まず、七月の終わりという笑えないレベルで遅くなってしまってすみません。自分でも気付いたら夏休み入ってました。
そして、アンケートを取らせて頂いた結果の短編(ベアトリス√)は、二章が終わった後の番外編として投稿させて頂きます。
「ほー、やっぱいつ見てもマジに広いな、ここ。服装と顔のメイク以外完璧なロズっちに惚れかけたのはこれだけだぜ」
「
「あいたっ」
ロズワール邸の有り余る金を、まるで誇示するかの様に広々とした、流石貴族と声を上げて叫ばんばかりの豪華な一室に、半裸の青年と幼女が立ち尽くす。
これからの方針を決める為の、わりと大事な禁書庫会議(スバル命名)を夜遅くまで続けていた最中だったスバルとベアトリス。
だが、たまたま扉渡りを破ってきたエミリアに咎められ、二人仲良く浴室にリラックスをしに来ていた。
「いやぁ、俺たちを慣れてない人の叱り方で怒ってくれるエミリアたんも可愛かったよなぁ......見たか、ベティー。あれが大人の魅力と余裕って奴だぞ」
「余計なお世話の上に、お前の大人の魅力の概念とち狂ってるかしら...... あと、
『もう、二人とも仲が良いのはいいことだけど、ちゃんとお風呂に入らなきゃダメでしょ! でもたまには読書しに行くのもいいわよね、あっその前に夕食も頂かなくちゃ!』と、腕を忙しなくあちこちに動かしながら此方に語りかけるエミリアの姿は、それはもうどちらかと言えば今夜の夕食を楽しみにしている子供さながらであった。
しかし、そんな事には気付く気配もなくエミリアに
スバルが口を開く度に、ベアトリスに怒りの血管が浮き出て止まない大変な状況となっているのだが、同じくエミリアの良さを説いているスバルも止まらない。
「んでさ~、この後エミリアたん俺に何て言ったと思う? 聞いて驚くなよ~、なんと『スバルの事なんて、ちっとも好きじゃないんだから!』って!! これもう無意識のツンデ「というか!!」はい!?」
数分程喧しく喋っていたスバルも、ベアトリスによるかつてない本気トーンの雄叫びでようやく正気を取り戻した。
だが、時既に遅し。俯くベアトリスの背後には、それはそれは
「......なぁベアトリス、俺にエルザみたく、お前の馬鹿強い魔法を根性で耐えるなんて芸当、出来ると思う?」
「んなことどうでもいい上に何でお前と入らなきゃならんのかしらー!!!!」
「お前こないだ一緒に入ったばっかじゃねーか!!!」
今日も、ロズワール邸の一部が破壊される。
◇
気を取り直し、今だ怒りの冷めない少女を宥めるスバルは、なんとか仲を漕ぎ着けようと、ベアトリスの綺麗なクリーム色の髪を代わりに洗う作戦を立てた。
「んじゃ、洗うぞ。大人しくしとけよー」
「おっけー? なのよ。......んっ、中々上手いかしら」
他人の、しかも女の子の髪を洗うなんて経験は勿論持ち合わせていないスバル。
だが、昔テレビで少しだけ見た情報と持ち前の勘で、少女の髪を念入りにお湯で梳いた後、シャンプーを使い丁寧に洗っていく。
「ふわぁ......すばる、ほんとにしゅごいかしら......」
「あの、あんまり風呂場でそういう扇情的な声を上げるのは、服用意してくれてるラムに誤解生みそうだからやめとこうぜ?」
「んんぅ、わかったのよ......」
どうやら中々好評らしい。
自分の腕が異性の少女に、それも普段は傲慢や生意気という言葉をそのまま具現化したかの様なツンツンとした少女に褒められたスバルは、素直に自分の中の自尊心がわずかに上昇した。
そして、残念ながらスバルに
「いや全然分かってねぇな! あぁくそ、俺はエミリアたん一筋エミリアたん一筋エミリアたん一筋......」
「ふにゃぁ~......ごろごろごろ......」
「猫かお前は! うちに子猫は一匹で充分だよ!」
「にいちゃはただの可愛い精霊さんなのよ~......」
「可愛い精霊はあんな恐ろしい魔法使わねぇよ......」
ふっ、と二人の口から笑みが漏れる。
昼間から通しで会議を、それも人の命に関わる事についてばかり話し合っていたのだ。
