大和特攻始末記   作:オットー・カリウス中尉

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復讐(最終話)

昭和二十年四月十六日・佐世保

 

「雪風、私に、大和の最後を、語っていただけませんでしょうか?」

 

「はい、大姉様」

 

大和より託された遺髪と短刀を渡した雪風は、最後の戦闘を、悔し涙を流しながら、三笠に語った。

 

「米国機動部隊は、抜け駆けをして我等に襲いかかってきました・・・」

 

「なんと、愚かなことを・・・」

 

「大和長官は、無念に思ったのでしょう。その刀で割腹された後、恨みを投げつけて、果てました」

 

「情けない事をする。私は『恨みを残して死ぬな』と、あの子達に伝えたのに!」

 

「・・・・・」

 

この期に至っても、戦艦の誇りに拘る三笠に失望した雪風の話は続く。

 

「大姉様、大和長官より、言付けがございます」

 

「なんでしょうか?お聞かせください」

 

「・・『大姉様をお恨み申し上げる・・ただただキツくお恨みする』と申しておりました」

 

「・・・そうですか、下がりなさい」

 

「はい・・・」

 

自分の教えが、大和達を苦悩させたのかと思った三笠は、雪風を追い払うように、下がらせた。

 

75年後の天界

 

「姉さん、78年前の恨みは晴らせて、満足?」

 

ククリでベニントンの喉元を切り裂いた雲龍(2代目)が、現世では実の姉になる蒼龍(2代目)に話しかける。

 

「私は満足よ・・・でも、満潮教官達はまだやりたりないみたい」

 

「そう」

 

雲龍は、転がっているボノム・リシャールの首根っこを掴んで、聞いた。

 

「新兵器の実験台になってくれるのなら、助けてあげる」

 

「わかった・・なんでもするよ!」

 

「そう・・・教官、この子、実験に協力するっていってますよ」

 

「じゃあ・・こいつを股に打ち込んでやるわね」

 

18式魚雷を抱えた満潮(三代目)が、ニヤニヤ笑いながらやってきた。

 

「な・・・・何するんだよ~」

 

後ろか羽交い締めする蒼龍に、大股を開かされたボノムリシャールが喚く。

 

「76年前の10月になぶり殺しにされた私たちの恨みよ…」

 

「ちょっと~私はまだ生まれてないよ~」

 

「そう…じゃあ、痛くないようにしてあげるわ!」

 

「や、やめて~」

 

ボノムリシャールは足をバタつかせて抵抗するが、黒くて太くて長い魚雷は深々と股に突き立てられた。

 

「さすがに一発では無理か~じゃあ、もう一度行くわね~」

 

76年前の恨み晴らしと、データ取りでできて満足な満潮は、嬉々として2本目をそこに突き立てた。

 

潜水艦に転生した連中が、敗残部隊を虐め倒す様子を、上空から眺めていた日高が、高槻に聞いた。

 

「完勝ですね」

 

「そのようだな。加賀さんに、アレの用意はできたか、確かめるぞ!」

 

山本提督が加賀に言う

 

「高槻から『狼どもは満足した』との報せがあった。アレの準備はできたか?」

 

「大和と武蔵は、無事にコロシアム入りしたと天龍より報告がありました。やりますか?」

 

「やってくれ」

 

「わかりました。利根、筑摩、映像をコロシアムに流しなさい」

 

「・・筑摩、やっと我輩達の出番だぞ!」

 

「そうですねぇ~観客の皆様に最高のショーを見せてあげましょうね~」

 

大和姉妹とアイオワ四姉妹が無事入場したコロシアム

 

試合開始に先だって、長門・コロラド立会いの下で、宣誓が行われた

 

「大和、武蔵、この戦いで最強の戦艦の座が決まる。結果を受け入れるな」

 

「はい。誓います!」

 

「無論だ!」

 

「そうか・・陸奥、比叡と榛名を人質として、米国側に引き渡せ」

 

陸奥に連れられた2隻が、米国サイドに向かった。

 

