惚れた相手は、百合な幼馴染 作:まさきたま(サンキューカッス)
「君が世界で一番好きな女の子は誰だい、テル」
誰もいない放課後の屋上。
俺は、ずっと惚れていた幼馴染の朝星ニカから告白を受けた。
「……」
「……」
自分の首筋に、生暖かい吐息を感じる。
背中に、衣服越しのニカの乳房の感触を受ける。
「さあ」
ゴクリ、と俺は生唾を飲み込んだ。
いつも馬鹿で、アホで、生意気放題の彼女から。
「……答えてくれよ」
俺は得も知れぬ悲哀と、燃え盛る好意を確かに察知していた。
ニカの問いに対する、返答は決まっていた。
涼加瀬シノだ。それが俺の恋人で、もう一人の幼馴染で、世界で一番可愛い女性。
「……」
だが、その答えを俺は言い出せなかった。
……言わねばならないのは分かっているけど、俺の鼓動がそれを許さないのだ。
「……はっ、はっ」
胸が苦しい。鼓動が早い。全身から汗が吹き出し、視界がボヤボヤと揺れる。
この時、俺は意識していた。
告白して、背中に抱きついてきた朝星ニカという少女を、どうしようもなく意識してしまっていた。
「お前……っ、何で、今ごろ」
「本当にね」
ニカは苦笑していた。
悲しげに答えるその声色は、確かな諦感を宿していた。
「……君の事だ。告白相手がボクと知って、一気に断りにくくなっただろう」
「う、あ……」
「気付かず振っておけばこんなことにならなかったのに。馬鹿だね」
告白してきた朝星ニカは、振られることを覚悟していた。
当たり前だ。元々、彼女はそのつもりで告白してきたのだ。
それに、俺がシノを裏切るなんて許されるはずもない。
「好きだよテル。ボクは君が好き。小さな頃の君のお陰で、今ボクはこうして普通に生活できている」
「そんな、そこまでの事を、俺は」
「したんだよ。身近過ぎて、親しすぎて、気づけなかった。ボクは君が大好きなんだ」
それは、ニカなりの意地悪だったのかもしれない。
振られることを覚悟した上で、彼女は目一杯の好意を俺に示してきた。
それが、どれだけ俺の心を揺らしているかも知らないで。
「ボクじゃダメかな」
……。
断らねばならない。俺はニカのこの告白を、断って筋を通さねばならない。
出来るだけ、普段通りに。なるべく悲壮にならないように。
俺はニカにデコピンをかまし、ふぅと大きく息を吐いて背を向けたまま答えた。
「……ニカ。まぁ、答えはわかってると思うけど」
「うん」
「お前の気持ちに答えることは出来ない」
出来るだけ、声を震わさず。
何でもない事のように、俺はニカにそう言った。
ニカから顔をそむけたまま、ぶっきらぼうにそう言った。
「……そっか」
「そうだ」
「振られたかー……。そっかぁ」
「お互い様だ。俺だって、もうお前に振られてたと思ってたんだぞ」
今の自分の顔をニカに見せるわけにはいかない。
だって彼女は、俺の嘘を見抜く。
人間観察が趣味の目の前の少女は、俺の中の建前だのなんだのを全て見透かして踏み込んで来てしまう。
「────え、それどういう事?」
「お前、この間さ。ボクを男の子として見てほしいとか言ってたじゃん。アレ、遠回しに脈なしだと宣告されたんだと思ってたが」
「あ、いや、え? えっ!?」
だから、俺はニカと顔を合わせずに軽口を叩いた。
いつも通りのテンションを意識して、適当に二言三言雑談して、話を終えるつもりだった。
これ以上なく気まずいこの会話を打ち切って、シノの所に逃げ帰る予定だった。
「────テル。ボクの事、好きだったの?」
「っ!」
その結果。
俺はとんでもなくバカな発言をして、知られてはならないことを知られてしまった。
「えっ? 嘘、その」
「……あ、いや違う。今のは」
俺の顔面が、真っ赤に紅潮する。
そうだ、そうなってしまう。今のは、ほぼ俺がニカを好きだったという事実の告白にしかならない。