こうした他愛のない会話一つでも、引き締まっていた表情が自然と小さな笑いへと変わっていった。
「よし、そんじゃ流しちゃるぞ。目ちゃんと閉じといてな」
「合点承知かしら」
「言い回しが独特!」
しっかりと、少女の髪を滴る泡の塊を漏れなく流した後、改めてベアトリスの姿を見やるスバル。
前回入った時はしっかりと確認できなかった、普段は見ることない髪を下ろした少女の姿。
「ん? ベティーの顔に何か付いているかしら?」
「いや、そうじゃなくてさ......ちょっと思春期の男の子には大ダメージ過ぎる光景が広がってんだよ......」
「んー?......ふふ、そういう事なら、もっとベティーを恋い慕ってくれてもいいのよ?」
スバルが顔を赤くしながらそう呟いたと理解した途端、調子に乗った少女が、スバルに向けて可愛らしいウインクをする。
そんな年相応の仕草にも関わらず、どうしてこんなにも映えるのだろうか。
ただただ美しく煌めく、少女の金色に輝き夜の風に
その空色に輝く瞳の中に映る蝶型の模様は、本来なら見る者全てをを魅了するだろう。
そして極めつけには、タオルで隠れてはいるが、幼いながらも整い、バランスの取れた体。
今まで幼女幼女と罵っていたスバルだが、これでは幼女と言うよりかは、一段階上の立派な少女だろう。
「......うん、こうして見るとほんとに綺麗だな、ベアトリスって」
「ふぁ!? きき、急に何を言ってくるかと思えば、ちょっとした軽ぅ~い謳い文句かしら! ベティーがそんなので引っ掛かると思うのは大間違いなのよ!」
何を思ったのか、頬をほんのりと赤らめながら、せかせかと腕を顔前で動かす目の前の少女が、ただ愛らしくて仕方がない。
「いやいや、ほんの少しだけ、お前に見惚れてただけだよ......」
「ベティーに見惚れるなんてこと、今更過ぎてどうってことないかしら」
「おーい、顔が赤いぞ? ベアトリス」
余裕のあるふりをしているが、生理的反応は正直らしい。先程までとは段違いに顔全体を赤らめた少女が、表情を隠しながら、スバルをお湯の張られた風呂へと誘導する。
「っ~もう! ほら、さっさと入って寝るかしら、スバル!」
「あぁ、分かった分かった」
どこまでも甘い二人だけの時間が、広い浴槽内に響き渡っていた。
◇
あれからまた時間が経ち、二人は寝る前の最後の仕上げとして、再度禁書庫の中へ集まっていた。
「ほい、俺がキッチンから拝借してきたリンゴ......っぽいリンガだ、一緒に食おうぜ」
「......あの姉妹に許可は取ったのかしら?」
「あぁうん、明日全力で謝りにいく予定......じゃねーよ!! 第一俺がこんなに綺麗にリンゴ切れると思うか!?」
「いや、これっぽっちも思ってないのよ......あむっ」
「何でこの屋敷に住んでる奴らは、エミリアたん以外全員相手を立たせる気持ちすらなくド直球にものを言ってくるんだよ......」
「当主が当主かしら」
「なるほど」
食後のデザートにと、あの優しいメイド姉妹のどちらかが用意してくれたのだろう。綺麗なくし形に切られたリンゴが、彩りよく上品な皿に並べられている。
「というか、絶対これ用意してくれたのレムだよな。姉様そんな優しくねえし......聞いてる?」
「んー、ん。聞いてるかしら」
「ははーん、さては聞いてないな.......せめてなんか反応示そうよ!?」
しばらく二人は、無言の時間が続いていた。
片や乾いてきた髪を束ねて、リボンで結ぶベアトリス。
慣れているのか、その難解な結び方の途中に迷いは見えない。
「──リボン、自分で結んでるんだな」
「ベティーに他の奴なんて必要ないかしら」
「ふーん。......じゃあ、実のところ俺ってどうなのよ」
「もう誰も入って込れない様に鍵をかけたベティーだけの
すごく、凄く不愉快な存在なのよ。
少女はその思いだけ口頭に浮かんで、やがて消えた。
「あー......その、引きこもりは将来に関わるからやめといた方がいいぜ? これ、同じ同胞の先輩として言っとくけど」
「ほんっとうに失礼極まりない奴なのよ!!」
「すまんすまん、まぁ一段落したところで、悪いが本題に入らせてもらう」