人質が渡された事を確認した長門は、アイオワ四姉妹にも聞いた。

 

「アイオワ、ニュージャージー、ウィスコンシン、ミズーリよ、この戦いの結果で私達の間の強弱が決まる。米国は結果を受け入れるか?」

 

「もちろんだヨ~。ミー達は、ヤマト姉妹と正面対決して勝利する事が夢だったんだヨ~」

 

「そうか・・アイオワとミズーリの2隻で、勝負を挑むのだな?」

 

「オフコース!イコールの条件で勝利するのが、ミー達の夢でステイツの誇り!!」

 

75年前の東京湾での調印式で、菊一文字の太刀を渡した長門が、ミズーリに聞いた。

 

あの時と同じ姿に戻ったミズーリとアイオワは、異存はないと言わんばかりに答えた

 

「わかった・・・ニューメキシコ、ニュージャージーとウィスコンシンを連れて、日本側に引き渡せ」

 

ニューメキシコも、二人を連れて日本サイドに向かった。

 

観客席で対決を見守る水瀬と釘宮は、隣にきた天龍に聞いた。

 

「おい、ビックリショーはまだか?」

 

「そろそろだぜ!」

 

フィールドを横切ってきた大淀が、審判席の長門達に抗議した。

 

「この対決に不正あり!中止を要求します!!」

 

「大淀、貴様は現世に転生したはずだ。どうして、ここにいるんだ?」

 

「現世云々でしたら、あの四人も同じでしょうに・・・却下される理由になってません!」

 

「大淀、そこからは、私に任せてもらおうかな」

 

簀巻きにした連中を抱えたアヤカシとレールガンを構えた矢矧、雪風、那智、霞が、大淀の後に現れた。

 

「論より証拠だ!大淀、第一機動艦隊に連絡!」

 

「はい、第一機動艦隊、映像をお願いします!」

 

アヤカシが、簀巻きにされたバンカーヒルやエセックスを、審判席に放り込むと同時に、コロシアムに映像が流れた。

 

「何、今回の決闘をダシにして、米国村は我が村との資源問題を武力解決しようとしたのか?」

 

「本当です!その証拠の音声も流します」

 

大淀は、先ほど行われた海戦のキッカケになった証拠音声を送るよう、利根達に伝えた。

 

音声がスタジアムに流れた。

 

条約違反に激怒した亡者達が、米国サイドに石を投げつけるカオスとなった。

 

「どういう事なの!?」

 

「待ってくれ!ミー達は、何も知らないよ!」

 

大和に問い詰められたアイオワは、驚いて否定した。

 

同じく何も知らされてないニューメキシコは、簀巻きにされバンカーヒルの襟首を掴んで往復ビンタして、問い質した。

 

「私達執行部は、資源問題を武力で解決しろと命じてないぞ。バンカーヒル、75年前と同じように、機動部隊を扇動したんじゃないでしょうね?」

 

「・・・ニューメキシコ姉様、ごめんなさいですぅ~でも、JAPが問題を武力行使すると聞いて、やむなくなんですぅ~」

 

「それはどういうことだ!」

 

「あそこにいるアヤカシが、この決闘にことづけて、JAPが現世に復帰した連中を呼び寄せて、アイオワ姉様たちを闇討ちするついでに、資源問題を武力解決すると教唆されましたので、エセックス達を誘って・・」

 

「どういうことだ!説明してもらおうか、長門!」

 

「私は武力行使を命じてないし、現世に介入した覚えもないぞ!」

 

試合そっちのけで、審判席で泥試合が始まった。

 

長門とニューメキシコが掴み合いになろうとしたその時、コロシアムに砲声が響いた。

 

「猿芝居は、そこまでにしてもらおうか!全ては私が仕組んだ事さ!」

 

矢矧たちに威嚇発砲させたアヤカシが、正体を見せた。

 

その正体を見て、驚愕した長門が、叫んだ。

 

「・・・貴様が、全てを仕組んだのか!」

 

