大和特攻始末記   作:オットー・カリウス中尉

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残華

1945年4月7日12時半

 

バンカーヒルは、敵艦隊の上空に到達した航空隊の指揮を、格納庫より指揮を執った。

 

「ホーネット隊・ベニントン隊、攻撃開始」

 

「「了解」」

 

「エセックス隊・バターン隊・カバト隊は第二波として上空待機」

 

「エセックス隊、了解した。司令はどうするの?」

 

「私の航空隊は姉様の部隊に合流させます。敵艦隊と接触できなかったハンコック隊はすぐに戻りなさい」

 

「了解」

 

「撮影妖精は確固散開、JAP全滅の一部始終を撮影しなさい!」

 

「了解しました」

 

航空隊の段取りを終えたバンカーヒルは、格納庫に集合した艦娘・・アイオワ達は身柄を拘束されてた・・に向かって叫んだ。映写機のスイッチを押した。前にあるスクリーンで戦闘の実況が始まった。

 

「みんな、待たせたわね、最高のショーの始まりよ!」

 

サディスティックに、笑ったバンカーヒルは、映写機のスイッチを押した。撮影妖精が撮影した映像がスクリーンに映しだされた。

 

同時刻、坊ノ岬沖・西南162キロ沖合

 

「ち、敵機が見えない。電探室、敵機は近づいているんだろうな?」

 

「分隊長、敵機多数接近中、間違いありません!」

 

「了解!」

 

電探室との報告とやり取りを終えた池山中尉は、曇天を眺めながら、毒づく。

 

矢矧が近づいて、おにぎりを出した。

 

「中尉、これをあげるわ」

 

「いいのか?」

 

「いいわよ。私たちは食べなくても頑張れるわよ。でも中尉は食べないと力出ないよ」

 

「そうか・・じゃあ、もらおうかな?」

 

おにぎりを腹に入れた池山は矢矧に言った。

 

「敵編隊は・高度4千・左20度から本艦に向けて接近中だ」

 

「距離幾つで発砲する予定なの?」

 

「1万メートルまで引きつけて発砲する!」

 

電探と方位盤を任されている池山は答えた。矢矧はうなずいた。

 

「了解したわ。私も最後まで頑張るわ、中尉も最後まで頑張ってね!」

 

「了解だ!」

 

「頼んだわよ!」

 

池山を励ました矢矧は、武装を展開しつつ、2番砲塔の真上に飛び移った。それと同時に敵急降下爆撃機の先行隊が第一遊撃部隊に逆落としをかけてきた。

 

「各艦、敵機を薙ぎ払え!」

 

大和以下9隻は、敵に対空砲火で反撃を開始した。

 

「へぇ~JAPもやるじゃないのさ!面白いわね!戦闘爆撃隊、急降下爆撃隊、攻撃開始!雷撃隊も小隊ごとに散開!各小隊、機をみてヤマトとアガノ型に突撃なさい!」

 

バンカーヒルが、スクリーン越しに命令した。

 

急降下爆撃から落とされた爆弾と戦闘爆撃隊から発射された噴進弾が、各艦の周囲に無数の水柱を上げた。

 

「そう簡単に、当たりません!」

 

雪風は、慣れた動きで回避しながら、対空砲火で反撃した。

 

「雪風姉さん、やりますね」

 

「姉さんは戦が楽しいのよ。あなたも楽しみなさいな」

 

「は・・はい!」

 

浜風と冬月の動きが止まってるのをスクリーン越しに見ていたバンカーヒルが、エセックス隊に命じた。

 

「あそこの2隻の動きが止まった!チャンスよ!」

 

コルセアを露払いにした急降下爆撃機隊が、彼女達に突っ込んできた。

 

敵機の接近に気付いた浜風は、冬月に叫んだ!

