その時、君に.....   作:ワッタン2906

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初めましての方は初めまして。
ワッタンです。

色々と自分に言いたいことがあるでしょうが、本当に申し訳ございません。
けど、斉藤努様の小説をこのまま失くすのは惜しいと考え、この小説を執筆致しました。(本人には許可を取ってあります)
正直この作品を、僕の最後の作品と言ってもいいような気持ちで書き上げます。
絶対に本家は越えられないと思いますが、精一杯書かせて頂きます。

それでは、第一話をどうぞ。

本家様

https://syosetu.org/novel/235800/30.html


第一話 心を溶かす彼女

その日俺は悟った。

俺は物であって者ではない。

これ以上に今の俺を表す言葉はない。

 

ゆっくりとロープをリビングの天井へと括り付ける。

その作業中。

パーカーの中に入れていたスマホが落ちた。

その画面には、人生を諦めた者達が閲覧するであろうサイトが映っていた。

 

俺には一つ年上の姉がいる。

「湊友希那」それが姉さんの名前だ。

物心がつく前の小さい頃から両親に、俺は姉と比べられて生きてきた。

ネグレクト......まではいかないにせよ、毎日両親から比べられて、罵られた。

俺は耐えた。いつか救われると信じて。

 

 

 

 

 

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小学校に入った時から俺は虐められた。

原因は分からない。

最初は、ただ雑用を俺に押し付けてくるだけだった。

それが徐々に、ハブられ、物を隠され、終いには暴力を振るわれた。

 

それでも、俺は耐えた。

誰かが助けてくれる、慰めてくれると思って我慢した。

けど、誰にも気づいて貰えなかった。

あの糞親はともかく、姉すらも。

 

誰にも、誰にも、誰にも!!

 

絶望した。

どんなに比べられて罵られても姉だけは......姉だけは好きだった。

勿論家族として、たった一人の兄弟として。

どんなに苦しかったか。

自分と比べられるほど、上位互換の姉に見捨てられた。どんないじめよりキツかった。

だから......俺は人生を諦めた。

 

括り付けたロープの下に、椅子を持ってきてその上へと立つ。

今、家には俺一人。

あの糞親も、俺を見捨てた姉も居ない。

念の為に邪魔をされないように、玄関にも鍵をかけた。

旅立つには、絶好の機会だった。

首をロープにかけた。

 

もう、疲れた......、もういいよね?

 

誰が聞くのかも分からない、自問自答を心の中で繰り返す。

 

......こんな俺に次があるのなら、優しい人達に会えますように......

 

そして、椅子を蹴ろうとしたその瞬間だった。

リビングの扉が勢いよく開かれた。

 

 

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その人物が持ってきたであろう、手提げ袋が落ちる音が部屋へと響いた。

 

──────────────────────

 

「もう〜、友希那ったら、体操服忘れて帰っちゃうなんて」

 

体操服が入った手提げを持ちながら、そう呟く。

友希那はアタシの幼なじみだ。

小さい頃から一緒にいる。

それはもう、アタシの母から「ベッタリねぇ」と言われるくらい。

休日にはお互いの家を行き来してたり、遊んだりしてた。

たまに、友希那の弟の翔也とも遊んだ。

 

そして実はお隣さん。

だからこうして、体操服を届けている。

アタシの家の前をスルーし、友希那の家へ。

 

「あれ? 鍵がかかってる?」

 

玄関に鍵がかかっている。

ということは、誰も居ないのだろうか?

 

「居ないのかな......うーん、仕方ないか」

 

だけど、アタシは慌てない。

慌てる代わりに、カバンから猫のキーホルダーが着いた鍵を取り出す。

取り出したのは湊家の鍵。

これは、友希那のお母さんから、「何かあってもいいようにね」と渡された物だ。

鍵穴に鍵を刺し、ゆっくりと玄関のドアを引く。

 

「お邪魔します......って、電気ついてないじゃん」

 

玄関に入ると電気は着いておらず、人の気配は感じられなかった。

これは長居出来ない、そう思い体操服を玄関に置いて帰ろうとしたその時だった。

 

 

......カタン......

 

 

「!?」

 

物音がした。

誰も居ないはずの家から。

 

ど、どどどどうしよう?

き、気の所為かな?

もしかして、泥棒!?

いや、ただ単に何か物が落ちたのかも!?

と、とりあえず、落ち着け、アタシ......。

 

深呼吸を繰り返し、動揺した心を落ち着ける。

胸に手を当て心拍数が落ち着いたのを確認して、意を決して家の中へと入る。

何かあった時の為にいつでも、110番出来るように。

 

物音がしたのは、一階のリビング。

足跡を立てないように、扉へと歩みを進める。

 

た、確か、リビングの扉ってガラスが貼ってあったよね......

 

 

湊家のリビングの扉はガラスが貼ってある。

そこから、物音があったリビングの中が見えるはず、とりあえず中を見てみて、泥棒だったら逃げて即通報!! と、脳内でシュミレーションを立て扉へと近づいていく。

 

よ、よし。

それで中を......っと......!?

