しかし少し高い位置に置いてあった絵本を無理な体勢で取ろうとした結果、バランスを崩し大量の本が彼女の上に降りかかってしまう。
そして、とある1冊の漫画本が彼女の頭に直撃し彼女は気を失ってしまった。
それはこの世界には存在してはならない禁書であった。
保健室に運ばれ、目を覚ました頃には性格が180度回転し、弱気だった彼女は強気のオラオラ系へと変貌したのだ。
直撃した漫画のタイトルは「馬なり1ハロン
旧名
「無事ですかッ!? ライスシャワーさん!?」
保健室のドアが乱暴に開かれ、なだれ込むかのように入室して来たのはミホノブルボンであった。
サイボーグでは噂される程感情の起伏が乏しい彼女であったが、流石に彼女の親友と言っても良い間柄のウマ娘が気を失ったという報を聞いては冷静では居られず、その顔は焦燥感が漂っていた。
慌ただしく入って来た彼女であったが、それを注意する者は居なかった。
どうやら保健室の先生は席を立っているようであった。
あたりを軽く見渡すと何床か用意されている保健室のベッドの1つがカーテンを閉められていた。
ブルボンは一度冷静さを取り戻し、カーテンの隙間からのぞき込むとそこにはライスシャワーが静かに寝ていた。
「……ライスシャワーさんの無事を確認。 ステータス安堵の感と推定。 状況からして特に問題は無いと判断。……良かった」
心からホッとし、顔を綻ばせるミホノブルボン。
確かに彼女の言う通り、ライスシャワーには特にこれと言った外傷はなく、今はただ目が覚めるのを待っている最中であった。
しかし、問題は彼女が目を覚ましてから判明するのだ。
数分後……
「……あ、ライスさん! よかった! 気分は如何ですか?」
「よーう! ブルボンか! ちっくしょう、失敗したぜ! まさかオレが気を失うなんてな!」
ミホノブルボンは時間が止まったような気分を覚えた。
いま彼女は何と言ったのか。
もしかしたら自分の方が焦りの余りバッドステータスを患ったのではないかと疑い始める。
フリーズしそうになる自分の頭を総動員し、今一度彼女の状態を確認しようとする。
「あ、あの。 お体の方は大丈夫なんですか?」
「おーう! この通りピンピンしてら! なんたってオレは菊花賞ウマ娘だからな! こんなところでへばって居られるかよ! 早く先公こねーかなー? さっさと次のレースに備えて—んだけどよー」
やはり何かがおかしい。
過去のログを参照するまでもなく今の彼女は何処か……いやかなり変なことは明確であった。
お淑やかでここぞってとき以外は何処か自信なさげで小さな声でしゃべる彼女の口調はガサツで大きな声でしかも男勝りな口調になっていた。
しかも言うに事を欠いて自分の事を菊花賞ウマ娘だと口にしたのだ。
そのことは事実であり勝利を誇ることは悪いことではないのだがそれを自分の目の前でしかも一切の遠慮も無しに口にするのは彼女の性格からとてもとても考えられることではなかった。
一体どうなってしまったことやら。
彼女の脳内で様々な該当データの洗い出しをしてみるがこれと言った解が導き出されrうはずもなく、プシューっという音と共に今度はブルボンが気を失ったのだ。
数週間後、原因は判然としないまま時が過ぎていった。
ライスシャワーはそのあと精密検査や催眠療法など様々な治療を試みたがどれも失敗に終わった。
判明したのは命に別条がないこと、現状では時間経過でゆっくりと元に戻ることを期待し普段と変わらぬ生活とレースをするとのことであった。
彼女が学園に戻ってきた影響は小さなものではなかった。
なにせ人が変わった‥‥いや、 ウマ娘が変わったようなのだから
朝だけはパン派であった彼女は、「パンなんて軟弱だ!」と朝から白米と生卵、その他米に合うおかずという食生活に変わり、彼女の友人知人を驚かせた。
更には何故か農業新聞を購読し、常に米相場を気にするようになったのだ。
次に常にタスキを掛けるようになった。
そのタスキにはこれでもかと大きな字で菊花賞ウマ娘と書かれ、会話をしていても常に自分の戦績をひけらかすようになった。
もう一つ変わったことはレースに関することである。
彼女は常に新聞で情報を集め、ヒトが大記録に望もうとするレースに積極的に出場し勝利を奪い取り大記録の樹立を阻止するようになったのだ。
ブーイングなんてなんのその。
菊花賞以来「黒い刺客」だの「レコードブレイカー」だのと呼ばれることを嫌いレースに出場するのを拒否していたとは思えない変貌ぶりであった。
しかもその記録が大記録な程彼女の闘志が燃えあがるのだ。
次はメジロマックイーンの春の天皇賞3連覇を邪魔するのではともっぱらの噂である。
もし彼女が天皇賞をかったら、きっとタスキも天皇賞ウマ娘に変わるのかもしれない。
そして最後に、彼女の勝負服の一部、腰に帯刀している偽の短剣が黒い金棒に変わったのだ。
しかも片手で持てるものではなく彼女の小柄な体には不釣り合いなほど大きな金棒に‥‥。
かくして、ライスシャワーは変わった。 変わってしまった。
彼女がこのあとどうなるのか…‥それは作者も分からない。
少なくとも彼女の担当トレーナーは勝負に(ある意味)前向きになった彼女を受け入れ、トレーナーで出来る範囲の努力をするだけであった。
今回のこの騒動、誰が一番不幸かと言えば彼女の親友であろう。
あれ以来調子を崩してしまったブルボンは現在学園を離れ湯治の真っ最中である。
果たして二人は再び友情を築くことができるのか!
「お? なんだこの本? 馬なり1ハロンだぁ~!? なんでこの世にあってはいけない漫画がこんなところにあるんだ? しゃーねな。 このゴルシ様が処分しといてやるか! どう処分しようかな~。 そういえばスぺが焼き芋するって言ってたな! 一緒にもやしちまおうっと!」
馬なり1ハロン劇場を読んでいるとウマ娘との性格やキャラクターの違いがかなり違って(当たり前ではありますが)面白いなと思い執筆しました。
八方美人でアコギな性格なスペシャルウィークとか、
どこか気弱なミホノブルボン、
自分がアイドルであることを自覚しかなり俺様キャラなオグリキャップとか。
勿論両方とも面白いですし、当時の競馬界隈の空気とかを感じることが出来てひじょうにオススメの漫画ですので是非そちらも読んで頂ければと、一ファンとして願っております。
特にライスシャワーは本編の通りですw 真逆と言っても良い性格付け(もちろんあちらが先人)なのでウマ娘の方のライスシャワーのキャラ付けをした人は天才だなと思わされました。
是非皆さんも馬なり1ハロン劇場ベースの性格で書いてみてはいかがでしょうか?
それでは、他の作品でお会いしましょう。