2020年3月某月・横須賀
「「大姉様、お疲れ様です!」」
「お疲れ様です。明日の朝、あなたの剣の腕を拝見させていただきます。今日はお休みなさいませ」
「はい!」
白無垢の寝巻に着替えた摩耶(二世)・羽黒(二世)姉妹は廊下で別れた。
「摩耶姉様、お休みなさい」
「おう、大姉様の稽古は中々に厳しいぞ!気を抜くな!」
「はい」
床についた羽黒だったが、今日も悪夢にうなされた。
「神風、行きなさい!ここは私に任せて!」
「羽黒、アンタを見捨てないよ!」
魚雷の直撃を受けて深傷を負った羽黒は共に戦おうとする神風を一喝した。
「ダメ!このままでは貴女が巻き込まれてしまう!5隻程度の駆逐艦ぐらい支えてみます!」
「わかった・・・すぐに戻ってくる。自暴自棄にならないでね!」
神風が安全圏へ退避したのを確認して反撃した羽黒だった。が、ついに運命が尽きた
「もう何も見えない…妙高姉さん、足柄姉さん、ごめんなさい、お先に那智姉さんの元に逝きます!」
艦橋に直撃を受けた羽黒は、止めを刺しにきたジャービス達の前に立ち塞がった。
「ジャービス、止めを刺すよ!」
「待って!ジャップのことだ。下手に近づいたらカミカゼしてくるかもしれないよ!」
「随分に買い被ってくれてるわね。私はあなたたちに首をやるだけなのにぃ」
心の中で臆病者と嗤った羽黒は短剣を首に押し当てて、ジャービス達に叫んだ。
「大日本帝国軍艦・羽黒の最期を目に焼けつけるがいい!」
言い終わった羽黒は首を掻き切り倒れた。駆逐艦娘は羽黒の死体に群がって羽黒の衣服を引き裂いた。
「すげぇ・・シルクの下着だよ!」
「あの噂は本当だったのか!全部剥ぎ取るぞ!」
死体をハゲタカのように食い荒らした駆逐艦群はお宝と首を手に引き上げていった。翌朝、戦場に戻った神風は叫んだ
「羽黒・・・なんてことに・・ああっ!」
「ああっぅ、またあの悪夢か・・・これで3日連続よ。どうして!」
憔悴した羽黒の前にアヤカシが現れて笑った。
「ハグロ、ワタシがミセタのだ!タノシんでくれたカナ?」
「誰!」
「シリたければ、ツイテくるがよい!」
枕元の刀を手にした羽黒はアヤカシを追って庭に出た。そこに姉の摩耶に鉢合わせた
「姉様!」
「羽黒?お前、どうしてここに!」
「三日連続で悪夢を見せたアヤカシを追ってここに来ました!」
「なんだと、アタシも三日連続で悪夢を見せたアヤカシを追ってきたんだ!」
「マヤにハグロ、オシャベリはソコまでだ!」
アヤカシは刀を手にした二人に言う。二人は言い返す
「「大姉様を殺めるなら、私たちが相手します!」」
「オロカなヤツらめ!ワタシはミカサやキサマ達をアヤメにキタのではない!キサマらをスクイに来た」
「バカなことをほざくな!私達に悪夢を見せつけた癖に!」
「あの悪夢はキサマらの深層心理を脳に写したものだ。その悪夢の元を断ちに来たのだ」
「なんだと!」
人より強い意思を持つはずの自分たちの意思に攻撃を仕掛けるアヤカシに対した二人は後ずさりした。アヤカシは二人にトドメをさす
「「・・・・・・・」」
アヤカシに魂を抜かれた二人は庭に倒れた。
「ナニ、シンパイすることはナイ、ワタシはキサマらをアヤめる気はナイ!これはアソビだからな・・」
摩耶と羽黒の魂を抜いたアヤカシは何処かに立ち去った。
「摩耶、羽黒、いかがなさいましたか!く、魂が抜かれている!一体誰が現世に介入したのか・・・まさか、あの者が!!」
あの悪霊を封じ込めた私の力が衰えたのかと三笠は不安に襲われた。