 

中を見た瞬間、勢いよく扉を開けた。

 

「なに......やってるの......?」

 

自分から出た声は震えていた。

持っていた体操服の手提げ袋が床へと落ちた。

 

──────────────────────

 

「なにやってるの......翔也......?」

 

あと一歩で、俺がこの世界からいなくなる瞬間だった、

彼女が......「今井リサ」が入ってきたのは。

 

今井リサ、うちのお隣さんでそして、姉さんの幼なじみ。

小さい頃は一緒に遊んでいたリしたのだが、中学に入ってからは疎遠になっていた。そんな彼女が、震え声で俺に話しかけている。

見た感じ、驚き過ぎてそこから動けないようだ。

 

この状況、普通だったら。

この世界が本当に憎いのなら、本当に心から絶望していたのなら、このまま俺は、椅子を蹴っていた。

だけど、俺は違った。

だって......、

 

こんなにも、安堵しているのだから。

 

 

やっと気づいてくれた。

俺の存在を......。

 

涙を流しながら、気がついたら俺は彼女に抱きついていた。

抱きついた数秒後。

彼女が俺を引き剥がした、その瞬間、顔が横へと傾いた。

そして、肩を掴まれる。

 

「バカッ!! 何やってるの!?」

 

彼女は右手を振りかぶっていた。

どうやら、俺は平手打ちをされたらしかった。打たれた場所が熱さを帯びてくる。

 

でもそんなことはどうでも良かった。

待ちこがれていた存在にやっと会えたのだ、俺を見てくれる存在。

近くに居たのに気付かなかった、そんな後悔の念もあった。

だけど、そんな事はどうでも良いくらい嬉しかった。

 

そのせいか、俺はぽつりぽつりと話し出してしまった。

家の事も、学校のいじめの事も、洗いざらい全て。

俯きながら全てを話終えた後、顔あげると、

そこには涙を浮かべた、リサの顔があった。

そして、今度はリサから抱きしめられた。

 

「......り、リサ?」

 

「ごめんね......気づいてあげられなくて......」

 

俺を抱きしめながら、彼女はそう呟く。

そして、そのまま俺とある約束を交わした。

抱きしめる力が強くなる。

 

「......アタシが今度から、絶対守ってあげるから!!......だからこんなことはもう、お終いにして......?」

 

その言葉に、止まりかけていた涙が再び溢れ出した。

そしてそのまま、彼女を抱きしめ返した。

閉められたカーテンから零れる、夕陽が泣きじゃくる俺達を照らしていた。

 

 

これが何年前かの出来事。

そして、今日は高校の入学式だ。

 

俺は今年から共学になる花咲川学園へと通う。

しかも特待生で。

あの糞親は、俺のことを何も思っていない。

当然、高校のお金は払ってくれなかった。

でも幸い、俺は勉強が出来たのでこうして無事に高校生へとなっている。

 

入学式は滞り無く終わり、今は自分のクラスへと移動していた。

やっぱり今年から共学になった影響だろうか、男子生徒の数が圧倒的に少ない。

 

本来こういう時は、自分から話しかけて友達を作るべきだろう。

でも、俺は......動けなかった。

 

脳裏に過去の映像がフラッシュバックする。

自分が思ってる以上に、昔の出来事がトラウマになっているようだ。

自ら話しかけにいくのをやめ、机へと突っ伏した。

 

俺にはリサが居てくれればそれでいい。

 

新学期特有の自己紹介イベントを適当にこなし、自宅の帰路へと着く。

幸い学校から、自宅まではそれこそ十分で着ける距離だ。

あっという間に、自宅へとたどり着き、荷物を自室の部屋へと置き、リサの家の前で、リサが帰ってくるのを待つ。

自宅はただの、荷物置き兼寝床だ。

 

十分ほど待っただろうか。

 

「あっ、翔也ー、おかえりー」

 

羽丘女子学園の方の道から、二人組が現れる。

一人は、俺を唯一見てくる存在「今井リサ」と、俺の姉「湊友希那」だった。

 

「......」

 

「じゃあ、リサ行こう」

 

姉の存在を無視し、リサの手を取る。

とその時、リサから呼び止められる。

 

「待って、翔也」

 

「......何?リサ」

 

「......なんで翔也は、友希那の事をそんなに拒むの?」

 

一瞬の静寂。

俺は、その問いに対し声を振り絞り、思いを吐露する。

自分の醜い心を。

 

「......れるから」

 

「え?」

 

「比べられるから、自分の嫌な部分が目立つから」

 

「そんなこと......私は望んで無いわ」

 

姉さんが俺の意見を否定する。

だけど、聞く耳は持たない。

 

「でも、あの親はそうする。さ、リサ行こう」

 

「......うん、そうだね」

 

そのまま、姉さんを置いてリサの家へと入る。

別にあの人が嫌いな訳じゃ無い、素直になれない俺が悪い。

そう自己嫌悪をしながら。

リサの家に入り玄関の扉を閉める。

そこには後味の悪い空気が残っていた。

 




※この小説はあとがきは書かない方針で行きます。
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