どうして自分でも、あんなことを言ってしまったのか分からない。もしかしたら、俺は想像以上に動揺していたのかもしれない。
「テルって、ボクをそういう風に見てたの? その、もしかして、じゃあボクがもっと早く気づけば?」
「……」
それは、本当に余計な一言だった。
これ以上なく、それは言ってはならない言葉だった。
「……」
「……」
背中に放心したニカの気配。
……不味い。ドキドキと心臓が煩すぎて、声が出せない。
「……こっち向いてよ。テル」
「ば、やめっ……」
「ボクを見ろ」
グイ、と。ニカは俺の正面に回り込んできた。
その目には、涙の零れた後が線を引き。
耳や頬は俺に負けず劣らず、真っ赤に紅潮していた。
「……テル。お前まさか、まだボクの事好きか?」
「いや待て! その質問は何だ」
「……答えろよ。まさかテル、ボクの事好きなのか」
ニカの瞳が、俺の心の奥まで見透かす。
駄目だ。見られてはならない。
やめてくれ、俺はまだ、
「……っ、テルお前!!」
「やめろ、顔見るな!」
未練を断ち切れて無いんだよ。
「うるさい、悪いか! 振られてから簡単に次の恋人、なんて割り切れる器用な性格してねーんだよ!」
「え、あ、テル?」
「こちとら10年以上片思いしてたんだ、今さら何なんだよお前! 何で、どうして今になって……」
俺は強引に、ニカと自分を引き離した。
これ以上彼女に抱きつかれていたら、きっと色々な理性が崩れ去る気がしたから。
「……シノが好きなんだ。もう俺はシノを好きになったんだ」
「……」
「やめてくれ。これ以上俺を、惑わせないでくれ」
このままでは不味い。
泣きそうな目で、愛おしそうな目で見つめてくるニカを相手に、これ以上迫られたら何か仕出かしてしまうかもしれない。
「……え、と」
「分かったか、ニカ。一旦話を終わろう、そうしよう」
「……」
そう言って俺は再びニカに背を向け、顔を手で隠した。
もう嫌だ。これ以上、ニカと話したくない。
「……」
それは、ニカの方も同じだったようで。
「うああ、あ……」
「……ニカ?」
彼女は俺に振り払われたその手を凝視した後、すがるような目で俺の目を見つめ、
「ああ、あああん……」
やがて泣いているのを隠そうともせず、その場に座り込んでしまった。
ニカに掛ける言葉を思いつかない。
もし、俺が勇気を出してもっと早く告白していたら話は変わったのだろうか。
いや、その場合は泣くのがシノになるだけだ。
「……ごめん。じゃあな、ニカ」
「あ、う」
これ以上、泣いているニカの傍に居るのが居た堪れなかった。
そして、俺が彼女の傍に居続ける事で、きっと一層ニカを傷つける結果になると思った。
「……やだ」
明日からどんな顔をしてニカに会えば良いのか。
いろいろな感情が渦巻いて、半ば逃げるようにその場から離れようとして。
「やだ、捨てないで」
「……ニカ」
「ボクのこと好きだったんだろ? やめて、置いていかないで」
再び、背後からニカに抱き着かれた。
「……ニカっ」
「ごめん、やだ、離れたくない」
「悪い、離れてくれニカ。迷惑だ」
「くぅ、う────」
ああ、どうしてこうなったんだろう。
「お前だって。シノと、喧嘩したくは無いだろう」
「分からない……っ」
「何がだ」
「自分でもどうしたいのか、どうすれば良いのか分かんない」
俺の背に抱き着いて、泣きじゃくるニカ。
それは、今まで何度もあった事だった。
「テル、君がまだボクを好きだって言うなら付き合ってよ。そんな、そんな残酷な事しないでよ」
「お、おい」
「良いじゃないか。今までずっとボクと一緒にいたじゃないか。それで、何の不満があるって言うんだ」
ニカは困って、泣きじゃくっていた。
今までなら、それを見た俺は飛んで行って、問題を解決してやって。
「……涼加瀬さんに嫌われても良い。君が欲しい」