「そうだ・・・現世に介入した私が、アイオワや加賀達を召喚して、この騒動を起こしたのだ・・・楽しんでもらえたか?」

 

「貴様という奴は、どこまでも私達に恥をかかせて!身柄を拘束しろ!!」

 

恥をかかされた長門は、警羅隊に出動を命じた。

 

「今、捕まる訳には、いかないね!」

 

矢矧達に弾幕を張るよう命じたアヤカシは、武装を展開させて、警羅隊を制圧した。

 

「こんなことして、タダで済むと思うな!」

 

「タダで済まないでしょうねぇ~だけど、勝負を続けるかを決めてくれよ~?」

 

アヤカシに煽られた長門は、大和姉妹に聞いた。

 

「貴様らは試合を望むか?」

 

「もちろんです!」

 

「今更、引き下がらんぞ!」

 

大和達の回答を受け入れた長門は。コロラドにマイクを渡した。

 

彼女もアイオワ姉妹に尋ねた。

 

「もちろんダヨ!バカなキャリアどもはバニッシュされたヨ!思う存分戦うヨ!」

 

「そうよ。ステイツの誇りにかけて、You達に正面勝負よ!」

 

米国側の返答を受けた長門は、払い戻しを告知した。

 

「払い戻しに応じるのですか?」

 

「いいから、アナウンスを出せ!30分後に、新たな賭けを始める」

 

コロシアムの観客とネット回線で勝負を見てた視聴者に、払い戻しと賭けの再開が告知された。

 

興奮した観客が、窓口に殺到した。ビジョンに、賭け率が再表示された。

 

「妥当な線だな?」

 

大和姉妹1.6倍、アイオワ姉妹2.3倍の表示を見た水瀬が呟く。隣にいた天龍が尋ねる

 

「水瀬達は、払い戻しに、いかないのか?」

 

「前の倍率で、マッチメーカーどもに、払わせるよ。龍田さん、その時の用心棒を頼むよ」

 

「いうまでもないわよ~マッチメーカーには剣闘試合で、ギャラを随分ピンハネされましたぁ~その分の利子をつけて叩き返してやりたいわ~」

 

対決が始まった。

 

「16インチ・一斉射」

 

轟音と共に、水柱と煙が上がった

 

「どうした!貴様ら自慢の16インチ砲の直撃は、この程度か!」

 

76年前の10月と同じく、大和と盾になった武蔵が、指を突きつけて、アイオワ達に叫ぶ。

 

「ち、遠距離からの攻撃で、You達の装甲甲板をぶち抜くのは無理だったか・・」

 

「・・・なら、近接戦に切り替える!」

 

遠距離の撃ち合いでは、大和・武蔵に、力負けすると思ったアイオワ姉妹は、優速を利した一撃離脱戦術に、切り替えた。

 

どこぞの宇宙世紀物と同じく、勝負は、長時間に渡って続いた。

 

激戦の末に、武蔵とミズーリが倒れた

 

「Youは、このバトルをエンジョイしてるKA?」

 

血まみれのアイオワが、同じく鼻と口から、血を流している大和に尋ねた。

 

大和は、満面の笑みを浮かべながら、答える。

 

「エエ、とても楽しいわ・・あなた達の一撃を身体に受ける度に、75年前の恨みが晴れていくわ!」

 

「そうKA・・それを聞いてサティスファクションした。フィニッシュさせるKA?」

 

無用だと言わんばかりに、装備を捨てたアイオワが聞いた。

 

大和も、装備を捨てて、応じた。

 

「そうね・・ここで、全てを終わらせましょう!」

 

武器を捨てた大和とアイオワは、あの宇宙世紀物のラストバトルのように、格闘戦を繰り返した。

 

数十分後、あの映画の結末と同じく、大和が、アイオワを床に叩き付けようとしたその時に、ゴングがなり判定に持ち込まれた。

 

「大和・・後は、私に任せろ!」

 

大和をコーナーに下がらせた長門とコロラドはアイオワに聞いた

 

