だった。
同じ頃、第一遊撃部隊は、秘密裏に散開して、空母群近くに潜んだ。
「島風、敵の数はわかるぅ?」
匍匐で近づいた愛宕が、斥候に出た島風に『お肌の触れ合い通信』で尋ねる。
「空母が6隻・巡洋艦10隻・駆逐艦20隻といったとこかな?」
「わかったよ・・別命あるまでそこに待機しなさいね~ふふ」
愛宕は、違う場所に潜む矢矧達のところに行き『お肌の触れ合い通信』をした。敵の数を知らされた矢矧が答える
「随分な数ね・・・・撃って出ないの?」
「私達が撃って出るのは、加賀からの命令があってからよ~ふふ」
矢矧は、アヤカシから宛てがわれた、118キロでポストユトランド型の舷側装甲をぶち抜ける155㍉レールガンを扱て遊びながら尋ねた。
「艦載機が、甲板に並んでる今がチャンスだと思うけど・・ダメなのかしら?」
「ダメよ!今、飛び出したら、艦載機に迎撃されてサマールの再現、第一次攻撃隊は加賀達がなんとかするから、泡吹いて、第二次攻撃隊が出してきた後に飛びかかるの!」
127㍉レールガンを抱えた雪風が、二人の会話に加わって矢矧をたしなめる。
「そうですよ。高槻中尉達と加賀にいる山本提督に任せれば、絶対大丈夫!」
「歴戦の勇士である雪風が、それだけ太鼓判を押すなら、間違いないか・・・いいわ、私も高槻の命令を待つわ」
このやり取りは、第二遊撃隊を指揮する足柄と狙撃兵として参加した霞と那智との間でもあったようだ。
昭和二十年四月七日十一時過ぎ
大和の13号電探が、敵機の大編隊が近づいたと探知した。
「敵は約束を破りましたか・・是非も無し!雪風は居ますか?」
「はい、ここに!」
「皆を集めなさい。敵は約束を違えました・・」
「・・・わかりました。朝霜には何と」
「我々は、ここから南に向かいます。貴女がどうするは、お任せしますと伝えなさい」
「わかりました」
矢矧達、第二水雷戦隊の8隻が、大和の防空指揮所に集まった。大和は、機動部隊は約束を破ったと伝えた。
「こうなっては是非もありません。天佑を信じて突ききるのみ!」
「はい、我ら、全員命をかけて、長官をお守りします」
朝霜を除いた第二水雷戦隊は大和に向かって敬礼した。
大和は、皆の思いに感謝した
「私は、ここから皆の働きを見させていただきます!」
「そんな・・・長官は司令塔にお入りください!」
「いえ、私だけが、安全圏で震えているわけには行きません。私も皆と共に戦います」
「わかりました。私達の存分な働きを、そこでご覧ください!雪風、長官を頼むわよ!」
「はい、お任せください」
雪風を大和の側に残した矢矧達は、それぞれの本体に戻り敵が来るのを待った。
「中尉、頼むわよ」
曇天が空を覆ってるのが気になった矢矧だったが、池山に声をかけた。
「わかってる。いきなり奇襲を食らうようなヘマはしないぜ!」
「期待してるわ・・・阿賀野姉、能代姉、私に力と勇気を!」
池山を激励した矢矧は、先に逝った姉のことを思いながらも、防空指揮所で、池山と共に戦うことを決意した。
12時過ぎ、機銃員を一時的に中に退避させた大和が、敵編隊に対して三式弾が放たれた。
「ククク・・・随分なフィアショーね。だが私たちは下がらないわよ。散開して襲いかかれ!」
三色弾は不発だった。
上空の雲から切れ切れに見える第一次攻撃隊は、格納庫でスクリーンを設けて戦況を見守るバンカーヒルの指揮に従い、二方向に分かれて、襲いかかってきた。
その時、朝霜から通信が届いた。
「朝霜より第一遊撃部隊、我、敵30機と交戦中、貴艦らの健在を信じつつ、後に続く」
「朝霜、もういいわよ!あなたは退却して!」
矢矧は朝霜に伝えた。数分後、朝霜より返事があった
「機銃も砲も破壊された・・重油の流出が止まらない。雷撃機も来やがった・・ここまでだ。夕雲姉さん達のところに逝く・・・天皇陛下万z・・・」
「・・・朝霜から反応ありません」
「彼女のためにも力を尽くして戦います!」
矢矧から朝霜の最後を教えられた大和たが、決意を新たにして迎撃した。
75年後の天界
「進藤より各機、全員無事か?」
「赤松より指揮官、全員無事です!完勝です!」
進藤と志賀が率いる戦闘機隊は、損害なしで第一次攻撃部隊を退けたようだ。
「貴様ら、さすがだな」
「はい、高槻さんから貰ったオモチャは最高です!このオモチャが30機あれば・・」
「その続きは言うなよ。あの時の俺たちは宛てがわれたモノで、頑張るしかなかったのだ!」
進藤は敵を撃退したと加賀に報告した。
戦果を知って喜んでいる加賀に、山本が、話しかけた。
「その表情だと、進藤達は上手くやったようだな?」
「長官、攻撃隊を撃退しました・・・さすがですね」
