惚れた相手は、百合な幼馴染   作:まさきたま(サンキューカッス)

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7話

 課題確認テスト。夏期休暇の課題範囲から出題されるその試験が終わり、学生達に束の間の休息が訪れる頃。

 

「お邪魔するわ」

「おう」

 

 俺は涼加瀬シノ、学年一の人気を誇る俺の幼馴染(こいびと)を自らの部屋へ呼んでいた。

 

「よくきたなシノ。まぁとりあえず、ゆっくりしていってくれ」

「ありがと、テル君」

 

 今日シノを呼んだ用は、初デートの行き先の相談だった。

 

 初デートは変にサプライズに拘らず、相手と相談して反応を見ながらプランを立てるのが無難だろう。

 

「……昔に戻ったみたい」

「そう、だな」

 

 ニカが俺の部屋で駄弁ってようと一切緊張しなかったのに、涼加瀨シノが部屋に来ると妙にドキドキとする。

 

 そう言えばこれまで、俺とシノは恋人になったはいいが、腰を据えてゆっくり話す機会がなかなか無かった。

 

 学校ではエロ脇様を始めとする男子共の妨害にあい、帰り道は公共の場なので思いっきりイチャイチャするわけにはいかず。

 

 ……この前のニカのお見舞いの時は、夜遅くなりすぎてシノはすぐ寝てしまった。

 

「やっと二人きり、って感じだね」

「そうだなぁ」

 

 だからこうして、涼加瀬シノと二人水入らずになるのは初めてかもしれない。

 

 それで、こんなにも意識してしまっているのか。

 

「……ちょっと表情堅いよ、テル君?」

「ああ。ニカ以外の女の子を自分の部屋に入れたの、初めてだし」

「あら、何言ってるの。幼稚園の頃、一緒に遊んだじゃない」

「あーいや。こっちの家でって話な」

 

 引っ越してからというもの、俺の家に女子を呼んだことはなかった。

 

 俺の部屋に入る女性は、母と鍵の隠し場所を知っていて不法侵入してくる朝星ニカくらいだった。

 

「もう、縁切りしたニカが俺の部屋に入ってくることはない。母さんも今、出かけている」

「ふーん?」

 

 つまり、この空間は俺とシノだけのモノ。

 

 ……少しくらい攻め(イチャつい)ても、セーフだろうか。

 

「もしかして、私に何かするの?」

「いや、しないけど」

「しないんだ」

 

 涼加瀬シノは、どこか挑発的な笑みを浮かべていた。

 

 いやまぁ、それもちょっと期待はしましたけども。付き合って早々、それは無いでしょう。

 

「テル君、案外草食系ね」

「まーな」

 

 何せ焦る必要なんかまったくないのだ。

 

 俺達はゆっくり、距離を詰めればいい。学生生活は長い、まだまだ時間はたっぷりある。

 

「とりあえず、今日は週末のデートの予定立てようぜ。どの辺までならいける?」

「テル君が連れて行ってくれるならどこでもいいわよ?」

「お、おお……」

「今のを意訳すると、『私の行きたい場所を当ててみて』かな」

「こ……これが噂に聞く女子語か……」

 

 涼加瀬シノは、楽しそうに俺に難問を繰り出してきた。

 

 シノの行きたい場所か。……そういや俺、今のシノの好きなものとか趣味とかあんまり知らないな。

 

 ニカのキューピッドやってた時に聞き出した僅かな情報を頼りに、うまく正解を導かねば。

 

「うちの街のデートスポットと言えば、映画館、水族館、遊園地、ゲームセンター……、とか?」

「ま、妥当なところを上げて来たわね。……私、ゲームセンターは煙草臭いから、ちょっとイヤかも」

「そっか。映画も、たいして話題作ないよな。となると、遊園地か水族館」

 

 俺はまず消去法的に、デートの行先を絞っていった。こういうガチのデートは初めてで、勝手がわからない。

 

 ニカとのデート?は、基本的にゲーセンに連れて行けば成功してたし参考にならん。

 

「私は高校からこの街に越してきたから、まだ遊園地行ったことないな。それに、私結構イルカさん好きよ」

「そっか。じゃあ、どっちも行くか」

 

 まぁシノの反応を見るに、大当たりではないが悪くない、くらいの手ごたえである。

 

 デートは1回ポッキリではない。また行けば良いのだ。

 