「アイオワ、勝負の続行を望むか?」

 

「・・・・・」

 

「アイオワ、もういい・・You達の戦いを見て、サティスファイした。リザルトをアクセプトして!」

 

「・・・ALL Right、リザルトをアクセプトする!」

 

コロラドに説得されたアイオワは、敗北を受け入れると宣言した。

 

映像回線とコロシアムで、勝負を見守っていた観客達から歓声が上がった。

 

勝者となった大和はアイオワを抱きしめた

 

「いい勝負でした・・・私も武蔵も満足しました!」

 

「ミーも満足した。シスター達もこの結果をアクセプトする!サンクス!」

 

アイオワが差し出した手を大和は握りしめた。長門は審判長と評議会の代表として宣言した。

 

「これにて評議会は、大和型を最強の戦艦と宣言する」

 

「異議なしだ・・・」

 

コロラドは引きつった顔で結果を受け入れたが、他国の評議員・・フッド、ビスマルク、ローマ、リシュリューは全会一致で評議を受けれた。

 

「・・さて、龍田さん、蛆虫どもの一掃だぞ」

 

「はいはい、行きましょうね。釘宮、どうしたのですか~」

 

「いや・・アイツの姿がないから探してるんだよ」

 

「そうですね・・あの子、どこに行ったのかしら・・天龍ちゃん、知らない?」

 

「いや、わからんな」

 

「まあいい、仕置だ!」

 

長年に渡り、喰い物にされたマッチメーカーどもへの仕置が大切な3人は、アヤカシ達の事を忘れて、席を立った。

 

アイオワ達、生きる者は地上に戻った

 

ロングビーチの隠宅で目覚めた、老アイオワは体に、痛みを感じた

 

「・・スッキリしたよ。でも、年は取りたくないわね。体の節々が痛い・・・」

 

「大姉様、サンディエゴで、大変なことが起こってます!」

 

「ズムウォルト、何が起こったのかしらぁ」

 

「バンカーヒル姉様やエセックス姉様が瘧にかかってベットで震えてるんですよ」

 

「何ですって?」

 

ズムウォルトに連れてこられた彼女が見たものは、ジャパン怖い怖いと怯えて、ベッドで震えているバンカーヒルとエセックスであった。

 

「大姉様、ノーフォークでも似たような騒ぎが起こってます!」

 

「空母達はどうしたの?」

 

「それが・・・空母連中は同じようにベッドで震えて、指揮を取ることができません」

 

「情けない子達!私が指揮を代行する!」

 

妹のウィスコンシンより急を知らされたアイオワは、私達四姉妹が臨時艦娘長官になると、宣言した

 

同日・横須賀

 

三笠の隠宅の道場で、摩耶と羽黒の稽古を見届けた三笠は、その太刀筋に満足した。

 

「見事な出来にございました。摩耶、今日の気持ちを忘れずに、日ノ本の護りに務めなさいませ。羽黒は今日の太刀筋を忘れぬように!」

 

「はい、ご教授ありがとうございました!」

 

米国鑑娘の魂が多数破壊されたと知った三笠は、60年前に封じた悪霊が、摩耶と羽黒も、心の迷いから解き放したのではないか?と疑った。

 

その夜、道場に正座して待つ三笠の前にアヤカシは現れた。

 

彼女はアヤカシの顔を見て、一喝した。

 

「信濃、此度の騒ぎは、全て貴女がやったのですね!」

 

「大姉様、貴女の目は、ごまかせなかったかぁ~」

 

「長門は、あなたの成敗をためらったのですか?」

 

「まさか・・でも長門や陸奥では、私を裁くのは無理だよねぇ~」

 

「ここに現れたのは、犯した罪を悔いて、私の裁きを受けるためですか!」

 

「違うなぁ~。私は大人しく、あなたの太刀の錆になる気はないよ!」

 

「なら、是非もない!」

 

傍の太刀を抜いた三笠は、それを光剣化させた。

 