「ニカ!」
「テル。ボクは、どうすれば良い?」
でも、今この瞬間ばかりは。
俺に頼られても、どうもしてやることは出来ないのだ。
「────そうね。貴女は黙って、テル君から離れれば良いのよ」
突然に、凛とした底冷えのする声が屋上に響いた。
「テル君流石に遅いな、もしかして面倒な女子に絡まれてるんじゃないかなって来てみたけれど」
「……あ」
「大正解ね。テル君ってば、また随分と『面倒な女』に絡まれてるみたいで」
ああ、最悪だ。
今の状況だけは、見られてはならなかった。
「ニカちゃん。私の彼氏に抱き着いて、何やってるの」
「……」
俺はその声のした方へ、向き直ることは出来なかった。
今の俺の顔色が分からないからだ。
真っ青になっているのか、真っ赤になっているのか、はたまた土気色なのか。
どんな顔をシノに向けてしまうか、想像だに出来ない。
「見ての通りさ。涼加瀬さん」
「テル君から離れなさい。それは私のよ」
「ボクとテルは両想いだったんだ。……そうだろ、テル?」
「ああ、何だ。知ってたわよ、そんな事」
背後の気温が10度くらい、下がったように感じた。
シノもニカも、尋常でない程に冷たい声色で会話をぶつけ合う。
「テルはどうやら、まだ君よりボクの方が好きみたい。ボクには、
「ふーん。でも残念、テル君は私の彼氏なの」
動機と冷や汗が止まらない。
あれ? この二人、最近は凄く仲が良くなかったっけ?
何で突然、こんな事になってるの? 俺のせいか? 俺のせいだな?
「……ニカちゃん、ちょっと顔貸しなさい。テル君、今日は一人で帰ってて」
「お、おいシノ?」
「分かった。テル、今日は一人で帰ってて」
「いや、お前とは一緒に帰ってなかっただろニカ」
えげつない緊張感を放ちながら、学校の屋上で俺を挟んで二人の少女が睨みあった。
何だコレ怖い。死ぬほど怖い。
「ああ、それとテル君」
「は、はい! 何でしょうか」
「……貴方にも後で、みっちり話があるから」
俺の世界一可愛い恋人は、そんなとてつもなく不穏な事を言い残して、ニカの手を引いて校舎内へと消えた。
少しだけ、ほんの少しだけチビった。
屋上が、俺一人になった後。
「……あら? 奇遇ねテル。どしたの? そんな吐瀉物みたいな顔色して」
「どんな顔色だ」
「鏡を見なさいよ。そうとしか言いようのない表情してるから」
俺は数分ほど放心し、ゆっくり教室に戻った。
そしてなるべく早く、学校を後に帰宅しようとした。
あの凄まじい重圧を放つ二人の少女が、どこでどんな話をしているのか怖くて仕方がなかったから。
「今、時間はある?」
「すまん、姫。今、ちょっとお前のお気楽ヨゴレ一発芸に付き合う気分じゃないんだ」
「違うわよ、そんな顔色の奴に仕掛けないっつの」
帰り道でたまたまログボと遭遇し絡んでこられたが、今は彼女に付き合ってやれる心の余裕がなかった。
俺は、どうしたら良かったのか。
シノやニカを、凄く傷つけてしまったのではないか。
それが、苦しくて仕方なかった。
「────馬鹿ね。ほら、ちょっと面貸しなさい」
「あ、おい姫。何を」
「こないだ、ハッピーセット奢って貰ったお返ししたげる」
そんなこんなで完全に打ちのめされていた俺は、
「この私が話を聞いたげるって言ってんの。……恩人がそんな顔してるのに、放っておけるわけないじゃない」
「お、おい」
「貴方のおかげで、お父さん凄く優しくなったの。ありがと、だからお礼させてよ」
そう言って屈託のない笑みを浮かべる西姫の、手を振りほどく元気もなかった。
半ば強引に、それでいて吸い込まれるように。
俺は西姫に手を引かれ、学校近くのファストフード店へと連れ込まれたのだった。
「こちらテラギガビックバンチキンになります」
「でけぇ」
私のおごりだから何でも頼んで良いわよ。