 

「左舷から15機が来る。頼むよ!」

 

「は・・はい!」

 

冬月がは10センチ高角砲を振り回して、攻撃を阻止することに成功した。その活躍を見た浜風は、彼女を褒めた

 

「やるなわね、冬月、その調子でお願いね!」

 

「はい、ありがとうございます・・あっ!」

 

「どうしたの冬月・・えっ」

 

巧みに雲に隠れて、接近を試みたヘルダイバーが、浜風の艦尾に一撃を食わらせた

 

浜風の足から鮮血が噴き出した。

 

「は・・浜風さん!」

 

「私は大丈夫よ!冬月は長官と司令を守って!」

 

「はい!」

 

その時、浜風の左舷から雷撃隊が接近してきた。理想的な同時攻撃だった。

 

「・・・・!!」

 

浜風の腹に直撃した魚雷は、彼女の体を真っ二つに引き裂いた。

 

「浜風さん、いやああああ!!!!!!」

 

断末魔の浜風が撒き散らした物を浴びて動転した冬月は、その場に座り込んで泣きわめいた。

 

気付いた矢矧が、彼女を一喝した。

 

「早く、持ち場に戻りなさいよ!」

 

「ウワァぁぁぁぁ、浜風さんがぁぁぁぁぁ!」

 

「・・・初霜、冬月に喝を入れなさい!」

 

「は、はい!」

 

矢矧に命じられた初霜が、往復ビンタして冬月に喝を入れた。

 

「・・何をするのでしゅか・・はつしもしゃん・・・・」

 

「冬月、しっかりなさい!浜風も覚悟の上で、三途の川に逝ったのよ!持ち場に戻りなさい!」

 

「で・・・でも・・・」

 

「もういい、立て!私が、アンタを地獄に連れていく!雪風」

 

「は、はい、何でしょうか!?」

 

「私は、コイツと一緒に長官の左翼を回ります。あなたは、ここを守ってください!」

 

「了解しました!」

 

三人の動きが止まってる事に気付いたエセックスは、バンカーヒルに意見した。

 

「あの2隻もKILLするか?」

 

「いや、見逃してやりましょう・・ヤマトとアガノを全力で叩く!」

 

「了解だ!」

 

バンカーヒルは、後部副砲を破壊された大和と矢矧に、攻撃隊の全力を向けた、

 

「敵雷撃機が真横より接近!!」

 

「何だと、回避!」

 

アベンジャーが、ヘルダイバーをやりすごした矢矧の真横から、緩降下で魚雷を発射した。

 

一本の魚雷が、矢矧の体を砕いた

 

「やられた!電探は・・・どうなった!」

 

「駄目です。今の攻撃で、真空管をやられました!」

 

「修理できるのか?」

 

「空襲が終わらないと、無理です!」

 

「・・各員電探室を離れて、機銃の支援に行け!・・・うっ!」

 

艦橋近くから降りてきたヘルダイバーが落とした至近弾が艦橋横で炸裂し、衝撃が艦橋を襲った。

 

池山は手摺にしがみ付いて、下に叩きつけられるのを耐えたが、アベンジャーが左舷からやってきた

 

「敵雷撃機、緩降下!」

 

「取舵でやり過ごせ!」

 

原艦長は力の限り叫んだ。が。回避は間に合わなかった。

 

艦尾を直撃した魚雷は、矢矧の舵と推進機を破壊した

 

「機械室!・・・応答なしか?池山中尉、機械室のを見てくれ!」

 

「・・・・」

 

先の攻撃で耳をやられた池山は、手摺を捕まって呆然と海を眺めていた。

 

それに気付いた航海長が、池山を一喝した。

 

「中尉!聞いているのか!」

 

「・・・・・は、はい!今すぐ調べます!」

 

甲板に降りて、そのまま後部に向かおうとした池山は、負傷した矢矧が、気になって前に向かった。

 

彼女が2番砲塔横に倒れているのに気付いた池山は、彼女に駆け寄った

 

「矢矧、しっかりするんだ!」

 

「中尉・・・ごめん、やられちゃったわ」

 

「・・・・・」

 

耳をやられた池山は、無言のまま、上着を引き裂いて、矢矧を止血しようとした。

 

「中尉!聞いてるの・・・」

 

「・・・すまん、矢矧、俺も耳をやられたんだ」

 

「そう・・ごめんなさい」

 