「最初は近い方ということで、水族館でどうだ」

「良いわね」

 

 よし、不正解ではないらしい。

 

 今度隙を見て下見しておこう。

 

「因みに私、甘いものがとっても好きなの」

「……ほう」

「今度、スイーツバイキングとか付き合ってくれたらうれしいな」

 

 それはまぁ、何とも女子らしい趣味だった。そういやシノ、昔から甘いオヤツ大好きだっけ。

 

 大正解となる答えはソレだったか。

 

「勿論だ、お前の好きなものを教えてくれシノ」

「うん」

 

 スイーツバイキングって幾ら位するんだろう。まぁ、予算はたっぷり有るんだ。

 

 どうせなら評判の良い店に連れていってやりたいよな。それとなくサーチしてみるか。

 

 シノの笑顔の為なら、多少バイト増やしても構わんしな。

 

 

「……」

 

 

 ふと、無言になる。

 

 会話に詰まった訳じゃない。ただ気付けば、俺は涼加瀬シノに見惚れて黙ってしまっていた。

 

 シノの方も、微笑みながら俺を見つめてくれている。

 

 居心地の悪くない、優しい静寂。

 

 

「……」

 

 

 そしてシノは、スっと目を閉じた。

 

 お、おお? これは、どういうアレだ? そういうアレか?

 

 俺はゴクリと生唾を飲み込む。

 

 しかしソレを悟られないよう、ゆっくりとシノの前へと歩み寄った。

 

 

「……シノ」

 

 

 目の前に、目を瞑ったシノの顔がある。

 

 そんな彼女の肩を、ゆっくり腫れものを触るように抱き寄せた。

 

 女子の匂いが、鼻孔をくすぐる。

 

 

 

 これは、行っていいヤツだよな。むしろ、行かないとシノに恥かかす系のヤツだもんな。

 

 前に廊下でドサクサに、キスはやってるし。今さらだ、うん。

 

「……」

 

 心臓が爆発しそうなくらい、激しく高鳴っている。ふぅ、おちつけ、息を整えろ。

 

 ミスは許されない。鼻と鼻をゴッツンなんてしたら、色々台無しだ。

 

 慎重に、それでいて大胆に、このまま俺は涼加瀬シノの唇を────

 

 

 

 

「ここでボク参上!」

「おわああぁぁ!?」

 

 

 

 とまぁ、そんな凄く良いところでお邪魔虫が現れた。

 

 突然に、見覚えのある女が俺の部屋のドアを蹴飛ばして、ズカズカ入り込んできたのだった。

 

「ハァイ、エロテル。ボクが来てあげたよ!」

「お、おま、おま!! ニカァァァ!!!」

「……はぁ、台無し」

 

 入ってきたのはやはり、俺のもう一人の幼馴染ニカだった。

 

 少し眉を潜め、ひくひくと額に血管を浮かべながら、ソイツは俺の部屋のベッドにどっかり腰を下ろした。

 

「ちょ、は、はぁあ!? 何で俺の部屋に入って来てんだお前!」

「お楽しみのところ申し訳なかったね、君に忘れ物を届けに来てあげたよ。はっはっは、ヤバいタイミングで受ける」

「ヤバいタイミングにも程があるだろ!! おま、今、凄く良い所で」

「涼加瀬さんの唇はボクが守る!!」

「このクソアマ、確信犯だな!」

 

 狙って乱入しやがったな。この腐れ外道、俺の幸せを全力で邪魔しに来やがったな。

 

 こいつもエロ脇と同じ穴の狢か!

 

「こないだ、もう俺の部屋に勝手に来るなって言ったじゃん!!」

「ボクの家に忘れ物していくヤツが悪い。今気付いたから持ってきてやったんだ、むしろ感謝してほしいね」

「忘れ物? 何だソレ、お前の家に何も置いてったことねぇぞ俺!」

 

 畜生。家の鍵の場所がバレてるせいで、このアマは俺の家に不法侵入出来るのだ。

 

 だからってこんな、今じゃなくても。

 

「良いから出てけ! 俺の部屋に入ってくるな!」

「……」

「何だよ、何黙ってんだ」

 

 こんな事をされては困る。

 

 俺はシノを、時折部屋に呼ぶつもりだ。勉強会だとか、祝い事だとかで、俺の部屋を使うつもりだ。

 

 ……その度にニカに邪魔されたら、流石のシノも怒るに違いない。

 

「……せっかく君の宝物、返してあげに来たのに」

「あ? 宝物?」

「うん、ほら。ボクだって空気が読めない訳じゃない。これ返したらとっとと帰るさ、気分悪い」

 

 ニカはそう言うと、露骨に不機嫌になって俺に封筒を差し出した。

 

 ……むう。少し言い過ぎたか?

