大和特攻始末記   作:オットー・カリウス中尉

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出撃

昭和二十年四月五日・十八時・徳山沖

 

最後の出撃を前に燃料補給を行う第一遊撃部隊

 

矢矧に配属された士官候補生の世話を任された池山中尉達は、鈴木士官候補生と相対した。

 

「分隊長、戦場では足手まといになる私達を連れていけないと、おっしゃりたいのですか?」

 

「そうだ・・3日の勤務では前線の役には立たん。貴様らには生きて次に備えるのだ!」

 

古村提督や原艦長と同じく、候補生達には納得して降りて欲しい池山中尉は、直属の部下でもある鈴木に言い聞かせた。

 

納得できない鈴木は池山に食い下がる。

 

「我々は何に備えたらいいのですか?」

 

「納得したら艦を降りるのか?」

 

「はい」

 

「そうか・・鈴木、五省を唱えてみろ」

 

鈴木達、74期の候補生には池山達72期は1号生徒である。直立不動で五省を叫んだ、

 

相対して、鈴木の叫びを聴聞き終えた池山は、鈴木に問い質す。

 

「では聞こう。鈴木、貴様らが俺の立場だとして今の貴様らは『努力は十分だ』と言いきれるか?」

 

「言えません」

 

「もう一つ、聞こう。今の貴様らは『最後まで十分に取り組んだ』と言い切れるか?」

 

「分隊長、我々は矢矧のことを何も知りません!」

 

「そうだろう・・わかったか!何も知らない連中を戦場には連れていけない。船を降りろ!貴様らは生きてこそ国に貢献できる・・井上提督はそのようにおっしゃたはずだ」

 

「・・・・うぅうぅ」

 

無念と不甲斐なさがつまった嗚咽が候補生達から起こった。

 

池山は彼らを励ました。

 

「死ぬのは俺たちの仕事だ。貴様らは生きて帝国海軍を再建してくれ!約束してくれるな?」

 

「は・・・はい、お約束します!」

 

矢矧に乗っていた候補生達も大和の連中と同じように、花月から寄越された内火艇に乗り込んで豊後水道まで護衛する花月に乗り込んだ。

 

「あれで良かったのかしら?」

 

「いいんだよ・・アイツらには先がある」

 

「でも私達、艦娘は敗れたら先がない・・酒匂は連れて行くべきだったかしら?」

 

「それは何とも言えないな・・でもキリがない。戦えない連中を決死行に連れて行くわけにはいかん」

 

「それも・・そうね」

 

「とにかく今夜が内地の最後の夜になるぞ。俺も仲間と楽しむから、君も雪風達を集めて楽しめよ!」

 

「わかった・・出港は明日の昼でしょうから、夜中にもう一度会いましょう」

 

お互いの宴が終わった二人はいい気持ちになって防空指揮所から夜桜を眺めた

 

「美しいな・・・君と去年の始めから一緒に戦い続けたが、日本の桜が世界で一番美しいよ」

 

「そうね・・あなたと一緒にあの桜の下でお弁当を広げたいわ」

 

「二人の子供達がブランコやシーソーで遊んでるところを眺めて、一杯ってか?」

 

リンガでもタウイタウイでもブルネイでも暇さえあれば、書き散らした風景画を見せながら、戦争がなかったら自然を大切にした遊園地を作りたい夢を矢矧に語った池山は笑った。

 

「それも夢物語・・おそらく数日後は・・」

 

「それを嘆いてもしょうがない。君が死ぬときは俺が側にいてやるよ」

 

「そう言ってくれたら、ありがたいわ」

 

池山中尉の激励に微笑む矢矧であった。

 

同日・横須賀

 

米内海軍大臣が三笠の隠宅を訪れた

 

「お待ちしておりました。提督」

 

「うむ、ありがとう、三笠さん、またヤツれたな・・・」

 

「提督ほどではありませぬ。今日はどういうお話で?」

 

「それは茶室で話したい」

 

「はい・・・長門、提督をご案内しなさい」

 

茶室に入った3人、三笠が点てた茶を味わった米内が話し始めた

 

「結構なお点前だ。戦も結構な形で終わると良いのだが・・」

 

「何か動きがあったのですか?」

 

「辞表を提出した小磯さんに代わって鬼貫さんに大命降下があったよ」

 

「そうですか・・・鈴木提督は私より年上にございます。最前線もさることながら、上も人がいませんね」

 

「・・そんなことを言ってくれるな。俺も情けない体を晒して大臣をしているんだぞ」

 

海軍大将にした井上成美に任せたい米内は溢す。三笠は慰めた

 

「しかし、井上提督では納得できない者が多いと聞きます。貴方と鈴木提督に最後のご奉公をしていただかないといけませぬ。海軍元帥として今の人事を承認します」

 

「ありがとう、鬼貫さんに、三笠さんが承認したと伝えるよ。長門、貴様達もつらかろうが、大和には最後の奉公をしてもらうぞ!」

 

「はい、大和も死を決していると思われます。閣下には我らの思いを陛下にお伝えください」

 

「わかった」

 

長門の思いを受け取った米内は、長門の手を握って約束した

 

75年後の天界

 