昭和二十年三月・日吉
「大和、来てたのか?」
仮眠室で睡眠を取る神先任参謀は大和が傍にいるのに気づいた。
「はい、先任参謀、帝都は焼け野原になりました。我らの力不足、誠に申し訳ありません」
「・・いいんだよ。レイテ、硫黄島、そして帝都のこと、全ては俺たちの無能のせい、貴様のせいじゃない!」
海軍軍人達の評判は悪いが、艦娘には優しい神は大和を慰めた。
「先任参謀、ありがとうございます。今日はお願いがあって参りました!」
「願い?申してみよ」
「参謀、沖縄に行かせてください!」
大和は最後の出撃をさせてくれと神に願い出たのであった。
「俺個人としては貴様達の願いをかなえてやりたい。だが上の連中はそれを取り上げてくれまい・・・」
「なぜですか?」
「軍令部が燃料の都合が立たないから水上部隊の投入は同意できないと言うのだ」
「そんな・・・」
連合艦隊の力不足に絶望した大和は部屋の片隅で座り込むと上着を脱ぎ始めた
「バカな真似はよせ!」
驚いた神は大和の手から短刀を取り上げて、言い聞かせた。
「貴様の決意の程はわかった。今一度、軍令部に意見してみよう。それでいいな!」
「はい」
「・・だが、航空部隊の補充と本土防衛が最優先になる。電探の更新はもちろん、燃料の供与も怪しいぞ。それだけは覚悟してくれ」
「それは構いませぬ。今一度、私達の出撃をお願いします!」
「わかった」
連合艦隊と軍令部が沖縄防衛の折衝を続けていた3月19日、機動部隊の艦載機群が呉を襲撃、残存艦隊多数に損害を与えた。
「矢矧、被害は?」
報告のため大和艦橋に上がって来た矢矧は戦果と被害を報告した
「敵機多数に襲撃されましたが、被害はありません!」
「そうですか・・私の船体そのものにも被害もありませんが、測距儀にいささかダメージを受けました。しばらくドッグに入ります」
「はい。ご養生を!」
矢矧が去った後、戦闘指揮所に上がった大和は呉港内を一望した。
「ついに、ここまで追い込まれましたか・」
損傷を受けた榛名達を眺めながら嘆息する大和であった。
その頃、呉市街地では
「水瀬、敵は引き上げていったぞ、貴様の要件はどうなった?」
地下壕に引き込んだ電話線で運び屋を怒鳴り上げていた水瀬平八郎は釘宮彦之丞に答える
「運び屋連中には、前金は払ったんだ。約束通り納品しろと釘をさしといたぜ!」
「逃げ出したら、憲兵隊にチクるのか?」
「当たり前だろ?」
「そうか、鎮守府の連中に話をつけて、地下に電話線を引き込んだ甲斐があったな」
「そうだな・・今から瓦礫の撤去作業と行くぞ!」
トラックに工具を積み込んで現場に向かった水瀬釘宮商会はしぶとかった。
数日後、第五航空艦隊の偵察機は四国沖に敵機動部隊を発見した。それを知った宇垣纏長官は軍議を開いた。
「敵機動部隊は疲労したと思われる。神雷部隊をこれにぶつけたい!」
「少数による夜間奇襲なら成功の可能性もありますが、護衛戦闘機が足りない現状、昼間の強襲の成功の見込みはありません。機会を待つべきです!」
「馬鹿な、ブツけるといったらブツけるのだ!」
幕僚の意見を聞き入れなかった宇垣は神雷部隊に出撃を命じた。
「隊長、長官が見送りに来られました。手を振りますか?」
「無視しろ!真っ直ぐ敵に向かう!」
桜花を搭載した18機の一式陸攻を率いる野中少佐はそう部下に吐き捨てた。
「無視してよかったのですか、隊長?」