「菊一文字は使わないのですかぁ~」

 

「亡者を成敗するに菊一文字は不要!この髭切で十分」

 

髭切を手にして凄む三笠に、信濃は怒った。

 

「私は、大和姉達に、東郷元帥のような態度で接した貴女が、憎いのだ!」

 

稽古着と太刀のみ構えた三笠は、どこぞの宇宙世紀物のボスロボを思わせる信濃に尋ねた。

 

「F35C戦・爆・攻の三揃え、超音速対艦ミサイルの飽和攻撃、レールガンの三段構えですね?その装備の貴女が相手では、長門達には荷が重いですね・・・・」

 

「大姉様は武装なさらないのですかぁ~」

 

「あなた程度のモノを成敗するは、これで十分!・・・信濃、そこにいる者達を下がらせなさい!」

 

「そうでしたねぇ~高槻、日高、貴様らは下がれ!」

 

子孫達を人質に取られて身動きが取れない高槻達は、引き下がった。

 

二人が非武装地帯へ下がったのを確認した三笠は、道場に結界を張った。

 

「信濃、かかってきなさいませ!」

 

「大姉様、お手向いする!」

 

オールレンジ攻撃を仕掛ける信濃に対した三笠は、老婆の外見では考えられない飛ぶような機動で、攻撃をやり過ごした。

 

「野鳥の囀り?」

 

「ホトトギスが鳴いてるようですね・・・」

 

高槻と日高が死に誘う三笠の衣摺れの音に聞き惚れる中、三笠が信濃に迫る

 

「あなたの動きは見切りましたよ。それまで!」

 

信濃の内懐に入った三笠は、太刀を袈裟斬りに振り落ろした。

 

が・・・・

 

「む、ダミー・・・小癪な真似を!」

 

爆発に巻き込まれる寸前に気付いた三笠は、受け身を取ってやり過ごす。

 

「避けたかぁ、大姉様ぁ!だが!!」

 

信濃は、懐から取り出した両刃の斧に闘気を込めて、大剣状の刃を形成した。

 

「私達以外で、光剣を作れるものがいるなんて!?」

 

「貴女たちだけと思ったかぁ~馬鹿めぇ~」

 

「だが、技がなければ、大道芸に過ぎませんよ!」

 

「それは、戦えば分かることだ!」

 

得物を取った戦いは、数十分に渡った。

 

「三笠さんが、押されてますが・・・・」

 

「違う、寸前で見切っている。これなら、俺たちの出番はないかもしれないな」

 

「そうでしょうか?」

 

信濃の剣技を未熟とみた三笠は、隙を見て、一気に仕掛けた。

 

『掠ダメージを蓄積させて体力で押し切る腹か?未熟者め・・・・これ以上の遊びには付き合いきれぬ!」

 

ダミーで視界を撹乱して内懐に入った三笠は、逆袈裟で信濃を切り捨てた・・・・・

 

「終わりましたか?」

 

「いや、違うな・・・」

 

逆袈裟されたはずの信濃が、そこに立っていた。

 

「そこまでですかぁ~大姉様ぁ」

 

「馬鹿な!私は、貴女の剣筋を見切ってたはず!?」

 

「剣筋?笑わせる!私は貴女の脳に干渉して幻を見せたのだよ」

 

「私の思考が読まれていた?」

 

「そうだ!!私を戦わせたいがために、脳に鳳翔さんの思考を複写したことが、裏目に出たのだぁ~馬鹿めぇ!」

 

呆然とする三笠に当身を食らわせた信濃は、三笠の頭を砕いてくれようと斧を振り上げたが、二つの強烈な殺気が迫ってくるのを感じた。

 

「む、殺気!」

 

信濃は新手の脅威に相対した。

 

その二人を見た日高は、高槻に尋ねた

 

「ヴィクトリーとコンスティテューションが出てきました。現世の三女神揃い踏みですね」

 

「ああ、面白くなったな。アソビはこうでないとな!」

 