「いいんだ、耳はやられたが、俺は、まだやれる!その魚雷も要らなくなったから、外してやる」

 

「そうね・・・お願いするわ」

 

不要になった矢矧の魚雷発射管とカタパルトを足から外して、傷の手当をした池山は、彼女に言った。

 

「俺は君の後部にいってくるよ!じゃあな!」

 

「中尉、死なないでね!」

 

池山は、右舷に傾いた甲板と流れる血潮に足を取られながら、後部に向かった、

 

「魚雷は捨てたか?」

 

「捨てました。短艇とデリックは無事です!」

 

「・・・そうか?機械室はどうなってるのか?」

 

「中尉、機械室からの応答、ありません・・・」

 

「そうか・・・」

 

艦橋に戻った池山は現状を原艦長に報告した。

 

「司令、いかがなさいますか?」

 

「・・・旗艦を変更する。磯風に信号を送ってくれ」

 

「はい」

 

もはやここまでかと思った古村提督は、矢矧を放棄する事を決意した。

 

75年後の天界

 

「霧島、やるYo」

 

「そうですね・・最後はアレで決めてやりましょうね」

 

肩車で、FDRを担ぎ上げた霧島がキン肉ドライバーをかけると同時に、フォレスタルをキン肉バスターした金剛が、バックドロップする形で飛び上がった

 

「「マッスルドッキング!!!」」

 

二人は、コロシアムのマッチングで活躍したときのコンビネーション技を、相手に食らわせた。

 

失神したバンカーヒルの襟首を掴んだ摩耶は、鳥海に聞く。

 

「鳥海姉さん、金剛姉と霧島姉はキめたか?」

 

「私の計算では、ゲージ割り成功しましたね。愛宕司令、私たちもお開きですか?」

 

エセックスをキャメルクラッチで気絶させた愛宕は、四つ葉ホールドで、フランクリンを気絶させた、鳥海に答えた。

 

「そうね・・この辺で許してあげましょうね・・うふふふふ」

 

泡を吹いているエセックスの尻を蹴飛ばした愛宕は、戦意を失って怯えている駆逐艦娘達に尋ねた。

 

「ここで引き下がるのなら、命だけは助けてあげる!・・今すぐ決めなさ~い」

 

「・・・負けを認めます。もう・・許してください!」

 

「わかったわぁ~!摩耶ぁ~空母達を許してやりなさ~い」

 

「わかったよ・・許してやるかぁ~」

 

摩耶は、失禁したバンカーヒルを駆逐艦娘達に蹴飛ばした後、愛宕に尋ねた。

 

「姉さん、本当に連中を許すのか?」

 

愛宕は笑いながら、不満な摩耶に答えた。

 

「それは蒼龍や雲龍が決めることね~うふふふふ」

 

「成る程ね・・・姉さんも悪いな!」

 

「うふふふふ~祭りは、みんなが楽しまないといけないわよ~ふふ」

 

愛宕の気持ちを察した高槻と日高が飛ばすF35は、退却する敵部隊を追跡した。

 

「高槻さん、そろそろ蒼龍さん達を呼びますか?」

 

「そうだな・・彼女達にも、招待メールを送るかぁ!」

 

頃合いよしと思った高槻は、敵艦隊を追い込みつつあると、蒼龍達に伝えた。

 

「墓場鳥より狼軍。羊の群れを追い込んだ」

 

「狼群、了解!雲龍、76年前の借りに利子つけて返す時が来たよ。」

 

「了解、姉さん!満潮教官、やりますか?」

 

「言わなくてもいいわよ!76年前、私と共に嬲り殺しにされた朝雲と山雲の無念を、今、教えてあげるわよ。くくくくく・・・」

 

蒼龍・雲龍姉妹と同じ潜水艦として転生した満潮は、18式魚雷の弾頭を撫でながら答えた。

 

昭和二十年四月七日午後一時半

 

足が止まった矢矧を放棄する決意を下した第二水雷戦隊司令部は、なんとか磯風を接近させることに成功した。

 

防空指揮所で指揮を執る原は、手持ちぶたさになった池山に、司令部移動の指揮を執るよう命じた。

 

