いつも無表情で俺にだけじゃれてくるボクッ娘お嬢様をわからせたい   作:『テキスト』

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ボクの友人をもてなしてくれ

「ボクの友人をもてなしてくれ」

 

「はい、分かりましたお嬢様」

 

「後三十分で来る予定だから、対応を任せるよ?」

 

 お嬢様に念を押されてから別の部屋で軽く作業をしてから時計を確認すると、ご友人様の到着する五分前まだ時間はすぐそばに迫っていた。

 

 そろそろ、外で待ってようと扉に近づこうとして――

 

「おーほっほっほ。出迎えご苦労様」

 

 その瞬間、ドカッと、扉から無機質の嫌な音が鳴った。

 

「いっ、いたぁー」

 

 その音の正体は俺が迎えに行こうと、扉を開ける前に思いっ切り扉がこちら側に開いてしまった事故。扉が俺の顔面に思いっ切り当たったのだ。

 

「わっわっ、大丈夫ですの?」

 

 顔面にクリティカルヒットをして、痛い部分を手で抑えて屈んでいるとお客様の方から話しかけてきた。

 入ってきた女性は慌てているけど、俺はぼーっと実際にこんな高笑いをする人なんて初めて聞いたとマイペース考えている。

 

 俺が顔を上げると、そこには絶世の美人がいた。

 出るところはきちんと出ていて、引っ込むべきところはしっかりと引っ込んでいる肉付きのいい体。いたずら好きな猫のような形のアーモンドの目。

 それにドリル状に巻かれたいわゆる、縦ロールの髪。

 

 高級そうな血のように真っ赤に染まっているフワフワとしたドレスを着て傍らにメイドを置いて優雅に立つ姿は、一目見ただけで本能が彼女こそが本物のお嬢様と理解をしてしまう。

 

「おや、変な音がしたと思ったら、もう来たんだ」

 

「ええ、このわたくしが時間ぴったりに来るとお思いで? しっかり早く来るに決まっているじゃない。悪いかしら?」

 

 別の部屋にお嬢様が、玄関に入ってくる。さっきの音が異様だということに気がついて心配をしてきたみたいだった。現に彼女の表情は心配そうにしている。

 

「いやいや、時間を守ることはいいことだよ。まったく、時間に疎い他の人間に君の垢を飲ませたいくらいさ」

 

 やれやれと、手を高くに上げてクールに言い切る。

 

 一方俺は、二人きりのときには見せないお嬢様の姿を見て頭の痛みなんて忘れて、感動している。

 お嬢様がカッコイイと。

 

「そういえば、お嬢様。ご友人様のお名前は何とお呼びにすれば」

 

 痛みを抱えながら、お嬢様の耳まで自分の口と言葉を忍ばせて伝える。若干であるけど、ご友人が来たおかげなのかご機嫌な口調に思える。

 

「ああ、彼女の名前をまだ言っていなかったね彼女は――」

 

「――あら、もしかしてわたくしの名前を知らないのですの?」

 

 こそこそと話していると、令嬢様が堂々と会俺たちの話に割り込んだきた。

 

「す、すみません」

 

「まったく――」

 

 『教育がなってない、ダメ執事ですのね』とか、言われるのだろう。お客様の名前を存じていなかった俺の責任だ。

 いかなる罵倒も、お嬢様の迷惑ならないように対処しなければ。

 

 俺が罵倒される。そう思いきや、視線は思いも寄らずにお嬢様の方へ向かっていった。

 お嬢様が叱られると、思い自分でも何も考えなしでとっさに声が出た。

 

「お名前をご存じなかったのは自分の責任――」

 

「あなたは他の女の名前をそこの執事に呼ばしたくないのですかぁ!」

 

 この人は何を言っているんだ?