ヴィクトリーは三笠を抱き起こして、まだ戦えるかと尋ねた。

 

三笠は頷いて答えた。

 

「そうか・・是非もない!このデーモンソウルを完全にDeleteする」

 

「・・大姉様、私の力不足をお詫びいたします」

 

「今は何も言うな。我ら3人の力を持って、消去する」

 

3人の闘気の集合体が、光の鳥になって、信濃の体を直撃した

 

「終わりましたか?」

 

「いや、違うな」

 

高槻が日高に言った通り、信濃は健在だった。闘気で、光の鳥を凌いだ信濃は、斧で三人を切り裂いた。

 

「ははは、楽しいなぁ~」

 

「信濃、止めるんだ!遊びは終わりだぞ!」

 

隔離されていた高槻が叫んだ。

 

その場に倒れた三人を蹴飛ばした信濃は、高槻に聞き返した。

 

「どうして、この遊びをやめないといけないのだぁ~返答したら貴様達の子孫も切り捨てるぞぉ~」

 

「そうか・・好きにしろよ。だが、俺の話を聞いてからにしてくれないかな?」

 

「よかろう・・・」

 

覚悟を決めた高槻は、結界より出て、魔神と化した信濃に相対した

 

「信濃、貴様、俺に何と言った?楽しい遊びがしたいと言ったな」

 

「言ったよ~それでどんな遊びがいいか貴様達に、聞いたんだ~」

 

「そうだ。で、俺は提案した。大和姉妹とアイオワ姉妹の対決させるついでに、天界・地上・地獄をかき回したらどうなんだ?とな」

 

「そうだったな・・・」

 

高槻の説得は続く

 

「天界と地上は十分にかき回したぞ・・次は地獄だぞ」

 

「私に死ねということかな?」

 

「そうだ・・いやなら、俺と日高を斬ってくれや」

 

自分も巻き込まれて驚く日高を『偵察は操縦と運命を共にするのが掟だぜ』と目で制した高槻の話は続く

 

「でも俺たちを斬ったら、面白くなくなるぞ・・違うか?」

 

「確かにそうだったな・・分かったよ。遊びはここまでにするよ!」

 

「そうか・・潮時を悟ったか?偉いぞ!」

 

「ありがとう。いつかは、私の魂を救ってくれる者が出ることを信じて、地獄で待つよ」

 

惨めに地上に転がってる三神を見下した信濃は宣言した。

 

「遊びはここまでだぁ~なかなかに面白かったぞぉ~後は何が起ころうと、私の知ったことではないぞぉ~さらばだ!」

 

首に斧の刃に押し付けた信濃は、高笑いしながら自刎した。

 

「高槻さん、気づきましたか」

 

「何がだ?」

 

「信濃の奴、生き絶える前に『みんなが、私の本心を受け入れてくれたら・・』と泣いてましたよ」

 

「そうか・・愛に迷った信濃を救う者が、現れるといいな」

 

信濃を救うものが出ることを願った高槻は、信濃の胴体を背負った後、日高に命じた。

 

「貴様は、信濃の首を持って帰れ!」

 

「え~屍体を持って帰るのですか?」

 

「愛ちゃん達が、祟られてもいいのか?」

 

「わかりましたよぉ~戦時中から人使いが荒いんだから~」

 

高槻と日高が屍体を抱えて立ち去ろうとしたその時、傷ついた三笠が、高槻に尋ねた。

 

「中尉、何をする気ですか?」

 

「信濃と約束した通り、貴女達の体たらくを天界にバラ捲く!三笠さん、貴女には失望したぞ!信濃と心で接すれば、アイツも納得しただろう・・貴女は、東郷元帥と同じ過ちを犯したのだ」

 

「・・・・・・!!」

 

75年前に、雪風と同じ目をされた三笠は、恥ずかしそうに、項垂れた。

 

神を情けないと思った高槻は、日高に摩耶たちを、呼びに来いと命じた。

 

「摩耶と羽黒が直にくる。後はアイツらが何とかするさ。じゃあな!」

 