「御真影は確保した。中尉、後部に行け!」

 

「はい」

 

池山は御真影を背負った松田中尉と協力して、至近弾に悩まされながらも、なんとかして短艇を下ろして、舷側に縄梯子を下ろした。

 

作業を終えた池山は艦橋への電話に手をかけながら、松田に言った。

 

「司令部を呼ぶ。そこで待ってろ」

 

「はい」

 

池山が、移動を待つ司令部に報告しようとしたその時、急降下爆撃機が、艦尾に降下してきた。

 

「危ない!」

 

避けられないと感じた池山は、反射的に手で顔を覆った。探偵に直撃した爆弾からの爆風が彼の顔に、当たった。

 

「熱ぅ!矢矧に見られない面になったぜ。短艇は・・そんな!」

 

御真影と共に砕け散った短艇の残骸と御真影を守る乗員達のの血潮が、矢矧から吹き出した重油と共に漂っていた。

 

池山から移動はできなくなったと知らされた、古村提督は呆然とした表情で原艦長に話しかけた。

 

「艦長、もはやこれまでだな・・・」

 

「残念です。司令・・・・」

 

開戦以来、最前線で働いてきた彼らが、観念したその時、発令所より弾薬庫の温度が上がってるとの報告が上がった。

 

「火薬庫の温度が急上昇、注水許可を願います!」

 

「許可する!」

 

気を取り直した原は、伝声管を通して叫んだ。

 

「発令所、脱出はできるか?」

 

「もはやこれまでです・・・」

 

「・・・・・」

 

池山の持ち場のはずだった発令所員は、全滅した・損傷と傾斜でラッタルが吹き飛んで、艦橋に戻れなくなった彼は、第二砲塔横の倒れている矢矧の元に向かった。

 

「発令所も全滅したわ・・・・」

 

「そうか・・・俺は幸運だったのかな?」

 

出撃直前、発令所から電探に回された幸運に、苦笑する池山に、ヤケぶくれした彼の顔を見つめる、矢矧が答えた。

 

「そうかもしれないわ。中尉・・ひどい顔になったわね」

 

「君と同様さ・・・」

 

何とか頑張ってきた矢矧の運も尽きた。池山は、矢矧に言う。

 

「後部に行こう。あそこなら、まだ生きられるぞ」

 

「中尉、司令と艦長は、もう飛び込んだわ。逃げないの?」

 

「君と一緒に死ぬ約束をしたじゃないか!」

 

「覚えててくれたの。嬉しい・・・後部に行きましょう」

 

矢矧の手を引いて、辛うじて浮いている後部に向かう池山は、力尽きて持ち場で、へたり込んだ連中を一喝して、脱出させた。

 

「どうやら、生きているやつらは全員降りたそうだな」

 

「ええ・・・・」

 

私の中には取り残された負傷兵がいるのにと言いたかった矢矧は、後部マストの前で、池山と向かい合った。

 

お互いの胸に刃を当てた彼は、矢矧に言った。

 

「矢矧、いくぞ・・・」

 

「・・・いいわよ、中尉」

 

目を閉じて生き絶える時を待ってたはずの池山の鳩尾に、矢矧の拳が打ち込まれた。

 

「矢矧、どうして・・・・」

 

「ごめんなさい・・・中尉、あなたはここで死んじゃ駄目だわ、生きて、本当にやりた買った夢を実現しなさい!」

 

あの夜、池山の本音を知った矢矧は、気絶した池山を木箱に縛り付けて、海に浮かべた。

 

14時5分

 

まだ、海上に浮いている後部マストによじ登った矢矧は、大和に叫んだ。

 

「帝国海軍軍艦、矢矧、死の道案内をいたいします。御免!」

 

体に縛り付けた砲弾の信管を抜いた矢矧は、真っ逆さまに海に飛び込んだ。

 

彼女が砕け散ると同時に、矢矧も沈んでいった。

 

「う・・矢矧、どうして俺を連れていってくれなかったんだ!」

 

気がついた池田は、矢矧に向かって、声を震わせて叫んだ。

 