 

 働く上の部下としては大切にするけど、クールなお嬢様がただの使用人のために、そんな嫉妬をするような人間なはずない。

 

「ち、ちがう。ボクはそんなんじゃない!」

 

 ……そ、そんなはずない。はずがなんだ。

 

「おやおやおや」

 

 顔が女性の方がやってはいけない、いたずらっ子の満面のニヤけ顔になる。アーモンドみたいな目をしているから、連想させて猫みたいに見える。

 

「黒髪の執事。お嬢様が大変なご無礼を」

 

「いえ、大丈夫です。自分も大変なご無礼を」

 

 横から声が聞こえたと思ったら。そのまま頭を下げられた。その人物はお越しになった令嬢様と共に一緒にいらっしゃったメイドだった。

 

 スレンダーな体格で白黒のメイド服とガーターベルトを着こなしている。

 浅黒い色の肌に。芯のある強い青い目。お嬢様より少しだけ短いボブに白黒のフリルのカチューシャをしている。

 色は俺と同じ色。つまりここらでは珍しい黒髪でもあった。

 

「扉痛かったですよね? 傷口をお見せください」

 

 彼女の両手で優しく俺の顔を包む。

 お嬢様の冷たくて女性らしい手とは違って、温かく少しだけ筋肉のついた手。けしてゴツゴツとしているというわけではなく、彼女のメイドとして誇りが詰まっている、そんな素敵な手だ。

 

「ちょ、ちょっと」

 

 とっさのことで、どうすればいいのか戸惑いお嬢様の方へ助けを求める視線を送るが、令嬢様と話していてこちらには気づいていないようだった。

 

「こんなに傷になってしまって、かわいそうに。イタいのイタいの飛んでいけ」

 

 顔と顔の距離が近い。彼女の力強い青い目に吸いこまれそうになる。

 彼女はお嬢様とは違った美しさを持ち合わせていた。

 

 そのまま、されるがままに頭を撫でた。

 片手で俺の顔を支えながら、もう片方の手でねっとり大切な物が割れないようにじっくりと優しくさする。

 

「あなたの自慢の執事さん。あそこで私のメイドと楽しそうに遊んでらっしゃいますけど、よろしくて?」

 

「ちょっと、そこのメイド。ボクの執事に何しているの」

 

「おーほっほっほ、あなたのそんなに慌てている顔、初めて見ましたわよ」

 

 それで、俺はどうすれば?

 あの様子のお嬢様には頼れないし。

 

「あ、あれ痛みが」

 

 不意に、ドアをぶつけた場所の痛みがなくなっていることに気がついた。

 痛くなった場所をいくら触っても痛みが俺のことを襲ってこない。

 

 俺の呟いたのを聞いて、メイドさんは令嬢様の側に無言で戻っていく。

 

「治しましたので」

 

 メイドさんのキリッとドヤ顔で言われても俺には何一つ分からない。

 

「凄いでしょう? わたくしのメイドは他人の傷を治せますのよ」

 

「これが、魔法ですか……」

 

 ほんの一瞬で痛みがなくなるなんて、本当に不思議だ。今の一瞬で原理がまったく分からないので、俺の知っている奇跡みたいな魔法なんだろう。

 

「でも、不思議。そんなに力を込めていないのにすぐに傷が治った」

 

 

「もしかして私たち、相性がバツグン?」

 

 メイドさんの手が正面なら俺の手に重なる。指と指を絡ませてなかなか外れないように強く手を握られた。

 

 その不審な言動をきっかけに空気が重くなった。

 ミシミシと、どこかから聞こえてもおかしくないくらいに空間が歪む。心なしが呼吸もしづらくなった。

 

「……執事君はボクとの仲の方がいいから、割って入んないでくれよ。――泥棒猫」

 

 お嬢様が俺の前に立ち、さっとメイドと俺の間に腕を割り込ませてしっかり手を外すと威嚇するように睨んだ。

 

 空気はいまだに重いままだ。

 

「おーほっほっほ。冷徹な女帝と呼ばれているあなたが、たかが使用一人にこんなに乱されるなんて」

 

「ボクはただ、こんな不便な屋敷で働いてくれている彼を大切にしているだけだ。……それだけなんだ」

 

「いやいやいや、その態度。もしかして、もしかしてですの?」

 

 意味深な顔をして、ニシシと笑みをうかべる。

 

「まあ、面白いものを見せていただきましたもの。今日の不敬は許してあげますわ」

 

「はい、その懐の広さ。さすがです、お嬢様」

 

「おーほっほっほ。そうでしょう、そうでしょう。もっと褒めなさい」

 

 高笑いは静な玄関に響いた。氷が割れて中の物が溢れ出るように、それをきっかけにこの空間の温かさが戻ってくる。

 

「まあ、ボクが案内するから。着いてきてよ」

 

「ええ、分かりましたわ」

 