「そうか、第二次迎撃隊は今どこだ?」
「はい、5分後に戦闘空域に到達します。第二次攻撃隊と敵の第二波が交戦を開始した時に、第一遊撃部隊と第二遊撃部隊に総攻撃するよう、高槻中尉と日高曹長に送信します!」
加賀の措置に満足した山本は、うんとうなづきながら、答えた
「上々だ。高槻と日高なら上手くやってくるだろうさ・・勝ちが見えたな。久しぶりに一局するか?」
あの大敗北と同じことをしようとする山本に苦笑した加賀は、答えた。
「78年前、長官が私に乗ってればあのような惨敗はなかったので、戦が終わった後にお相手します!」
「そうだったな・・・」
1時間後、加賀は、両遊撃部隊の上空に待機する高槻達に、通信を送った。
「高槻、マックバーン大尉達が、第二次攻撃隊を撃退したわ」
「加賀さん、総攻撃か?」
「ええ、76年前と同じミスをしたくないから、愛宕と足柄にも、通信を送ったわ。」
「上出来だ。今度は徹底的にやるんだな?」
「ええ、弾着はお願いします」
「任してくれ!」
高槻は、敵位置等の射撃諸元を第一遊撃部隊に送った
「高槻が指定する座標に撃ったら当たるのね?」
「そうです!でも、敵も電探を侮ってはいけません。一発毎に、陣地変換しないと反撃されます!」
「何事も一長一短っていうことね…いいわ、雪風、やるわよ!」
「はい、頑張ります!」
矢矧と雪風は絶好の射点位置に向かった。
斥候に出た島風と旗風から愛宕に報告が届いた
「司令、敵は航空機妖精どもの着艦を開始したよ。そろそろ仕掛けるべきじゃない?」
副司令官の金剛が、愛宕に近づいて、『お肌の触れ合い通信』した。
「愛宕、そろそろ攻撃開始だYo~」
愛宕は頷いて、命令を下した。
「ミサイルベイ展開・・・・目標、敵機動部隊、ミサイルを撃ち尽くしたら各艦、個別に目標を定めて突撃!」
摩耶も、成長体になった羽黒に 『お肌の触れ合い通信』をした
「羽黒、日頃の鍛錬の成果をアイツらに見せてやるぞ!」
「はい・・大丈夫です。これを限りで悪夢を忘れると決めてます!」
「いい度胸だ。今度こそ空母をぶちのめす!」
「全対艦ミサイル、投射!いくよ~パンパカパーン!喰らいなさ~い!!!」
第一遊撃部隊からの対艦ミサイルの飽和射撃が、始まった。
「熱源、無数に発生!!」
「なんだと!なぜ気づかなかったんだ!チャフ散開しつつ、回避行動だ!」
慌てて回避行動を取る機動部隊だが、対艦ミサイルの直撃を食らった不運な連中が、悲鳴を上げて倒れた。
「愛宕さん達が火蓋を切りました。私達も行きますよ!」
「そうね、私達もやるわよ。目標は何にするの?」
「空母・・・といいたいですが、76年前のことを考えて、護衛艦をやりましょう!」
「わかったわ。高槻にコンタクトを取るわ!」
矢矧は、高槻から知らされた諸元に従って、レールガンをかまえた。
「よく狙って・・撃てぇ!」
弾が飛んできた方向に爆炎が上がるのを確認した雪風は、矢矧に言う。
「司令、初弾命中!さすがですね!」
敵の突撃に対抗しようとした機動部隊だが、ありえない距離の側面から狙撃されて、またも混乱した。
「馬鹿な!JAPがレールガンを持ってるだと!」
「でも、あの距離から撃てるのはレールガンしかありませんよ」
「・・レールガンなら連射はできまい。護衛艦は発砲地点周辺に攻撃を集中」
矢矧達、狙撃兵を黙らせようとしたその時、愛宕達が突撃してきた。
「高波、漣、駆逐艦連中はお前らに任せる。アタシらは空母をヤルよ!」
「はい、朝霜・藤波・野分の弔い合戦をさせてもらうかもです!」
高波達を駆逐艦に向かわせた摩耶は、空母バンカーヒルにタックルで押し倒して馬乗りになった。
「うひゃぁぁ~カーニバルだぜぇ!」
バンカーヒルの顔面をビンタして興奮した摩耶は、そう絶叫した。
「やだ~やめて~」
「姉さん、やめてくれと言ってきたよ、どうするよ~」
摩耶に煽られたと取った愛宕は、空母エセックスにキャメルクラッチをかけながら答える
「ダメですよ~私のお仕置きは始まったばかりよ~そうだよねぇ、鳥海!」
「そうですね。私の計算ではゲージ割は始まったばかり、まだまだ痛めつけないといけません!」
「そうだよね~パンパカパーン!」
空母ワスプにクローバーホールドをかける鳥海に煽られた摩耶は、バンカーヒルの顔面に一撃をぶち込んでやろうと拳を振り上げた。
「これでもくらぇぇぇぇ!!!!」
「ギャァぁぁぁぁぁぁ!」
摩耶の鉄拳を受けて砕けた数本の歯と血飛沫が、摩耶にかかった。
「汚ねぇなぁ~旗風先生、拭いてくれませんか~」
「はいはい、今吹いてあげますよ~」
「ありがとうよ~先生、カーニバルはまだまだ続くよぉ~」
そう、復讐の狂宴は始まったばかりなのだ。
(続く)