 

 心当たりは無いが、仮にもニカは俺に忘れ物届けに来てくれた訳だよな。

 

 謝っておいた方が、良いかもしれん。

 

「あー。すまんニカ、言い過ぎたかも。良いところを邪魔されて、頭に血が昇ってた」

「ふーん。別に良いけど」

 

 少しぶっきらぼうになってしまった事を詫びながら、俺はその封筒の中身を取り出した。

 

 俺の私物を、ニカの部屋に持ち込んだ記憶はない。

 

 ……一体、何が入っているのだろう。これは、写真?

 

 

 

 

 

「ボクのエッチな下着写真に混じって、君が買ったであろう女子の写真が入っていたのさ。ごめんごめん、君の宝物だろソレ?」

「……」

 

 

 そこにはダブルピースな西姫(ログボ)さんが、満面の笑みを俺に向けていた。

 

「いやぁ驚いた、君ってそう言う娘が好きだったんだねぇ」

「……ち、ちょっと待ってくれ?」

「たしかその娘、B組のアイドルの西姫さんだろ? そっかそっか、テルは涼加瀨さんと言うクラスのマドンナを恋人にしてる癖に、元々は西姫さん派だったんだねぇ」

 

 ……ニカはそう言うと、随分底意地の悪い笑みを浮かべて俺を嘲笑っていた。

 

 こ、この女……っ! 露骨に俺とシノの仲を引き裂きに来やがったな!

 

「じゃあ、これでボクの用事は済んだから。バイバイ、エロテル」

「ちょっ……お前、なんつーモノを……!」

「ボクはガッカリだよ。テルは可愛い子なら誰でも良い見境なしだったんだね」

「帰れよ! 用事が済んだならお前もう帰れよ! ここまで悪意的に俺とシノの仲を割きに来た奴いねーぞ!」

「言われるまでもないさ」

 

 ニカはそう言い捨てると、逃げるように部屋の外へと出ていった。

 

 1枚のブロマイド写真……、ログインボーナスよしこを残して。

 

 

「ふぅ。全くニカは……、悪戯にしても度が過ぎてるぜ」

「……」

「さて、悪かったなシノ。二度とこんなことが起きないよう、部屋に鍵付けとくわ」

「……」

 

 俺はそのログインボーナスを床に打ち捨て、HAHAHAと笑いながらシノに話しかけた。

 

 いやぁ、ニカは実に迷惑な女だ。涼加瀨シノもきっと、不快な気分になったに違いない。

 

 さっさと誤解を解いておこう。

 

「取り敢えず、気分変えるため何か飲み物でも持ってくるよ。お茶とジュース、どっちがいい?」

「ねぇテル君」

「どうしたシノ?」

「その女、テル君の何?」

 

 

 ……(ニカ)が去った俺の部屋。

 

 そこには凍えそうな程、冷たい目で俺を見下ろす恋人が居た。

 

「えっと。その……知り合い?」

「ただの知り合いの写真なんか買わないよね。その娘が、今のテル君の好みなの?」

 

 先程までのイチャイチャムードは何処へやら。

 

 感情の籠らぬ瞳で俺の顔を凝視するシノを前に、俺はたじろぐ事しか出来なかった。

 

「落ち着いてる雰囲気より、明るい娘かぁ。うん大丈夫、私出来るよ」

「待て、違うんだシノ!」

「愛嬌が有って、話していて楽しいタイプ。やっぱり男子って、そういう娘が好きなのよね」

「落ち着け、頼むから」

「ニカちゃんもそういう系統だし。そっか、今のテル君はそういう娘が良いんだね」

 

 いかん。シノがなんか危ない雰囲気を放ち始めている。彼女は俺に怒っているというより、自分に対して激怒しているように見える。

 

 俺の直感が、ヤバいと告げていた。このままだと、取り返しのつかないことになる気がする。

 

 

「いや、そもそもお前は写真NGだったろ! 俺はまず最初に、お前の写真の有無を尋ねたっての」

「……へ?」

 