 お嬢様が少しだけ不機嫌そうに玄関から背を向ける。

 コツコツと、足音をわざとたてながら離れていった。

 

「ちょっと、執事さん」

 

 お嬢様が離れたタイミングで顔をこっちに寄せろと令嬢様に命令をされる。素直に顔を寄せると、その顔はニヤついていた。

 

「……お給料はここの三倍はだしますけど、ウチで働きませんこと?」

 

 耳元でどこにそんな声を隠していたの分からない、大人の魅力が詰まった甘い声でこそこそとささやかれる。

 

 三倍と、単語を出されて心の中で揺らぐ。

 脳内で金が重なるタワーを想像して――

 

「ちょっと、ボクの執事にまたちょっかいかけているの」

 

「ひぃ」

 

「おー、怖い怖い。盗られたくなくて必死になってますのね」

 

 先に行っていたはずのお嬢様が帰ってきて、俺と彼女の間に割り込んで。しっしっ手で遠くに追い払う。

 

「うわっ、あなたそこまでするの?」

 

「あら、まあ」

 

 短いお客様の悲鳴。それもそのはずだ。ご友人様と俺を離した流れでお嬢様は俺の腕をつかむと、そのまま腕を絡ませて俺と恋人みたいに腕を組んだんだから。

 

 その様子を見て、他の人がいるのにこんなに大胆な行動をする彼女に俺も驚く。

 

「ちょ、ちょっとお嬢様!?」

 

「……君は目を離しているとすぐにどっかに行きそうだ。彼女が帰るまでしばらくこうしているよ」

 

 俺だけに聞こえる声量で耳元に呟く。お嬢様の感情のこもっていない氷のような冷たい声。

 

「分かってますよ。俺はお嬢様の物ですから」

 

「そ、そうか。分かっているならいいんだ」

 

 冷たいお嬢様、照れるお嬢様。

 俺はそのどちらも彼女の儚くて、愛おしいくて、大好きで――

 

 ――そんな彼女はいったい何を背負って生きてきているだろうか?

 

――

 

「……やっぱり、ここの料理は美味しいですわね」

 

 ご友人の令嬢様がテーブルに並べられた料理を一口食べるごとにニコニコと笑う。

 側に立っている彼女のメイドも、頷くから相当に気に入っているのだろう。

 

「この料理を一人の人間が作っているなんて想像できないわよね」

 

「ええ、そうですねお嬢様」

 

「ああ、そうだ、そうだ。うちの料理人は優秀だろう?」

 

 自分の家の使用人を褒められてお嬢様は上機嫌になっている。

 そんな俺とお嬢様は今も腕を組んでいた。

 

 正直、この体勢はかなり無理がある。ときどきお嬢様の胸が腕に当たっても雰囲気的に言いだそうにも言いだせなかったから。

 

「やっぱりそこの執事は貴女にお似合いですわよねぇ」

 

「そうか、分かってくれたならよかったよ」

 

 お嬢様は俺から腕を外して、令嬢様はメイドの用意したハンカチで口を拭う。

 お互いにこれでこの話は終わりにするらしい。

 

「そうだわ、最後にその執事さんと秘密の話をしたいのだけれどもいいかしら?」

 

「……一言だけなら許す」

 

「まあまあ、ありがとうございます」

 

 お嬢様はほんのチョットだけ不機嫌になったけど、一言だけなら許してくれるそうだ。

 

「……彼女とは長いつき合いですけど。少しだけあなたに嫉妬をしてしましたわよ」

 

「えっ」

 

 一言、俺に耳打ちすると数歩、後ろに下がり満面の笑みをうかべる。

 

「では、ご機嫌よう。近いうちにお邪魔するから覚悟しておきなさいよ。おーほっほっほ」

 

 ご令嬢様は煌びやかなシャンデリアの光に負けない美しいカーテシーをしてから、言い残して颯爽に去って行く。

 突然のその様子に、ただただ見送ることしかできなかった。

 

「嵐みたいな人でしたね」

 

「ああ、彼女はやっぱり変人だっただろ?」

 

 そういえば、令嬢様の名前を最後まで聞けなかったなと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……イティー、早急にあの黒髪の執事の素性を調べなさい。好みの食べ物、趣味、女性のタイプ――そして出生までも、いかなることも徹底的によ」

 

「分かりました。全てはカシアお嬢様のおっしゃられる通りに」

 

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