そう言って西姫は、『景気づけに、この店で一番高いメニューを持ってきなさい!』と店員に宣言した。
そしたら10分ほどで、上腕くらいのサイズのなんかやたらデカいチキンが運ばれてきた。
「こ、こんなメニューあるのね」
「当店限定の、SPメニューでございます。何とお値段は一万円、本当に頼むお客さんがいるとは思いませんでした」
「これ1万円もするの!?」
見た事もないクソデカサイズの肉の塊を見て、西姫は顔を青ざめさせた。
どうやら、こんなもんが出て来るとは思って無かったらしい。そもそも一人で食べられるのだろうか。
「ただのチキンでそんな値段になる訳が……。え、何これ。滅茶苦茶に美味しい……」
「それは国産地鶏の中でも最高級品質と認定された個体から、全身の旨い部分だけを丁寧に剥ぎ取って骨に漬け、三ツ星イタリアンシェフの監修した特殊なソースをふんだんに用いて────」
「いや何でそんなモンをファストフード店に並べてんのよ!!」
俺も味が気になったので、西姫に断って一口貰うと物凄く旨かった。
口の中で肉汁を振りまきながら、氷のように溶け行くチキン。
失神しそうなほどおいしかった。こんな安っぽい店で出していい肉ではない。
「では、ごゆっくり」
「……。くそ、確かにやたら美味しいわね。1万円の価値あるかも……」
「西姫、会計大丈夫か。金出そうか」
「あー、へーきへーき。パパがこないだの機嫌取りで、凄い額のお小遣いくれたし。パパの不祥事で無駄に動画バズったし……」
全部食べ切れないから、と西姫から半分くらい高級チキンを分けて貰い。
何とも言えぬ充足感で腹を満たしながら、やがて西姫は核心を付いて来た。
「で、どしたのアンタ」
その問いに対して、少し躊躇った後。
……ここまでついてきた時点で、俺に隠すつもりなど無かったらしい。
ポツリ、ポツリと。俺は、先程のニカやシノの事を無関係な西姫に相談してしまうのであった。
「要は貴方、二人の女の子好きになったんでしょ? 二股じゃない、あんたよくパパの事怒れたわね」
「うぐぅ」
西姫の第一声は、呆れた溜息と共に放たれた。
ぐぅの音も出ない程の正論だった。
「いやまぁ、自分の気持ちはどうしようもないんだろうけど」
「う」
「さてさて、それでテルは何を迷っているの?」
「……。どうすれば、二人とも傷つけずに穏便に話を纏められるかと」
「ば~~~~~っかじゃないの」
超絶テラ旨チキンを贅沢にパク付きながら、西姫良子は心底呆れた声を出した。
その眼には、幾ばくかの怒りも乗っている様に見えた。
「貴方は何? 涼加瀬シノも、幼馴染のニカちゃんも、傷つけたくない訳?」
「そりゃあ、それが理想で」
「だったら一人選びなさいよ。それだけで全部解決するのに、何を悩んでるのか分かんないわ」
西姫良子はパクパクと油で口回りを汚しながら、俺に向かってそう諭した。
────どちらかを選べ。そう、断言して。
「そんで、選んだ方を目いっぱい大事にするの。これで、はい解決」
「……いや、そんな単純な話じゃねぇだろ」
「単純な話よ。ちゃんとテル自身で心の奥底を整理して、付き合いたいと思った方とくっつけばいい」
西姫良子は、随分と簡単に言ってくれた。
そんなことが出来たら、苦労はない。
シノは、小さな頃からずっと俺を想ってくれていた。
ニカとは、双子の様に密接な関係を築いてきた。
────その二人から、俺は好意を向けられている。
俺は彼女達のどちらかを選ばず振ってしまうなんて、罪悪感で心が凍てつきそうだ。
俺はシノと恋人で。ニカとは、無二の幼馴染で。
「何となくだけど。貴方、どっちか選んだらフラれた方が傷ついちゃうとか思ってるんでしょ」
「あ、ああ。その」
「片腹痛いわ。その何でも他人本位に考える癖、やめた方が良いわよ」
西姫は相も変わらず、半目で俺を見下す様に頬をつついてくる。