スクリーン越しに勝負はついたと感じたバンカーヒルは、イントレピッド航空隊に命じた。

 

「往生際の悪いアガノをようやく始末したわ。JAPの駆逐艦も3隻、ヤマトをFinishさせなさい!」

 

「了解!」

 

イントレピッドの12機とヨークタウンの13隻が、沈みつつある右舷からアプローチした。

 

「来るな!」

 

初霜に喝を入れられて戦意を取り戻した冬月が、傷ついた大和を守ろる対空砲火を突破した雷撃隊と、上空から降りてきた急降下爆撃機の、同時攻撃が大和を襲った。

 

雷撃機から放たれた魚雷のうち4本が命中した。

 

右舷の機械室と釜室に注水した大和に凌げない量の海水が艦内に入ってきた。

 

傾斜復元ができなくなった大和の傾斜は、20度以上に達した。

 

「副長、下部防御指揮所からの連絡が途絶えた」

 

「そうか・・・御真影はどうなっている?」

 

「下部防御指揮官が、身体に括り付けて、守っているとの報告です・・・」

 

「そうか・・ここは任せる。俺は艦長に報告する」

 

「は・・・はい」

 

もはやこれまでと思った能村副長は、第二艦橋に上がり、防空指揮所で指揮を執る有賀艦長に、状況を伝えた。

 

「・・・・貴様が言うのなら仕方ない。副長、貴様の意見に同意する」

 

「長官には、誰が伝えます?」

 

「俺が伝える。副長、貴様は生き残れ!」

 

能村に後を任せた有賀艦長は、大和の前艦長であった森下参謀長に、もう無理だと告げた。

 

有賀の意見を受け入れた森下は、伊藤提督に作戦中止するように、意見した

 

「長官、このあたりで、よろしいかと思われます」

 

「そうか・・・ここまでだね。作戦中止、君たちは脱出して艦隊を収容せよ」

 

伊藤提督は、参謀達の手を握って感謝した後、「これで良かったのだ」と言いたげな表情を浮かべて、長官待機室に向かった。

 

石田副官が叫びながら、長官の後を追いかけようとした。

 

「長官、駄目です!一緒に降りてください!」

 

「駄目だ!貴様も降りろ!これは命令だ!」

 

伊藤は、追いすがる石田を一喝して船から降りさせた。

 

それを見た森下参謀長も、右往左往している学生士官達を一喝して、降りさせた。

 

潮時と悟った大和も雪風を呼び出した。

 

「雪風、来ましたね」

 

「はい、こちらに!」

 

「伊藤長官は、作戦中止と決断されました。雪風、残存艦隊を収容して、内地に戻りなさい」

 

「うぅぅぅ・・・無念にございます!」

 

「いえ、雪風、あなたは私のためによく働いてくれました。感謝します!ですが、私の最後のわがままを聞いてもらえませんか?」

 

大和は、涙を流して悔しがる雪風の肩を撫でながら、言った。

 

「私を、二番砲塔に連れて行きなさい!米国の馬鹿者どもに、帝国海軍の死に方を見せてやります!」

 

「・・・・はい!」

 

大和は雪風と共に、バンカーヒル格納庫に垂れ下がったスクリーンにその姿を見せた。

 

「ヤマトが姿を見せたよ・・どうするの?」

 

「撮影妖精を近づけて、ズームさせましょう」

 

上空から、海戦の一部始終を撮影していたバンカーヒル雷撃機隊が、大和と雪風を取り囲んだ。

 

「ち、ふざけやがって!」

 

見世物にされてる事を知った雪風は、そう吐き捨てて、大和に聞いた。

 

「どうします。アイツらを撃ち落ちしますか?」

 

「おやめなさいな!私が死ぬところを見たいのなら、なるだけ派手に死ぬだけの事。雪風、私の装備を外しなさい!」

 

「はい」

 

雪風に装備を外させた大和は、短刀を抜いて自慢の総髪を切り落とした。

 

「これを、三笠大姉様に渡しなさい」

 

「はい」

 

遺髪を渡した大和は、短刀を口に咥えて、上着を脱ぎ捨てた。

 

