いつも無表情で俺にだけじゃれてくるボクッ娘お嬢様をわからせたい   作:『テキスト』

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ボクは執事君に謝りたい

「ボクは執事君に謝りたいんだ。どうすればいいと思う?」

 

「えっ?」

 

 昼下がり、いつものように庭で紅茶を飲んでいるときに側にいてくれたメイドのサラにボクはそう言った。

 

「まず執事に何に対して謝るのですか?」

 

 サラは、一番長くこの屋敷に勤めている。ボクが一番信用できるメイドだ。

 

 褐色の健康的な肌に、ボクの髪とは違って太陽の光を浴びれば大地の恵みを、月の光に当たればまるで宝石のように輝く金色の髪。

 白黒のフリルのついた服は大人らしくも、子供らしさも両方を持っている。

 

 女性らしい、ボクと違って体の全てが。

 

 そして、何よりも特徴的なのは瞳だ。紫の何事も真っ直ぐ見通す力強い目。そう、ボクと同じ目の色でもあった。

 

 悩み事があれば彼女に最初に相談をする。

 それに、ボクと同じ珍しい目の色ということもあって、雇い主と使用人という遠い関係ではなく、もっと姉のような曖昧で近しい存在でもあった。

 

「すまない、言葉が足りなかった」

 

「もう、執事のことになると焦っちゃって。彼のことになってから何回目ですか、夢中なのもいいですけどしっかりしてくださいよ」

 

「……そんなにボクは彼に対して必死に見えるか?」

 

 どうしても、彼以外の人と話すときは言葉足らずになることがあり、他人には誤解されてしまうことも多かった。

 

 だが、そんなボクの自分以外の他の人には彼への感情は上手く隠していたと思っていたのに、もしかして見破られてしまっているのか?

 前回彼の手を無理やり握ったところとかを目撃されてしまったのだろうか?

 

 そういえば前回ボクを用事だと呼んだのはサラだったことを思い出す。ということはやっぱり二人でいるところを見られていたことになるのか。

 

「はぁ、もういいです。そこは掘り返しません。話が進まないので」

 

「ああ、そうしようか」

 

 はっきり言うと、話がそのまま進まず内心ホッとしている。彼女がどこまで知っているか分からないが、どの話を持ち出されていても恥ずかしくなるに違いないし。

 特に彼には気持ちは隠しておかないといけなかった。

 

 ボクは彼に嫌われることだけは避けたいから。

 

「それで、お嬢様はどんなことを謝りたいんですか?」

 

「前回、彼に怒られてしまってね」

 

「怒られた? 彼が貴女にですか?」

 

「あ、いや。彼が悪いんじゃないんだ。ただ、ボクが失言をしてしまって」

 

「……まあ、なんとなく彼は穏やかな性格なので、怒るとしたらそういう類いなんでしょうけど」

 

 そっと胸をなでおろす。また、言葉足らずで変な誤解をまた与えてしまうところだった。これも自分でもよく喋れると自覚できる執事君に練習を頼まないといけないな。

 

「それで何かいい方法はないかな?」

 

 様々な仕事を渡り歩いてきた、ベテランの彼女だから何かいい意見があるんじゃないかと期待して聞いてみる。

 

「うーん、現実的な話をするならお給料の金額を上げたり、物を添えて謝るとか色々な方法がありますけど」

 

「それじゃあ、ダメなんだ」

 

「……まあ、そうなりますよね」

 

 ご主人が頭を下げて物をプレゼントしたら彼は表面上は許さないといけない。

 

 それじゃあ、ダメだ。彼を落ち込ませてしまった自分自身をボクは許せなくなってしまう。

 彼を心から喜ばせたい。笑顔が見たいんだ。

 

「後は願い事を一つ聞くとか?」

 

「願い事?」

 

「執事とおしゃべりしていますよね? 何か将来的に叶えたい夢があるだとか、給料を貯めて何かをしたいとか。趣味があると、何か言ってませんでしたか?」

 

「……いや、分からない」

 

 しばらく考えたけど、彼自身の話は何一つとして分かっていなかった。

 働く上の彼は知っているが、プライベートの彼がどうなのか全く想像ができない。

 

 料理を作ることが趣味なのか?