「じゃあ聞くけどさ」
やがて彼女は唇を緩め、
「例え話よ。貴方はこの私、西姫良子が好きで好きで堪らないとします。私を見るたびに動悸が止まらないし、胸も痛くなっちゃう。ああ、これは恋だなと貴方は気付いた」
「えっ? いや、思い出し笑いは止まらないけど。別に胸はドキドキしたりしないが」
「シャラップ。で、貴方は意を決しこの私に告白しました。しかし、私はアイドルとして特定の個人とお付き合いするつもりはありません。当然、貴方の告白を断ります」
「あ、俺振られちゃった」
「で? 貴方はそりゃあ傷つくだろうけど、私は何か悪いことした?」
そんな例え話を、冗談交じりに語ってくれた。
「恋愛ってのは自分本位な欲望なの。あの人と付き合いたい、あの人が欲しい。そんな身勝手な欲望を、皆が達成できるわけがない」
「……」
「取り合いに負けて、好きな人を誰かに取られちゃうこともある。そんな時、悪いのは振った側じゃなくて振られた側なのよ。努力なりアプローチなり、何かが足りなかったんだから」
「あ、えっと」
「振られた側は傷ついちゃう。でも、それが何? 貴方が傷つけた訳じゃないわ、振られる方が悪いの」
やがてあんなに大きかったチキンは綺麗さっぱり西姫の腹に収まって。
満足げに自らの腹を叩く西姫良子は、俺の前に3本指を突き出した。
「さて、話は簡単でしょう? 貴方は選べばいいだけよ」
「あ、えっと」
「貴方が誰かを傷つけるとしたら、中途半端な事をしてどちらにも不義理を働き、裏切ってしまった場合だけ」
その話は、確かにと納得のいく話で合った。
恋とは、恋愛とは、身勝手なのだ。
俺がニカを好きで堪らなかった時、俺一人でニカの写真を買い占めたように。
シノに告白された後、一日待ってもらってニカと決別したように。
「貴方はただ、誠実であれば良いの。それ以上の事は、何も求められていないわ」
「あ、ああ。そっか」
「つまり、今から貴方の取りうる選択肢は三つ。涼加瀬シノを振って幼馴染のニカちゃんに改めて告白するか、はたまたニカちゃんを振って今のままの鞘に納まるか……」
「お、おう」
3つの選択肢。
その最後の選択肢を、西姫良子は冗談めかして笑いながら俺に告げた。
「こんな親身に相談に乗ってくれたB組のアイドル西姫良子に惚れてしまって、今ここで私に告白するかよ」
「……はは。そりゃあ、血を見る事になりそうだ」
「ふふん。今からでも遅くないわ、シノ派から私に乗り換えてごらん。幸せになれるわよ」
「でも、振られちまうんだろ? その選択肢は、ねーな」
西姫と話して、少しばかり心が落ち着いてきた。
そうか。俺のすべきことは、誠実である事。
心の底から好きな相手に、きちんと告白する事。
「ありがと、吹っ切れたよ。お前が人気者な理由、よく分かった」
「でも、乗り換えてくれないんでしょ。まったく、罪な人ね」
西姫はそのまま席を立つと。
俺の背中に回り込んで、すぅと深呼吸して、
「分かったらとっとと行ってきなさい、女たらし!!」
「あ痛ェ!!」
背中を思いっきり、張り飛ばしてくれたのだった。
「き、貴様……」
「あら、この程度で痛がってるの? 私なんか、前の企画でタイキックを何度も食らったけど」
「女子にやる企画か、それ」
ヒリヒリと痛む背中をさすっていると、そのまま満面の笑みを浮かべた西姫は、
「頑張れ、男の子」
そう言って、さっと会計を済ませて立ち去ったのであった。
……その直後、くらいだろうか。
ヴヴヴヴヴヴ、とポケットが振動したのは。
「……シノ」
中から取り出したスマートフォンに表示されていたのは、愛すべき恋人の名前。
彼女からのメッセージは、短くただ『テル君の家に行きます。ニカちゃんも一緒です』と送られてきた。
……いよいよ。俺は、決着を付けねばならない様だった。
多分、次回最終話