先程までふざけていたスバルだったが、すぐに気を引き締める。
今一度村の事について話をするという雰囲気を感じ取ったのか、ベアトリスもそれに続いて、スバルと対面した。
「さっき風呂んとこで、呪いもあるしそれを解除する方法もあると聞いた。その上で、だ。これから俺が言う事を、信じて欲しい」
「元よりそのつもりなのよ」
スバルの言葉を疑うでもなく、信じて付いてきてくれるこの少女が居なければ、どれだけ問題が難航していたことか。それとも、不幸中の幸いと言うべきか。
「まず......村の周りに森があるのは、ベティーもよく知ってると思う。それで、普段はエミリアたんが魔除けのアレをやってくれてるから村に寄り付かないけど、森の中に魔獣が居るだろ?」
「大体は分かるかしら。でも、それだけならいつもの事だし、魔獣避けの結晶石で事足りるはずなのよ」
「だよな。俺もそう思う......が、実は俺、こないだ村のガキんちょ共の所に遊びに行った時に、とんでもねぇ事に気付いちまったんだ」
「とんでも、ない事......」
スバルの言う事を復唱する様に、また此方に再確認してくる少女。
それに応える様に頷いた後、スバルは口を開く。
「アイツらが飼ってる、ちっちゃい犬が居るんだけどよ。恐らくそいつが......呪い持ちなんだ」
「何でそう予想しているかは知らないけれど......つまり、魔獣の子供を飼っている、って事かしら」
「いや、それが断言出来ねぇんだ。その可能性の方が高いような気もするが、もしかしたら呪いを掛けられた可哀想な犬っころ、ってだけかも知れねえ。ただ、あの犬がアイツらを噛んだ、なんて事になったら......」
「十中八九、術式を破壊しない限り死ぬのよ」
理解をしてはいたが、直接そうなる可能性が高いと指摘されると、風呂上がりのスバルの体に再び冷や汗が滲む。
子供達の事を考えたスバルは、ベアトリスへと真剣に向き直り、言った。
「恥も外部も捨てて、改めてお願いしたい。......ベアトリス、」
──俺を、助けてくれ。
「......この借りは、高くつくのよ」
まるで、最初からその言葉を待っていたかの様に。
「あぁ、百倍でも何でも返してやるつもりだ」
「それじゃ、今度にいちゃそっくりの、ベティーの為の等身大枕を作ってくれるかしら」
「あー、分かった。うん、材料あったらな?」
「そこはベティーにどんと任せろなのよ。......よいしょ」
何か恐ろしい契約が為された様な気がする。
が、言ってしまったからには、例え口約束でも果たさなければいけない。これはスバルの小さな信条だ。
すると、少女がベッドからその身を降ろし、スバルに小指を立てて近付けてきた。
「ん」
「ん?」
「ん!」
「......あー! うんうん、うん!」
「てんで締まらない奴なのよ......」
若干呆れられながらも、その指の意図がようやく理解できたスバルは、少女の目線に合わせる為にその身を屈める。
そして同じ様に小指を立て、互いに指と指を絡め合う。
「──汝の願いを聞き届ける。ベアトリスの名において、契約はここに結ばれる」
淑やかな声で、ベアトリスはそう告げた。
それを合図に、身体中を魔力の波が駆け巡るような感覚に襲われる。
だがその熱さをも気にさせない、目の前の少女の心強さ。
「──お前が手を握ってくれてたら、ほんと、何でも出来る気がするよ」
「ただし、短期間だけの契約ってことを忘れないでいて欲しいかしら?」
「あぁ、今はそれでも充分だ」
約束とは言えど、永続的でも何でもない、子供同士が行うような儀式。
しかし、その行為に意味があったという事は、この身に留まっている暖かさがそれをしっかりと証明してくれている。
ここに、仮初の契約が誕生した。
「さぁ、俺とお前の二人でやってやろうぜ......運命様、上等だ!」
「そういえば、ロズっちに頼めば魔獣殺してくれんじゃね?」
「あいつだけは絶対にやめとけかしら」
「あ、そう......」
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。