 

 ――この前のお茶も料理も美味しかった。

 

 運動は好きなのだろうか?

 

 ――そういえば、あまり屋敷の中でも、教えた仕事場以外は立ち寄っていない。体を動かすのが苦手なのか?

 

 じゃあ、人と話すことが好きなのか?

 

 ――彼は前回ボクのことを叱ってくれた。叱るのには体力がいる。その人のためを思っている優しい人間じゃないとできない。

 

 そこまで考えて胸の奥が熱くなる。彼のことを考えるだけで、普段は冷たい体が魔法にかかったようにぽかぽかとする。

 

 それと同時に情けない気持ちになった。

 彼のいいところは沢山思いつくのに、ボクは彼のことが分からないということだけだった。

 

「はぁ、お嬢様は今まで彼と何の話をしてきたんですか?」

 

 呆れられた声に何も返すことができなかった。

 ボクがサラの立場だったら呆れていたと思うし。

 

「なあ、執事君はボクと会話するの嫌がっていなかったか?」

 

「彼もお嬢様と話しているのは嫌ではないとは思いますが……」

 

 サラは執事君に仕事を教えた教育係。教育期間が終わった後も彼と仕事の相談をよくするらしい。

 

「とりあえず、部屋に呼んでその場の勢いで何とかするとか? お嬢様は練習よりも本番の方がつよつよですしね」

 

「それは、恥ずかしくないか?」

 

「……何回もお部屋に呼んでいるのにですか?」

 

「そ、それは仕事でだからさ」

 

「ふふっ、お嬢様は分かりやすいですね」

 

 ろれつが回らない。口をまごまごとさせてしまってそれを笑われてしまう。

 ジッと、強く彼女を睨むが動揺は全くしない。

 

「呼ぶよ。呼べばいいんだろう?」

 

「はいはい、それでこそお嬢様です」

 

「だけど、それはまた今度に伝えることにするよ」

 

「……はいはい、それもお嬢様らしいですね」

 

 

「それで、彼にあのことは言いましたか?」

 

 サラがボクに顔を近づけて甘い声で耳元で囁く。その言葉の意味は全然甘くない。苦くて苦しい罪の重さ。

 

 一瞬でボクは言葉を聞いて力が抜け時が止まるような感覚に陥った。伸ばしていた背中を背もたれにそのまま任せて、目を伏せる。

 

「いや、まだ言っていない」

 

 ボクの中の黒い卑怯者な部分が、言わなくていいと騒ぎ。僅かに残っている正しい部分が今からでも遅くないと必死に説得を始める。

 

 これは、ずっと彼と出会ったときから伝えようか悩んでいるトップシークレット。

 

「そうですか。もしよろしければ、それとなく私の方から伝えときますが?」

 

 魅力が詰まった言葉だ。蜂蜜みたいに甘くて堕落してしまいそうに魅力。

 光を反射して妖しく唇から、紡がれる言葉のまま衝動的に行動したくなってしまう。

 

「ここで働くなら、遅かれ早かれ知ることになるとは思うけど。なるべくボクから伝えたいんだ」

 

「……分かりました」

 

 サラから伝えれば誰も傷つけずに終わるかもしれない。

 

 ――それでも、ボクはボクの口から彼に直接言いたかった。

 彼がここを辞めてしまうかもしれないし、ボクも一生残る後悔して、誰も得をしないひどい現実になってしまうかもしれないけど。

 

 心に何本もの可視できない包丁が突き刺さる。

 この選択をしてしまで、ボクが背負ってしまった罪だから。

 

「ところで、ずっと気になっていたのですが。お嬢様は執事とどんなお話をして怒らせてしまったのですか?」

 

「ああ、実は――」

 

 前回あったことを正確に答えたら、この後、ボクはめちゃくちゃサラに怒られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お嬢様は無表情だけど今日も可愛かったなぁ」

 

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