 

 もうセクハラ扱いされても知るもんか。

 

 俺は脂汗を掻きながら、シノを抱き締め全力で言い訳を始めた。

 

「シノの写真があったらそっち買ってたってば」

「でも。テル君がこの娘の写真を買ったってことは、こういう娘も好きなんでしょ?」

「違うって。それは買ったんじゃなくて貰った写真。西姫さんはなんか写真を無料で配ってるらしくて」

「……本当に? 無理しなくていいよ、本当にテル君が西姫さん好みなら、私合わせるよ」

「やめてくれ。……頼むから」

 

 俺も、焦っていたのだろう。危ない雰囲気を放ち始めている恋人を前にして、もう少しまマシな宥め方もあったかもしれない。

 

 しかし残念なことに、俺の口からは『今のシノが好きなんだ』みたいなキザな台詞は出てこなかった。

 

「……テル君」

「シノ。俺は、俺は……」

 

 ただ俺は、思い切り恋人を抱き締めて、正直な感想を述べる事しかできなかった。

 

「俺は鼻からコーラを吹き出すお前なんて見たくないんだ」

「何それ怖い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぶしゅううううう!!

 

 

 

 えっほ、えっほ!! ……グェェェップ!!!

 

 

 

 

 

 

 

「本当に西姫さん、この動画上げたのか」

「……っ、っ」

「どうしたシノ、震えてるぞ」

 

 俺は弁明のため、そしてシノに正しく『西姫良子』という存在を知ってもらうために動画サイトを開いて見せた。

 

 にっしー☆姫様ちゃんねる。彼女の宣伝したその動画チャンネルにはそれなりの数の登録者がおり、再生数が1万を超す動画も散見された。

 

 どれ位凄いのかはわからないが、西姫さんはネット上でそこそこの有名人の様だ。

 

「……ふぅ。ねぇ、最後の方に出てきた羽交い絞めにされたモザイク男子って、テル君だよね」

「おお、よく分かったな。この動画の時に初めて、西姫さんと絡んだんだ」

「要はほとんど面識ないのね。ま、それなら良いか」

 

 動画を見終わった後、シノは小さく深呼吸して息を整え、そして言い切った。

 

「ごめんなさいテル君、これは私に真似できないわ」

「しなくていい、頼むからしないでくれ」

「でも、何というか。自分を捨ててでも笑いを取りに行く彼女の姿勢に、ある種の敬意を覚えるわね」

「まさか、気に入ったのか?」

「まぁ、少し」

 

 どうやらシノは、西姫さんの動画がツボに嵌ったらしい。

 

 動画開いてるとき、必死で笑いこらえてたもんな。

 

「その西姫から、お前はライバル視されてたっぽいが」

「動画に出てきた『学年のマドンナSさん』って私よねやっぱり」

「そうだ。学年1位おめでとうシノ」

「当然よ。テル君の恋人が可愛くないなんて許されないわ」

 

 自分の人気を当然と言い切った俺の彼女。

 

 それが俺の為と言うのが、何とも面映ゆい。

 

「テル君。テル君にとって世界で一番可愛い娘って、誰?」

「お前」

「……そう。良かった」

 

 俺の言葉にシノはふぅ、と胸を撫で下ろした。

 

 どうやら落ち着いてくれたようだ。

 

「じゃ、改めて飲み物持ってくるよ。駄弁ろうぜシノ」

「ええ」

 

 こうして俺は、無事にシノの誤解を解くことが出来た。

 

 俺の可愛い彼女が、ヨゴレ芸人になる事もなくなった。

 

「……ああ、後あんまりニカちゃんを怒らないであげてね」

「ん、どういう事だ?」

「あの娘、きっと今不安定なのよ。……多分今ごろ泣いてそうだし」

「??」

 

 そんなこんなでシノと軽く歓談した後、俺は暗くなる前にシノを家に送り届けた。

 

 にしても、ニカの奴め。アイツもエロ脇様側の人間だったとは。

 

 シノが怒るなと言うが、今後も邪魔してくるとすればアイツが最大の障害になるだろう。

 

 用心せねば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、深夜。

 

 俺は静かに、先ほどの「にっしー☆姫様チャンネル」を開いた。

 

「……」

 

 

 俺は周囲に誰の気配も無いことを確認し、スマホからその動画一覧ページを開く。

 