「どうせ片道の湊川だ。提督様に敬意を表する必要はないだろうさね!嫌な奴は適当な言い訳を考えて戻れ!俺が責任を取る!」
「隊長は突っ込むのでござんしょ!ご一緒させてもらいますよ!」
「馬鹿野郎め・・・」
神雷部隊は迎え撃つ迎撃隊を物ともせず敵に向かって突っ込んだ。
「神雷部隊が敵機動部隊に全力攻撃しました」
「戦果はありましたか?」
数は少ないとはいえ、野中少佐達、貴重な熟練パイロットで編成された神雷部隊ならと戦果を期待した大和だったが、矢矧からの知らせに失望した。
「敵戦闘機隊と遭遇した神雷部隊は全滅しました・・・遭遇した時、司令部から退避命令が出たようですが、野中少佐は命令への抗議としてそのまま突っ込んだそうです」
「そうですか・・ご苦労様です。矢矧、戻りなさい」
「はい」
矢矧を戻らせた大和は自室で考えた。
「私は野中少佐のように死を受け入れることができるかしら・・・」
硫黄島が陥落、沖縄上陸が間近に迫ってると悟った軍令部は作戦計画を練り上げを持って、陛下に上奏した。及川軍令部総長の上奏を受けた陛下は海軍を激励した。
「・・・海軍は全力を持って目的達成に努力せよ」
「・・・もったいなきお言葉にございます。呉に待機しております第一遊撃部隊も機をみて参加させるつもりにございます」
「・・・うむ。期待してるぞ」
「・・・はい、ありがとうございます。陛下は水上部隊を投入させたいのか?」
忖度した及川は作戦部長の富岡提督を読んで陛下の意向を伝えた。富岡は部下を招集して腹案を打ち合わせした。
「燃料事情等及び五航艦の戦力から考えて、囮にした第一遊撃部隊で誘い出された敵機動部隊を叩くことは可能です」
「そうか、総長には俺が伝える。然るべき案を立てろ」
「わかりました」
腹案をたたき台にした富岡は三上連合艦隊作戦参謀と協議した。
「第一遊撃部隊を佐世保に移動させる程度の燃料なら用意できます。やりましょう」
「そうか、ありがとう」
連合艦隊は大和の修理が終わり次第、佐世保に移動せよと第一遊撃部隊に命じた。
翌日、鳳翔さんが水瀬釘宮商会を尋ねてきた。
「鳳翔さん、怪我はないか?」
「ええ、水瀬、あなたは?」
「おかげさまで・・よろしくやってるさ。ところで鳳翔さん、大和は。近いうちに出撃するようだな?」
「わかりますか?」
「ああ・・昨日、井口が会社にやってきたから料亭で一杯やってきた。その時にアイツから聞いた」
「井口中尉と何を話したのかしら?」
「アイツ、『貴様の言う通り、戦艦は無用の長物だった・・俺は戦争が終わったら生き甲斐がない』と溢して、『何があってもゴキブリの様に生きるのがお似合いなn貴様たちに女房と子供の世話を頼みたい』と面倒事を持ち込んできたよ」
「受けるのですか?」
「死ににいく奴の望みをうっちゃたら目覚めが悪いぜ。鳳翔さん、何か欲しい物があったら持っていってきなよ!」
大和は死ぬ気だなと聞く水瀬に鳳翔は答えた
「タダでいいのですか?」
「餞別に支払いを要求するヤボはせんよ!」
「それでは、お言葉に甘えて・・・」
大和と運命を共にする第二水雷戦隊への土産物のお菓子その他を貰った鳳翔は大和の元をやってきてお土産物を渡した。
「鳳翔さん、ありがとうございます」
「どういたしまして。貴女達のご武運をここで祈ります」
「鳳翔さん、一つやって欲しいことがあります
「なんでしょうか?」
「私のために手料理を振る舞ってもらえませんか?」
「わかりました。喜んで用意します」
決戦の日は近い
(続く)