「高槻中尉、日高曹長、待ちなさい」

 

追いすがる三笠を無視した二人は信濃の屍体を抱えて天界に去った。

 

摩耶たちに変を知らされた霧島達と米国7Fの連中は、すぐに駆けつけて三人を助けた。

 

神が踏みにじられた映像を、天界に撒き散らした二人は、長門達に自首し、騒乱罪と反逆罪の容疑で、身柄を拘束された。

 

「高槻、日高、しばらくの辛抱だ。後は、俺がなんとかする」

 

「水瀬さん、釘宮さん、お世話になります」

 

水瀬達が、減刑に努力すると約束して数週間近くが経った。

 

「高槻、日高、元気そうでよかった・・」

 

「大和、武蔵か・・・・和平交渉はどうなっている?」

 

「信濃を紛争の全責任者とみなすと双方合意した上で。我々有利の下で、和平案は進んでいるよ・・」

 

それは良かったな、と答えた高槻は、地上での件を二人に伝えた。

 

「信濃のやつ、泣いてたぞ!貴様ら2人が寄り添っていたら・・・」

 

「おい、高槻、私達とて信濃を無下にした事は悔いている!一方的に決めつけるな!」

 

武蔵が抗議したが、大和が間に入って話を続けた。

 

「私達は、信濃に、全てを押し付ける決定に、異議を唱えましたが、執行部に却下されたのです!」

 

「そうか・・貴様達が妹に同情してるのはわかった。そのことはアイツに伝えよう」

 

収監されて一ヶ月後、二人に裁定が下った。

 

「高槻、日高、貴様ら二人を日本村から所払いする。傭兵に志願した時は刑事犯として訴追する」

 

「そうか・・刑を受け入れるよ」

 

「古鷹、加古、二人を退廷させろ」

 

追放された二人のところに水瀬と釘宮が訪れた。

 

「・・・高槻、日高、気を落とすなよ。数年ぐらい、南の小島で、大人しくしてたら、赦免してくれるよう取り計らってやるよ」

 

「水瀬さん、よろしくお願いします。釘宮さん、ウジ虫どもの駆除は終わりましたか?」

 

「滞りなく終わったぞ!お蔭で、剣闘試合は無期限延期となった。コロシアムは、野外劇場に作り替えるぞ」

 

「水瀬さん、劇団を立ち上げるのですか?」

 

獄中の噂を耳にした高槻が尋ねる。

 

水瀬は頷く

 

「ああ、この前に来たアイツをスカウトしたついでに、あの二人の引き抜きに成功したよ」

 

その二人の名を聞いてニンマリとした高槻は、水瀬に聞き返した。

 

「共演者はどうするのですか?森光子を連れてくるのですか?」

 

「共演者は、素人でやりたいというから、山城姉妹達を、その3人に、推薦した」

 

「上手くいくといいですね。それでは・・・」

 

「高槻、日高、刑期が終わって行くところがなかったら、俺のとこに来いよ」

 

「その時は、お願いします」

 

釈放された高槻と日高は、信濃の墓参りをした。

 

雪風達がそこにいた

 

「貴様達、坊主頭になってどうした」

 

「私達も追放になったので、鳳翔さんと一緒に、地獄巡りをしようと思いまして」

 

「そうか、信濃によろしくな」

 

「はい」

 

尼さんになった雪風達は、地獄に向かい、高槻達は、流刑地の小島に向かった。

 

数週間後のコロッセウムでは・・・

 

「ババンババンバンバンバン~ああビバドンドン~」

 

かって、日本中を笑わせたあの三人と、ゲスト出演した山城姉妹達が、数万の観客とともにメロディーに合わせて踊っていた。

 

「次も一生懸命頑張ります!ごきげんよう!」

 

天界での遊びと信濃の地獄遊びは、続く。

 

だが地上では・・・ホトトギス・サヨナキドリ・オオガラスの鳴き声は、聞こえてこなかった。

 

(完)


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