「やばい、連中は晴嵐ちゃんの存在に気づいたよ」

 

ジャミングされたと気づいた伊47が、伊58達に叫んだ。

 

「潮時なのデチ!シーナ、収録は終わりましたデチか?」

 

「もちろん、めもりーすてぃくに収録したよ。勿論しーりんぐ済よ」

 

「ご苦労様なのデチ、急速潜航して日本村に逃げ込むデチよ」

 

逃支度を始めた2人を見た伊401が愚痴る

 

「晴嵐ちゃんは惜しかったなぁ・・・」

 

「やめなよ・・あのアヤカシにまたおねだりしなさいな。それともアンタはアスロックを食らうのが好みなのかしら?」

 

「ニム、わかったよ」

 

4人は、アスロックを装備した警備艦娘と対潜哨戒機の連携攻撃に警戒して急速潜行を開始した。

 

「タービン最速で逃げるよ!」

 

魚雷の代わりに、2スロットにタービンと釜を装備した高速化した4人は、20ノットに加速して日本村の領海に逃げだした。

 

四月六日午後二時・徳山沖

 

編成から外されていたが、増援として加わるように命じられた初霜と霞が矢矧に挨拶にやってきた。

 

「ようこそ、地獄の渡し舟に、貴女達も生きるのは嫌になったの?」

 

矢矧の冗談に初霜がやり返す

 

「そういうのは心外です!私の方が司令より修羅場を経験してるんですよ!」

 

「経験の浅い私じゃ、雪風達を仕切れないと言いたいの?」

 

「そうじゃありませんよ!私達は赤煉瓦の命令で・・・」

 

向きになって言い返そうとする初霜に代わって霞が答えた。

 

「司令、今度の出撃の相手は水上艦隊になるのね?」

 

「ええ、ニューメキシコ達は、機動部隊は後方に下げると私達に約束したわ」

 

「そう、長年の宿敵の戦艦群に魚雷をブチ込めるのね。先に果てた朝潮や満潮に自慢話ができるわね。初霜、あんたもそうだよね?」

 

「ええ、初春姉や若葉のために敵戦艦に一発叩き込んでやりたいです!」

 

「そう・・ありがとう。私からは何も言わないわ」

 

多勢は変わらないだろうが、戦慣れした2隻が加わってくれて感謝する矢矧だった。

 

同じ頃、大和の長官室では、最後通告をする羽目になった草鹿連合艦隊参謀長と三上作戦参謀が、伊藤長官に相対していた。

 

「そうか・・・一億総特攻の先駆けをやれと言うのか、それは君達の考えか?」

 

「・・・・はい」

 

沈黙の後の頷きに2人とも作戦に納得できないと理解した伊藤は話し続けた

 

「そうか・・では途中で大損害を受けて作戦続行が不可能な場合はどうしたらいいのか?」

 

「その時は長官のご意志を重視して、連合艦隊司令部は動きます。ご安心ください!」

 

鹿屋出張でお茶を濁そうとする豊田連合艦隊長官と無責任な及川軍令部総長の一方的な命令では納得できなかった伊藤は、草鹿の答えに納得した。

 

「ありがとう。これでせいせいした。皆を集めよう」

 

1時間後、各駆逐艦長も参加した作戦会議が士官室で行われた

 

「豊田長官が指揮を取らないとはどういうことですか!」

 

という駆逐艦長達からの突き上げから始まった会議は

 

「我々は死に場所を与えらえた」

 

の伊藤長官の一言で終わった。

 

大和達も士官室の隅に集まって最後の軍議を見守っていた。

 

「見なさいな。日吉のモグラどもの間抜けヅラを・・あのバカ連中が私たちを無駄死にさせたのよ!でも、決まったものは仕方ないわね!」

 

悪態をついていた霞達にも、伊藤長官の言葉は伝わった。

 

会議が終わった後、第二水雷戦隊の9隻は大和に向かって敬礼した。

 

「我ら9隻、長官とともに運命を共にすると誓います」

 

「ありがとうございます。ですが、あなた達に一言伝えたいことがあります」

 

「何なりと・・・」

 

「私がやられた時は帝国海軍が終わる時、残存艦は血路を開いて、三笠大姉様に全てを伝えてください」

 

「それは・・・」

 

「これは、第二艦隊司令長官の命令です!」

 

「了解しました。雪風、この期に及んでも、生き永らえたいと思ってる貴女なら、任せてもいいわよね!」

 

「はい、もちろんにございます!」

 

雪風が皆を代表して矢矧に誓った。大和も矢矧も笑った。

 

「みんな、頼みますよ」

 

大和は皆の拳を両手で握って感謝した

 

18時、第一遊撃部隊は、豊後水道まで護衛する花月達と共に決戦の海に向かった。

 

「ここからは私達だけでやります。あなた達は呉にお戻りなさい」

 

「はい、ご武運を」

 

花月達を送ると同時に各箇所に送った電文は、沖縄沖にいる米国艦隊に傍受された。

 

「ヤマトはオキナワに来るわ。出撃!」

 

「オー!」

 

ニューメキシコ率いる第54任務部隊は、大和を迎え撃つために、北東に向かった。

 

(続く)

 


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