 そして動画を再生数順にソートして、一番上に表示されたその動画をクリックした。

 

 

 

 その動画のタイトルは『【生着替え突入】セクシーSP! 姫様の生着替え☆乱入ドッキリ!!』。

 

 

 

 この動画だけ、露骨に再生数が多かった。他の動画の、数倍の再生数になっている。

 

 昼にこの動画に気付いてから、物凄く気になっていたのだ。しかし部屋にはシノがいたせいで、開くわけにはいかなかった。

 

 すぅ、と軽く深呼吸する。

 

 この動画サイトは、R18な動画はすぐに削除される。しかし、下着程度のソフトな内容(エロ)なら消されないことも多い。

 

「ごくっ……」

 

 ……西姫さん程の美貌なら、エロ方面で釣ればきっと凄まじい伸び方をするのだろう。

 

 きっと彼女は再生数とチャンネル登録者稼ぎの為に、こんな際どい動画も挙げてしまったのだ。

 

 シノに、こんな動画を見たのがバレたら殺される気がする。あとで履歴も削除せねばなるまい。

 

 しかし、俺も男。この動画を再生しないという選択肢は存在しなかった。

 

 いや、違うのだ。俺は単に、級友がいかがわしい内容の動画を上げていないか、チェックする為に動画を検閲するだけなのだ。

 

 つまりこれは学友を心配した、正当な行為。間違った行動じゃない。

 

 再生画面が開かれ、広告が終わり、動画がロードし始める。

 

 ───では、行かん。西姫さんの最高再生数動画の、その詳細の確認を。

 

 

 

 

 

 

 

 その数分後、男子生徒(取り巻き連中)が着替えてる部屋に西姫さんが乱入し、一発芸(教師の声真似)をして帰るという謎の映像を見せられた俺はふて寝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、俺はシノとの待ち合わせ場所へと急いだ。

 

 昨日の西姫さんの糞動画の事は忘れよう。何が悲しくて、男子の着替えシーンなんぞ見なければならなかったのだ。

 

 しかし、あの動画の文句を言ってしまうと俺が釣られ再生してしまった事実が明るみになってしまう。

 

 なんて悪質な動画だ。ログインボーナスの分際で、許せん。純情な男心を弄びやがって。

 

 

 と、くだらない釣り動画に対する怒りを反芻していたら、待ち合わせ場所に愛しの恋人の姿が見えた。

 

 いかんいかん、忘れよう。

 

「待たせてすまん、シノ。今日も可愛いな」

「ありがと」

「じゃ、行くか」

 

 こうしてシノの顔を見ると、何だか笑顔になってくる。昨日の俺は、何て無様だったんだろう。

 

 俺にはこんな可愛い恋人がいるじゃないか。釣り動画くらいで、何を怒る必要がある。

 

「……昨日は大変だったわね」

「そうだな、ニカの奴には注意しないとな」

「あ、そっちじゃなくて西姫さんの方」

 

 俺とシノは肩を並べ、朝の陽気の中を歩きだした。

 

 いつもの通りに、和やかに雑談しながら。

 

「西姫さん? あいつがどうかしたのか?」

「ニュース見てない? 凄いことになってたよ」

「凄い事?」

 

 シノは、何やら心配気な顔で西姫さんの話題を出した。

 

 俺はそのままシノに促され、スマホでネットニュースサイトを開く。

 

「……え」

「そうそう、コレコレ」

 

 そこで、一番目に上がっていたニュースを見て俺は息を飲んだ。

 

 

『お笑いコンビ「にしキング」のにっしーが、複数名の女性と不倫していたことが発覚した。出演していた番組はお蔵入りで、しばらく放送自粛となり────』

 

 そこには西姫さんの父親である芸人が、泣きながら頭を下げている写真が掲載されており。

 

『人としてあり得ない』

『そもそも芸が汚くて、くだらない』

『前々から気持ち悪かった』

 

 コメント欄では、その芸人に対する非難が溢れ返っていた。

 

「酷い事になってるでしょ」

「……西姫さん、大丈夫かな」

 

 ……その日、B組に彼女の姿は見えなかったと言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇテル君、ところで今、妙なタイトルの動画が見えたんだけど」

「……」

 

 そして俺は、動画をつけっ放しでふて寝したせいで、スマホを開いた瞬間に恋人にヤバいもんを見られていた。

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