「ヤマトのやつ、何をするするのかしら?」

 

「まさか・・・ハラキリ?」

 

「ハラキリ!?JAPのクレージースーサイドを、生で見せてくれるってか!撮影妖精、もっと近づけ!」

 

撮影機を接近させようとする愚かなバンカーヒルは、後で見てた連中に、押し倒された。

 

「その特等席は、私のものだ!」

 

「そこは姉の私に譲るもんでしょ?」

 

姉妹が、押し合い圧し合いを初めて、てんやわんやになった格納庫を後にするものもいた。イントレピッドである

 

「イントレピッド、どこに行くの?」

 

「姉さん、私、気分が悪くなったよ・・帰らせてもらうよ」

 

「そう・・私も帰るわよ」

 

姉妹の情けなさに愛想が尽きた二人の魂は、本体に戻った。

 

機銃弾を入れた箱があるのに気づいた大和は、雪風に頼んだ。

 

「雪風、私の首と短刀を、この箱に詰めて持ち帰りなさい・・お願いしますね」

 

「はい、長官、他に頼み事はありますか?」

 

木箱に片足を乗せて、左脇腹に刃を押し当てた大和は、少し考えた後、雪風に頼んだ。

 

「三笠大姉様に、『お恨み申し上げる』とお伝えください!」

 

「はい。頃合いのいい時に、お声をかけてくださいませ!」

 

介錯を引き受けた雪風は、太刀を抜き、大和の背後に回った。

 

「馬鹿者どもめ、私が最後をよく見ろ!うぐぅっつつ!」

 

大和が、腹に刃を立てた時、浸水に耐えられなくなった大和の本体が左から沈んでいった。

 

腹に突き立てた刃の切っ尖が、腸に達した。

 

「グヌぅぅ・・・・うぅぅぅぅ!!!!」

 

痛みを堪える程度の気力は、残っていた大和は、腸ごと刃を右の脇腹まで引き回した。

 

一文字に切り裂かれた腹から、鮮血と内臓が飛び出した。

 

「はぁはぁぁ・・・・まだまだぁ・・グヌぅぅぅぅ!!!」

 

引き抜いた短刀を再び、鳩尾に突き立てた大和は、己の内臓ごと臍まで縦に腹を引き裂いた。

 

サムライの作法に従った見事な十文字腹であった。

 

「これがハラキリスーサイド、すげぇぇぇぇ!!!!」

 

「JAP、マジでCrazyだぜぇぇぇl!!!」

 

「しかし、このスーサイドはすげぇぇ・・早速コピーして、ライミーどもにもバラ撒くぞ!」

 

バンカーヒル達は、ストリップ小屋に屯ってる小汚い連中のような叫び声を上げて、興奮した

 

「は・・・・・ははははは、馬鹿者め、これで終わりじゃないぞ!」

 

全身が血まみれになった大和は、飛び出した腸を掴み、一気に引きずりだした。

 

「よく見ろ!貴様らがJAPと見下す私たちのスピリットだ。受け取れ!」

 

胃まで引きずり出した大和は、そう叫んだ後、内臓の塊を上空に投げつけた。

 

飛び散った内臓に見とれていた大和に、雪風が叫んだ!

 

「長官、もう宜しいのでは!?」

 

「はは、少し遊びがすぎましたね!!雪風、介錯なさい!!!」

 

「はい!お許しくださいませ、えい!!」

 

俯いた大和の首筋を雪風の太刀が一閃した。

 

切り落とされた彼女の首が、血の海に落ちると同時に、胴体が前のめりに倒れた。

 

「貴様達に、長官の首は渡さないよ!」

 

首と短刀を入れた木箱を抱えた雪風は、機銃弾を避けつつ、海に飛び込み、自らの本体に戻った。

 

雪風の魂が本体に戻ったのと同時に、後部から沈んでいった大和の主砲弾が炸裂して、その船体を真っ二つに引き裂いた。

 

「やったぜぇ!バトルシップの時代Finish !!」

 

1945年4月7日・14時23分、大和の沈没と共に、歴史における戦艦の役目は終わった。

 

(続く)

 


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